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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
61/101

Act.61 ある少女の恋歌、ギルティアの怒り

 私は、戦わない。

 戦わなくていいのだ。


 人類は初めから鍵…私を必要としない。

 人類は寿命も短く、力も小さい。

 しかし、真の危機には手を取り合い、自分達の力だけで未来を手にする、

 そうして、最終的には、鍵を、そして究極生命すら越えていく、そんな種族だ。


 事実、ある宇宙群の鍵は、誕生して早々に世界を救い、そのままそれを危険視した人類に封印された。

 『彼女』だけではない、今まで、世界を護ってきたかなりの数の鍵が、人間によって封印されてきた。


 鍵は一人の力には優れる。

 しかし、それはあくまで一人の力、その力がある限り、他者と繋がる事など出来はしない。

 結束した人類の力の前には、鍵の力など用を成さないのだ。

 人類は、生じる危機を自主的に解決する事が出来る。


 だから、私も人間の一人として生き、一人の少女として死んでいく事を、私は夢見ていた。

 そして、今までもずっと、己が不老不死の身体を悟られぬように各地を転々と彷徨ってきた。


 見つけられた居場所を何度も後にする、宛ても果ても無い寂しい旅路。


 そして、その旅路の果てに、私は出会った。

 彼は、私の過去を聞かなかった。何処から来たのかも、聞かなかった。

 …聞かないでいてくれた。

 ただ、私を普通の少女として見て、接してくれた。

 だから、彼と共にいる時だけは、私は、鍵ではなく、ただ一人の普通の少女でいられた。

 長い長い旅の記憶も、かつてこの宇宙群で起こったたくさんの悲劇も、忘れる事が出来た。

 だから、私が彼を好きになるのは、必然だったのかもしれない。


 願わくば、この時間が、永劫に続く事を…。

 今の時間を、誰にも、邪魔されたくはない…。

 私の名は憐歌=ブリーシング…祝福されし宇宙群の鍵…。



   Act.61 ある少女の恋歌、ギルティアの怒り



 ギルティア達は、次の目的地である宇宙に到着していた。

「この宇宙には異形は殆ど飛来しませんから、今までは私もここを訪れた事はありませんでした」

 ギルティアとシリウスは、山の中腹当たりから、眼下の街の夜景を見下ろしている。

「ほう…という事は、お主もこの宇宙の事はあまり知らない、と」

「詳細な情報は不明ですが、技術発展は通常の物、見るべき所はあまりないでしょう。

 軽く異形の総数を確認し、すぐに次の目的地に旅立つ事になると思います」

 その言葉に、シリウスは頷いた。

「成る程な」

「…手早く済ませて次の世界に行きましょう」

 ギルティアが、左手の爪を突き出す。

 たくさんの情報が、ギルティアの眼前に表示される。

「…やはり、異形は人間に被害を及ぼせるほどはいな…」

 情報の一つを見たギルティアの言葉が突然途切れ、表情が険しくなる。

「…どうしたのだ?お嬢ちゃん」

 シリウスの問いに、ギルティアは、ハッとしたように、表情を普段の笑顔に戻す。

「…いえ、何でもありません。ただ、せっかく来た事のない宇宙に立ち寄ったので、美味しいラーメン店の一つくらいは見つけて行きたいなぁ、と思いましてね」

「ほう…」

 ギルティアは、そう言うと、再び眼下の街を見下ろす。

「…ようやく、見つけた…」

 ギルティアは、誰にも気付かれないように呟く。

 その目は、どう見てもラーメンを求める目と言うよりもは、まるで仇を見つけたかのような目だった…。


 次の日の朝、ギルティアは、一人で街に降りていた。

 シリウスには、少し良さそうなラーメン屋を探してくる、とだけ言い残していた。

 確かにそれも気になってはいるが、もちろん、本当の目的はそんな事ではない。

「…問わねばなりません、今まで、一体何をしていたのか、と」

 ギルティアが呟く。

 異形に関しての情報を取得したとき、ギルティアは見つけてしまったのだ。

 そう、この宇宙に、そして、今ギルティアが歩いている街に、この宇宙群の鍵が、潜伏している。

 一体、こんな宇宙で何をやっているのか。

 しかし、この宇宙にいた時点で、ギルティアの予想は、ほぼ当たっていると言ってもいい。

 だから、ギルティアは問わねばならないのだ。

 今まで、一体何をしていたのか、と…。


 一方その頃、窓から入ってくる朝日で、長い青髪が美しい少女が目を覚ます。

「…ん…」

 窓から入ってくる朝日に、顔を綻ばせる。

「こんな生活になってから、もう二年、か…いつ見ても、朝日って、綺麗ね…」

 彼女は一人暮らしだ。

 何度も居場所を転々として、出会いと別れを繰り返しながら生きてきた。

「…おっと、こうしちゃいられない、今日はせーやとのデートだった!」

 と、彼女は急いで時計を確認する。

「…あと二時間…準備してれば丁度いい時間ね」

 そう呟くと、少女は、着替えを始めた…。


 ギルティアは、街を歩き続けていた。

 いくらギルティアでも、そこまで個人の細かい居場所を特定できる訳ではない。

 せいぜい、この辺にいる、程度だ。

 だが、直接視認できれば、一目で見抜く事は出来る。

 大分、近いのは間違い無い。

 しかし、民家の中にいるのならば、視認して確認する事など出来ない。

「…出会う事が出来なくてはどうにもなりませんね…」

 ギルティアは、ため息をつく。

 何しろ、相手の容姿も名前も知らない。

 ただ唯一はっきりと分かるのは、相手が自分と同じく、宇宙群の守護者『鍵』だ、という事だけだ。

 しかも、相手はアクセス能力を長く使用していないらしく、痕跡から辿る事も出来なかった。

 あまり同じ場所をうろつくと、不審者と勘違いされかねない。

 とりあえず、書店に立ち寄って、ラーメン関連の雑誌を立ち読みの後購入し、公園のベンチに座って、じっくりと読みはじめる。

「この近所には…あまり推せるラーメン屋は無いようですね…」

 ギルティアはため息をつき、そのまま雑誌を読み進める。

「…成る程、隣町には良さそうなラーメン屋が一軒ありますか」

 ギルティアは、そう呟き、微かに笑った。

「次の目的地に旅立つ前に、食べに行けると良いのですがね…」

 既に、ギルティアが相手の鍵を探し始めてから、二時間が経過していた…。

 思えば、今日はこの宇宙の、この国における祝日なのか、かなりの人数の学生と思しき子供達が、私服で街を歩いている。

「…やはり、私は浮いているのでしょうか…」

 先日、冬川綾子が言った言葉を、改めて理解する。

 確かに、見た目が同年代の女の子達と比べると、浮いていると言えば、確かに浮いているかもしれない。

「まぁ、私は私です、それに、その程度では使命に支障をきたす事は無いはずです」

 ギルティアは、そう静かに呟いた。


 そして、もう暫く、購入して来たラーメン雑誌を読み続ける。

 少し離れた所から、声が聞こえてきた。

「初デート♪初デート♪」

「憐歌、あんまりはしゃぐなよ…というか、本当に初めてだったのか?」

「あったり前でしょう、私があちこちを転々としてきたって、説明したでしょ?」

 あちこちを転々としてきた?

 その言葉が、ギルティアの耳に引っかかる。

「って言ったって、あんまりその頃の事を教えてくれないじゃん、憐歌」

 憐歌れんか…これは名前だ。

「…色々あったのよ、私も」

 ギルティアが、声の方向を誰にも悟られないように見る。

「…!」

 間違い無い、そして何という僥倖か。

 ギルティアが探していた、この宇宙群の鍵が、公園の外の歩道を歩いていたのだ。

「見つけましたよ…!!」

 憐歌と呼ばれた、対象の、可愛らしく着飾った青髪の少女は、青年と腕を組んで笑顔で会話をしている。

 歩いていって声をかけたかったが、もしかすると、一緒にいる青年に迷惑をかけてしまうかもしれない。

 だから、ギルティアは行き先を確認しようと、それなりの距離を保ちながら二人を追い始めた。

 二人は全く気付いていない。本来、鍵ならば気付いてもおかしくは無い。

 平和ボケか、と、ギルティアは思った。

 事実、アクセス能力を長い間使っていない事からも、彼女が長い間鍵の力を使っていない事、戦っていない事が分かる。

「…しかし…」

 ギルティアは、どうしようもない寂しさを感じていた。

「…何と幸せそうなのでしょうか…」

 正直、ギルティアは、追うのを止めて帰りたくなっていた。

 もし彼女が人間だったら、ギルティアは彼女を平然と祝福してやる事が出来た。

 それを、彼女ごとこの宇宙群を守る、その決意に変える事が出来た。

 しかし、本来その使命を背負うべき相手が、その反対側にある幸せを享受しているのだ。

 寂しさと怒りが、同時にこみ上げて来ているのが、ギルティアにも分かる。

 強い強い怒りが、ギルティアの体内で燻っている。

 しかし、相手の幸せさは、ギルティアにとっては眩しすぎた。

 それは、ギルティアがただ近づいただけで壊れてしまいそうで、結局、ギルティアは声をかけるタイミングを掴めぬまま、対象が入って行った場所を確認する。

「…遊園地、ですか…」

 恐らく、一緒にいた青年とのデートなのだろう。

 正直、ギルティアは遊園地など行った事も入った事も無い。

 それに、このタイミングで彼女に声を掛ければ、先程のタイミング以上に、一緒にいる青年に迷惑が掛かるだろう。

「ここから先は、どの道、声を掛けるのは不可能でしょうね…」

 ギルティアは、そう言って苦笑した。

「おおよその居場所は判別できる、名前も容姿も把握しました…まぁ、今は良いでしょう」

 ギルティアは、反対側に、シリウスが待つキャンプの方へと歩き出した…。


 ギルティアが戻ると、シリウスは、手持ちの端末を操作して何かを行っていた。

「…ただいま、戻りました」

「おお、戻ったか」

 シリウスは、ギルティアの寂しそうな様子から、何かあった事を既に悟っていた。

 しかし、それを尋ねた所で、ギルティアはいつもと同じく、笑顔で何でもないと答えるのだろう。

 だから、シリウスはそれを尋ねず、代わりに言葉を紡いだ。

「…良いラーメン屋は見つかったかね?」

 ギルティアは、それに自身あり気の笑顔で頷く。

「ええ、しっかりと」

 ギルティアが、ラーメン雑誌を取り出し、ページを折っておいた部分を開いて、シリウスに見せる。

「ふむふむ…麺処『あかつき』…唐辛子やらその他大量のスパイスを練りこんだ超辛麺がウリか…成る程、面白そうだ」

「でしょう?それに、目ぼしいラーメン屋がこの近くだと隣街のそこしかないのです」

 思えば、今の自分に丁度良いラーメンかもしれない、とギルティアは思った。

 正直、先程の二人の甘々さにあてられた自分を再び安定させる気ならば、最大辛度のラーメンでも足りないかもしれないと、ギルティアは感じていた。

「…さて、行きましょうか」

「うむ!」

 二人は、目的のラーメン屋へと歩き出した…。


 そして、その日の夕方、ギルティアとシリウスは再びキャンプへと戻ってきていた。

「…また野暮用がありますので、少し出かけてきます」

 戻ってきて彼女一人の時ならば、まだ先程のような状況にはならないだろう。

「承知した…何かあったら遠慮なくわしを呼ぶと良い」

「ええ、分かりました」

 ギルティアは笑顔で言うと、再び歩き出した。


 一方、ギルティアが待機していた公園の前で、憐歌と、せーやと彼女に呼ばれる青年が話している。

「今日は本当に楽しかったわ…ありがとう、せーや!」

「おう…今更なんだが、実は俺も初デートだったんだ。

 正直、ここまで上手く行くとは思っていなかった。本当に楽しかったよ。

 それと、俺はせーや、じゃなくて、晴夜だと、何度言ったら…」

「だから、せーや、でしょ?」

「のばすな!せーや、じゃなくてせいや、だ!せ、い、や!!」

「変わんないじゃん!」

 その言葉に、晴夜と名乗った青年はため息をつく。

「ま、良いか…仕方ない」

「ははは…やっぱり、せーやといると、本当に楽しいわ」

 日が落ちる。

「本当、私は幸せよ…それじゃ、また明日、学校でね!」

 憐歌はそう言うと、手を振って駆け出した。

「ああ、またな!」

 晴夜も手を振ると、憐歌とは別の方向へと歩き出した…。

 憐歌が最後に言った、『本当、私は幸せよ』という言葉が、どこか寂し気に、晴夜の心に残っていた…。


 憐歌が家へ向かう途中、突如、空間閉鎖が起こる。

「!?」

 それが一体何なのかを、憐歌は既に知っている。

 当然だ、彼女は宇宙群の守護者、鍵なのだから。

 しかし、この宇宙で空間閉鎖は起こるはずが無い。

 異形は、この宇宙には、被害を及ぼすほどは飛来して来ない筈なのだ。

「…ようやく、話しかける事が出来ました」

 空中から声が聞こえる。

 四枚の翼を持つ、白髪交じりの黒髪の少女…ギルティアだった。

「…あなたは…」

 憐歌は、ギルティアが別な宇宙群の鍵である事を、すぐに悟った。

「私はギルティア…ギルティア=ループリング…『過ちの鎖輪』と呼ばれる宇宙群の鍵です」

 憐歌は、彼女の事を聞いた事があった。

 遥か昔に、人間達の手で封印された鍵の筈だ。

 しかし、理解できなかった。

 封印されたはずの鍵が、何故外に出て、しかも、別の宇宙群であるここにいるのか。

「噂で聞いた事はあるわ…けど、あなたは確か、人の手によって封印されたはずでしょう?」

「原因は不明ですが、封印が長い長い時間を経て解除されました」

 憐歌はまず、彼女の封印が解けた、そこまでは理解する。

 そもそも、こうして鍵として会話するのは、彼女にとっては何年振りだろうか。

「…なら、何故この宇宙群に?」

「封印が解除された後、私は私の故郷の宇宙群から必要とされませんでしたから。

 私の力が必要とされる場所を探して、私は旅をしています」

「そんな…自分の故郷を離れてまで、何をしようと言うのよ…!」

「事実、この宇宙群は異形で溢れ帰っていましたから、私としても討伐のし甲斐がありました」

 ギルティアは、そう言って苦笑した。

「今宵は、あなたに聞きたい事があってこうして参上させて頂きました。

 …今まで、一体何をしてきたのです?

 この宇宙群に来て、最も異形が集まっている場所には、既に億を越える異形がひしめいていました。

 それを野放しにするのは、鍵の使命を放棄している事に、他なりません」

 ギルティアが、憐歌を睨む。

 憐歌は理解した。ギルティアは、この宇宙群にいる異形をただひたすらに討伐してきたのだ。

「…私は、戦わないと決めた、それが全てよ」

 そこまではっきり言うと言う事は、ただ使命を放棄したという訳ではないのだろう。

 ギルティアは、尋ねる。

「何故です?異形は人間に、そして宇宙群に害を成します…倒さねば、犠牲者は増え続けます」

「だからって、私達はいつまでも終わらない戦いを続けなければならないの?」

 当然だ、元より、鍵とはそういうものだ。

 それを、ギルティアは誇りに感じている。

「…それが、私達『鍵』の存在意義ですから」

 ギルティアの言葉に、憐歌が叫ぶ。

「それじゃ、私達はただの生贄じゃない!!

 …力を持ち、それを振るう事は、ただ孤独しか生まないわ。

 人類は、本当の危機には力を合わせ、その力は、鍵や究極生命を越える…。

 …鍵は、初めから人類に必要とされてはいないのよ」

 ギルティアは、誕生して早々に封印された。

 だから、彼女の言う事が、分からないわけではなかった。

「鍵は、宇宙群の行く末を左右できるほどの力を持つ、けど、それはあくまで一人の力…その力を持つ限り、他者と繋がる事なんて出来ないのよ」

 その言葉に、ギルティアは、先日の戦いでシリウスが負傷した事を思い出す。

 本来、鍵は一人で戦う者だ。

 人間である限り、鍵と同じ場所に立つ事は出来ない。

「あなたは…人間に憧れているのですね」

 ギルティアは理解する。成る程、彼女は人間である事を望むのか。

 鍵が鍵である限り、鍵の使命のままにただひたすらに戦い、果ても終わりも見えない旅を続けるしかない。

 それよりもは、人間として普通に暮らしたい、それを、彼女は望んでいたのだ。

 そして、もし、人が鍵の力を必要とせず、自主的に事態を終わらせる事が出来るのならば、彼女が人間として生きたとしても、鍵の使命は果たされている事になる。

 彼女は、使命を放棄したわけではないのだ。

 結局、ギルティアが旅に出たのも、どこかに自分の力を必要としてくれる場所がある、つまり、自分の故郷に、自分が必要とされなかったからなのだ。

 もし、彼女の事を使命を放棄していると言うのならば、ギルティア自身もまた、ある意味、使命を放棄しているとも言える。

「そうよ、私は人間で在りたいの。

 …人間が手を取り合った強い力は、光は私達より強く、そして、私達の戦いの先には、光は無いのよ。

 だから、私は人として生き、人と繋がり、その光の一部となって、鍵の使命を果たすわ」

 鍵の戦いの先に光は無い、その言葉が、ギルティアの心に深く突き刺さる。

「…それで、使命が果たされるのならば、それも良いでしょう。

 しかし、今の人類は果たして、彼が起こそうとしている事を止められるのでしょうか」

 ギルティアは、インフィナイトの一件を、憐歌に告げる。

「彼が何をしようとしているか分からない以上、私からは何も言えないわ」

 その言葉に、ギルティアは頷く。

「…確かに、その通りです」

 そして、ため息をつき、言葉を続ける。

「本当は、あなたに使命を放棄するな、と言ってやる気で、ここに来ました。正直、殴りたいと思っていましたから」

 しかし、殴れなかった。

 先程の、憐歌の幸せそうな様子が、ギルティアの頭をよぎる。

「…しかし、まぁ、良いでしょう」

 あの幸せは、壊したくなかった。

 悔しかったが、あまりに幸せそうで、ギルティアはそれに触れる事すら出来なかった。

「…まだ、私に出来る事は残っています。アクセス率は五十パーセントで、正直少し心許ありませんが、私は私の持てる力で戦ってみます」

 そう、せっかく近くにある彼女の幸せを、壊すのは気が引ける。

 傷つくのは、自分だけで十分ですから、と、ギルティアは聞こえないように呟く。

「…あなたは、その旅を続けて、本当に平気なの?」

 憐歌の言葉に、ギルティアは苦笑しながら頷く。

「あなたと違って、私にはそれしか残っていませんから。たとえどれだけ傷ついても、私は、鍵である事を捨てる事は出来ません」

「あなたがそれで良いのなら…好きにしなさい。ただし、あなたの行動が人類の進歩を阻害するかもしれないそれだけは、覚えておいて」

 その言葉に、ギルティアは頷く。

「…確かに、そうかもしれません。それでも、私は目の前で失われていく命を見捨てる事など出来ませんから」

ギルティアが、そう言って寂しげに微笑む。

「…人間としての幸せ、ですか。きっと、それもまた素晴らしい物なのでしょうね」

そう、ギルティアが声を掛けただけであの幸せな時間は崩れ去ってしまいそうで、二人でいるときには、ギルティアは声を掛けられなかった。

「今回はこのまま帰らせて頂きます…皆が幸せであるに、越した事はありませんから」

 そして、ふと、気付いたように言葉を続ける。

「そういえば…あなたの名前を、まだ聞いていませんでしたね」

 名前は、先程のデート中の会話から聞いていたが、フルネームはまだだ。

「…憐歌=ブリーシング」

 憐歌=ブリーシング、ギルティアはその名をしっかりと覚えた。

「…その名、覚えました。憐歌さん、それでは…ごきげんよう」

 空間閉鎖が解ける。

 ギルティアは、そのまま歩き出す。

「これで良い…これで」

 歩きながら静かに呟くギルティアの頬には、一筋の涙が流れていた…。


ギルティア日記

久しぶりに未評価のラーメン屋を訪ねる事が出来ました。

店名:麺処『あかつき』

総評:成る程、ただ辛いだけではなく、旨みもしっかりと考えられた、

   まさしく辛旨と呼ぶに相応しいラーメンです。

   強いて言うなら、麺に色々な材料を練りこみすぎたせいで、

   麺のコシが不安定、若干固い場所と柔らかい場所のムラがありました。

   しかし、それも持ち味と言えば持ち味、指摘する程の物ではありませんでした。


(以下は、何度も書いて消した痕跡がある)

憐      っ 、正直、自    意義        てしま    。

  間   事    た   あり  ん。

   、今   、い    間の笑  守  、    確   い  。

し  、  が、人     否  影    て     れない、

     から、  可能性を    出来な    した。


し  、もし        、人   主性に       の  ば、

何処  、た    罪 無い が    でしょ  。

鍵    を取り   人   勝  いか    ない、

そ   、  人  で、ど    量の流   血 肩代     か   。

   生贄   だ、と   言   た。

  、  通り  。

私は生贄になっても構わない。

それを成し遂げて死ねると言うのならば、私にとって、それ以上名誉な事はありません。

だから、私はこれからも戦いましょう。

正直、力には不安は残りますが、私には、自分の使命を捨てる事など出来ません。

そう、私には、それしか、果たすべき使命しか、残されていないのですから。


続く


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