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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.57 白銀の槍、そして夜達の反省会


   Act.57 白銀の槍、そして夜達の反省会


 それは、遠い過去の話…。

 それは、戦いに次ぐ戦いを続けてきた彼らに似つかわしくない、ありふれた結婚式だった…。

「やれやれ…寂しくなっちまうな…幸せになれよ!」

 金髪の男が、ウェディングドレス姿の女性の隣の、正装をした眼鏡の男に言う。

「お前も、これからも旅を続けるんだろ?ラーメン修行、頑張れよ!」

「おう!…しかし、俺達、白銀の旅団もこれで解散か…やれやれ、戦いが多いとはいえ、ここ、結構居心地良かったんだがな…」

 金髪の男が、そう呟く。

「そういえば、母艦はどうするつもりなんだ?」

「リーダーには自分用の機動兵器があるから…母艦は境界空間に封印すると言っていた…確かに、あの艦を誰かに利用されては危険すぎる」

 その言葉に、金髪の男は頷く。

「確かにな…」

「もっとも、あの艦はまだ製造されてから間もない、

 しかも、幾星霜遥か戦い続けられる程に強大な艦…ここで封印するのは少しもったいないがな」

 眼鏡の男は、そう言って笑った。金髪の男は頷く。

「ああ…だが、あの艦の全開稼動ほどの力が必要になる時なんて、ろくな事じゃないだろ。

 このまま旅を続けていても、あの艦の真の力を発揮する機会が無いんだ、まぁ、仕方ないだろうな」

「まぁ、そういう事だな」

 と、金髪の男が、ふと思い立ったように口を開く。

「…そういえば、リーダーはどうした?」

「さっきから姿が見えないが…」

 突如の轟音。

 一機の機動兵器が、空中を飛び、空中から紙吹雪をばら撒いている。

 その中には、HappyWeddingと書かれている。

「やれやれ…リーダーらしいな…」

 金髪の男は、そう言って微笑んだ…。


 そこで、男は目を覚ました…。

「…夢か…こりゃまた懐かしいものを…」

 男の名は、ファラオ店長、カーメン=T=尾崎…。

 ギルティアが旅立った次の日は定休日だった。

 そして、異形も片付いたので、ゆっくりと眠っていたのだ。

「ふぅ…夜の営業の休みを一日延ばしたおかげで、久しぶりにゆっくり眠れたぜ…たまには睡眠も取っとかないとな…。

 こういう時、人間ってのは面倒だと思うがな…」

 厨房にも人影はない。

 最近は、忙しすぎた。幾らファラオ店長とは言え、体力には限界がある。

 たまには休まなければ、限界が来る。

 しかし、異形は待ってはくれない。

 異形が増え始めたら、被害が出る前に討伐しなければならなかった。

 だから、今まで休むに休めない状況が続いていたのだ。

「…もう少し、寝るか…」

 ファラオ店長は、休日を睡眠で謳歌する事にした…。


 それから数時間後、通信機の着信音に、ファラオ店長は叩き起こされた。

「何だ…人が気持ちよく寝ている時に…」

 しかし、着信音が、屋台の超空間通信である事を確認し、すぐに出る。

「カーメン、応答しろ」

「アルフレッドか…」

 ファラオ店長が通信に出る。

「どうやら、眠っていたようだな、これはすまない事をした」

「いや、良いさ…で?今日の用件は何だ?」

「ああ、単刀直入に言おう…『あれ』の封印を解く事にした」

 その言葉に、ファラオ店長が驚く。

「あれ…って、まさか、俺達の母艦『白銀の槍』の事か…!?」

 予知夢、とはよく言ったものだ。

 今日、ファラオ店長が見た夢は、その類のものである事を疑うほどにタイミングの良いものだった。

 もっとも、ファラオ店長自身も、それが必要か、と考えてはいた。

 だから、ある程度、予想はしていたのだ。

「そうだ…事が究極生命に関わる物である以上、あの艦の力は、彼女の役に立つはずだ」

「俺もそれを考えていたが…俺達の起動キーだけじゃ、艦の真の力を発揮させる事は出来ないだろ?」

 ファラオ店長は、自らの懐からカード状の起動キーを取り出して言う。

「ああ、分かってる。あれの封印を完全に解除するには、あと一枚、小生達のリーダー…イセリナ様の持つキーが必要…。

 …先日から、固有通信波で何度も発信している。

 だが、この宇宙群にいるかどうかは定かじゃないし、それどころか超空間通信の範囲内にいるかどうかも賭けだが、する価値は十分にある」

 アルフレッドが、自らのカードキーを取り出す。

「それに、完全稼動は出来なくても、二枚で主だった武装は稼動できる…それだけでも、そんじょそこらの最新型には負けんさ」

「そうだな、それに元々、イセリナは、自分の旅の目的を俺達にも教えてくれなかったからな。

 唯一分かってたのは、あの艦と、彼女の愛機が生み出された場所が、彼女の故郷だって事だけ…。

 何をしたかったのか、そして、その旅の先に何を求めていたか、全く答えてくれなかったからな。

 そもそも、見た目は少女だが、明らかにあの動き、俺達以上だった…年を取る気配もなかったしな」

「ああ、確かに人間らしかったが、真実は闇の中だ。

 ただ、あの目は、信頼するに値する目だった…そして、小生達の旅は成功したからな」

 その言葉に、ファラオ店長は頷いた。

「旅人には特に色々ある…無理に詳細な過去を問い詰める気にはならなかったからな。

 まぁ、なるようにしかならないか…で?具体的なスケジュールはどうするんだ?」

 ファラオ店長の言葉に、アルフレッドは頷く。

「艦が封印された場所に行くには流石に屋台じゃ厳しい。

 小生の知り合いに協力してくれそうな方がいるので、一週間ほど待って欲しい。

 その後、小生の方から、そちらに赴こう」

「ああ、分かった」

「…それと、磨きがかかったお前のラーメン、楽しみにしてるぞ」

 アルフレッドは、そう言ってニヤリと笑う。

「ああ、腕によりをかけて作らせて貰うさ…期待は裏切らん」

 ファラオ店長は、そう言って笑った。

「それじゃ、また何かあったら連絡する、邪魔したな、カーメン」

「良いって事よ、またな、アルフレッド」

 通信が切断される。

「さーて、俺達の行動がどう転ぶか…面白い事になってきた。

 …嬢ちゃん、お前が使命を果たすように、俺達も、俺達が住む場所を守る為に、戦うぜ」

 ファラオ店長は、そう呟いた…。


 一方その頃、ヴェルゼン、オーガティス、グランディオスは何処とも知れぬ本拠地に帰還していた。

 こと、ヴェルゼンとオーガティスは、影の前に呼び出されていた。

「…も、申し訳ありません、インフィナイト様…」

 ヴェルゼンの言葉に、影はため息をつく。

「はぁ…何はともあれ、まずは無事でよかった、と言っておこう。

 そして、ギルティアの完全復活時に、本来なら取れる筈のなかった、余が求めていたデータを手に入れる事が出来た…その功績に免じて、今回は…」

「今回は…?」

 影は続けた。

「…ヴェルゼン、オーガティス!汝らには本拠地の床の乾拭きを命ずる!!隅々まで、丁寧にやれ!!」

 その言葉に、扉の外からブッ、と吹き出す音が聞こえる。

 影は、聞こえないふりをして続ける。

「汝らやグランディオスがギルティアと交戦した事で、かなり多くのデータを手に入れる事が出来た。

 確かに、ヴェルゼンの言う事も一理あったと言う事だ、よって、今回はこれで勘弁しておく」

「ケケケッ…まさかあれだけ命令無視した代償が床の乾拭きとは…。

 …まぁ良いさ、ヴェルゼン、とっとと終わらせようぜ。

 んじゃ、インフィナイト様、さらっと行って来ますわ…ご迷惑おかけしましたー」

「あ、え!?オーガティス、引っ張らないで下さい!!」

 オーガティスが、ヴェルゼンを引っ張っていく。

「い、インフィナイト様、寛大な処分に、感謝します…!!」

 引きずられながら、ヴェルゼンは頭を下げた。

 そして、オーガティスとヴェルゼンが出て行ってから、グランディオスが入ってくる。

「やはり汝か…」

「…随分と寛大な処遇ですな」

「ヴェルゼン達が彼女を復活寸前のタイミングで追い詰めた結果、彼女から取らなければならない重要なデータが、本来のスケジュールに先だって手に入った。

 結果的にとはいえ、我らの計画は一気に前進する事が出来た。彼らの卑劣な行動は余とて腹立たしいが…我々には、手段を選ぶ余裕は少ないのだ。

 グランディオス…汝は、その覚悟を持って我が元にいるのであろう?」

 その言葉に、グランディオスは無言で頷いた。

「今回手に入れられたデータは、我々の計画の次の段階に必要になるデータだ。

 そして、そのデータを利用すれば、現段階を飛ばし、次の段階へと一気に計画は進む…グランディオス、今後も、その手腕に期待しているぞ」

 その言葉に、グランディオスは頷き、微かに笑う。

「御意…もっと先になるかと思っておりましたが、彼らの独断専行も、たまには役に立つという事ですかな」

 そして、グランディオスは言葉を続ける。

「時に、インフィナイト様、もう一つ聞きたい事があります…何故、乾拭きを?」

 その言葉に、影は笑った。

「簡単な話だ、悪ガキに与える罰はこれに限る」

「フ…成る程」

 グランディオスはニヤリと笑いながら頷くと、部屋の外へと歩き出した…。

 そして、グランディオスが部屋の外に出ると、遥か向こうから、ヴェルゼンの叫び声が聞こえる。

「おのれ…ギルティア…今度こそ討ち倒してやるからなーっ!!」

「…やれやれ、まーだ言ってるよ…ほら、先にこっちに集中集中」

 二人のやり取りに、グランディオスは苦笑する。

「…フ、まだ懲りていないらしい」

 そして、彼は、その声とは反対方向へと歩き出した…。


続く


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