Act.68 託された夢
Act.68 託された夢
放たれた砲撃は、ヴェルゼンやオーガティス、そしてデストヴァールを的確に捉えていた。
「え…!?」
ギルティアが見ると、砲撃の主は、白銀の巨大戦艦だった。
そして、その艦首の上には、一機の無骨な機動兵器が立っている。
「な、何だと言うのです!?」
ヴェルゼンが、咄嗟に回避行動を取って次弾直撃を防ぐ。
「援軍…か。なーんか、旗色が悪くなって来たかな…?」
槍を駆使して砲撃を拡散させながら、オーガティスが冷や汗をかく。
「あの艦は…成る程、ならば雪辱を果たさせて貰おうか!!」
デストヴァールは、その砲撃を全て受け止める。
そして、体各部を吹っ飛ばされるも、すぐに再生する。
「成る程ね…どこか別な場所に本体が隠れてて、それを倒さないとこれは倒れない、と」
再び少女の声。ため息も聞こえる。
どうやら、艦首の上に立った機動兵器の乗り手からのものらしい。
一方、ギルティアの方に、戦艦から通信が入る。
「嬢ちゃん!加勢に来たぜ!!」
聞き覚えのある声に、ギルティアが驚愕する。
「ファラオ店長!?」
「本艦は、小生達が旅人時代に使っていた超大型要塞戦艦スーパーソルクラウン級零番艦、ズィルヴァンシュピスです!!」
更に聞きおぼえのある声。
しかし、今の説明でギルティアは納得する。
「アルフレッド…成る程、おおよその状況は飲み込めました!
…ご迷惑をおかけします」
「いえ、この宇宙群の一大事、営業活動を続けている場合ではありませんのでね。という訳で、小生達も加勢します!」
その言葉に、ギルティアが頷く。
「了解です!」
「よーし、共闘関係が確認された所で…アルフ!亜空間ソナー全開!!敵本体を発見後、空間魚雷で攻撃開始お願い!」
再び、機動兵器から少女の声が響く。
「イセリナ様、お任せあれ!」
「よし!藤木、レディオス、出番だ!!」
艦体下部のカタパルトが開き、見覚えのある二機の機動兵器が出撃する。
「その機体…レディオス、それに、藤木ですか…!?」
「ああ、この宇宙群に大変な事が起こってるんだろ?なら戦力は多いほうが良い!手を貸すぜ!!」
藤木が、そう言って笑う。
「お主ら…!」
シリウスの言葉に、レディオスが返す。
「お前への雪辱は果たされていない。それに、お前が魅せられたこの旅、この俺も気に入った…!!」
レディオスは、そう言ってニヤリと笑う。
そして、ズィルヴァンシュピスの方から更に通信が入る。
「シリウス社長!」
通信の主はアルフレッドだ。
「ん?どうした、アルフレッドよ!」
「アンファース社員からシリウス社長への届け物です!!」
戦艦のカタパルトに、機械仕掛けの剣の様な物がある。
「…受け取って下さい!!」
アルフレッドの言葉と同時に『それ』が射出され、アークトゥルースが、飛来した『それ』を掴む。
「これは…!」
武装に関してのシステムアップデートが発生する。
それと同時に、社員からの音声が再生される。
『社長は、我々にたくさんの夢を見せてくれた…これが、我々の見た夢の姿です!!
社長、我々の夢も、是非とも社長の旅にご一緒させてください!!』
その言葉の直後、機体のコンソールに、『フェイト・スレイヤー』と表示される。
その下に、武装としての説明が表示される。
重力に指向性を持たせ、実体を持つ程に収束、圧縮して、敵に刀身が衝突した瞬間に、敵をその重力の流れに巻き込んでねじ斬る、というものらしい。
「…皆…」
シリウスの目に、涙が浮かぶ。
アップデート完了と、コンソールに表示される。
「良かろう…フェイト・スレイヤー…起動!!!」
機械仕掛けの剣から、金切り声のような音が響く。
直後、剣に、光で出来た刀身が展開される。
光で出来た、と言っても光学の刀身ではなく、説明通り、見た目はほぼ実体だ。
「我が部下達よ…お主らの見た、そして、このわしに託した夢の力…見せてもらおうか!!」
アークトゥルースが、それを構えた。
それとほぼ同時に、ズィルヴァンシュピスの亜空間ソナーが、六体目の、デストヴァール『本体』の場所を特定する。
「標的を確認!カーメン!!」
「任せろ!空間魚雷、発射!!」
ズィルヴァンシュピスから放たれた魚雷は、空間を潜行し、直後、戦闘領域の端に、爆発が起こる。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
黒騎が、まるで水しぶきを上げて吹き飛ばされるかのように姿を現す。
「見つけた!」
艦首に立っていた機動兵器が、それに向かって突撃する。
五機融合のデストヴァールが、その前に立ち塞がる。
「邪魔しないで!ジオ…!」
機動兵器が突撃を止めて攻撃に移ろうとするが、それをギルティアの言葉が遮る。
「アトネメントプライ…ファイアーッ!!!」
黒い塊が、機動兵器の横を抜けて、デストヴァールの腹に風穴を開ける。
「今です!行きなさい!!」
「ギルティアお姉ちゃん、ありがとう!!」
ギルティアは、その声、その言葉に妙なデジャブを覚える。
「…あなたは…」
機動兵器は更に黒騎に接近する。
「デストヴァール!また倒されたいようね…!」
機動兵器の左腕が、ドリルに変形する。
「ジオ・ブレイカァァァァァァーッ!!!!」
ドリルが黒騎をぶち抜き、その激しい回転はそのまま黒騎をバラバラに吹き飛ばす。
「…よしっ!」
しかし、直後、ギルティアが叫ぶ。
「まだです!早く!奴の核を破壊して下さい!!」
「遅い!!」
直後、吹き飛ばされた黒騎の一部から、機械が取り付いた赤い核が、凄まじい速度で五機融合デストヴァールの方へ向かい、核はその内部に取り込まれる。
そして、アトネメントプライで破壊された箇所も一瞬にして再生する。
「ここからが本番、という訳ですね…そこの娘さん、名前は?」
「私はイセリナ!イセリナ=ノアル!」
その言葉にギルティアが頷く。
「…では、イセリナ、共に仕掛けますよ!」
「うん!」
イセリナは、続けてズィルヴァンシュピスに通信を入れる。
「アルフ、カーメン、支援砲撃を!」
ズィルヴァンシュピスの主砲が、デストヴァールに照準を定める。更に、藤木とレディオスに通信を入れる。
「藤木さん、レディオスさんはあの無駄にでかい敵の核の場所を探して!!」
「了解した!」
「おう、任せな!」
ジェネラルとフレアドイリーガルが攻撃態勢に入る。
一方、シリウスから通信が来る。
「…お嬢ちゃん!新しい剣の試し斬りをしたい!ヴェルゼンとオーガティスはわしの方に任せよ!!」
「了解しました!では、そちらは任せます…くれぐれも、気をつけて。
…ルーク!藤木とレディオスに合流し、敵の動きを止めて下さい!核に一撃叩き込んで仕留めます!!」
「任せろ!」
ズィルヴァンシュピスからの砲撃がデストヴァールに襲いかかる。
「無駄だ、その程度の砲撃…!」
デストヴァールの左腕が蒸発する。
すぐに再生するが、そこに核がないという事ははっきり分かる。
「行くぜ!!」
ジェネラルが榴弾をデストヴァールに叩きこむ。
デストヴァールの左足が吹き飛ぶ。しかし、すぐに再生する。
更に、フレアドイリーガルが、ライフルでデストヴァールの左胸に対して狙撃を行う。
「おっと…その程度の攻撃が通用するか!!」
デストヴァールが、それを右腕で止める。
先程までは防御する事すらしなかったのに、である。
「…そこか…!」
「フハハハハハハハハ!!反撃をさせて貰おうぞ!!」
核の場所を気付かれた事を知ってか知らずか、デストヴァールが、再び胸部から収束された衝撃波を放つ。
「そうはさせんぞ!」
衝撃波を、ルークの時空震ブレスが相殺する。
相殺の時に発生した衝撃で、デストヴァールに一瞬の隙が出来る。
「…今です!奴の胸部に…!!」
エルヴズユンデの胸部に再び光が集まる。
「うん、ありったけの火力をぶち込むよ!!」
機動兵器の全身が開き、無数のエネルギー砲が姿を現す。
「アトネメントプライ…!」
「ジオ・バースト…!」
それぞれの力が、解き放たれる。
「フィニィィィィィィィィッシュ!!!」
黒い塊が、デストヴァールの胸部に叩き込まれる。
「エェェェェェェェェンドッ!!!」
凄まじい光の雨が、デストヴァールの胸部の一点に焦点を合わせて収束する。
「なっ…馬鹿な!!」
デストヴァールが、両腕に衝撃波を集めてそれらを止めようとする。しかし、猛進するそれらを止める事は叶わなかった。
「これで、終わりです!」
デストヴァールの左胸を、光と闇の嵐が貫く。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!!」
巨体が、ボロボロと崩れていく。
「…願わくば、汝の罪が、祓われん事を」
ギルティアは呟いた…。
一方、ヴェルゼンは冷や汗をかいていた。
「ここまでの増援が到着するとは…誤算でした…」
今、ヴェルゼンとオーガティスの目の前には、光り輝く新たな剣を携えたアークトゥルースと、青色に輝くエルグリオがいる。
「オーガティス、こちらも本気で行きましょう…相手は二体、怖れるべきはエルグリオだけです。
まずはあの人間を片付けて、二人で当たれば幾らエルグリオとて…!」
「…楽観的観測の気はするがね」
オーガティスが呟く。
「ま、良いさ…こいつらがムカつくって事だけは、確かだ!」
オーガティスの纏っていた炎が、一段と強くなる。
「来るがいい、人間風情が!!力の無い者が夢を語る愚かしさ、その身に刻み込んで差し上げましょう!!」
ヴェルゼンが、強い衝撃波を纏う。
「我が社の総力、今ここに結集せり!!見るがいい、アンファース・インダストリアルの夢を!誇りを!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!」
アークトゥルースが、ヴェルゼンとオーガティスへと突進する。
「さぁ、お仕置きの時間だぜ!ヴェルゼン!オーガティス!」
エルグリオが、それに続く。
「ヴェルゼン!」
「ええ、行きますよ!!」
オーガティスが先行し、赤熱した炎の槍を構えて突っ込んでくる。
「これでおしまいだ!クソジジイッ!!」
「スターライト・セイヴァーッ!!はああああああああああああああああああっ!!!!」
まるでただ空振りしたかのように、オーガティスの槍ごと、オーガティスが両断される。
「…な、んだと…!?」
オーガティス自身も、自分に起こった事が分かっていない。
何故痛みを感じている。貫かれるのは相手のはずだ。
しかし、事実は違っていた。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
激痛に、オーガティスが絶叫する。
「オーガティス!!」
背後に回りこんだヴェルゼンが動揺しながらも、アークトゥルースに衝撃波を纏った爪を叩き込む。
「スーパーノヴァ・ブレイク!!」
剣が光を放つと、アークトゥルースの周囲に光の壁が発生し、それが周囲へと爆散する。
衝撃波の効力も及ばない至近距離から直撃を受けたヴェルゼンは、見事に吹き飛ばされる。
「うわああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
「追撃を喰らえ!!タイラント・グリィィィィィィドッ!!!!」
吹き飛ばされた場所に、刃の嵐が襲い掛かる。
ヴェルゼンが、刃の嵐に飲み込まれる。
咄嗟に衝撃波を展開して攻撃を軽減するが、それでも、ヴェルゼンはズタズタになっていた。
「くっ…オーガティス…!!」
「あのクソジジイ、神でも斬る気かよ…!!」
「…デストヴァールがまたも破られたようですね…ここは後退しましょう…!!」
ボロボロのヴェルゼンが、オーガティスを拾い上げる。
「覚えているが良い!!貴様らはこの僕が必ず殺す!!」
ヴェルゼンはそう言うと、凄まじい速度で後退して行く。
「これが、我らが夢!我らが誇りの力だァァァァァァ!!!」
シリウスの咆哮が、境界空間に木霊した…。
これで、今回襲撃して来た『敵』は、全員いなくなった。
「ケッ…逃げ足だけは達者だな」
エルグリオが呟く。向こうでの戦闘も、どうやら終わったらしい。
「…どうする?このまま一騎討ちと行こうか?」
シリウスが、ニヤリと笑う。
「お前、結構機体にダメージがあるだろうが…本当ならここで蹴りを付けておきたい所だがな…」
「お主とて、この剣と一撃交えてみたいと思っておるだろう?」
「だが、本調子じゃないお前を倒しても、何も得られねえ」
その言葉に、シリウスは感心する。
「…そうか…」
「…それじゃ、俺は行くぜ。恐らくインフィナイトからの説教が待ってるだろうからな、面倒事は早く片付けるに限るだろうよ!!」
エルグリオはそう言って笑う。
「…次に会った時には、容赦しねェ…首洗って待ってろよ!!」
「ああ、楽しみにしておるぞ!!」
シリウスも、ニヤリと笑ってそれに答える。
エルグリオは、そのまま撤退して行く。
「だが、エルグリオよ…お主はそこまでして、一体何を望むのだ…?」
シリウスは、エルグリオの後ろ姿を見ながらそう呟いた…。
ギルティアから通信が入る。
「こちらは片付きました!シリウス、大丈夫ですか!?」
「フ…ヴェルゼンもオーガティスも一撃で仕留められたもの、大丈夫も大丈夫ではないもあるまい!」
シリウスはそう言ってニヤリと笑った。
「一撃…それは…凄い…!」
「我が社の夢の結晶…わしの自慢の部下達がこのわしに託した誇りの結晶でもあるフェイト・スレイヤーが、あの程度の輩に敗れるわけがあるまい!!
…エルグリオは帰ったぞ。手負いのわしとは戦いたくないとさ!!」
「という事は、戦闘は終了ですね」
その言葉に、シリウスは頷く。
「うむ!」
「ファラオ店長やアルフレッドがあの戦艦に招いています…あの戦艦で合流しましょう!」
「承知!」
既にエルヴズユンデは戦艦の方に向かっている。
「我が部下達よ…わしは、お主らのような部下を持てて、改めて誇りに思うぞ」
シリウスはそう呟き、デモンズ・スローターを回収すると、戦艦の方へと向かっていった…。
続く




