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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.59 舞台の裏側で


   Act.59 舞台の裏側で


 既に夜も十時半を回っていた。

 シリウスは、酒場で少しずつ酒を飲みながら、イージスの到着を待つ。

 既に客もまばらになり、シリウス自身も、一人で飲んでいる。

 それから十分ほど立って、見覚えのある黒衣の男が、酒場の扉をくぐってきた。

「…ようやく来たか…」

 シリウスが座っていた隅の席の、向かい側に座る。

「…待たせてしまったと判断、謝罪する」

 イージスの予想外に素直な反応に、思わずシリウスが慌てる。

「…約束の刻限よりもは早い、お主が気にする事ではない」

「寛大な判断に感謝する…また、この状況、酒をおごる必要はなかったものと判断。

 今後、機会あらば再び酒をおごる事を提案するが、返答はいかに?」

 その問いに、シリウスは頷く。

「その提案を受けよう、まぁ…また会えた時にでも、な」

 シリウスは、そう言って笑った。

「…ギルティアはどうしている?」

「お嬢ちゃんなら、先程まで街の人々への応対を続け、疲れてもう就寝しているだろう…明日早くにこの世界を発つそうだ」

 その言葉に、イージスが頷く。

「…ならば良い」

 イージスは、ギルティアがいない事を確認すると、付けていた仮面を外した。

 黒髪の青年だった。

「…まずは本当の意味での自己紹介が必要と判断。俺には本来名前は無いが、ギルティアには、アイギス、と言えば通じる筈だ」

「アイギス…」

 シリウスが、相手の名を復唱する。

「…わしの方も、自己紹介がまだだったな…わしはシリウス。シリウス=アンファースだ」

「シリウス=アンファース…了解、その名を記憶」

「ところで…名前が無い、とはどういう意味だ?」

「本来、名前など必要ない存在だった。そもそも、俺はただギルティアを封印するため、その為だけに、ギルティアの故郷の人類によって生み出された、兵器だからな」

 その言葉に、シリウスが驚愕する。

「な…何と!?ならば、お嬢ちゃんを遠い昔、封印した相手というのは…!!」

「…その推測は正しい、それは俺であると返答」

 彼女のような存在を封印した相手、シリウスは許しがたい怒りを感じたが、それと同時に、それを成し遂げる為だけに生み出された存在だというのならば、その行為を否定するという事は、相手の誕生、存在そのものを否定する事になる。

 真の悪は彼ではなく、彼を生み出した者達だ。

「…それ自体の事を今は言わぬ。まずは、事情を聞かせて貰おうか」

 酒を片手にシリウスが言った言葉に、イージス、いや、アイギスは頷いた。

「…了解。ではまず、彼女の故郷の事から説明しよう。

 ある巨大な戦争により、一つの巨大な宇宙群が二つに分かれ、それぞれが個別の宇宙群として新生した。

 その新生した宇宙群の片割れの鍵として、彼女は誕生した…ここまでで、何か気になった所はあるか?」

「問題ない、まずは彼女の故郷の始まりは理解できた」

「ならば、説明を続けさせて貰う。

 …彼女は、誕生して早々、宇宙群が分かれた余波によって、元となった宇宙群に存在した、異形空間の大元だった世界から解き放たれた、数千億を超える異形の軍勢を、たった一人で殲滅したのだ」

 シリウスが、頷く。

「…成る程、先程、相変わらず、と言ったのはその為か…だが…そこまでの話を聞くに、別にお嬢ちゃんは封印される必要などなかったように感じるが?」

「彼女と同じような、強大な力を持つ者達の起こした巨大な戦争によって、宇宙群は二つに分かれた。

 であれば、それぞれの宇宙群の宇宙、世界に住んでいたのが、果たして誰か」

 アイギスは、続けた。

「かつての戦争を見てきた人類にとって、彼女の存在は恐怖の対象…災厄でしか無かったのだ」

 その言葉に、シリウスは愕然とする。

「馬鹿な…彼女が恐怖の対象、災厄…だと…!」

「肯定…力は、それそのものが争いの発端になる。人類は、自らの御せぬ力を持つ彼女の存在を否定した。

 そして、彼女が異形と戦っている間に、かつての宇宙群に残されたデータを元に、俺が生み出された」

 その言葉に、シリウスが頷く。

「成る程、お主の素性については分かった…して、どのようにして彼女を封印したのだ?

 彼女は、生半可な手段で封印できるような存在では無い筈だが…」

「言った筈だ、対彼女用に、生み出されたとな。

 俺の機体、EWZ-999に搭載された武装は、全て彼女に対応したものだ。

 そして、ギルティアの故郷だった宇宙群に限定されるが、俺の機体には、彼女のアクセスを物理的に遮断するシステムが搭載されている。

 そして俺自身も、彼女を封印するためだけに、異形を改造して生み出されたものだからな」

 その言葉に、シリウスは、彼女の故郷の宇宙群の技術力の高さに驚愕した。

「…確かに、それならば、彼女を封印できた事も頷ける」

「封印は一度きりだが、宇宙群が滅びる、つまり彼女の寿命が来るまで有効。

 彼女の封印が解けたのは、封印が完全に安定する前に、封印を維持するはずだったジェネレータを誰かが破壊したためであると推測」

 その言葉に、シリウスは苦笑した。

「自らの目的を阻止されたにも関わらず、随分と他人事なのだな」

「俺の存在意義は封印を成立させる事であって、それを維持する事ではない。

 彼女が封印された時点で、俺の存在意義は完遂されている。

 その後、彼女がどうなろうと、たとえ、彼女の封印が解けようと、それは俺の関知する所ではない。

 それに、俺は本来、目的を達成した後、処分される予定だった」

 つまり、ギルティアの封印、と言う目的を果たした以上、別に恨みがある訳でもない彼女と敵対する理由はない、と言う事だ。

「だが、処分される筈だったお主は、今ここに生きている…一体何故だ?」

「彼女を救世主と見た人間達と、彼女を封印しようとした者達の間で起こった戦争で、その宇宙群に生きていた、かつての宇宙群の生き残り達の政治基盤は崩壊、更に、徹底的な破壊で、文明基盤も崩壊した。

 その結果、人類は、人類史をその初めからやり直す事になった。

 …その戦争の際に、俺を処分する権限を持つ者は、俺を処分する前に全て死亡した」

 その言葉に、シリウスは頷いた。

 成る程、兵器としてのプログラムが存在する以上、彼は自分で死ぬ事も出来ないのだろう。

「…全ては、彼女の誕生から起こった戦いだ。

 この事から、あの宇宙群の連中の言った事も一定の理はあったであろうと判断」

 シリウスはその言葉から、ギルティアが心に負い続けてきた傷の一端が見えた気がした。

「まぁ、後ろめたい事がある連中からすれば、彼女の存在ほど怖い物はないだろうな。

 …そして、その力を巡って醜い争いが起こる…やれやれ、人間というのはつくづく悲しい生き物だな。そうは思わぬか?アイギスとやら」

「肯定も否定も出来ない事と判断。しかし、全ての発端が人間である事が多い事を考えると、その判断には一定の理があると返答」

 その言葉に、シリウスは問いを続ける。

「…だが、そんなお主が、今ここに、しかもインフィナイトの撃破を目的にここにいるのは何故なのだ?」

「俺に行く宛てなど無かった。長く長く彷徨い続け、この宇宙群に流れ着いた。

 しかし、流れ着いてからすぐ、インフィナイトの軍勢に捕まってしまった」

「なっ…まさか、それでは…!」

 ラーゼルを含む、機械と融合した異形の元は、アイギスだったのだ。

「そう、俺のデータを元に、異形と機械を融合させる事で、閉鎖空間の外や境界空間でも、異形が完全に活動できるようになる事を、奴らは把握した。

彼らは、既に異形空間のサンプルを入手し、それを拡大して、異形を自らの力で生み出せる。それを利用し、『実験』を行っているのだ」

 成る程、ラーゼルはその実験に利用されたか。

 全く、小物のラーゼルらしい、とシリウスは思った。

「成る程な。そして、お主がここにいる、という事は、脱走でもしたのか?」

「…肯定。しかし、四将との交戦で深手を負い、その時に、今俺が行動を共にしている連中に助けられた。

 彼らもまた、特殊な異形の背後にいるのがインフィナイトである事に気付いていた。

 それ故に、インフィナイトの真意を探り、それを止める為に行動していたのだ。

 俺自身もまた、俺のデータを、機密を悪用する者は消さねばならない」

 その言葉に、シリウスは満足そうに頷いた。

「それで全てに得心がついた。お主は、本当に我々にとって敵ではないのだな…疑って済まなかった」

「いいや、むしろ疑われて当然の立ち回りをしたのだ、彼女に疑われなかったので、正直驚愕している」

 その言葉に、シリウスは笑った。

「彼女のあの心が、あの力の大元であると、わしは思っているがな」

「…確かに、それは一理あると理解」

 アイギスはそう言って頷く。微かに笑っているようにも見えた。

「で、インフィナイトの実験の目的について、何か分かっている事はないか?」

「…その目的に関しては不明、されど、この宇宙群全体に、何らかの、しかも大きな災害を発生させようとしている、それくらいの推測は可能」

 つまり、ギルティアやシリウスが知っている事と、さほど変わりはない、と言う事だ。

「そうか…我々の方でも、それくらいしか情報は無い」

「だろうな…」

「…時に、それがお主の素の口調だとしたら、先程や先日のあの口調は、何だったのだ?」

 その言葉に、アイギスは頷いた。

「…それを説明したいと思っていた。

 俺が今共に旅をしている『紅蓮の旅団』のリーダー、ガザード=オルヴェントが、こうすれば正体はばれないだろう、とな…」

「ならば、何故正体を隠そうとしていたのだ?」

「彼女は、俺を恨んでいる筈だ…不必要な軋轢を避けるために、止むを得なかった」

 その言葉に、シリウスは頷く。

「…確かにな、彼女を封印したのはお主だ、恨まれていると考えるのは分からないでもない」

「…俺が説明できる事は以上だが、他に何か、お前の方から聞きたい事はあるか?」

「いいや、無い。ただ、お主に一言だけ言わせてくれ。慣れない口調、よく頑張ったな…大変だったろうに」

 そうとしか言えなかった。相当に無理をしていたのは良く分かる。

「…確かに、大変だったと返答。だが、それ相応の対価はあった、目的は達成されたと判断」

「そうか…」

「さて、俺はこれで失礼する…また会おう、シリウス」

 アイギスが席を立ち、仮面を付けなおす。

「…お主も、無事でな」

「ああ、お前もな」

 アイギス、いや、イージスは、そう言い残すと、酒場を出て行った…。

「…さて、わしもそろそろ寝るか…」

 シリウスも席を立つと、宿屋の方へと歩き出した…。


 一方その頃、インフィナイトの本拠地にて…。

 グランディオスが、『影』の前で報告を行っていた。

「先日の戦闘記録の分析、アクセス、及び『あの力』の解析が完了しました。

 やはり、我々の想定の通りのデータを回収する事ができました」

「うむ、でかした!例の戦力も完成しつつある…これで、我々の計画も次の段階に進む事が出来よう?次は、余が自ら打って出よう。

余は彼女には直接顔を見せてはおらぬ、それに、我が計画の根幹を担っている彼女には、余自身も一度挨拶しておく必要があるだろうからな」

 影は、そう言って笑う。

「…そうと決まれば、善は急げだ」

 影が立ち上がる。

 しかし、その次の瞬間、警報が鳴り響いた。

「…む?」

「領域内に侵入者のようです」

 グランディオスの言葉の直後に、影の目の前に情報が表示される。

「成る程な…」

 その情報に、影は安堵のため息をつく。

「…我が友の来訪だ、丁重にここまで通せ!!」

「御意に」

 影の言葉に、グランディオスが頷き、出て行った…。


続く


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