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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
53/101

Act.53 合流


   Act.53 合流


 シリウスは閉鎖された旧ツタンカー麺の前にいた。

「…ふむ、移転、か…」

 シリウスは、張り紙から移転先を確認する。

 彼が藤木とレディオスと共に特殊な異形を撃破してから、二日が経過していた。

 結局、特殊な異形を撃破してからは、さして強力な異形と遭遇する事は無く、次の日にも殆ど遭遇しなかった。

 実質、異形は全滅した、と判断できた。

 その後、フルメタルコロッセオの世界に帰還し、レディオスと藤木を置いて、ギルティアと合流する予定の宇宙へと、一路、辿り着いていたのだ。


 シリウスが、持って来ていた自転車に乗る。

 かつてシリウスはフルメタルコロッセオ参戦時代に、機体を輸送する以外の時は自転車で活動していた。

 手頃な移動手段が必要であると判断したシリウスは、アークトゥルースに自転車を積み込んでおいたのだ。

「さて、合流場所に急ぐとしようか…ツタンカー麺の味も気になるしな…」

 途中で、自動車を何台か追い越した気がするが、シリウスはさして気に留める様子もなく、目的地へと移動を続けた…。


 一方、その頃、ギルティアは、冬川の自宅で待機していた。

「…する事がありません」

 ギルティアがため息をつく。

 ギルティアは、暇を持て余していたのだ。

 店の手伝いは、ファラオ店長に断られた。

 冬川と矢作警部に必要以上に負担をかけないように、との事だ。

 しかし、その結果、本当に、全く出来る事が無くなっていたのだ。

 ラーメンの食べ歩きもしたい所だったが、この宇宙に訪れる度に巡っていたため、目ぼしいラーメン屋のラーメンは既に食べ尽くし、

実際、その中でも、ツタンカー麺と張り合えるラーメン屋は少ない。

 しかも、ギルティア自身の作るラーメンも、十分に一線級の味だ。

 ギルティア自身も既に、普通の店で食べるよりもは、自分で作ったほうが美味しいラーメンが食べられる事に気付いていた。

「……」

 ギルティアが、居間に歩く。

「…今日の昼食、私に作らせて頂けないでしょうか?」

「え?」

 唐突な言葉に、綾子が聞き返す。

「本当にする事がありませんし、私が、戦う事以外で恩を返せるとすれば、それくらいしかありませんからね…渾身のラーメンをご馳走しますよ」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「へぇ…ラーメンは自分でも作るのね」

「ええ、色々なラーメン屋を巡って研究しています」

 そう言って、旅道具の中から、自分用の調理器具を取り出す。

「…つまり、こういう事です」

「おおー…なら、お願いしちゃおうかな」

「ふふ、期待には応えますよ」

 ギルティアはそう言うと、ラーメンを作り始めた…。


 一方、ファラオ店長が昼の営業をしている頃、シリウスは移転したツタンカー麺にたどり着いた。

「見事な行列だな…」

 シリウスが、その後方に並ぶ。

「この混雑ぶり、どうやら、お嬢ちゃんの言うとおり、その味は大したものらしいな…」

 行列が前に進む。店内にも人が溢れかえっていた。

 遥か向こうで、店員とは明らかに異質な空気を放つ男が、シリウスの目に入る。

「彼がファラオ店長…カーメン=T=尾崎か…」

 ファラオ店長も、シリウスの存在に気付いたらしい。

 シリウスが、カウンター席に座る。

「…ツタンカー麺を一つ頼む」

「あいよ」

 ファラオ店長がその言葉に頷くと、今まで任せていた部分も、自らの手でラーメンを作り始めた。

「…嬢ちゃんの連れかい?」

 ファラオ店長の問いに、シリウスは頷く。

「うむ…その言葉が飛び出すという事は…やはりお主がファラオ店長か。

 わしはシリウス…シリウス=アンファース。お嬢ちゃんとアルフレッドから話は聞いておる…その節は、世話になったな」

「何…良いって事よ…」

 ファラオ店長は、そう言って笑った。

「…待ってな、今、渾身の一杯をくれてやる」

「期待させて貰おう…お嬢ちゃんからここの味に関してはお墨付きが出ておる」

 シリウスは、そう言ってニヤリと笑った。

「…ツタンカー麺お待ち!」

 ファラオ店長が、そう言ってシリウスの前にツタンカー麺を置き、すぐに別のラーメンを作る作業に戻って行った…。

「…さて」

 シリウスが、フォークを取り出す。

「……」

 それを横目に見ながらファラオ店長が苦笑する。

「フォーク…まぁ、文化圏が違うんだ、仕方がないな」

 シリウスが、ラーメンを食べ始める。

「…これは!」

 一口目で、シリウスの表情は驚愕へと変わる。

「成る程、お嬢ちゃんのお墨付きが出る訳だ…」

「…フフ」

 ファラオ店長がニヤリと笑う。それに、シリウスがニヤリと笑って応じる。

「…流石だな」

 シリウスが、一気にラーメンを食べ終える。

「ご馳走様ぞ」

 シリウスが、ラーメンの代金を置く。

「…毎度ありがとさん。合流場所がここになってるのは聞いてるぜ、多分嬢ちゃんは夕方にここに来るだろうから、奥で待ってな」

「…うむ、すまぬな、忙しい時に」

「気にするな、残った異形を一気に討伐する為に、どの道今夜の営業は休むつもりだったからな」

「そうか…なら、ちとばかり邪魔させて貰うとしよう…」

 シリウスは、のそのそと店の奥に歩いていった…。


 一方その頃、冬川宅では、ギルティアが、昼食に手製のラーメンを振舞っていた。

「これは凄い…!」

「ぎ、ギルティアさん、プロっスか!?」

 綾子と冬川が驚愕する。

「ふふ…これでも、まだツタンカー麺の味には及びませんがね…」

「どれどれ…」

 矢作警部が食べる。

「…生半可なラーメン屋が裸足で逃げるな、こりゃ」

 矢作警部が、その味に感心する。

「…ありがとうございます」

「ところで、昼食にこれで、夕食はまたツタンカー麺に行くのか?」

 矢作警部の問いに、ギルティアが頷く。

「ええ、いつまた食べられなくなるか、分かりませんからね」

「成る程…」

 思えば、フルメタルコロッセオのある世界にいた時はラーメンは食べられなかった。

「多少の買い置きは準備できますが、やはりその都度作らなければ、品質は維持できませんからね」

「…ねぇ、もし良かったら、後でレシピとか教えてもらえる?」

 綾子の問いに、ギルティアが笑顔で頷く。

「ええ、構いませんよ。幾つかバリエーションもありますので、それも併せてお教えしましょう」

「ありがとう!」

「いえいえ、こういう形で恩返しできるとは思いませんでしたよ」

 彼女にも結構迷惑をかけた。

 ギルティアは、まさかこのような形で恩返しできるとは思わず、思わず笑顔になっていた…。


 そして、その日の夕方、ギルティアは、冬川と矢作警部を連れ立って、ツタンカー麺を訪れていた。

「おう、嬢ちゃんか…相変わらず、この時間帯はその服を着てきてるんだな…本当なら学生証だけでいいんだがな」

 ギルティアは、今日も制服を着ていた。

「ふふ…せっかくあるのに、こういう時以外で着れる時もありませんしね」

 ギルティアは、そう言って笑う。

「お嬢ちゃん、どうやら、お主も無事のようで何よりだ」

 シリウスが、店の奥から歩いてくる。

「シリウス!」

「うむ、三箇所の世界の討伐を完了してきた」

 シリウスの言葉に、ギルティアが頷く。

「…ご苦労様です」

「あと、その服、良く似合っとるぞ」

「ありがとうございます」

 ギルティアが、そう言って笑った。

「機嫌も良さそうだな…何よりだ」

「あの…そちらの方は?」

 矢作警部が尋ねる。

「と、紹介が遅れましたね。私と共に旅をしている…」

 そこまで言ったところで、シリウスが自分から話し始める。

「アンファース・インダストリアル社長、シリウス=アンファースと申す」

「…別世界で大企業の社長をしています」

 その言葉に、矢作警部が頷く。

「これはご丁寧に…自分は県警特別捜査班班長、矢作秀人警部と申します」

「同じく、自分は県警特別捜査班、冬川哲平と申します」

 そういえば、管轄は聞いていなかった。

「…聞かない所属ですね」

 ギルティアの言葉に、矢作警部が頷く。

「なぁに、要するに組織の枠に収まりたがらない奴を隔離するような部署さ。

 例の異形関連の行方不明事件は、毎回毎回この部署に回ってきてたようだが、今思えば、もしかすると、異形の事に薄々感づいてたのかもしれないな。

 …行方不明事件の調査をして、ことごとく行方不明になっていたようだからな」

「…そう、だったのですか…」

 ギルティアは、シリウスに今までの経緯を話した。

「成る程な、お主らもお嬢ちゃんに助けられたか…」

「さて…そろそろ下校する生徒達で客足が一気に増えるんだが、食べていくか?」

 ファラオ店長のその言葉に、ギルティアが頷く。

「ええ、学割仕様のツタンカー麺一丁お願いします」

「さて、せっかくだ、わしもツタンカー麺チャーシュー入りの大盛りで頼む」

「あいよ!」

 二人の言葉にファラオ店長が頷くと、ラーメンを作り始める。

「…では、俺達は外のパトカーで待機する。流石に、俺達は昼も夜もラーメンはきつい」

 矢作警部が、そう言って苦笑する。

「ええ、お疲れ様です…」

「昼…嬢ちゃん手製のラーメンでも振舞ったか?」

 ファラオ店長の問いに、ギルティアが頷く。

「ええ、恩返しがしたかったのです」

「思えば、俺は嬢ちゃんのラーメンをまだ食べた事がなかったな…」

「ファラオ店長のラーメンには及びませんよ」

 ギルティアが苦笑する。

「だとしても、宇宙群を旅しながら食べ歩いている嬢ちゃんのラーメンだ、

 何か掴める物があるかも知れねえと思ってな。今度、食べさせてくれよ」

「ええ、そういう事であれば、了解です」

 会話しているギルティアとファラオ店長の横で、シリウスは黙々とラーメンをフォークで食べ続けている。

「しかし、フォークなんですよね…」

「ああ、フォークなんだよな…」

 ファラオ店長とギルティアが、二人で、シリウスを見ながら苦笑する。

「…さて、私はおかわりさせて頂きます」

「あいよ!」

 下校途中の学生達が、店に入って来始める。

 相変わらず、ギルティア自身に自覚はないが、学生達の視線を独り占めにしている。

「…人気あるなぁ、さすが嬢ちゃん…」

 ファラオ店長は、その様子を見て、誰にも気付かれないように呟いた…。

「…さて、今日から俺も夜の討伐の為に屋台営業を休む…一気に蹴りをつけようぜ」

 ファラオ店長の言葉に、ギルティアが頷く。

「了解です」

 そして、ギルティアはラーメンを平らげる。

「…では、奥で少し情報の交換を行います、奥、お借りします」

「あいよ!」

 ギルティアとシリウスが、店の奥の方、ファラオ店長が普段テレビを見ながらくつろいでいる部屋に入る。

「まず、根源的エネルギーは回収してきましたね?」

「うむ、ほれ、この通りだ」

 シリウスが、ギルティアから預かった紅の水晶片のようなものをギルティアに渡す。

「確かに」

 ギルティアがそれに触ると、それから、強い光が放たれ、その光が集まり、ギルティアの掌に降りる。

「…これは…思いのほか大漁です…」

「実はな…」

 シリウスは、特殊異形と交戦した事を、ギルティアに話した。

「そ…それで、レディオスと藤木は無事なのですか!?」

 ルークが重傷を負うほどの強敵だ、ギルティアは心配そうに尋ねた。

「うむ、ピンピンしておるよ。お嬢ちゃんによろしく伝えておいてくれと頼まれている」

「…良かった…」

 ギルティアが、安堵のため息をつく。

「しかし、さほど苦戦せずに倒す事が出来た…あの敵に有効なのは、実弾による核への狙撃らしい」

 戦闘中に起こった事を、シリウスはギルティアに伝えた。

「成る程、レディオスの狙撃で、巨大化後も核の位置を特定できた、と。

 …対策は思わぬ所にあるものですね。しかし、これであの特殊異形に対しての対策も立ちました。

 こちらは、この通り、数は多いですが大した異形とはまだ交戦していません。

 しかし、ここから先、指揮個体異形との交戦はほぼ確実でしょう」

「そうか…ならば、丁度良かったらしいな」

 シリウスの言葉に、ギルティアが頷く。

「そして、シリウスが手に入れてくれた根源的エネルギーと、指揮個体から回収できる根源的エネルギーがあれば、エルヴズユンデは完全に復活できます」

 その言葉に、シリウスが感嘆の声を上げる。

「おお!それは素晴らしい!!ようやく、お主の本当の力が見られるという訳か…楽しみだわい」

「ええ、私としても、これでやっとアクセスが復旧…本調子に戻れます」

 ギルティアは、そう言って、ニヤリと笑った…。


 そして、その夜、ファラオ店長とシリウスを追加した五人は、路地裏に足を運んでいた。

「さて、ファラオ店長、お主は相当強いと聞いておる…お手並み拝見と行こうぞ」

 シリウスの言葉に、ファラオ店長が苦笑する。

「本来、俺は料理人で、戦うのが本業じゃないんだがな」

「それも分かっておるよ、お主のラーメン、大した物だった」

 シリウスは、そう言って笑った。

「へへ…ありがとよ」

「…な、何か、いきなり緊張してきたっス…」

 冬川が、矢作警部に言う。

「無理もない…恐らく俺達が一番弱いだろうからな…」

 矢作警部が苦笑する。

「…来ます!」

 ギルティアの言葉に、皆が身構える。

 目の前に、大量の異形が姿を現す。

「…行きましょう!!」

 ギルティアが駆け出す。

「承知!」

「任せな!」

 シリウスとファラオ店長がそれに続く。

「てええええええええええいっ!!」

 ギルティアの一閃で、数匹の異形が真っ二つになる。

 そして、ギルティアは更に踏み込み、異形の群れのど真ん中に飛び込む。

 シリウスのショットガンがプラズマ弾を放ち、眼前の異形をバラバラに吹き飛ばす。

「お!そいつは、アルフレッドの互換用擬似弾薬じゃねえか!久しぶりに見たぜ…」

「一目で分かったか…流石だな、ファラオ店長よ!」

「便利だからな、そいつは」

 一方、ファラオ店長も、包丁の一閃で異形を両断する。

 更に、大型の中華包丁を構え、まるで断頭台のような鋭い斬撃を異形に叩き込む。

「良い包丁だ!相当な腕利きの作と見た!!」

 シリウスの言葉に、ファラオ店長が頷く。

「おうよ、アルフレッドの作だ!」

 ファラオ店長が、そう言ってニヤリと笑う。

「何と…!」

 彼らの会話とは裏腹に、凄まじい勢いで異形の数は減っていく。

「…さて、我々も少しは役に立たねばな。刑事の意地、見せてやろう!」

「そうっスね!」

 矢作警部と冬川が、拳銃を構える。

 銃弾が、異形の頭部を確実に捉え、一匹一匹、確実に数を減らしていく。

「ほう…ただの警官にしては悪くない腕だ…」

 ファラオ店長が、感心する。

「この立ち回りなら、足を引っ張られなかったと言うのも頷けるぜ」

 一方、最前線で、ギルティアは立ち塞がる異形を片っ端から斬り刻んでいた。

「早く、指揮個体を撃破し、本調子に戻らねば…!」

「お嬢ちゃん、相変わらず見事な暴れっぷりだな…!」

 シリウスが、剣を振り回し、ショットガンを撃ちまくりながら、ギルティアの横までたどり着く。

 既に後方の異形は完全に討伐されている。

「シリウスも、そのショットガン、プラズマ弾に換装するとは、考えましたね…」

「アルフレッドから、その為のパーツを貰ったのでな」

「成る程…」

 それに、ファラオ店長が追いつく。

「相変わらず、嬢ちゃんがいると負ける気がしないぜ…!」

「ふふ…さぁ、仕上げと行きましょう!!」

 ギルティアの言葉に、二人が応え、直後、残っていた異形は、ショットガンに撃ち抜かれ、包丁に捌かれ、剣に切り刻まれて絶命した…。

 空間の閉鎖が解ける。

「…一つ、聞きたいんだが」

 矢作警部が、ギルティアに声をかける。

「はい?」

「…その二人、本当に人間か?」

「ええ、本当に人間ですよ」

 その言葉に、矢作警部が苦笑する。

「そうか…人間の可能性には驚かされるばかりだ」

「ははは…確かに、ここまで戦える人間はそう多くはありませんよ」

「凄いですね…自分も、もう少し鍛えてみようかなぁ…」

 冬川の言葉に、矢作警部が笑う。

「はははは!それが良い!」

「あとは、武器の威力でしょうね…流石に拳銃では分が悪いです」

 ギルティアは、誰にも気付かれないように呟いた。

「…さて、そろそろ行きましょうか」

 ギルティアの言葉に、皆が頷き、歩き出した…。


 そして、そのまま数箇所の異形を討伐する。

「飛来した異形の総数から考えるに、ほぼ討伐は完了、と言っていいでしょう…恐らく、次に異形と遭遇した時、指揮個体異形が出て来る筈です」

 ギルティアの言葉に、ファラオ店長が頷く。

「ああ、だが、ここまでハイペースで討伐できるとは…流石に五人もいると早いな」

「ええ、そうですね…残り二十パーセントが一夜で討伐できるとは…」

「うむ!調子も良好!この調子で一気に終わらせようぞ!!」

 シリウスの言葉に、ギルティアが頷く。

「そうしましょう…今夜で討伐を終わらせます」

「そうだな、指揮個体だけわざわざ次の日に回すのも面倒だ。シリウスも機動兵器持ちなんだろう?」

 ファラオ店長の言葉に、シリウスがニヤリと笑う。

「うむ、我が社の、そしてわし自身の誇りの結晶ぞ」

「そうか…ならその誇りの結晶のお手並み、拝見させてもらうぜ」

「うむ!」

 シリウスは、力強く頷いた。


 五人は、封鎖された工場群へと足を踏み入れていた。

「基本的に、指揮個体異形は、本来人が入らないような場所に姿を現します…先日の廃村にはいませんでしたから、恐らくここです」

「不気味な場所っスね…」

 冬川が呟く。

「うむ、景気後退の弊害で閉鎖されて、もう二十年になるか…人の夢の跡…ここに指揮個体がいるとしたら、皮肉なもんだな」

 矢作警部がそう呟くと、直後、空気が変わった。

「…来ます!!ただし、まだ指揮個体は動いていないようです!まずは前座を片付けましょう!!」

 その言葉に、全員が身構える。

 そして、空間が閉鎖され、周囲に大量の異形が姿を現す。

 敵が動く前に、銃弾とレーザーの雨あられが、周囲の異形を薙ぎ払う。

「…行きます!!」

 ギルティアが、異形の群れの中に一気に踏み込む。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 シリウスが、それとは反対側の異形に突進する。

「さーて、ここが正念場だ、大暴れと行こうじゃないか!!」

 ファラオ店長が一気に踏み込み、両手に構えた包丁で、異形を切り刻む。

「よーし、ひとまずこれが最後だ、出し惜しみ無しで撃ちまくれ!!」

「とは言ったものの、あと十数発しか銃弾が残っていませんよ!?」

 冬川が慌てながら言う。補給している暇などなかった。

 まして、いくら少女を保護しているとはいえ、一介の警官が大量の弾薬を補給していては怪しまれる。

「弾が切れたら警棒で異形の脳天をぶん殴れば良いんだ、行くぞ!!」

 そう言って、矢作警部はニヤリと笑った。

「えー!?」

 冬川がため息をつく。

「いやぁ、無茶な上司の下にいると苦労するよ…ま、無茶なだけで、嫌な上司じゃなくて良かった、と思っておきますか…」

 矢作警部と冬川が、銃撃を開始する。

 異形は、これ以上ないほどあっさりとその数を減らしていった。


 そして、異形の骸の真ん中に、五人は立っていた。

「…指揮個体、来ます!ファラオ店長、二人の誘導をお願いします!!」

「あいよ、任せな!!早く逃げるぞ、お二人さん!!」

 ファラオ店長が走り出す。

「了解した」

 矢作警部と冬川が、それに続く。

 直後、工場群全てを覆うほど巨大な魔法陣が展開される。

 その内部に、空間全体に複雑な魔法陣が展開される。

「シリウス!行きましょう!!」

「承知した!!」

 空間を突き破って、エルヴズユンデが姿を現す。

「…行きましょう、エルヴズユンデ!」

 シリウスが、端末を操作する。

「来たれィ!アークトゥルース!!」

 更に、エルヴズユンデに続くように、アークトゥルースが姿を現す。

「シリウス=アンファース…アークトゥルース、参る!!」

 二機が構える。

 魔法陣が、一点に収束されていく。

 そして、大蛇のような形状の巨大な異形が、姿を現す。

 脱出する矢作警部と冬川が見たのは、二機のロボットが巨大な異形に斬りかかっていく瞬間だった…。

「あれが…旅人達の『力』か…」

 矢作警部は、去り際にそう呟いた…。


 一方、エルヴズユンデとアークトゥルースは、指揮個体異形に斬りかかっていた。

 しかし、蛇のような形状の異形は、しなる動きでそれを回避する。

「成る程、その巨体で剣の一振りを避けますか…ならばッ!!

 プリズナーブラスター…バァァァァァァァァストッ!!!」

「光子爆雷…射出!!」

 高熱の雨と、光の嵐が指揮個体を飲み込む。

 凄まじい爆発。

 しかし、直後地下から出てきたものに、二人は驚愕する。

「…無傷…!?」

 そう、無傷の指揮個体がそこには存在していたのだ。

 爆風の中には、抜け殻が残っている。

「…脱皮、とは…」

「わしに任せろ!!」

 アークトゥルースが、デモンズ・スローターを構える。

 レールガンが指揮個体を撃ち抜き、動きを止める。

 更にエルヴズユンデのレーザーが直撃する。

「こういう時、実弾は便利ですよね…」

「…うむ」

 アークトゥルースが更にレールガンを放つ。

 指揮個体が、まるで地面に磔になったような状態になる。

「止めは任せようぞ!お嬢ちゃん!!」

「分かりました…!!」

 エルヴズユンデが、指揮個体に突っ込む。

 指揮個体が、動けない状態のままで、衝撃波を放つ。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァストッ!!!」

 エルヴズユンデの胸部から放たれた熱量が、剣に集まる。

「コンヴィクション・スラァァァァァァァァッシュ!!!!」

 そして、凄まじい熱を帯びて光り輝く刃が、衝撃波を切り裂きながら指揮個体を両断した…。

「…願わくば、汝の罪が祓われんことを」

「ところで…以前から気になっていたのだが、その台詞は、決め台詞なのかね?」

 シリウスの唐突な問いに、ギルティアは一瞬考える。

「決め台詞…え、ええ…そういう事になりますか」

 ギルティアが苦笑しながら言う。

「成る程な…ふむ、わしも決め台詞を考えておくとしようか…」

 異形の骸から、凄まじい光が、ギルティアの方に集まる。

「…これで、アクセスの復旧に必要な根源的エネルギーは集まりました」

 ギルティアは、笑顔でそう言った…。

 空間の閉鎖が解ける。

 ギルティアとシリウスが、それぞれの機動兵器から降りて、外で待機していた三人の所へ戻ってくる。

 どうやら、屋台から取り外してきた端末で、観戦していたらしい。

「凄まじいな…成る程、我々が外に出ていなければならない理由が良く分かった」

「まさか、現実にこんな戦いを見られるなんて思いませんでした。

 …何か、小さかった頃憧れたヒーローを思い出しましたよ」

 矢作警部と冬川の言葉に、ギルティアが笑う。

「戦いの規模が大きいので、防御手段がない人間が巻き込まれると危険なのです」

「ああ、それは見れば分かる。超大火力兵器が平然と使用されていたからな…」

「しっかし…シリウスも見事な手際だ…旅を始めてまだ間もないとは思えないぜ?」

 ファラオ店長の言葉に、シリウスが頷く。

「何、わしとて、旅は始めて間もないが、それ以前からずっと戦ってきたからな」

 その言葉に、ファラオ店長は納得する。

 思えば、シリウスは境界空間航行用機動兵器になる以前の機動兵器で、異形を足止め出来るほどの猛者なのだ。

「成る程な、戦闘経験は豊富、という訳か…それなら白兵戦の時の動きも頷ける」

「私も最初、共に異形を討伐した時は驚きましたけどね…さて!帰りましょうか」

「うむ!」

 こうして、五人は帰っていった…。


 そして、次の日、ギルティアは冬川家から見送りを受けていた。

「またいつでも遊びにきてね!」

「…ええ、またこの宇宙に立ち寄ることがあれば、ぜひ寄らせて頂きますよ」

 ギルティアは、笑顔でそう言った。

「今回は俺もかなり勉強になりました!ありがとうございます!!」

 冬川が頭を下げる。

「いえ、私としても、今までに無い経験を色々とする事が出来ましたよ…ありがとう」

 ギルティアは、さて、と続ける。

「シリウスが待っています。皆さん、願わくば、またいつか再び出会えん事を…!」

 ギルティアはそう言うと、矢作警部の運転する車に乗り込んだ。

「ギルティアさんには感謝してもしきれない。

 世界の裏で、たった一人、ずっと我々を守り続けてきてくれていたんだからな」

「…いえ、それが私の使命ですから。

 感謝されるいわれはありません、ごく当たり前の事です」

 ギルティアは笑顔でそう言った。

「そうか、君にとってはそうだったな…。

だが、それは守られている人間達にとっては当たり前の事ではない。

…それだけは、覚えておいて欲しい」

 矢作警部の言葉に、ギルティアが頷く。

「分かりました…矢作警部…ありがとうございます」

 暫くして、車が止まる。ツタンカー麺に着いたのだ。

「…それでは、願わくば、またいつか再び出会えん事を!!」

 ギルティアが車から降りる。

「ああ、君の旅の幸運を祈る!!」

 そう言って、矢作警部は再び車を発進させていった…。


 シリウスとファラオ店長が、店内で待っていた。

「…ただいま到着しました」

「うむ」

「…で、次の目的地は何処になるんだ?」

 ファラオ店長の言葉に、ギルティアが頷く。

「シリウス、予定航路図をお願いします」

「承知した」

 シリウスが、板状の端末を操作し、航路図を表示する。

「成る程、この先の世界、宇宙をしらみつぶしに調べる気か…分かった、気をつけてな」

「ええ、ファラオ店長も、この調子でどんどん店を発展させていってくださいね。私も、境界空間の彼方から応援してます。

 次にまた会う事があれば、その時は、私の手製のラーメンをご馳走しますよ」

「おお、そうか…そいつぁ、楽しみだ」

 ファラオ店長は、そう言って笑った。

「…さて、行きましょうか!」

「うむ!」

 ギルティアとシリウスが歩き出した…。

「気をつけてな!願わくば、お前の旅に幸多からん事を!!」

 その言葉に、ギルティアは会釈で応え、駆け出す。

 シリウスは、流石に身体能力ではギルティアに劣るため、置いていかれる。

「お、おい、わしを置いて行くでない!!」

 シリウスが、店の前に置かれていた自分の自転車に乗り込む。

「…また今度ラーメンを食べに来る事になろう!さらばだ、ファラオ店長よ!!」

 そして、彼はそう言うと、凄まじい速度でギルティアを追って行った…。

「さて、嬢ちゃんたちは無事旅立って行ったと、アルフレッドに伝えるとするか…」

 ファラオ店長は、遥か遠ざかって行く二人を見守りながらそう言うと、店の中へと歩いていった…。


 一方、その頃…。

「ケケッ、良いのかい?ヴェルゼン。インフィナイト様は攻撃するなとおっしゃっていたようだが」

 真紅の翼を背に、鎧を着込み、炎を身に纏った紅の骸骨のような異形が、

 ヴェルゼンと共に境界空間に、ギルティア達の航路上に待機している。

「オーガティス、あなたが気にする必要はありません…責任は僕が持ちます。

 いずれにせよ、あれはインフィナイト様にとって危険な存在、芽は早めに摘むに限ります…それに、殺していいのは人間の方だけです。

 あの小娘の方は、今は捕らえ、我々の方で徹底的にデータを収集した上で、消してしまえば良い。

 そうすれば、インフィナイト様の目的の達成の妨げにはならないでしょう」

 その言葉に、オーガティスと呼ばれた異形がケケケ、と笑う。

「…なら、今日は俺はそっちの人間の方の相手をさせて貰うわ。

 あ、それと、どうせ消すんなら、データ収集してから、あの娘は俺が貰って良いかい?」

「取り扱い注意ですが…良いでしょう」

「いやあ、あの強気、是非恐怖でじっくりとへし折ってみたいのさ…へし折ってからは…ケッケケケ…」

 オーガティスが笑う。

「…いずれにせよ、インフィナイト様の障害となる者は全て消します」

「しっかし…相変わらずインフィナイト様を崇拝してるねぇ…ケケ」

「…オーガティスに同じものは求めません。しかし、インフィナイト様に敵対するような事だけは、しないように」

 その言葉に、オーガティスは笑いながら頷いた。

「ケケケッ…分かってる、お前の敵になる程俺は馬鹿じゃあないさ。

 今まで出会った奴の中で、お前ほど気に入った奴もいないんでね」

「やれやれ…厄介な奴に気に入られたものです…さぁ、行きますよ!!」

 ヴェルゼンが、移動を開始する。

「あいさ!キーワードは…!」

 オーガティスがそれに続く。

「「『邪魔者は皆殺し』!!」」

 彼らの声が、境界空間に響き渡った…。


続く


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