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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.58 イージスとの再会


   Act.58 イージスとの再会


 ギルティア達は、次の世界へとたどり着いていた。

 そこは、まるで西部劇のような世界だった。

「…ほう、このような世界もあるのだな」

 その世界に合わせて着替えたシリウスが、興味深そうに、荒野の先にある町を眺める。

「ここは治安が悪いです、自衛用に武器は持っていなくてはなりませんね…シリウス、あなたのショットガンは技術レベルが高すぎて危険です。

 私は剣一本で何とかなりますが…シリウス、どうします?」

 貴婦人のようなドレスに身を包んだギルティアが、シリウスに尋ねる。

「…この世界の主な武装は何だ?」

「拳銃です」

 その言葉に、シリウスは頷いた。

「…何だ、ならば話は早い、この世界の銃弾の規格を教えてはくれぬか?あるいは銃弾を一発見せてくれると尚早い」

「え、ええ…分かりました。銃弾の中ではこれが一番入手しやすいですね」

 ギルティアが、一発の弾丸を取り出し、シリウスに渡す。

「ほう…成る程成る程…わしも剣で十分とは思うが、念の為だ」

 シリウスは、銃弾を眺めて頷くと、アークトゥルースの中から、鉄板と工具を持ち出す。

「…いざっ!!」

 凄まじい速度で工具が唸る。

 鉄板が、凄まじい勢いで切断、部品として形成されていく。

 五十分ほど経過すると、そこには、リボルバー式の銃が二丁、完成していた…。

「まぁ、こんなものか…規格が分かって材料さえあれば、剣でも銃でも、大方の武器は作れる」

 シリウスは、満足そうに額の汗を拭った。

「…凄い…」

 ギルティアが思わず呟く。

 シリウスは、その銃弾の規格を一瞬にして見抜き、それから逆算してその力を最も引き出せる銃を、即席で作り出したのだ。

 デモンズ・スローターを、エルヴズユンデの修理が終わる前に既に完成させていたのは、この凄まじい『目』の力なのだろうと、ギルティアは感じた。

「…これで、問題はあるまい?」

 シリウスは、銃を一丁、ギルティアに渡す。

 ギルティアは、弾を一発込め、試し撃ちを行った。

「…完璧です」

 その完成度は、見事としか言いようがなかった。

「シリウス、これは私には無い、あなた自身の力です…大切にして下さいね」

 ギルティアは、そう言って微笑んだ。

 シリウスは、先日足を引っ張ってしまった罪悪感が、少しだけ和らいだ気がした。

「…さぁ、行きましょう」

 ギルティアが歩き出す。

「うむ!」

 シリウスもそれに続く。


 砂埃舞う街、シリウスは興味深そうに周囲を見回す。

 シリウスはその容姿と相まって、その街と全く違和感が無い。

「イージスから送られた拡散分布図によれば、この辺りはイージスとその仲間達が討伐している筈、早々に先に進む事が出来るでしょう。

 しかし、直に完了を確認していない以上、情報の収集はしておかなくてはなりません」

 その言葉に、シリウスが頷く。

「うむ、たまに大物が混じっているようだ、情報収集は必要であろうな」

 シリウスとギルティアは、喧騒が聞こえる酒場へと入っていった…。

「こういう場所は、何処の世界でも変わらんな」

 シリウスは、そう言って笑った。

「…そういうものです。その住人が人間である以上、共通点はありますよ」

 ギルティアは、そう言ってカウンターに座る。

「…一番強いのをお願いします」

 その言葉に、酒場のマスターが驚く。

「おいおい、お嬢さん…それは流石に…」

「…問題ありません」

 ギルティアの言葉に、マスターは恐る恐る、店で一番強い酒をギルティアに渡す。

「ほ、保障はしないぜ…?」

「ええ、大丈夫です」

 ギルティアは、それを一気に、そして軽々と飲み干す。

「…ぷはっ…うん、悪くありません」

 そう言って笑ったギルティアに、マスターが感心する。

「み、見かけによらず大したお嬢さんだな…」

「マスター、少しお聞きしたいのですが、この辺で、不可解な行方不明事件とかは起こっていませんか?

 …あ、それと、お酒をもう一杯お願いします」

「毎度!で、行方不明事件かぁ…荒野に出る化け物の噂なら、ここらでは結構でかい噂になってるぜ」

 ギルティアがその言葉に反応する。

「化け物…?」

「ああ、ここから隣街に行く荒野のど真ん中にここ最近、人を喰っちまうでかい化け物が居座っているって噂だ。

 事実、隣街に行こうとして消息が知れない奴はかなり多い。

 何せ、出会ったら最後、行方不明確定…化け物かどうかも定かじゃないんだ…ほらよ」

 ギルティアは二杯目を受け取り、再び飲み干す。

「…成る程」

「おい、お嬢さん、随分な飲みっぷりじゃねえか」

 店の隅、団体で飲んでいた、そのリーダーと思しき柄の悪そうな男が、ギルティアに絡む。

「お、思った通り今まで出会った事も無い程の上玉だぜ…どうだ?今晩、俺の晩酌につきってくれよ。謝礼は弾むぜ?」

 男がギルティアの胸に手を伸ばそうとし、ギルティアに手を叩き落とされる。

「申し出は嬉しいのですが、断らせていただきます」

 ギルティアの目が笑っていない。そして、同じく、男の顔色が変わる。

「テメェ…この街の主と言われたこの俺の誘いを断ろうってのか?」

 男が銃を取り出す。

「この街でこの俺に逆らえる奴なんていないんだよ…!

 さぁ、もう一度言うぜ!!今晩、俺の晩酌に付き合え!!」

 男が言い放った次の瞬間、男の横から銃声が響く。

 直後、男の取り出した銃が、弾け飛ぶ。

「なっ…!」

 ギルティアとは少し離れた所で一人飲んでいたシリウスが、銃を構えていた。

「下衆が…」

 シリウスが、男を睨み付ける。

「あの男は、この街の『裏側』を取り仕切ってるんだ、

 あの部下にものを言わせて、何でも自分の思い通りになると思い込んでて、人も物も、全て欲しい物は手に入れないと気が済まない…」

 マスターが、ギルティアに耳打ちする。

「…馬鹿、ですね」

「だが、言う通りにしないと、殺されるかもしれないぜ…!」

「この私が?あの程度の人間に?」

 ギルティアは、ニヤリと笑った。

「フフ…面白い冗談です」

 ギルティアが、椅子から立ち上がる。

「シリウス、ここでこれ以上暴れると店の迷惑になります…表に出ますよ」

「…うむ」

 シリウスとギルティアが、店の外に出る。

「やれやれ…街について早々の荒事…情報収集をしながらゆっくりとお酒を飲む事も出来ないのですか…」

「…フ」

 男を含め、その部下と思しき団体が出てくる。

「こうなりゃ、男は殺せ!そして、あの娘も動けなくなるまで痛めつけろ!!」

 その言葉に、周囲の部下達が頷く。

 部下達が一斉に銃を構える。

 ギルティアとシリウスが、それぞれの銃と剣を構える。

「行きますよ、シリウス!」

「承知!」

 銃弾の雨を剣で防ぎ、シリウスが突進する。

「ぬうんっ!!」

 部下の一人を蹴り倒し、剣の柄でもう一人を殴り倒す。

 一方、ギルティアは飛び掛ってくる男達をみね打ちで次々と倒していく。

 直後、まだ残っていた銃を構えた部下達を、上空からの狙撃が襲う。

 部下達の銃が、次々と貫かれ、破壊されていく。

「ギルティア、そしてシリウス!私も手を貸そう!!」

 聞き覚えのある棒読みだ。見ると、屋根の上で、仮面を付けた黒衣の男が、ライフルを構えていた。

「…あ、あなたは…!?」

「私は、ミラーナイト・イージス!!」

「イージス…あなたなのですか!?しかし、一体何故ここに!?」

 イージスは、屋根から飛び降り、銃を破壊された部下達を殴り倒していく。

「…何、異形討伐の為この世界に来ていたのだが、何やら騒がしいと判断、その場所に向かうと君達を発見したのさ」

「…成る程」

 最後には、男が、一人だけ残った。

「許さねえぞ!!このアマぁ!!!」

 男は、ギルティアに向けて銃を放つ。

 ギルティアが、その銃弾を剣で叩き落す。

「愚かな…」

 そして、そのまま剣を上空に投げる。

 腰に差していた銃を抜き、放つ。

「ぐ、おおおおおっ!!」

 銃弾は、男の心臓を確実に捉えていた。

「そのまま逃げていれば良かったものを…願わくば、汝の罪が祓われん事を」

 そして、銃を再び腰に戻し、落ちてきた剣を掴む。

 マスターが、銃声が止んだのを確認し、恐る恐る店の外を見ると、男が倒れている。

「お、お嬢さん…!?」

 ギルティアが、マスターの元に歩み寄る。

「後処理と棺桶の準備をお願いできますか?」

「…は、はい!!」

「私達は少し、隣町との間にいるという化け物を退治しに行ってきます」

 ギルティアはそう言うと、マスターに必要な費用を渡す。

「って…化け物を倒す気なんですかい…!?」

「ええ、私達がここに来たのは、それが目的ですから」

 そう言って、ギルティアはシリウス達の方に戻る。

「イージス、事情を聞きながらですが、どうやら、目的は同じようです…善は急げ、です。行きましょう皆さん」

「了解」

 ギルティアが歩き出すと、二人がそれに続く。

 それを酒場のマスターは唖然と、ただ見守るしかなかった…。


 三人は、荒野への道を歩きながら、話を始める。

「イージス、この先の化け物の事は聞いていますね?」

「ああ、この世界の指揮個体で私も何度か交戦しているが、不利になると驚くべき撤退速度で離脱し、捕捉不能に陥る。

 それ以外にも、多少の異形が同じように補足不能に陥った…後はこの世界だけで、拡散した異形討伐は最後だ」

「ふむ、成る程…」

 イージスの言葉に、ギルティアが頷き、左腕の形状が爪へと変わる。

「…敵の現在位置を確認します」

 ギルティアが爪を突き出すと、さまざまな情報が空中に表示される。

「確認、成る程、知能も高いようですね…人間が通りかかってはじめて、相手は荒野に姿を現す…。

 普段はこの荒野の地下に網目のように広がる坑に身を隠しているようです」

 その言葉に、シリウスが頷く。

「成る程、随分と小賢しい事を考えおる」

 ギルティアは少し考え、口を開く。

「…では、私が地下に突入し、内部にいるであろう異形を倒し、指揮個体を外に追い出します」

「なっ…だ、大丈夫なのか!?指揮個体を生身で、しかも一人で相手にする気か!?幾らなんでもそれは…!」

「私の事ならば心配無用…今までいつも行ってきた通りです。

 指揮個体が外に出たら、挟撃、あるいは一斉攻撃で仕留めます」

 ギルティアの言葉に、イージスが頷く。

「了解、武運を祈る」

「くれぐれも、気を付けてな」

「…はい」

 ギルティアは、そう言うと、地下に広がる坑の入り口へと歩き出す。

 その後姿は、まるで、魔物の巣窟へと歩いて行く生贄の少女のようにも見える。

 いや、彼女が『鍵』でなければ、間違いなく、そうであったろう。

「…相変わらずだな、彼女は」

 イージスは、そう呟く。

「相変わらず…?」

「彼女は誕生してすぐ、数千億を軽く超える異形の群れに、たった一人、いや、一機で立ち向かって行った…」

 そう語ったイージスは、何かを思い出しているようだった。

「…イージス、お主は…お主は一体、何者なのだ?」

 思わず、シリウスが尋ねる。

「…今夜、お前との約束を実行予定。その時に、話すと保証」

「分かった、今はその言葉を信じるとしよう」

 シリウスはそう言うと、ギルティアの歩いていった坑の方を睨んだ…。


 一方、ギルティアは一人、異形を討伐しながらどんどん地下の坑の奥へと進んで行く。

 どうやら、この地下の坑は、全体が閉鎖空間に、そう、異形のテリトリーになっているらしい。

 成る程、それならば、いざとなればそこに逃げ込んで逃げおおしてきた、その理由が分かる。

 しかし、そこに巣食うどんな異形も、ギルティアの歩を阻む事は無かった。

 そして、確認されていた最後の一匹が、ギルティアの剣に倒れる。

「…さぁ、ここからが本番です」

 ギルティアは再び駆け出す。この先に、指揮個体異形がいる、既に、それは確認済みだ。

「…ワールドコアアクセス…コンプリート…」

 ギルティアの爪の前に、紅の魔法陣が展開される。

「祝福を受けし世界よ!汝と鍵たる我が名を以て、我らに仇成す者に遍く滅びを…!

 今こそ全てを解き放つ時…さぁ、共に未来を謳いましょう!…鮮血の、煌翼!!」

 そして、ギルティアのその叫びと共に、ギルティアの四枚の翼が、紅の光に喰われ、それはそのまま光の翼となる。

 ギルティアが、更に加速する。

 そして、目の前に大きな影が見えた。

「はああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 加速度を付けた渾身の一閃が、影を貫く。

 不意の一撃に、異形が咆哮する。

「好き勝手食い荒らしてくれたようですね…しかし、ここまでです!!」

 指揮個体異形は、まるで影が人型の形を成したような姿をしていた。

 その巨体が、ギルティアの存在を確認する。

 その目が、ギルティアを睨む。

「私は、今までの犠牲者のようには行きませんよ…!!」

 ギルティアは、そう言って誘うように笑う。

「さぁ、踊りましょう…?」

 その言葉に、異形が咆哮し、衝撃波を放つ。

「何の!」

 ギルティアの翼の羽ばたきに衝撃波は減衰され、剣の一振りにかき消される。

 そして、再びギルティアは異形に攻撃を仕掛ける。

 爪から放たれるレーザーが刀身を形成し、それは大きな光の刃となる。

 光の刃が、指揮個体異形に叩き込まれる。

 巨体が、よろめく。ギルティアは、更に続けて何度も刃を叩き込む。指揮個体が、悲鳴を上げて動き出した。

 この程度の攻撃では決定打は与えられないが、このタイプの行動をする指揮個体は、不利と悟るとすぐに逃げ出し始めるのだ。

「…よし、作戦通りですね」

 ギルティアは、静かに呟く。

 そして、左腕からレーザーを放ち、シリウス達が待つ出口まで、指揮個体異形を誘導する。

 出口が着々と近づく。

「もう少し、です…!」

 しかし、その直後、指揮個体の紅の眼が、怪しく輝いた。

 そして、指揮個体は突如、ギルティアの方に反転する。

「!?」

 指揮個体異形の影のような身体が、形を変えていく。

 形を変えた異形の姿は、まるで影で出来たクラゲのようだった。

 ごくたまに、形状が定まっておらず、突然姿を変えてくる異形が存在するのだ。

「成る程、不定形型の異形でしたか…!」

 ギルティアは、相手がそのタイプの異形である事を理解する。

 直後、大量の触手が、ギルティア目掛けて襲い掛かる。

「ふんっ!!」

 剣の一閃が、襲い掛かる触手をバラバラにする。

 ズドン、と言う音が聞こえる。地面に何かが刺さったような音だ。

「悪足掻きを…!!」

 ギルティアが、剣で触手を捌きながら、レーザーをチャージする。

「…行きます!!」

 ギルティアが踏み込もうとした次の瞬間、足に何かが絡みつく。

 見ると、地面から触手がギルティアに巻きついている。

 敵がした事が分かった。触手を地面に突き刺し、地下からギルティアを狙ったのだ。

 更に地下から地面を突き破って出てきた触手が、ギルティアの腕に巻きつく。

「なかなか味な真似をします…」

 ギルティアは呟く。

 目の前にも触手が迫っている。

「くっ…この、程度…!!」

 触手の束縛を無視し、強引に左腕を前に突き出す。

 チャージされたレーザーが、眼前の触手を飲み込む。

 しかし、下から現れる触手も増え続けている。

 腕に足に、腰に首に、どんどん絡みつき、持ち上げられる。

「こ、の…!!」

 この程度、とは言ったものの、流石にまともに動ける状態ではない。

 そして、無酸素の境界空間でも活動できるギルティアとはいえ、流石に首を締められるのは苦しい。

「あまり…あまり調子に乗らない方が身の為です…!」

 ギルティアが呟き、指揮個体異形を睨み付ける。

「はああああああああっ!!」

 ギルティアが羽ばたくと、持ち上げていた触手が引き千切られ、足が再び地面につく。

 そして、足に絡みつく触手を無視して強引に一歩を踏み出す。

 その姿に、指揮個体が怯む。

 更にギルティアが一歩一歩前に進む。

「この程度で、私を止める事など…!」

 それに耐えられなくなった触手が、一本、また一本、千切れていく。

「出来は…しません!!!」

 直後の渾身の翼の羽ばたきが、残っていた触手を全て引き千切る。

 そして、解き放たれて急加速したギルティアの渾身の剣撃が、指揮個体を再びぶち抜く。

 ギルティアの迫力に押されたのか、指揮個体は再び逃げ始める。

 しかも、先程より早い。

 ギルティアが、レーザーでの追撃をしながら誘導を続ける。

 遥か向こうに、光が見えてきた。

「…見えましたか…!!」

 ギルティアは、ニヤリと笑った。


 一方、外では、シリウスとイージスが、既に機体に搭乗して待機していた。

 空間の閉鎖が既に外にまで及んでいる。敵は近いのは明らかだった。

「さて…参るぞ、相棒」

 シリウスは、アークトゥルースに語りかける。

「さぁ、見せてみよ、お主の新たなる力を!!」

 アークトゥルースが、その言葉に応えるように、二つの動力の出力を共鳴、上昇させていく。

「…うむ、両縮退炉共に異常無し!アークトゥルース、縮退路ダブルドライブ…コンプリート!!…さぁ、何処からでも来るがいい!!」

 一方、イージスは、異形が出てくるであろう坑を、静かに睨んでいた。

「…来る…!」

 凄まじい勢いで、指揮個体が地表へと姿を現した。

 そして、二人は驚愕する。

 幾らギルティアとはいえ、生身で指揮個体にここまでのダメージを与えられるものなのだろうか。

 影で出来たクラゲの触手は、その殆どが引き千切られている。

「…流石、と判断」

「うむ…」

 二人は、そう呟くと、早速攻撃を開始する。

「光子爆雷、射出!!」

 沢山の光弾が、指揮個体に向けて襲い掛かる。

 その光は、以前よりも強い。

「…標的の急所を確認、攻撃を開始…!」

 そして、クラゲのかさに浮かぶ紅の眼目掛けて、イージスの機体が狙撃を行う。

「そろそろか…!」

 イージスの機体が、坑と異形の直線状から退く。

「お、っと…巻き込まれるのはわしとてごめんだ…!」

 アークトゥルースもまた、そこから退避する。

 その直後、坑から、ギルティアが凄まじい勢いで飛び出す。

「エルヴズユンデ…一気に決めましょう!!」

 次の瞬間、魔法陣が展開され、エルヴズユンデが姿を現す。

 空中へと飛び出したギルティアを、そのまま核へと迎え入れ、更に、そのままプリズナーブラスターを放つ。

「はあああああああああああああああっ!!」

 プリズナーブラスターの焦点と、剣閃が、交差する。

「コンヴィクション・スラァァァァァァァァッシュ!!!」

 指揮個体異形は、そのまま真っ二つになり、熱量に焼かれて消滅していった…。

「…願わくば、汝の罪が祓われん事を」

 ギルティアは、いつもと変わらず、静かにそう呟いた…。

「シリウス、イージス、足止めに感謝します…。

 しかし、別に私を待たなくても、速攻で仕留めて頂いても良かったのですが…」

「だが、確実に止めを刺すなら、わしらよりもお主の方が良かろう?」

 シリウスの言葉に、ギルティアは苦笑した。

「…確かに、その通りと言えばその通りですが、ね」

「どうやら、力を完全に取り戻す事が出来たようだね、おめでとう!!」

 いつも通りの棒読みでイージスが言う。

「ええ、これもイージスの協力のおかげです」

「何、私は私の目的に協力を要請しただけさ…」

 イージスはそう言うと、機体を転進させる。

「…また会おう!!君の今後の旅にも幸多からん事を!さらばだ!!」

 そう言い残し、イージスは凄まじい速度で離脱していく。

 一方、それと同時に、シリウスはイージスからのメッセージを受信していた。

『今夜十一時、先程の酒場で会おう。』

 それを確認し、シリウスは、無言で頷く。

 そして、エルヴズユンデとアークトゥルースを転移させてから、二人は町の方へと戻って行った…。


 街の入り口に、街の住人達がいる。

「あ、帰ってきたぞ!!」

 町長と思しき男と、酒場のマスターが、一番前に立っている。

「酒場のマスターから聞きました、噂の化け物を倒しに向かったそうですな…。

 ここにいるという事は、まさか化け物を倒してくださったのですか…!?」

 町長と思しき男が尋ねる。

「ええ、確かに退治しましたよ」

 シリウスは服に全く摩耗は無いが、ギルティアはドレスの裾が擦り切れている。

 地下を凄まじい速度で走り回っていたのだ、無理もない。

「ほ、本当に、退治なさるとは…ありがとう、ありがとう!!

 この街に巣食っていた化け物はおろか、本物の化け物まで退治してくださるとは…!!

 おっと、私、この街の町長をしているサム=アローズと申します。本当に、ありがとうございます…!!」

 街に巣食っていた化け物…先ほどギルティアが射殺した男の事だろう。

「…いえ、私の目的はその化け物を退治する事でしたから」

 あまりに感謝されるので、ギルティアは思わず苦笑してしまう。

 このように感謝されるのは何度目だろうか。

 ギルティアにとってはただ当たり前の事をしているだけなのだ。

 まして、ギルティアは自らの故郷で人々を救った時は拒絶されすらした。

 だから、何故ここまでお礼を言われるのか、ギルティアには分からなかったのだ。

「…おい、宿屋!一番いい部屋を準備しろ!!この方々にお泊まり頂くのだ!!

 それと、仕立て屋!お嬢様のドレスがボロボロだ!最高級のドレスを今すぐ準備しろ!!」

 町長と思しき男が、街の住人に檄を飛ばす。

「また、先程お嬢様が退治なされた男、我らの保安部でも、あまりの暴れっぷりに手が付けられずにいたのです…。

 …これで、この街にも平和が戻ります」

「まさか、本当に退治するとは…大したお嬢様だ…」

 酒場のマスターが言う。

「まぁ、殆どわしではなくこのお嬢ちゃんの活躍だ。わしはただ彼女を援護しただけだからな」

 シリウスは、そう言ってギルティアの背中を押す。

「…もし、お役に立てたのであれば、幸いです」

 ギルティアは、そう言って微笑んだ。

「…あの、もしよろしければお名前をお聞かせ願えませんでしょうか?」

 ギルティアは一瞬悩む。本名で答えればいいか、偽名を答えるべきか。

 しかし、そもそも、この文明レベルであれば、偽名を使う必要は無いだろう。

「はい、私はギルティア…ギルティア=ループリングと申します」

 ギルティアは、そう言ってドレスの裾を軽く上げて挨拶した。

「同じく、シリウス、シリウス=アンファースだ」

 シリウスは、軽く会釈する。

「ギルティアお嬢様、そしてシリウス様、本当にありがとうございます…!!」

「仕立ての準備が整いました、こちらへどうぞ」

 仕立て屋が、ギルティアを案内する。

「は、はい…」

 流石に、ここまで大事になっては、流れに身を任せるしかないと、ギルティアは案内されるままに歩いていった…。

「さて、わしは少し飲むかな…」

「左様ですか…おい、マスター、今日は俺の奢りだ!じゃんじゃんやってくれ!!」

 町長の言葉に、酒場のマスターは力強く頷く。

「あいよ!!」

 酒場のマスターは酒場へともどって行き、その事を客達に伝える。

 中から、歓声が上がった…。

「…こりゃ、静かに飲めそうには無いな」

 シリウスは、そう言って苦笑しながらも、酒場へと歩いていった…。


続く


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