Act.54 閃伯と狂騎
Act.54 閃伯と狂騎
エルヴズユンデとアークトゥルースが、境界空間の移動を続けている。
「ところで、お主の本調子を見られるのはいつなのだ?」
「昨日倒した指揮個体型異形の根源的エネルギーを手に入れた時点で、既に必要な処理を開始しています。
エネルギーの吸収は既に終わり、現在は、損傷したエルヴズユンデのコアを修復中です…もう少しですよ」
その言葉に、シリウスが満足そうに頷く。
「…そうかそうか!」
「現在、修復率五十パーセント…七十パーセントを越えれば、宇宙群とのアクセスによって残りの三十パーセントは一瞬で回復できます」
「凄いものだな…」
シリウスが感心する。
「次の世界に到着する前に修復は完了するでしょう」
「それは楽しみだ」
シリウスが笑った、その直後だった。
「!?」
紅の何かが、凄まじい速度でアークトゥルース目掛けて突っ込んでくる。
シリウスは、一瞬で、それが槍を構えた『何か』の突進であることを悟る。
「ぬんっ!!」
槍の矛先を巧みに回避し、槍を掴んでその『何か』を投げ飛ばす。
続け様に、斜め上から、それ以上のスピードで何かが飛来してくる。
いずれも、狙いはアークトゥルースだ。
アークトゥルースが、剣を構える。
「おおおおおおおおおおおっ!!!」
アークトゥルースの背の、体中の、ブースターが展開する。
凄まじい金属音。
それは、両腕の大きな爪が特徴的な、まるで人型の虫のような異形だった。
異形が、アークトゥルースと激突する瞬間に衝撃波を放つ。
「ぬっ!?」
アークトゥルースがそれに吹き飛ばされてバランスを崩した所に、再び、先程の『何か』が突っ込んでくる。
「させません!!」
エルヴズユンデが、その突進を受け止める。
紅の何か、それは、真紅の翼を持つ、鎧を着込み、炎を纏った骸骨のような異形だった。
紅の悪魔、とも形容できるかもしれない。
「…何者、です…!?」
紅の異形を投げ飛ばし、ギルティアが呟く。
一方、アークトゥルースもまた、力ずくで敵を押し返す。
「…インフィナイト様の脅威になる存在は、インフィナイト四将、閃伯のヴェルゼンたる僕が排除する!!」
ヴェルゼンと名乗ったのは、人型の虫然とした異形だ。
「ケケケッ…大見得切ってるねぇ…なら俺も紹介位しとくか…。
インフィナイト四将、狂騎のオーガティス!ジジイ、あんたを殺す奴の名だ、覚えときな!!」
紅の骸骨は、オーガティスと名乗る。
「…四将…!」
「このタイミングで、しかも二体か…!」
「…やはり、私の予感が当たっていた…!?」
かつてギルティアが感じていた悪い予感、そう、創世者が今回の異常事態の元凶である、という予感が当たっていた、という事なのか。
だとしたら、一体、これから、何が起ころうというのか。
…しかし、今は一刻も早く目の前の状況の方を何とかしなければならない、
ギルティアはそう考え、思考を閉じる。
それと同時に、エルヴズユンデが再び構える。
「お嬢ちゃん、無茶はするなよ…!」
「ふふ…私を見くびってもらっては困ります」
ギルティアは、ニヤリと笑った。
「…遅れは取りません!」
「ケケッ…おいジジイ、つまらんから、恐怖で心臓発作なんか起こすんじゃないよー!!」
オーガティスが、そう言ってアークトゥルースに再び突進する。
「黙らんか!わしはまだそんな年ではないわ!!」
金属音。槍と剣が激突する。
「…成る程、私の踊りのお相手は、あなた、という訳ですか…」
「ええ…そうさせて貰います…もっとも、僕はあなたの踊りなど見たくもありませんがね…」
ギルティアは、ニヤリと笑った。
「別に構いませんよ、私もあなたをただ斬り伏せるだけですから…ギルティア=ループリング…参ります!!」
「この僕の…閃伯の力…その身で味わうが良い!!」
凄まじい速度でヴェルゼンが突進する。
エルヴズユンデがそれを回避し、すれ違いざまに剣を叩き込む。
しかし、剣はヴェルゼンに触れてはいないようだ。
ヴェルゼンは、全身から衝撃波を放ちながら移動している。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァストッ!!!」
熱量の雨が、ヴェルゼンに降り注ぐ。
「その程度のブラスターで、僕の衝撃波を撃ち抜くことなど出来ませんよ!!」
そのまま、ヴェルゼンが真正面から突っ込んでくる。
「ならば!」
ブラスターの熱量を、剣に集める。
「コンヴィクション・スラァァァァァァッシュ!!!」
凄まじい衝撃波を両断し、ヴェルゼンに剣が届く。
「ほう…成る程、戦いようはある、と」
「私を誰だと思っているのですか?それとも、鍵の力を侮っていませんか?
…その程度で、この私を倒せると?」
ギルティアは、そう言って再びニヤリと笑う。
「良いでしょう…こちらも、生け捕りの為に手を抜いていましたが、どうやら、手を抜く必要は無いようです…」
「生け捕り…!?」
その言葉に、一瞬ギルティアは考えるが、それは戦いが終わってからにする、と強引に思考を閉じる。
ヴェルゼンの放っている衝撃波が、一層強くなる。
そして、それが、ヴェルゼンの両腕に集まる。
「さぁ…行きますよ!!」
ヴェルゼンが、更に凄まじい速度で突進してくる。
「どこからでもッ!!」
エルヴズユンデが、再びブラスターを剣に収束する。
「でええええええええええええええええいっ!!!」
爪と剣が交差する。
更に、振り向き様に、エルヴズユンデが左腕の爪を振り下ろす。
「!!」
ヴェルゼンの胸部に、爪による深い傷がつく。
「…ぐっ…調子に乗るな!」
ヴェルゼンの爪に収束していた衝撃波が解き放たれる。
「なっ…!?」
斬撃の嵐が、エルヴズユンデを飲み込む。
更に、その嵐の中を、ヴェルゼンはそれに乗って加速しながら攻撃を続ける。
その姿は、まさに閃伯と言う名に相応しいものだった。
「…あまり僕を怒らせないほうが良いですよ!ハハハハハハハハハ!!!」
ヴェルゼンの嘲笑が、嵐に乗ってこだまする。
「ぐうう…まだまだ…この程度!」
嵐を、強引に剣の一振りで両断し、強行脱出する。
しかし、エルヴズユンデは既にかなりの損傷を負っている。
「嬢ちゃん!!」
オーガティスと交戦していたシリウスが、叫ぶ。
「そっちの心配している暇は無いよーッ!!」
オーガティスが、槍を回転させる。
「ぬっ!」
衝撃波がまるで巨大なドリルのように展開される。
アークトゥルースが、デモンズ・スローターの粒子加速砲モードのチャージを開始する。
オーガティスが、突進する。
「フ…わしをなめるでないわァァァァァァ!!!」
アークトゥルースが、デモンズ・スローターを構えながら、オーガティスに突進する。
「そりゃなめるよ、人間が俺達に勝てるわけ無いもんね!
あんたに負けたエルグリオも同じ、いや、ありゃあんたに負けたんだ、人間以下の虫けらだな!ケーッケッケッケ!!!」
「言いおるな…!!」
槍が纏った衝撃波と、デモンズ・スローターの砲身が接触する直前、デモンズ・スローターから凄まじい閃光が解き放たれる。
閃光は衝撃波をかき消し、オーガティスを押し返す。
「だが、負けぬぞ!!」
アークトゥルースが、吹き飛ばされたオーガティスに追撃をかける。
「光子爆雷…射出!!」
アークトゥルースの肩から、凄まじい量の光弾がオーガティスに襲い掛かる。
「ケケケケッ…その程度で俺に勝ったつもりかい?おめでたい!おめでたいね!!」
直後、槍が、肩の鎧が、まるで毛を逆立てるかのようにその形状を変え、そこから、夥しい量の棘のようなものがアークトゥルース目掛けて放たれる。
「ぬうっ!?」
デモンズ・スローターの粒子加速砲モードと、剣で、それらを撃ち落とす。
「ケーケケケケケケケケェ!!隙ありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
凄まじい勢いで、オーガティスが突っ込んでくる。
突っ込んでくる事は予想できたが、対応しきれなかった。
槍が、アークトゥルースの左肩を撃ち抜く。
咄嗟に回避することで急所ははずしたが、回避できなかったら胸部に直撃を貰っていただろう。
そして、相手もそれは承知で攻撃している。相手の表情から、シリウスはそう踏んだ。
「さ~あ一人磔刑お楽しみターイム!!」
オーガティスが、ケケケ、と笑う。
シリウスは、その笑い声に不快感を覚えながらも、ニヤリと笑った。
「成る程、体中の棘で四肢を撃ち抜き、一人磔刑、と…ならばその趣向、乗ってやろうぞ…わしはそれに火刑で応える!!!」
アークトゥルースの肩から光子爆雷が放たれる。
脚部から、ビーム砲が放たれる。
「な、こいつ、馬鹿か!?」
「さぁ先に燃え尽きるのはいかに!!」
シリウスが、凄みのある笑みを浮かべている。
「やべ!こいつ怖!」
全弾の直撃を存分に浴びながら、オーガティスが離れる。
「人殺しが好きなお主に…言われとうないわァ!」
シリウスは、その行動から、相手の行動原理を理解した。
オーガティスが楽しんでいるのは、戦いではなく、殺しだ。
だから、自分にリスクが増えるのを好まない。
エルグリオは戦いを楽しむが故に、かなり強引な、そして、お互いギリギリまで追い詰められるような戦いを楽しんでいた。
恐らく、先程のシリウスの反撃も、エルグリオなら笑いながら乗っていただろう。
「お前のがよっぽど怖ェよ!死ぬのが怖くないのかい!!」
「何度も生死の境は彷徨っておるわ!いちいち恐れていては、わざわざ好き好んでここにはおらぬ!!」
「あー、お前、エルグリオと同じタイプかー…」
オーガティスが呟き、直後、様子が一変する。
「気に入らない…命を粗末にする奴は…死の瞬間まで恐怖に囚われないような奴は、殺し甲斐がなくて大ッ嫌いなんだ!!!」
オーガティスの槍が、そして棘が、紅の光を放つ。赤熱しているらしい。
纏っていた炎も、一気に強くなる。
「じっくり殺してやろうと思っていたが…お前!とっとと死んじまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
凄まじい量の棘を放ちながら、そして、槍に凄まじい量の棘が混じった炎の嵐を纏わせながら、オーガティスが突っ込んで来る。
一方、損傷を負ったまま、エルヴズユンデは戦い続けていた。
「くっ…いい加減観念しなさい!!!」
ヴェルゼンが、何度も追撃をかける。
「その申し出は却下させて頂きます!!」
迎撃しながら、エルヴズユンデは時間を稼ぎ続けている。
損傷は蓄積されているが、生体部分、核へ影響を及ぼすような損傷は受けていない。
「何とか、コア再生まで時間を稼がねば…!」
「死になさい…死になさい!!死になさい!!!」
攻撃が更に熾烈になる。ヴェルゼンが焦り始めている。
既に、生け捕りという目的も忘れているようだ。ギルティアが、ニヤリと笑う。
「フフ…焦っているのですか?それとも、私のアクセス能力が復旧しては、勝てなくなる、と?」
ギルティアの明らかに挑発的な言葉に、ヴェルゼンが更に激昂する。
ヴェルゼンの攻撃が更に激しくなるが、それと同時に、攻めが単調になってきている事に、ギルティアは気付く。
「もう一押し…ですね」
激しい攻撃ではあるが、冷静さを欠いた攻め、対応は容易だ。
「予告しましょう…今暫しの猶予の間に攻め切れなければ…あなたは、そしてあなたの連れは、確実に敗北します!!」
「おのれ…おのれ!!言わせておけば!!なら…お望みどおりコアを抉り出してお前を引きずり出してやるッ!!!」
ヴェルゼンが、真正面から突っ込んでくる。
「…速度は速いですが、対応は容易なのです!!」
ヴェルゼンの爪が、放つ衝撃波が届く寸前、エルヴズユンデは、上に回避する。
「その程度で回避したと…ぐっ!?」
方向転換する前に、ヴェルゼンの背中に、幾度も衝撃が走る。
「衝撃波を、爪を構えた前に集中したのが、失敗でしたね…!!」
プリズナーブラスターの直撃だった。
背後の、衝撃波が展開されていない場所をピンポイントで狙ったのだ。
しかし、やはり異形、直撃でありながら、既に再生を始めている。
「フ、フフフ…防ぐまでも無いという事ですよ…」
ヴェルゼンが、ニヤリと笑う。
「そうですか、なら、通じるまで何度でもブラスターを撃ち込むだけです」
そういうギルティアの額を、汗が伝う。
「…とはいえ、修復率は戦闘中のエネルギー消費の影響で、未だ六十五パーセント…このままでは…!
いえ、私は負けない…負ける訳には、行かないのです!!さぁ、踊りを続けましょう…どちらかが、倒れるまで!!」
エルヴズユンデが、再び剣を構えた…。
続く




