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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.69 時を越えた再会


   Act.69 時を越えた再会


 ギルティアは、ズィルヴァンシュピスの格納庫に立っていた。

 藤木とレディオスも、それぞれの機体から降りてくる。

「…二人とも、お久しぶりですね」

「ああ、お前も無事で何よりだ!!」

 藤木が、そう言って笑う。

「まぁ…お前がそんな簡単にやられるとは思っていない」

 レディオスが呟くが、その顔は明らかに嬉しそうだ。

「…艦橋集合だ、エレベーターはそこの扉だぜ」

「シリウスはどうやら武器の回収に遅れているようですね…」

 ギルティアが、境界空間の方を見て呟く。

 一方、小さくなったルークがギルティアの肩に乗る。

「皆、相変わらずそうで安心したぞ」

 ルークは、そう言って笑った。

「そうですね…では、行きましょうか!!」

 ギルティアは、エレベーターに乗った。


 艦橋では、アルフレッドとファラオ店長、そして、見覚えのある、しかし、そこにいるはずの無い少女が、そこにいた。

 先程の言葉、声に聞き覚えを感じていた事も、もしそれならば理解できる。

 しかし、それは遥か遥か昔、ギルティアが封印された時代だ。

 人間が生きられるのはせいぜい百年程度、ここに、いる筈が無いのだ。ギルティアは状況を理解できていなかった。

「私が、イセリナだよ。ギルティアお姉ちゃん…やっと会えた!!」

 そう、ギルティアが、封印される以前に見た、たった一度の笑顔。

 ギルティアが、遥か昔に世界の崩壊から救った少女。

「…あなた、なのですか…?」

「うん、そうだよ!あの後…いろんな事があったよ…。

 不可抗力だけど…私は不老不死の寿命を手に入れてしまった…。

 だから、旅をしながら、お姉ちゃんを、ずっと待ってたんだ…!!」

 イセリナが、ギルティアに抱きつく。理由は分からない。ただ、そこまで待ち続けてくれた彼女を、決して無下には出来ない。

「…私なんかを、そんなに長い間待っていてくれたのですね…」

 ギルティアも、イセリナを抱きしめる。

「戦いばっかりの旅だったけど…私は後悔して無いよ。

 だって、今、こうして、お姉ちゃんとまた会えたんだもん!!」

 ギルティアは、自分のしてきた事が、人間にとっては決して小さな事ではない、色々な人間から言われた、その言葉を改めて思い出す。

 本当に、そうなのか。

 自分なんかを、そこまで大事にしてくれる相手がいるのか。

 ギルティアは、少しだけ、救われた気がした。

「感動の再会、って奴だな」

「…こういうのは苦手だ。別に俺は事情を聞かなくても良いから、部屋に戻るぞ」

 レディオスが、エレベーターへと歩き出す。その顔は、微かに笑っていた…。

「…レディオス、素直じゃねえなぁ…」

 藤木が、そう言って苦笑する。

「…しかし、不老不死とは…一体、何があったのです?」

「お姉ちゃんが封印された後、戦争が起こった事は知ってる筈だよね?」

 イセリナの言葉に、ギルティアは頷く。

「はい、アイギスがそんな事を話していました」

「その戦いのどさくさに紛れて、私と、お姉ちゃんに助けられた一部の人々は、

お姉ちゃんの封印を完成するために必要なジェネレーターを、封印完成前に破壊しようとしたの」

「!」

 まさか、彼女が封印が解ける可能性をつくってくれたと言うのか。

「非常に大型の、それこそ、銀河の中心にあるような、超巨大ブラックホールを炉心に閉じ込めたかのようなブラックホール炉だった…。

 私は、仲間が外で防衛用の機体と戦っている間に、作業用の機械を改造した私の愛機、ジオカイザーで、その炉を破壊したのよ」

 ブラックホール炉を破壊した。それで、何となく読める。

「まさか、炉心の暴走が起こったのですか?」

 ギルティアの問いに、イセリナが頷く。

「…うん。その暴走、私の仲間は逃げられたんだけど、ドリルで炉を破壊した私は、その暴走の中心にいたようなものだったから、逃げられなかった。

 死ぬかと思ったんだけど…ブラックホールの重力は、私自身の『存在』を歪めた。

 私の細胞の寿命は止まり…死ぬ事も、歳をとる事も出来なくなっちゃった」

「そんな…事が…」

 ギルティアの封印を解くために、彼女はそこまでの戦いをしたのか。

「…私の為に…本当に、ごめんなさい、ね」

「ううん、私は後悔して無いよ。だって、今、こうしてお姉ちゃんとまた会えたんだから!」

 イセリナは、そう言って笑った。

 その笑顔は、かつてと寸分の変わりも無かった。

「これはむしろ、そんな私へのご褒美だと思ってるからね♪」

「…そう、ですね。もし、あなたがそれを楽しんでいるなら…それで良いです」

 ギルティアも、自然と笑顔になる。

「成る程、だが、それで分かった。その後、旅を続けるうちに人が集まって出来たのが…」

 ファラオ店長の言葉に、イセリナが続ける。

「そう、それが白銀の旅団だよ。出会いと別れ、結成と解散を繰り返しながら、私は旅を続けてきたから…。

 けど、良かった…封印が完成する前に、私は目的を果たす事が出来てた…それが分かったからね」

 イセリナの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「…大変、でしたね」

 ギルティアが、イセリナを抱きしめる。

「…お姉ちゃん…」

「けど、私は今ここにいます。私の身が滅ぶ時まで…皆は、私が守ります…守ってみせます」

 ギルティアは、そう言うと、次の目的地についての説明を始める。

「…まず、皆が加勢に駆けつけてきてくれた事に感謝します」

 ギルティアが言った次の瞬間、艦橋にシリウスが突っ込んでくる。

「待たせたな!というか、艦橋、とはここで良かったのか!?」

 どうやら、迷っていたらしい。

「ええ、ここで正解ですよ」

 ギルティアが、これまでの経緯をシリウスに説明する。

「…そこのお嬢ちゃんが…その時の娘か…」

 シリウスの脳裏に、アイギスとのやり取りが思い出される。

「因果なものだな…」

「…ええ」

 そして、ギルティアは言葉を続ける。

「…次の目的地は、ここです」

 宇宙群の構造図を、ギルティアが指差す。

 指の先には、憐歌と出会った宇宙があった。ギルティアは、深呼吸する。

「…実は、先日あの宇宙に立ち寄った際に、私はこの宇宙群の鍵を発見しました。

 …しかし、どうやら彼女は、私とは別の方法でこの宇宙群を見守っていたようなのです」

 ギルティアは、先日の憐歌とのやり取りを語る。

「…見方が大局的過ぎて気に入らぬな」

 シリウスが呟く。

「…しかし、その人間の力の体現者はきっとシリウス自身ですよ」

 その言葉に、アルフレッドは頷く。

「確かに、恐らくイセリナ様とシリウス社長は、人間の中では最高レベルの力を持っていると思いますな」

「ああ、確かに、そのレベルの人間がどんどん増えれば、犠牲は出るだろうがインフィナイトだろうが倒す事はできるかもな」

 ファラオ店長の言葉に、ギルティアは頷く。

「だから、私達鍵の存在は必要ない、彼女はそう言っていました」

「そんな…お姉ちゃんは…必要無い存在なんかじゃないよ!!」

 イセリナが叫ぶ。

「イセリナ…大丈夫、今なら、私は自分が必要とされていると確信できます。

 皆が、そして、私と再会する事を夢見てずっと旅を続けて、こうして会いに来てくれたイセリナ、あなたに会えたから…」

 ギルティアは、そう言って微笑む。

「…しかし、その私の力では、インフィナイトを倒す事は出来ませんでした。

 ここにいる全員の力を結集しても、彼を倒す事は不可能でしょう」

「…そんな…!」

「だから、私は決意したのです…彼女に、協力を要請します。

 それをすると言う事は、私の力では少女一人の幸せすら守れない、それを認める事でもあります。

 そして、少女一人の幸せも守れないのに、宇宙群を守る事など出来はしません。

 その時点で、私はその使命を、存在意義を果たせない…」

 そして、ギルティアは微笑む。

「…しかし、私はどんな事があっても皆を守りたいのです。

 私を受け入れてくれた、必要としてくれた皆を、私は私自身の存在意義を捨ててでも守ります」

 ギルティアのその言葉に、誰も何も言えなかった。

 今ここにいるメンバーの中で、ギルティアより強い存在はいない。

 そして、彼女の使命よりも、その使命が果たされるべき宇宙群の平和の方が重要だ。

 しかし、その力を何処にも必要とされなくなった時、彼女は一体どうなるのか。

 役目を終えた、そして、兵器として必要の無い兵器は廃棄処分される。当たり前の話だ。ならば、宇宙群を守るための兵器でもある彼女はどうなのか。

 そう、彼女は人間ではない。その存在意義からして、人間とは違うのだ。その使命を、存在意義を失った彼女は、一体、どうなるのか。

 きっと彼女は、全てが終わった後、その存在を自ら終わらせるだろう。

 ギルティアには死んで欲しくない、ここにいる皆、誰もがそう思っていた。

 しかし、他に良い方法が果たして提示出来るか。提示できなければこの宇宙群と彼女、両方を救う事は出来ない。

 どちらかを救うというのなら、間違いなく宇宙群を救わなければならない。

「…さぁ、行きましょう!」

 ギルティアの言葉で、皆、我に帰る。

 艦が、目的の宇宙へと航行を開始する。

「イセリナ、封印を解いてくれたあなたには辛い事を言ってしまいましたね。

 しかし、私は、私の使命を果たします…イセリナ、あなたの笑顔で、思い出しました。

 そう、皆の笑顔を、幸せを守る…それが、鍵の使命です。

 皆が笑顔でいられるなら…私は、ただそれだけで満足ですよ」

「…お姉ちゃん…」

 なら、お姉ちゃんがいなくなったら、私が笑顔でいられなくなると言ったら、どうする?と、イセリナは言おうとした。

 確かに、イセリナはギルティアを一度助ける事が出来た。

 しかし、再び、ギルティアは、故郷でも無い宇宙群を救うために、自らの存在意義をすら投げ出そうとしている。

 イセリナがギルティアを助けたのも、その優しさに報いたかったからだ。

 しかし、だからこそ、もしこのまま事が進んだら、彼女がどうなるか、それは、想像がついている。

 分かってはいても…何も出来ない。

 この宇宙群の全ての命を投げ出して、彼女が生きている事を望むなど、ただの身勝手に過ぎない。

 矛盾した願いである事は分かっている、

 しかし、イセリナはギルティアが死なない事を祈る。

 皆も、願いは同じだった…。


続く


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