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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.71 愛と正義がぶつかるとき


   Act.71 愛と正義がぶつかるとき


 ギルティアは、機体の核の中で静かに呟く。

「…鍵は、一人…他者と繋がる事はできない…全くもって、あなたの言う通りですよ、憐歌。

 それが出来ても、繋がった相手が不幸になるだけ、です…だからこそ…だからこそ!!」

 そして、声を大にして、ギルティアは続けた。

「不幸になる事を承知で私と繋がろうとしてくれた皆に、私は答えましょう!!

 たとえ、一人になっても…たとえ、私の身が、心が、砕け散ろうとも!!」

 そう、この選択をした時点で、ギルティア自身が最終的に生き残る術は、存在しない。

 ここで彼女に敗北して死ぬか、彼女を倒し、インフィナイトに一人で挑んで散るか、今のギルティアに与えられているのは、そのシンプルな二択だった。

 そして、その結果も、今の所、稼げる時間が数日違うか違わないかだ。

 それでも、ギルティアは皆を守りたかった。

 エルヴズユンデが、右手に剣を構え、左腕の爪にレーザーを刀身として展開し、憐歌の機動兵器、ヴェネディクスに突進する。

「…早い!?」

 エルヴズユンデの一閃が、ヴェネディクスを捉える。

 ヴェネディクスの四枚の翼の内の一枚が落ちる。

「くっ…まさか、これ程とは…!」

 憐歌は、ギルティアの圧倒的な強さと同時に、自らのブランクの長さを自覚する。

「ギルティアは強い…それ以上に、私が、弱くなってる…!!」

 無理もない、どれだけ長い間戦って来なかったのか。

 そして、彼女が、どれだけ長い間戦って来たのか。

「しかし…この違和感…一体…?」

 ギルティアの戦闘能力に、憐歌は違和感を覚える。

 同じ鍵として、ギルティアの異常さを感じ取っている、そう言ってもいい。

 それが一体何なのかは、今の憐歌には分からなかった。

「…その程度ですか!!」

 エルヴズユンデが、両腕に携えた刃で何度も追撃をかける。

 ギルティアは、相手にどんな思惑があろうと、宇宙群全体の危機を見過ごす、それを許す訳には行かなかった。

 しかし、彼女への怒りと同時に、それと同じくらい大きな感情が、ギルティアの中で渦巻いている事を、ギルティアは感じていた。

 その感情が、彼女への攻撃を、更に激しいものにしている。

 しかし、今は問うまい。使命を果たさぬ彼女を、ここで断罪する。

 ならば、いずれにせよ攻撃の手を緩める必要は無い。

「はあああああああああああああああああっ!!!」

 そして、両手の刃からの渾身の一撃で、ヴェネディクスが吹っ飛ばされる。

「…く…っ…!」

 ヴェネディクスの周囲に、凄まじい熱量で出来た光槍が、無数に出現する。

「オーバーヒートプリフィケーション!!アタァァァァァァァック!!!」

 それらの槍が、一斉にエルヴズユンデに襲い掛かる。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァァスト!!!」

 エルヴズユンデの胸部から解き放たれた熱量の塊が、拡散し、飛来する槍を迎撃する。

 槍とブラスターの衝突によって発生した凄まじい爆発の中へ、エルヴズユンデが突っ込む。

 爆風を突き破って、エルヴズユンデがヴェネディクスの前に出る。

「なっ…この爆発の中を…!?」

 ギルティアにとってはいつもの事だ。

「鍵の力とは、こうやって使うものです!!」

 剣の一撃。しかし、ヴェネディクスがそれを受け止める。

「この距離なら…!」

 再び、ヴェネディクスの周囲に熱量の光槍が姿を現す。

「オーバーヒートプリフィケーション…もう一撃ッ!!」

 エルヴズユンデが、至近距離で直撃を貰う。

「ぐうっ…!」

 エルヴズユンデが、一瞬よろめく。

「隙ありよ!!」

 ヴェネディクスの右腕に光が集まり、装飾が成された白い刀身の剣が姿を現す。

 そして、ヴェネディクスがエルヴズユンデに剣を叩き込む。

「鍵の使命を放棄してまで今の一瞬の幸せを守ると言うのならば、それくらいはして貰わなくては…!!」

 ギルティアがニヤリと笑う。

「しかし、その程度の攻撃で、私を倒す事は不可能ですよ…そろそろ、本気で来てはいかがです?」

 直後、エルヴズユンデの四枚の翼が紅の光に飲み込まれ、紅の光の翼が、姿を現す。

「祝福されし世界よ!守護者たる鍵の使命に背きし者を、今、我が剣にて断罪せん!!」

 エルヴズユンデが、剣を構えて突っ込む。

「くっ…!」

 憐歌もアクセスを発動しようとするが、力が思ったように引き出されない。

 実際の鍵で言えば、鍵が錆びついている、と言った所だろうか。

「このままじゃ…せーやの所に帰れない…!!」

 ヴェネディクスは、エルヴズユンデの攻撃を受け止めるので精一杯だ。

「アクセスの発動すら出来ない程に錆び付いていたのですか…!!」

 正直、ここまで力が落ちていたとは、ギルティアも考えていなかった。

 というよりも、ここまで力が落ちるものだとは、考えていなかった、と言った方がいい。

 …勝てる。ギルティアは、勝算を悟る。

「…尚更、容赦は出来ません!!結局、あなたは理由を付けて使命から逃げているに過ぎない!!」

 羽ばたきで加速度を付け、エルヴズユンデが突っ込む。

「使命を果たした結果、宇宙群の危機を招いたあなたよりはマシよ!!

 そんなのは使命を果たしているんじゃない…ただの自己満足でしょう!!」

 ヴェネディクスは突進を受け流し、背後に回りこんで一閃を叩き込む。

 エルヴズユンデが、左腕の爪でそれを受け止める。剣が、爪に食い込む。

「自己満足などではありません!!」

 今までの旅で出会った沢山の人々の笑顔が、ギルティアの脳裏をよぎる。

 それは、自己満足という言葉で片付けられるような、軽い物ではなかった。

「それで、誰も手出しをしなければ犠牲になっていたであろう、たくさんの皆の命を救う事が出来ました!!

 この宇宙群の人々が、私の存在を必要としたのです!!」

 エルヴズユンデが、至近距離からプリズナーブラスターを放つ。

 直撃で、ヴェネディクスが吹っ飛ばされる。

「それで、肝心な今、ここで、誰も守れない…それで、自己満足じゃない?笑わせないで!!」

 その言葉に、一筋の涙が、ギルティアの頬を伝う。

 ギルティア自身の力では、力が足りない、そんな事は分かっている。だからこそ、ギルティアは叫んだ。

「本当ならば、私ではなくあなたが必要とされていた筈なのです!!

 あなたが…私の場所にいなければならなかった…あなたでなければ…この宇宙群は救えなかったのです!!」

 ギルティアは悔しかった。どうしようもなく悔しかった。

 こんな相手に、今まで自分が救ってきた相手の未来を預けなければならない事、そして、自分の力では、この宇宙群を救えないと言う事実が、どうしようもなく悔しかった。

 もっと、強い力が欲しかった。

「それなのに…!!!」

 ブラスターを集中させた渾身の一閃が、ヴェネディクスの左肩を叩き落とす。

「この宇宙群を救う?それに命を賭けて、その先に何があると言うのよ!!たった一人で救い続け、その先に一体何があるのよ!!」

 憐歌の脳裏に、旅をしていた頃の記憶がよぎる。

 彼女は、この宇宙群に生まれた最初の鍵ではない。

 それ以前の鍵は、誕生した都度、封印の技術が確立されていなかった人類に滅ぼされてきた。

 彼女が生まれた頃には既に異形は存在しており、宇宙群の平穏を守る為に異形討伐を始める事になった。

 しかし、ひたすらに異形を倒し続ける、終わりの見えない孤独な旅は、憐歌には辛すぎた。

 手を差し伸べてくれる相手は確かにいた。しかし、結局、その使命の痛みを共有する事など、出来なかった…人間では、不可能な事だ。

 …その記憶は、思い出したくも無い記憶、永劫に忘れたい記憶だ。

 憐歌の目から、涙が溢れる。

「私は…私は人形じゃないのよ!!」

 ヴェネディクスの周囲に、再び熱量の槍が浮かぶ。

「甘い!!」

 エルヴズユンデが、ヴェネディクスを蹴り飛ばす。

「私達に与えられた自由など…その程度なのです。

 鍵が、幸せである必要など、ありません…そろそろ、終わりにしましょう!!」

 エルヴズユンデの胸部に、ブラスターとは違う光が集まり始める。

「次元壁破砕砲…!?」

 アクセスを発動しなくては、一撃で跡形も無く消滅するような威力の攻撃だ。

「アトネメントプライ…フィニィィィィィィィィィッシュ!!!」

 ヴェネディクスは咄嗟に回避し、直撃は免れる。

「回避しましたか…しかし、そう何度もは…!!」

 アトネメントプライのフルチャージの連発は負担が大きく、使用は厳しい。

 エルヴズユンデが、剣を構えて突っ込む。

「…くっ…!」

 このままでは、勝てない。

「…せーや…!」

 憐歌は、死ぬ前にもう一度だけで良い、晴夜に会いたいと願った。

 幸せが壊れる前に、信じてもらえなくても良い、真実を、伝えたかった。

「…会いたいよ…!」

 直後、ヴェネディクスの核に、メールの着信音が鳴り響く。

 閉鎖空間内とは言え、彼女達の機動兵器は通信に関しても閉鎖空間の影響を受けない。

「…?」

 彼女達の機動兵器は、元々手で動かしている物ではない。

 戦いながらでも、確認は出来る。

「せーや!?」

 メールの送り主の名前を見て、憐歌は驚く。

『今、どうしてるんだ?家に行ってもいないし、ちょっと胸騒ぎがしてな』

 エルヴズユンデの剣を、ヴェネディクスが受け止める。

「その程度!」

 更に、左腕のレーザーが、ヴェネディクスを捉える。

 憐歌は、もう少し、もう少しだけ時間が欲しい、と思った。

「…まだ、負けない!!」

 一本だけ、熱量の槍が展開される。

「その手は…!」

 直後、エルヴズユンデの背後に、無数の槍が展開される。

「な…に!?」

 直撃。翼の減衰のおかげで損傷は大きくは無いが、一瞬の隙が出来る。

「はあああああっ!!」

 ヴェネディクスが、エルヴズユンデの顔面を殴りつける。

「…ッ!!」

 更に、エルヴズユンデの胸部を蹴り飛ばす。

 与えられる損傷は少ないが、エルヴズユンデが吹き飛ばされる。

 閉鎖空間の外の様子を、憐歌が見る。

 外では、晴夜が、憐歌を探して走り回っていた。

『心配してくれて、ありがとうね』

 憐歌が、返信する。

 エルヴズユンデが起き上がる。

「…動きが、変わった…!?」

 ギルティアがニヤリと笑う。

「…上等です」

 そのニヤリと笑うのは、恐らく、今ギルティアが感じている、怒り以外の感情からの物なのだろう、とギルティアは感じる。そう、怒りではない。

 今、ギルティアは、彼女を攻撃できる事を、嬉しいと感じている。

 ただ鍵として、鍵の使命を果たさない彼女を倒す事を望んでいるという事ではない、彼女の幸せを、破壊してしまいたいと感じている。

 しかし、その感情が正当なものか否かは関係ない。

 結果として、そうなる。ならば、今はそれについて考える必要は無い。

「叩き潰す、ただ、それだけです…!」

 エルヴズユンデが、プリズナーブラスターを放つ。

『もしかしたら、もう会えないかもしれない。

 だから、私の真実を話すわ…今から話す事は全て虚構も偽りも無い、真実よ。

 信じてもらえるかは分からない。けど、今話せなければ、永遠に話せないかもしれないから』

 返信と同時に、ブラスターを熱量の槍で迎撃する。


 一方、閉鎖空間の外では、その返信を晴夜が受信していた。

「憐歌…もう会えないかもって…何があったんだよ…!」

 そして、分かれる前の『ごめんね』が、それを意味していた事を理解する。

『ああ、何だって聞いてやる!信じてやる!だから…もう会えないなんて、言わないでくれ…!!』

 晴夜が、そう送信する。


 ブラスターの爆風を突き破って、エルヴズユンデが突っ込む。

「はああああああああああああっ!!」

「そう来ると思ったわ!!」

 剣と剣がぶつかる。

 ヴェネディクスの左腕はまだ再生が完了していない。

 しかし、右腕の剣で、一撃を受け止める。

「まだまだ!!」

 エルヴズユンデが、左腕のレーザーを刀身として展開し、一閃を決める。

 それに反撃するように、ヴェネディクスが、エルヴズユンデに頭突きを叩き込む。

「…ぐうっ!!」

 エルヴズユンデが、蹴り返す。

「…アトネメントプライ、チャージ!!」

 エルヴズユンデの胸部に、再び光が集まり始める。

『ごめんね、きっと私はもう少しで消し飛ぶから…』

 そして、憐歌は自らの正体と、今までの経緯を伝える。

『やっぱり、私は、宇宙群を守る生贄として生きるしかなかったのかな…。

 だとしたら、何で、鍵は、心を…人と同じ、幸せを望む心を持って生まれたのかな…分からないや…せーやは、分かる?』

 もう会えなくなるのが、どうしようもなく寂しかった。

 だから、勝てないのは分かりきっていても、憐歌はギルティアに叫んだ。

「まだ…私は負けない!!」

 何故、こうなってしまったのか。ギルティアは、どうしようもなく悲しかった。

 しかし、それと同時に、ギルティアは、この時を待ち望んでいたようにも感じる。

 奇妙な感覚だった。


 憐歌からのメールを受け取って、晴夜は驚愕する。

 しかし、ここで嘘をつく理由は無い。彼女が言った事は、きっと真実だ。

 そして、今も、晴夜が走り回っている空間の裏側で彼女は戦っている。

「冗談じゃない…!」

 話したい事はまだたくさんある。聞いていない事も、まだたくさんある。

 晴夜は、自らの全ての想いを込めてメールを送信した。

 奇跡を信じた訳でもない、ただ、彼女に生きていて欲しかった、ただそう願っただけだった…。


 エルヴズユンデのアトネメントプライのチャージが完了する。

「…今度は外しません…!」

 同時に、憐歌の携帯が、晴夜からのメールを受信する。

『犠牲になる事を望まないお前一人の犠牲で、この世界の平和が守られるなんて、間違ってる!!

 その為に生まれたなんて、そんな存在意義、捨てっちまえ!!お前に幸せがいらないなんて、そんな事は絶対に無いさ!

 だって、お前には人を愛する、幸せを望む心があるんだ!!俺はお前が好きだ!短い間でも良い、後少しでも良い!一緒にいたい!!

 まだ、話したい事もたくさんある!ここで別れたくない!!負けるなよ!帰ってきてくれ!俺はいつまでも待ってるからな!!』

 その内容に、憐歌が涙を流す。

「…伝えて良かった…」

 何だ、伝えたところで、何も変わらなかったのか。

 今まで通りに笑い合える。しっかり伝えても、晴夜はそれを受け入れてくれる、そう思った時、憐歌は今まで真実を伝える事を恐れて損をしたな、と感じた。

「…せーやの元へ…帰りたい…」

 晴夜への想いと共に、自分の内部で、力が強くなってくる事を、憐歌は感じる。

「これで、終わりです!!アトネメントプライ…フィニィィィィィィィッシュ!!!」

 黒い光が、ヴェネディクスを飲み込もうと迫る。

「…帰りたい!いや、帰ってみせる!!」

 アトネメントプライを、ヴェネディクスが受け止める。

「な…に…!?」

「…祝福されし世界よ」

 憐歌が、言葉を紡ぎ始める。

 ヴェネディクスの機械仕掛けの翼が弾け飛び、純白の光の翼が姿を現す。

「棄てられて尚使命を果たし続けるこの哀れなる人形に、救済の光を!!

 …イノセントウィング…アクセスッ!!」

 凄まじい閃光が、アトネメントプライを掻き消す。

「アトネメントプライが…受け止められた…!?」

 閃光の中に、損傷も完全に再生したヴェネディクスの姿が見える。

 憐歌は、晴夜にメールを返信した。

『私も…せーやの事が好き…大好き!!きっと、また会えるよね…私も信じる!

 大丈夫、何だか、負ける気がしなくなっちゃった!必ず会いに行くから、もう少し待ってて!

 せーや、私は、あなたに会えて良かった!私は今、最高に幸せよ!』

 そして、ギルティアに向けて叫ぶ。

「ギルティア…使命に縛られたあなたの悲しい旅…ここで終わらせてあげる!!」

 憐歌の力が、完全に蘇った言うのか。

 ギルティアの歯が、軋んだ音を立てる。

「…負けられない」

 元より勝ち目は薄い。

 しかし、相手は鍵でありながら鍵の使命を放棄した者、旅を続け、使命を果たし続けてきた鍵としての誇りを賭けて、決して負けられない。

「…ここからが、勝負です!!」

 ギルティアは、ヴェネディクスを睨み、叫んだ…。


続く


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