Act.60 託されたもの
Act.60 託されたもの
アルフレッド工業の前に、二機の機動兵器が立っている。
二機とも、境界空間航行用の改修を受けていた。
「まさか、あなたまで協力を申し出るとは、想定しておりませんでした…藤木社長」
その二機とは、フレアドイリーガルとジェネラルだった。
「まぁ、シリウスについて行って分かったのは、外の世界で何やら大変な事が起こってるって事だ。
どの道、フルメタルコロッセオの最強クラスが二人もいないんだ、これじゃ俺一人残っててもつまらねえ。
それに何より、各大会社が主力をそっちに送ってるんだ、俺達の方も出さなきゃ、格好がつかん」
藤木は、そう言って笑った。
「…しかし、この先は、命懸けの戦いになります」
「先日のラーゼルとの戦いだって、命懸けだったぜ。死亡率が違うだけで、危険なのは一緒だ、そうだろ?」
その言葉に、アルフレッドは頷く。
「流石は藤木社長ですな…後はレディオスさんが到着するのを待てば…」
その言葉を遮るように、横から言葉が飛ぶ。
「…待たせたな、アルフレッド。それと、お前まで来るとは思ってなかったが、どうやら面白い旅になりそうだな、藤木」
レディオスだった。
「これで、メンバーは全員揃ったという訳ですか…」
何やら、遥か向こうから、トレーラーの走行音が聞こえる。
「ちょ、ちょっとお待ちくださーい!!」
声が聞こえる。
トレーラーは、二機の機体の前で止まった。
それに乗っていたのは、アンファース・インダストリアルの社員達だった。
よほど急いで来たらしい。
「ア、アルフレッドさん!一つ聞きたいのですが、皆さん、最終的には、社長に合流なさいますね?」
社員達が、まるで合唱のように揃った声で尋ねる。
「え、ええ…」
アルフレッドが、それに気圧されながらも頷く。
「もしよろしければ、この積荷を社長に届けて頂きたいのです!!」
トレーラーから、コンテナが降ろされる。
「これは…!」
コンテナの中身を見て、アルフレッドは驚愕する。
「成る程…しかし、これには、重要なパーツが欠けていませんか?」
アルフレッドの問いに、社員達は頷く。
「承知しています。しかし、そこは我々ではどうやっても作り出す事は出来ませんでした。
…しかし、社長ならば…社長ならば、完成させる事が出来ると、我々は信じます」
「…社長も社長なら、社員も社員ですな…何という無茶を」
アルフレッドは、そう言って苦笑した。
「しかし、恐らく、これはあなた方の社長でも、まだ製造できる段階には無いと思います。
…良いでしょう、小生が一肌脱ぎましょうぞ。社長に再会できる時までに、完璧に仕上げておきます」
「アルフレッドさん…分かりました、あなたを信じます!!」
社員達はそう言って、アルフレッドに設計図を託す。
アルフレッドは、それに軽く目を通す。
「…ふ、ふふ、ふふ…」
アルフレッドは、その内容に、思わず笑みがこぼれる。
「随分と、とんでもない物を仕上げてきましたな…」
「これが、我らの社長に我らが託す『誇り』です…それと、これを社長に」
手渡されたのは、一枚のディスクだった。
「はい、我々が無事であれば、確かにお届けしますよ」
「よろしくお願いします…さぁ、皆、社に帰ろうか!!」
トレーラーは、先程とは違い、ゆっくりと走り出した…。
「…さて、では、このコンテナを積み込み次第、出発しましょうかな?」
その言葉に、二人が頷く。
「おう!」
「了解した」
工場の方では、ランが、機体で牽引する居住ユニットの最終チェックを行っていた。
先日、アークトゥルースが使用して藤木とレディオスを運んだものだ。
それが、機動兵器一機に一つずつ接続される。
更にその後方に、アンファース・インダストリアル社から託されたコンテナを接続する。
「ラン!接合部分は完璧だな?」
「うん、異常無し、完璧だよ!それと、留守番は俺に任せて安心していい!」
ランは、そう言って自身満々に親指を立てた。
「ふふ…やはり、小生は少し過保護すぎたらしいな…。
…留守番は任せるぞ、ラン!アルフレッド工業の名に傷がつかんように、しっかり頼むぞ!!」
「おう!任せとけ!」
藤木とレディオスは既に機体に搭乗している。
「…では、行ってくる」
アルフレッドが、コンテナの中に搭乗する。
「ああ、いってらっしゃい!」
ランは、笑顔で手を振った。
「搭乗完了、航路は小生が指示しますので、まずは境界空間に出ましょうぞ」
アルフレッドが、二機に通信を入れる。
「おうよ!わくわくするなぁ、レディオス!」
藤木が、そう言って笑う。
「フ、シリウスのような事を言う…だが、それは俺も否定はしない。戦いに満ちた旅路…悪くない」
レディオスが、そう答える。
二機が、空中に飛び立つ。
「…気を付けてな、じっちゃん…」
空へと消え行く二機を見上げながら、ランは、そう呟いた…。
一方、アンファース・インダストリアルの方でも、飛んで行く二機を、社員全員が敬礼で見送っていた…。
そして、それから丁度一日ほど後…。
ツタンカー麺で、ファラオ店長がものすごい勢いでラーメンを仕上げている。
店員には既に、用事で暫く店を開ける事を伝え、その分の給料も預けた。
あとは、肝心のアルフレッドが到着するまでラーメンを作り続けるだけだ。
…三十分ほどラーメンを作り続けた頃、三人の男が、のれんをくぐった。
一人には、見覚えがあった。
「…久しぶりだな、カーメン!!」
男の言葉に、ファラオ店長は笑顔で頷いた。
「アルフレッド、ようやく来やがったか!!って事は、残りの二人が協力者か…俺はカーメン=T=尾崎だ。よろしくな」
「…レディオス=アイルレードだ」
「藤木敏雄だ、よろしくな!」
お互いの自己紹介が終わったところで、アルフレッドが言葉を紡ぐ。
「さて、んじゃ、ラーメンをご馳走になるぜ」
「おう、任せな」
ファラオ店長は早速ラーメンを作り始める。
「ほう…アルフレッドから聞いていた料理か…興味があるな」
「食べ物に興味は無いが、あの男の動き…無駄がない」
レディオスは、今目の前で調理をしている男が、只者ではない事をすぐに理解していた。
「ツタンカー麺お待ち!!」
ファラオ店長が、三人の前にラーメンを置く。
「…ほう…!!」
「…腕を上げたな、カーメン」
アルフレッドがニヤリと笑う。
そして、アルフレッドは箸を使い、残り二人はフォークで食べ始める。
「……」
フォークで食べる二人の様子を、ファラオ店長が複雑な表情で見守る。
「…仕方ないだろう?カーメン…文化圏が違うんだ」
アルフレッドの言葉に、ファラオ店長が複雑な表情で頷く。
「分かってはいる…分かってはいるんだアルフレッド…分かってはいるんだが…」
「これは…正直、ただの食べ物と思って侮っていたな…。
成る程、料理人とは言え、歴戦の勇士は伊達ではないと言う事か…見事な味だ」
ラーメンを食べながら、レディオスが呟く。
「全くだ、他の世界の料理、興味深い事この上ないな…」
藤木もまた、レディオスの言葉に頷く。
そして、三人はあっという間に完食した。
「さて、んじゃ今日の夜出発しようぜ、それまでは奥で待っててくれ」
ファラオ店長の言葉に、レディオスが唐突に口を開く。
「…少し聞きたい事がある」
「ん?」
「この近くに『ゲームセンター』なる物はないか?」
レディオスの、唐突な、そして意外な言葉に、ファラオ店長は思わず吹き出す。
「ゲ、ゲームセンターか…?」
「おお、確かにあれば時間潰しにはなるな!もしあるなら場所を教えてくれよ!」
レディオスの言葉に、藤木が賛同する。
「…どうやら、シリウス社長と行動を共にしていた時に立ち寄ったらしい」
「成る程な…一応、ここから歩いて五分の所に一軒あるぞ」
「…そうか、では、時間を潰して来る」
レディオスが歩き出す。
「待てよレディオス…それじゃ、お二人さん、また後でな!」
屈強な男二人が、ゲームセンターに向けて歩き出すその後姿は、ファラオ店長の目に、この上なくシュールなものに思えた…。
「多分、戦士は何処にでも勝負を求めるものなんだろう」
アルフレッドは、そう言って苦笑する。
「…ラーメン、おかわりできるか?」
「ああ、分かった」
そして、半日が過ぎ、日が落ちる。
レディオスと藤木が、ゲームセンターから戻ってくる。
「…戻ったぞ」
「大漁大漁っと!!」
藤木が、大きな袋を背負っている。
「…そ、それは?」
アルフレッドが、驚愕しながら尋ねる。
「UFOキャッチャーなるもので、ちょっとばかし、な」
藤木は、そう言って笑った。
「…さて、行くんだろ?」
藤木の言葉に、アルフレッドとファラオ店長が頷く。
「ええ、これから本番です、しっかりお願いしますぞ」
アルフレッドの言葉に、レディオスが頷く。
「…任せておけ」
「そういう事だ、しっかりと目的地まで護衛してやるぜ!」
「…さーて、なら、今回の事件をとっとと片付けて、またラーメン屋の営業に戻らせてもらうとしようか…」
ファラオ店長の言葉に、アルフレッドが笑う。
「…相変わらずだな、お前も」
「戦士は戦士、俺はあくまで料理人さ…さぁ、行こうか!」
町外れで、二機の牽引して来たコンテナに乗り込む。
「…さぁ、白銀の槍を目覚めさせに行くか!!」
次に目指す、目的の物が封じられた境界空間の一座標に向けて、二機は、再び飛び立っていった…。
続く




