Act.52 未知を越える既知
Act.52 未知を越える既知
ギルティアが、二人の警官と共に異形を討伐している頃、
剣の修理、改修が終わったアークトゥルースに、輸送用のカーゴを搭載し、
三人はフルメタルコロッセオの世界の隣の世界へ、そう、異形が飛来した三つ目の世界へと降り立っていた。
「…ほう、これが通常型の技術発展の世界なのか」
町並みを見て、レディオスが呟く。
「ああ、わしも始めて見た時は驚いた。そして、今も驚いておるよ」
二つ目の世界は、フルメタルコロッセオの世界以上に狭く、技術もさほど高くなかったため、目新しいものは無かった。
しかし、三つ目の世界は、藤木やレディオスにとっては、目新しい物ばかりだったのだ。
「…正直、俺もルギ…おっと、ギルティアさんと行きたくなっちまったぜ…」
藤木が、そう言って笑う。
「確かに、わしも退屈しない日々が続いておるよ」
「で?異形が出る時間までは待機か?」
藤木の問いに、シリウスが頷く。
「興味深い町並みを見て回るのも良いが、レディオスはそれに興味は無かろう?」
「…ああ、むしろ、異形と戦う方が、俺にとっては暇潰しになる」
と、そう言ったレディオスの耳に、爆発音や剣のぶつかる音、色々なものが混ざった音が入ってくる。
「ん?」
若干派手な建物の中から響いてきている。
「あれは何の建物なんだ?」
「…知らんな」
看板には『ゲームセンター』、と書かれている。
「『ゲームセンター』だそうだが…行ってみるか?」
その言葉に、レディオスは頷いた。爆発音や剣がぶつかる音の主は、格闘ゲームだった。
「…戦闘シュミレータ、という奴なのか?」
レディオスが、画面と操作方法を見て尋ねる。
「ゲーム、と言うからには、どちらかと言うと楽しむためのものなのだろう」
「ほう…時間つぶしに丁度よさそうだ。少し、やってみるか」
シリウスが出費し、レディオスがゲームを始める。
藤木が、その後方で、UFOキャッチャーに興味を示す。
「…ロボットアームを操作して、中にあるものを取る、というルールらしいな、これは」
「うむ、そう書いてあるな」
「…少し、土産でも手に入れていくか」
藤木は、そう言って笑い、UFOキャッチャーをプレイし始める。
「さて、わしは…」
レディオスが、ゲームに没頭している。
「…フフフ」
シリウスが、レディオスのプレイしてる筐体の反対側の筐体に座り、操作方法を確認すると、腕まくりして資金を入れる。
「…レディオス、お相手仕る!!」
直後、レディオスの画面に、乱入、の二文字が映る。
「シリウス…フ、良いだろう、先日の雪辱を果たさせてもらうとするか…!」
レディオスは、ニヤリと笑う。
次の瞬間、二人は手元のボタンとスティックにかじりついた。
その後、二人の壮絶な戦いは、その店に伝説として刻まれたらしいが、詳細は不明である。
三人の時間はあっという間に過ぎ、夜になる。
ギルティアから知らされていた場所に、三人は立っていた。
…町外れの平原だった。
「…情報によれば、ここの異形の規模も、先日立ち寄った世界と同じく少ないらしい。
気合を入れていけば、思いの外早く蹴りを付けられよう」
「ああ、弾薬も持てるだけ持ってきた、一気に蹴りをつけようぜ」
藤木が、そう言って笑う。
「土産も大漁だしな、とっとと帰って皆に見せてやりたい」
「あれは流石に取りすぎだと思うがな…手に入れたものが多すぎて、持ち帰るのが大変だったではないか」
そう言って、シリウスは苦笑した。
「おいおい、お前らだって、ギャラリー総動員の激闘になってたじゃねえかよ」
「まさか、ゲーム風情で俺がここまでエキサイトするとは思わなかったがな…他の世界には、なかなか面白いものがある」
「うむ、確かに楽しめた…たまには、こういうのも悪くない。
お嬢ちゃんも、もう少し旅を楽しめれば良いのだがな…。
使命を果たす為だけに生きている、彼女自身がそう言った通り、本当にそれ以外への執着が無いのだ。
…あったとしても、無理に抑えているのだろうな」
シリウスが、そう呟いた、次の瞬間だった。
「…お喋りはこれくらいにしておくとしよう…来るぞ!!」
空間の閉鎖が発生する。同時に、シリウスが、ショットガンと剣を構える。
「だな、さぁ、大暴れと行こうじゃねえか!!」
藤木が、榴弾砲と剣を構える。
「…弱い奴と戦うのは好きではない。
だが、ギルティアが立っている場所、この冷たすぎる空気、嫌いではない…!」
レディオスが、アサルトライフルを構える。
目の前に、凄まじい量の異形が姿を現す。
「…おい、ギルティアさんの情報とはちとばかし違うんじゃねえか?」
藤木の言葉に、シリウスが頷く。
「確かに、量が妙に多いな…だが、いずれにせよ、全滅させれば良いだけの事であろう」
その言葉に、藤木がニヤリと笑って頷く。
「違いねえ…!」
「話している暇があったら、一匹でも多く倒すほうが得策だと思うがな…!」
既に、レディオスは斬り込んでいた。
「フ…ごもっとも、だ!!」
シリウスが、ショットガンを撃ちながら異形の中央に踏み込む。
藤木が、踏み込んだ二人の後方にまだ大量に居る異形に、榴弾砲を叩き込む。
しかし、一気に攻撃を仕掛けた三人は、直後、異変に気付く。
真っ二つにし、吹き飛ばした筈の異形が、次々と再生している。
「…む…!」
シリウスは、ギルティアの旅の話を聞いていた。
このタイプの異形には、覚えがある。
「…まさか、これが話に聞く特殊異形か…!」
「特殊異形だと…!?それは、厄介な奴なのか?」
藤木の問いに、シリウスが答える。
「うむ!本体を見つけ出し、その核を破壊しなければ倒せぬと聞いておる!
…その為には、再生する敵を片っ端から叩き潰す必要がある事もな」
「なら、結局変わらんな…叩き潰し続けるだけだ!!」
レディオスが、ニヤリと笑う。
「そういう事だ、皆、出し惜しみは無しで参ろうぞ!!」
「おう!なら、二人とも下がれ!ネオラーゼル特製榴弾、出血大サービスだァ!!!!」
藤木が叫ぶ。
シリウスとレディオスが、藤木の横まで下がる。
「オラァ!消し炭になりやがれ!!」
特製榴弾による怒涛の連続射撃で、三人の目の前が火の海になる。
火の海の中には、たくさんの異形が倒れている。
しかし、ある一点を中心に、異形達は再び立ち上がり始める。
「レディオスよ、あの再生が始まった中央の一点を狙えるかね?」
再生が始まった一点に、何か、大き目の異形の影が見えている。
「フ…誰に物を言っている…任せて貰おう…!」
レディオスが、そこに向け、正確に銃弾を撃ち込む。
しかし、再生しかかった異形達がその射線上に集結し、銃弾がその大き目の異形の影に届く事は無かった。
「…狙撃は完璧だったな、レディオス」
藤木が、苦笑しながら言う。
「…どうするんだ?シリウス」
レディオスの問いに、シリウスが頷く。
「接近戦に持ち込むとしよう…ついて来い!」
シリウスが、炎の中へと駆け出す。
二人も、それに続く。
行く手を阻む異形が、次々と切り伏せられていく。
敵の再生能力は確かに凄まじかったが、それでも、三人の進撃を止める事は出来なかった。
やはり、再生する異形の中央には、まさしく『異形』と呼ぶに相応しい姿の、叫ぶ人間の顔が体中についた異形が立っている。
「…あれが…!」
「ほう…面白い姿をしているな」
レディオスが、ニヤリと笑う。
「気味悪いと思うんだが…まぁ良い、この距離なら!!二人とも、射線から退け!」
藤木が、榴弾砲を構える。
「承知!だが、阻まれて至近距離で爆発されてはかなわんからな…!!」
咄嗟に、二人が飛び退き、ショットガンとアサルトライフルを放ち、射線上に集まろうとした異形を掃討する。
直後、その先にいる特殊異形に、榴弾が直撃する。
「おっしゃァ!直撃ィ!!」
凄まじい爆発は、戦闘の終了を告げる…筈だった。
「…いや、まだ終わっとらんようだぞ」
爆発の真ん中に、紅の光が見える。
それを中心に、異形が次々に崩れていき、その残骸が、その光を中心に集まり始める。
「…嫌な予感がするんだが、気のせいか?」
藤木が尋ねる。
「わしも同感だ」
「先に一撃ぶち込めば良いだけだ…!!」
レディオスが、アサルトライフルで、その紅の光を撃ち抜く。
紅の光から血のような物が散るが、どうやら、決定打には至らなかったらしい。
「…チ…」
レディオスが舌打ちをする。
集まった異形が、巨大な異形の姿を形作る。
「藤木、レディオス、下がっておれ!
…アークトゥルース!出番ぞ!!」
シリウスの言葉に応え、空間の壁を破ってアークトゥルースが姿を現す。
「オラァ!!」
藤木が、巨大な異形に向けて、榴弾砲を叩き込む。
すぐに再生されるが、異形が大きく仰け反り、隙が出来る。
「でかした!」
相手が仰け反っている間に、シリウスがアークトゥルースに乗り込む。
「…まずは核の位置だな…!」
シリウスが、敵の核の位置を確認しようと、両肩の光子爆雷を放とうとする。
「ん?」
敵の胸部に、赤い物が見える。血、だろうか?
「…まさか、先程レディオスが叩き込んだ銃弾か?」
どうやら、銃弾が与えたダメージはしっかりと残っていたらしい。
「…レディオス、見事だ」
デモンズ・スローターのレールガンが、異形に向けて叩き込まれる。
しかし、それは、異形の密度を集中させた異形の腕に阻まれる。
「成る程、そのような芸当も出来るか…」
異形が、不気味な呻き声を上げる。
「!?」
機体が、急に重くなる。
どうやら、下の方にいた二人にも、同様の症状が発生しているらしい。
「この呻き声の影響か…!!」
異形が、凄まじい勢いで突進してくる。
「…何のこれしき!!」
強引に機体を動かし、異形を蹴り飛ばす。
藤木とレディオスを手に乗せ、その場を離れる。
異形の呻き声の効果範囲外で、二人を降ろす。
「ここからが本番ぞ!!」
デモンズ・スローターに光が集まる。
そして、アークトゥルースが異形に向けて反転する。
のしかかる重みを、圧倒的出力で強引に撥ね退けながら、異形に向けて、一歩一歩前進する。
異形の全身の口から光線が放たれる。
「…ふんっ!!」
アークトゥルースが、剣を盾にして防ぐ。
特殊なコーティングが追加された剣は、光線を全く受け付けなかった。
「今だ!!」
光線が途切れた瞬間を突いて、アークトゥルースが、ブースターを全開にして強引に空中に上がる。
そして、異形に向け、一気に突進した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
呻き声によって付加された重量によって増加した加速度を上乗せされた斬撃は、防ごうとした異形の腕ごと、異形を真っ二つにする。
地面を抉りながら、アークトゥルースが反転する。
「これで、終わりぞ!!」
シリウスが、ニヤリと笑った。
胸部に砲身を突きつけた、デモンズ・スローターの粒子加速砲モードの射撃。
異形の核は、閃光に飲み込まれて消滅していった…。
「…我らの勝利だ!!」
シリウスが、アークトゥルースから降り、空間閉鎖の解除を確認する。
「…あの状況であそこまでの動きを…凄まじい出力だな…」
藤木が言う。
「うむ、動力は、我々の想像も及ばぬものを使用している」
「そういえば、動力は何なんだ?」
「ブラックホールを動力として搭載している、と言えば分かるだろうか?」
「何だと!?」
藤木が、その言葉に驚愕する。
「おいおい、そんな危ないもんを積んでんのかよ、こいつは」
「確か、空間連鎖式縮退炉、とか言っておったな…空間の揺らぎを利用したものらしい」
「…彼女の立っている戦場に立つのには、それ程の力が必要か…」
レディオスが呟く。
「事実、話した通り、このわしの剣が折れる寸前までボロボロにされたからな…。
…世界は広いわい…無限に続く世界の連なりならば、尚更、な」
「全く、その通りだぜ…」
藤木が、そう言って苦笑する。
「もっとも、わしとて、さほど苦戦せずに倒せたのは、恐らくお主らのおかげだがな。
藤木が榴弾で作ってくれた隙、そして、レディオスの狙撃による核の特定のおかげで、本来せねばならぬ事をする手間が省けた」
「それくらい出来ねえと、わざわざこんな場所までついてきた意味は無えよ…ただ土産を取りに来ただけになっちまうぜ」
藤木の言葉に、シリウスが笑う。
「フッ…違いない」
「つまらん戦いにならず、俺も満足している」
レディオスも、そう言って笑った。
「そうか、それは何よりぞ…さて、続けるか?」
シリウスのその言葉に、二人は頷き、次の目的地に向けて歩き出した…。
続く




