Act.63 恐るべき事実
Act.63 恐るべき事実
宇宙群は、先程の戦いが嘘であったかのように静寂に包まれていた。
そして、ルークは、口を開いた。
「…単刀直入に言おう。インフィナイトの目的は、この宇宙群の『作り直し』だ」
「な…!?」
「異形空間をアクセス能力を利用して宇宙群に組み込み、宇宙群そのものを『変異』させる…」
その言葉に、ギルティアが驚愕する。
「異形空間は本来、生命の『願い』を叶える為に生み出されたものだ、そうインフィナイトは言っていた。
しかし、それは不完全、本能などの欲求にすら反応し、それらを増幅する性質を持った結果が、異形の誕生…」
「つまり、その不完全な部分を修正し、それを宇宙群に組み込んで宇宙群そのものを作りかえる、それがインフィナイトの目的…なのですか?」
その言葉に、ルークは頷く。
「それを宇宙群全体に異形空間の影響を適用させる為に、鍵の持つアクセス能力のデータが必要なのだ、と言っていた」
その言葉に、ギルティアが頷く。
「…成る程。そして、どこにいるのか分からないこの宇宙群の鍵よりも、手っ取り早く、派手に動いていた私の方を狙って攻撃を仕掛けてきた、と」
しかし、それだけなのかと、ギルティアは少しだけ疑問を感じた。
ギルティアは、その疑問を取り敢えず保留し、言葉を続ける。
「目的は計画が次の段階に進んだ時に分かるだろうと言っていましたが…」
「…ああ、そう言っていた。先日、勇み足で攻撃を仕掛けた馬鹿二人のおかげで、計画が予定外に繰り上がってしまった、とな」
その言葉に、ギルティアは頷く。
「…成る程、あの時、ですか…グランディオスもここで戦うつもりはなかった、と言っていましたからね」
「…どちらにしても、不確定要素はつきもの、か…」
「そして、異形空間の力を利用し、作り直された宇宙群には、インフィナイトが生み出す、新たなる人類が住まう。
そう、今の人類よりも遥かに強く、老いる事も死ぬ事もなく、そして、互いに争い合う事も憎しみ合う事もない、新たなる人類がな」
ギルティアが驚愕する。
「そんな事が…可能なのですか…!?」
「異形誕生のプロセスを思い出してみよ、それは、人の欲望が『増幅』されたものだ。
それを逆利用すれば、人間の精神を、欲望を、『最適化』した種族を新たに作り出す事も、可能だ」
「…確かにそれは理想的な案だが、成る程、我々の敵である、といった理由も分かる」
シリウスが呟く。
「つまりは、この宇宙群に住まうわしらを駆逐した上での、種族の『再創造』…。
…新たに生み出される宇宙群に人類も存在していては、結局は今の状況の二の舞ぞ」
「そう、その通りだ…作り直しには、この宇宙群自体が『材料』として、根源的エネルギーレベルまで分解される必要がある。
そして、異形の制御の実験を行っていたのは、宇宙群の分解の際に必要となる軍勢を生み出す為でもある」
そこまでの話を聞いた所で、ギルティアは気になった。
「確かに、相手の目的については理解できました。しかし、何故、それを成さねばならないのでしょう?」
「…我も、本当の所は分からぬ。
だが、インフィナイトが…いや、我が友、曙光竜ライズがそこまでしようとする程の事が、我が人の手によって目覚めさせられる以前にあった、それだけは、事実だろう。
奴もそこまでしか教えてくれなかったが、我自身も、人類が彼を滅ぼしたと、聞いていたからな。
…そして何より、人は我の力すらも利用する事を考えた。そして、利用できないと分かるとすぐに我を殺そうともした」
その言葉を聞くギルティアの脳裏に、かつて自分が封印された時の記憶がよぎる。
そして、その時の戦いで、相手が言っていた。
ギルティアの存在のせいで、戦争が起こる、と。
彼女の力は、宇宙群すらも救う事が出来るその力は、それを巡って人類が戦争を起こすほどに強かった。
しかし、そもそも、ギルティアの力を怖れなければ、拒絶しなければその戦争は起こらなかったであろう。
それを考えると、インフィナイトの考えも、あながち間違ってはいない。
ギルティアは口を開いた。
「…確かに、それを考えればインフィナイトの行動にも納得が行きます」
しかし、とギルティアは続ける。
「だからと言って、インフィナイトのやろうとしている事を見過ごす事など到底出来ません。
私には、宇宙群を守るという使命があり、その使命を誇りに思っています。
…そして、私は、この宇宙群を訪れ、旅をして、今まで、この宇宙群で私の使命を果たしてきた事を、後悔してはいません。
そして、私は、この宇宙群が好きです…私の故郷と同じ程に…ね。
ですから、それが作り直されるというのを、黙って見ている訳には行きません。
何としても、インフィナイトの行動を止めなければ…この宇宙群を守らなければ…!」
その言葉に、ルークが頷く。
「我も、そう思ったからこそ、ライズ…いや、インフィナイトではなく、他ならぬ貴公の元へ戻ってきたのだからな。
…少なくとも、今の人類はかつてのそれよりもは大分マシだ。
これからどうなるかは分からぬとはいえ、希望は持てる…その希望ごと刈り取ってしまうのは、我も納得が行かぬ。
無意味な、そして愚かな戦いが続く事を嫌って眠り続けてきたが、このような戦いならば、悪くはない」
ルークは、そう言って笑った。
「…無論、わしとて同じ気持ちだ。
確かに、過去は過去、現在は現在と割り切るのは虫が良過ぎる。
そう、かつての人類の罪は未だに祓われておらんのだろうが、我々とて、黙って滅びを受け入れられる程に物分かりが良い訳ではない。
…両者共に成すべき事がある以上、戦うは自明の理ぞ」
その言葉に、ギルティアが頷く。
「そう…私達の戦うべき敵が、そして、それが戦うべき相手であるとはっきり分かっただけでも、前進です。
私達の旅の目的地が、ようやく、完全に定まったのですから」
「うむ」
「…ここからは我も改めて旅に同行させて貰う」
ルークの言葉に、ギルティアは笑顔で頷いた。
「ええ、改めてよろしくお願いしますね…おかえりなさい」
そして、話が一段落した所で、ギルティアは改めて言葉を紡ぐ。
「ところで、ルーク…先ほど助けに来て頂いた時から気になっていたのですが…その装備は一体どうしたのですか?」
「これは、究極生命の持つ、宇宙群を生み出す、創世の力の断片…早い話が、自らの装備を自らによって作り出したものだ。
今まで我が行使してきた、巨大化、そして縮小化の能力も、その力を限定的に使用したものだ…もっとも、それを自覚したのは、つい先程なのだがな」
そうして、ルークはギルティアに合流する前、インフィナイトの本拠地から今の場所にたどり着くまでの事を、話しはじめた…。
時間は、少し遡る。
インフィナイトの本拠地の最奥で、インフィナイトとルークが向かい合っていた。
「では、余はギルティアに攻撃を仕掛けてくるとしようぞ」
「…ライズ…」
「余を、まだその名で呼んでくれるか…汝もまた、相変わらず心優しいな。
…汝は余の成すべき事を知った。ならば、後は汝で決定を下すがいい」
インフィナイトは、そう言って笑う。
「…正直、無用の争いを好まぬ汝が、まさか彼女と共に旅をする事になるとは、余も思っていなかった。
…余は汝に共に来る事を強いたりはしない。それがもし汝の決定ならば、余は全力を持ってその決定に応じるだけだ」
そう言うと、部屋の、天井が開く。どうやら、外に直通しているらしい。
インフィナイトが、腕をかざすと、そこに光が集まり、剣が姿を現す。
「…さらばだ、我が友よ」
そして、インフィナイトが飛び立つ。
天井が閉じて、暫く、ルークはポツンと取り残される。
しかし、暫くして、ルークは、本拠地の外へ向けて歩き出した。
「…我の心は、決まっている」
そして、本拠地の外に出ると、ルークは翼を広げる。
「…ギルティアよ、今そちらへ向かうぞ」
そう呟くと、ルークは飛び立つ。
…その直後だった。
たくさんの棘が、ルークにむけて飛来する。
「…むっ!?」
ルークが、咄嗟に放った時空震ブレスで、それらを相殺する。
更に直後に振り下ろされた爪を、爪で受け止め、受け流す。
「インフィナイト様の信頼を裏切るとは…どこまでも見下げ果てた奴…!!
…オーガティス、この愚か者に死を!!」
「あいさー!ケッケッケ、そういう訳で、悪いが死んで貰うぜ!!」
「そこを退け!我は、何としてもギルティアの元へとたどり着かねばならんのだ!!」
ルークが、爪を構える。
「もし退く気がないのならば、力ずくで押し通らせて貰う…!!」
「やれるものなら…!」
「やってみろってな…!」
ルークの両腕の爪の一振りが、衝撃波の刃を発生させる。
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
更に、時空震ブレスが放たれる。
しかし、既にそこにはヴェルゼンはいなかった。
「…遅い!!」
「ぬっ!?」
瞬時に背後に回りこんだヴェルゼンが、ルークの背中に爪を叩き込む。
「ぐ、はっ!!」
「隙ありーっ!!」
更に、時空震ブレスの中を、オーガティスが槍を構えて突っ込んでくる。
ルークがそれを回避し、オーガティスの背後を取る。
「そこだ!!」
ルークが、爪を叩き込む。
「へー、なかなかやるねぇ…と、言いたいけどさ」
「…終わっていますよ」
再び背後を取ったヴェルゼンの放つ衝撃波の嵐が、ルークを飲み込む。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
何度も叩き込まれる、爪。
更に、衝撃波の嵐の中に叩き込まれる、棘。
重力震を放ちたくとも、今の状態では、それが止めの隙になる可能性も大きい。
「ここで負ける訳には行かぬ!!ギルティアの心に、我のせいでこれ以上傷をふやすわけには行かぬのだぁぁぁぁぁぁ!!」
身を切る激痛の中、ルークは叫んだ。
「しかし、この状況下で、どうする、と?」
巨大化しても的になるだけだ。
ルークは必死に頭をひねる。
負けたくなくとも、一縷の望みに賭けるその手段が無ければ逆転のしようも無い。
思えば、自分はインフィナイトと、そう、ライズとは同族だ。
先程彼が生み出した剣は、世界を生み出す力と同じ力によって、瞬時に『作り出された』ものだ。
その力が、自分にも使えたら。
自分が使えるのは、せいぜい巨大化程度…巨大化…?
ルークは、ふと考える。その時に『作り出される』のは巨大な自分だ。
ルークは、何をすれば良いのか、分かった気がした。
「…こうする、だけだ!!」
ルークの咆哮。
同時に、ルークの骨で出来た翼が砕け、機械仕掛けの翼が『生えて』くる。
直後、ブースターの閃きが、ヴェルゼンの衝撃波を突破する。
「な…何…!?」
「成る程、要は巨大化の力こそが、我が持つ『創造』の力の片鱗だった、と」
ルークが、ニヤリと笑う。
「…ならば!!」
直後、ルークの身体各部、そして両腕に光が集まる。
そして、それはルークの体に鎧となって装備されていく。
「見せてやろう…我が力を!!」
ルークが纏っていた光が収まる。
ルークの両腕には、大型の機械爪が装備されていた。
「ルーク・ブレイジングアーマーモード!!」
「成る程…同族って事は使える力も同じって事か…こりゃ、ちょーっと分が悪いかな…って、おいヴェルゼン!!」
オーガティスが見ると、ヴェルゼンが突っ込んでいく。
「そんなこけおどしで、この僕はだまされはしない!!」
両腕の爪に衝撃波を集中している。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!」
咆哮と共に、ルークがヴェルゼンに突進する。
爪撃が、交差した…。
「悪いが、我の勝ちだ」
ヴェルゼンの脇腹が深く抉られる。
「…ぐ、が…!!」
「おい、そこの骨!今の我を邪魔せぬと言うのならば止めは刺さぬ!どうするのだ?」
「やれやれ…こいつ、人の話聞かないから…分かった、行けよ!」
その言葉に、ルークは満足気に頷いて、インフィナイトの飛び去ったほうを向く。
オーガティスが、ヴェルゼンを拾い上げる。
「なーんてな、隙がありすぎなんだよ!!」
そして、拾い上げたまま、ルークの方へ槍を構えて突進する。
「ふむ、そうか?」
ルークが振り向く。
既に、時空震ブレスがチャージされていた。
更に、その前方に、魔法陣がまるで砲身のように展開される。
「な、しまっ…!」
「すまんな…貴公らは信用できぬ」
時空震ブレスが、オーガティスの半身を吹き飛ばした。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「今日の所は急ぐ、これで勘弁してやろう…さらばだ!!」
そう言って、ルークは、インフィナイトを追って飛び立っていった…。
「…そして、先程に至る訳だ」
ルークは、そう言って説明を終えた。
「…成る程、そんな事が…」
「しかし…またあの二人か…強さはエルグリオとグランディオスの方が遥かに上だ…だが、それ故に、むしろ四将の中で警戒すべきは、ヴェルゼンとオーガティスであるのかも知れぬな」
その言葉に、ギルティアは頷いた。
「ええ、エルグリオとグランディオスとは違い、あの二人は非常に『危険』です。情けも容赦も不要、出会ったら問答無用で倒します。
…しかし、問題は、インフィナイトですか…」
その言葉に、ルークが頷く。
「…ああ、友として付き合ってきたが、敵に回すとあそこまで恐ろしい相手だとは、我も思ってはおらなんだ」
その言葉に、ギルティアが言葉を続ける。
「…ともあれ、次の目的地へと急ぎましょう。
インフィナイト自身と交戦し、その力が分かった以上、今後の旅の方針を再考する必要があります」
エルヴズユンデが、移動を開始する。
「…また、わしは何も出来なかったな…」
エルヴズユンデに追従しながら、シリウスは静かに呟いた…。
続く




