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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.51 叶わぬ幻想(ゆめ)

   Act.51 叶わぬ幻想ゆめ


 討伐を開始してから、四日が経過した。

 ギルティアは、その日の討伐を終え、ファラオ店長の所へ討伐量の報告に来ていた。

「今日までで、討伐率は六十パーセント、と言った所ですか…」

「ああ、それと、指揮個体は既に誕生してるな。動きに統制が取れてきた」

「…ですね。では、推定異形残量が二十パーセント以下になってからは、合流しましょう」

 ギルティアの言葉に、ファラオ店長が頷く。

「それが良いと思うぜ。そこからは、俺も数日間夜間営業を休んで一気に蹴りをつけた方が良いだろう。

 で、指揮個体異形の事は、あの二人の刑事には伝えたのか?」

「いえ、この後、外の車の中で待っている二人に伝えようと思います。

 …しかし、指揮個体異形の出現時はすぐに彼らを逃がさねばなりませんね」

 その言葉に、ファラオ店長が、だが、と返す。

「普通の異形討伐にも、わざわざ彼らを同行させる必要はないんじゃないか?嬢ちゃん一人の方が、危険は少ないだろう?」

「ええ、しかし、彼ら自身が、真実を知ったからには、市民を守る為に戦わねばならないと、私への同行を申し出たのです。

 確かに危険は増しますが、そこまでの覚悟で私に同行しようとする刑事としての覚悟には、答えたいのです」

 その言葉に、ファラオ店長は静かに笑った。

「フ…嬢ちゃんらしいな。まぁ、嬢ちゃん程強ければ、それくらいは大丈夫だろう。

 それに、例の刑事二人も、銃撃で異形の一匹や二匹、沈められるだろう?」

「ええ、銃刀法があるこの国で、武器も戦闘能力も無い民間人がついてくるのなら流石に困りますが、彼らほどの自衛能力を持っているならば、大丈夫です」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「少なくとも、今まで彼らが私の戦いの邪魔になった事はありませんでしたよ」

「…だろうな」

「さて、ではまた明日報告に伺いますよ」

 ギルティアの言葉に、ファラオ店長が頷く。

「ああ。しかし、彼らの所に厄介になってから、妙に機嫌が良いじゃないか」

「…そうですか?」

「ああ、一目見ただけで分かるぞ?」

 その言葉に、ギルティアは頷く。

「ええ、私自身も、ここ数日、それは感じていました…私にも、原因は分からないのです」

「ふふ、成る程、嬢ちゃんにも普通の女の子らしい所があるって事かな…」

 ファラオ店長が、そう言って笑う。

「…え?」

「いや、多分嬢ちゃん自身にも分からんだろうし、気にするな」

 その言葉に、ギルティアは静かに頷いた。

「…分かりました、覚えておきます…さて、私はこれで失礼致しますよ」

「ちょっと待て」

 帰ろうとしたギルティアを、ファラオ店長が引き止める。

「先日制服着てたって事は、お前さん、偽造の学生証も持ってるな?」

「はい、一応作っておきましたが…?」

「なら、夕方の営業限定だが、学生証の提示でツタンカー麺が、チャーシュー、味玉、コーン乗せで、半額で食えるぜ」

 その言葉に、ギルティアが反応する。

「それは、学割というものですか?」

「ああ、嬢ちゃんも、今の『設定』上は学生だろ?言えるタイミングが無かったので今まで言えなかったが、嬢ちゃんも活用すると良いぜ」

 ファラオ店長は、そう言って笑った。

「ふふ…悪くない提案です。では、後でまた寄らせて頂きますよ」

「ああ、またな、嬢ちゃん!」

「それでは、ごきげんよう、ファラオ店長!!」

 手を振るファラオ店長に、ギルティアが会釈で答え、矢作警部の車へと走り出す。

「ただいま戻りました」

 ギルティアが、車の戸を開けて、中に乗り込む。

「おかえり、ギルティアさん」

 車が、冬川の自宅に向けて走り出す。

「ファラオ店長側と合わせて、異形討伐率は六十パーセント、残りは四十パーセントです。

 残りが二十パーセント以下になり次第、ファラオ店長と合流して一気に討伐を完了します」

「合流まで大体あと何日くらい掛かるだろうか?」

 矢作警部の問いに、ギルティアは少し考え、言葉を紡ぐ。

「ここから先は、異形探しにもハズレが出始めます。

 早くて二日、遅くて四日ほどですね…その後、指揮個体異形と交戦することになります」

「指揮個体異形?」

 矢作警部が、聞きなれぬ言葉に、聞き返す。

「ええ、多数の異形を統率する強力な異形です」

「いわゆる、ボス戦…って奴ッスか?」

 ギルティアが頷く。

「ええ、そう表現して差し支えないと思います」

 そして、とギルティアは続ける。

「…指揮個体異形との交戦の際は、閉鎖空間の内部から急いで逃げる事を、強くお勧めしますよ」

「何故だ?」

「指揮個体は、そもそも巨大です。

 ただ動くだけでも、衝撃波が放たれただけでも、生身であれば、人の命は簡単に失われてしまいます」

 ギルティアの言葉に、冬川が思わず口走る。

「危なッ!」

「ですから、指揮個体異形が出現したら、私が閉鎖空間に穴を開けますので、その間に脱出してください」

「了解した」

 矢作警部が頷き、続ける。

「流石にそのレベルの敵になると、我々に出来る事など何も無いのだろうな」

「ええ、それに、私も機動兵器を持ち出して戦います。

 攻撃に巻き込まれなくても、戦いに巻き込まれるだけで非常に危険です」

 その言葉に、冬川がボソッと頷く。

「…頼まれたってそんな場所に長居はしたくないッス。死ぬのはごめんですから」

「ですよね。私も、待っていてくれる人がいる、そんな人を、確実に死ぬような場所に置いておきたくはありません」

 ギルティアが頷く。

「…しっかし、指揮個体異形とかはともかく、普通の異形だけで一体何匹いるんスか、今日だけでも百匹以上倒しましたよね?」

 冬川の言葉に、ギルティアが笑う。

「これでも、かつて、私が初めてこの宇宙を訪れた時程ではありませんよ」

「え?」

「以前、行方不明事件が爆発的に増加していた事はありませんでしたか?」

 その言葉に、矢作警部が頷く。

「ああ、そして、ある一日を境に、行方不明事件急激に減少、その後暫くは行方不明事件はほぼ消滅、そして、現在に至る、だな」

「私が最初にこの宇宙を訪れた時、一億を上回る異形の軍勢を一人で相手にしましたから」

 その言葉に、冬川の声が裏返る。

「い、一億ぅ!?」

「知っての通り、異形の展開する閉鎖空間内部は、通常空間と物理的整合性はありません…起こり得る事です」

 その言葉に、矢作警部は苦笑した。

「我々は、知らない間に、ギルティアさんに何度も助けられてきたんだな…」

「いえ、それが鍵である私の使命、唯一の存在意義です…当たり前の事ですよ」

 ふと、冬川が尋ねる。

「そう言えば、この宇宙群の鍵はどうしてるんスか?ギルティアさん、確か別の宇宙群の鍵でしたよね?」

「…そう、本来今私が行っている事はこの宇宙群の鍵がやるべき仕事です。

 実際、この宇宙群では、私は限定的なアクセスしかできません。

 この宇宙群の鍵がもし戦っていれば、ここまで異形が増える事は無かった筈…。

 もしこの宇宙群の鍵と出会う事があれば、問い詰めねばなりません…一体、何をやっていたのか、と」

 その眼には、隠し切れない怒りが宿っていた。

「つまり、理由はともあれ、少なくとも戦ってはいない、と…」

「ええ」

 矢作警部がため息をつく。

「世界の根源とのアクセス能力の事だが、一体、本来の宇宙群にいる時と比べてどれくらいなんだ?」

「…本来のアクセスの五十パーセント程度です。

 もっとも、今は受けた傷のせいでそのアクセス能力すら使えないのですが、ね」

 そう言って、ギルティアは苦笑した。

「もしかして、その百パーセントの力を使えれば、ギルティアさんはかなり深い傷を負わずにすんだのか?」

「…ええ、恐らく防ぎ切れていたと思います」

 事実、かつて彼女は、自らの故郷で、恒星クラスのサイズまで巨大化した異形を含めた、数億どころでは済まない、圧倒的な数の、指揮個体クラス以上の力を持った異形達をたった一人で殲滅したことがある。

「…もっとも、それを言っても始まらないのですがね。それを承知で、私は旅を始めたのですから。

 ただ、だからこそ、故郷で、まだやらねばならない事が残っているにもかかわらず、使命を果たさない鍵など…私は認めません」

「だろうな…ギルティアさんが思うのも無理はないと思うぞ」

「まぁ、生まれつき力を持ってしまう事も、悲劇と言えば悲劇ッスけどね…」

 その言葉に、冬川が頷く。

「ああ、ギルティアさんのようなタイプならまだ良いが、耐えられない奴もいると思う」

「…そう、ですね…」

 そう言って、ギルティアは寂しげに笑った。

 車が、冬川宅に到着する。

 ギルティアと冬川が車を降りる。

「…では、また今夜」

「ああ、また会おう」

 矢作警部は、そのまま車を運転して自宅へと戻って行った…。

「綾子ー!今帰ったよー!!」

「おかえりなさーい!今日も怪我は無かったみたいね!良かった!」

 綾子が、家に入るなり冬川と抱き合う。

「…ふふ」

 それを、ギルティアは微笑みながら見守る。

「ギルティアちゃんも、大丈夫だった?」

 ひとしきり抱き合うと、綾子がギルティアに尋ねる。

「…ええ、私は問題ありませんよ」

「ギルティアちゃん、さっすがー!」

 その言葉に、ギルティアが笑う。

「いちいち問題が起こっていては、鍵として失格ですよ」

「けど、魔法少女って、毎回毎回、出てくる新しい敵に苦戦しない?」

「だ、だから私は魔法少女とは違うと…まぁ良いです」

 ギルティアが、苦笑しながら説明する。

「確かに、全く新しい敵が出てくれば、相手の強さによっては苦戦するでしょうが、今私達が相手をしているのは、ごく一般的な異形ですから」

「なーんだ、つまんない」

 綾子の言葉に、冬川が呆れる。

「ギルティアさんが苦戦するような相手と戦ったら、俺達が生きて帰れないよ」

「…あ、それは困るわ」

 そんな他愛も無いやり取りを、ギルティアは静かに見守り続ける。

 暫くして、会話が一段落すると、ギルティアが言葉を紡ぐ。

「…では、私は一足先に休ませて頂きますよ」

「はーい!」

「…おやすみなさい」

 ギルティアは、そう言って、自分に預けられた子供部屋へと入っていった…。


 子供部屋で、ギルティアは、ふと思い出したように呟く。

「さて、最近滞っていましたね…日記を書かねば」

 ギルティアは、旅道具の中から、鍵つきの手帳型の日記帳を取り出す。

 自らの旅道具を入れたアタッシュケースの再奥に入っていた鍵を取り出し、日記帳を開く。

 紙媒体の原始的な日記帳に見えるが、実際は、紙媒体に見えるだけであって、

記述された内容を寸分違わず電子情報として保存し、過去の記述をその時の筆跡そのままに、紙媒体として表示することが出来るという物で、今までのギルティアの旅の軌跡を全て記録していた。

 ギルティアにとって、日記を記述する事は、自らの使命から視線を逸らさないように、自らの使命を再確認するという意味を持っている。

 自分に、使命を言い聞かせている、と言えるのかもしれない。

 ギルティアはいつものように異形討伐の現況と今後の展望を記述する。

 そして、ギルティアは、自らの記述した過去の日記を静かに読み始めた。

 過去の日記を読みながら、ギルティアは思う。最近、昔と比べてとても楽しいな、と。

 人間とこのような形で接触するようになった事自体が、ごく最近だ。

 本来ならば、必要な時だけ他者と協力し、ずっと誰かと共に旅を続ける必要は無い。

 ギルティアは一人でも十分戦える、そして、一人で戦い続ける為に生を受けた者なのだから。

 しかし、ギルティアは、少しだけ思ってしまっていたのだ。

 少しだけ、もう少しだけ、この時間が続けばいいのに、と。

 もう少し、少しだけで良い、人として、普通の少女として、この温もりを感じていたいと。

 しかし、ギルティアが戦えば戦うほど、その時間は終わりへと近づく、ギルティアはその事実を知っていた。

 そして、その時間を終わらせる事が、人々の幸せに繋がる事も、ギルティアは知っていた。

「…叶わぬ幻想など…!」

 静かに涙が流れる。

 自らの日記に記述されているのは、今までの戦いの旅の軌跡。

 その旅の軌跡に恥じないように、ギルティアは歩み続けねばならない。

 暖かであれば、暖かであるほど、戦わねばならない。

 それが大切であれば大切であるほど、守らねばならない。

 守れば守るほど、ギルティア自身はそれから遠ざかっていく。

 守られた場所に、ギルティアが居続けることは許されない。

 そう、平和な世界に、ギルティアは必要無いのだから…。

「鍵であるこの私自身が幸せである必要が、どこにあるというのです…!」

 ギルティアは、今までと同じように静かに呟く。

「考えるだけ無駄、ですか…」

 考えれば考えるほど、余計な労力を消費する。

 その分の労力を、異形との戦いに向けた方が、余程良い。

 ギルティアはそう考える事で、強引に思考を閉じた。

「…早く眠らねば…」

 ギルティアが目を閉じる。眠れば、少なくとも余計な思考を巡らせる必要は無い。

 ギルティアは、そのまま眠りに就いた…。


 それから五時間ほどが経過し、ギルティアは目を覚ました。

「…ん…」

 ギルティアが身を起こし軽く伸びをする。

 日は既に昇っていた。

 ギルティアが、普段着でもあるワンピースに着替えて居間に行く。

「おはようございます、冬川刑事、綾子さん」

「早いッスね…」

 冬川は、眠い目をこすっている。

 どうやら、これから眠るらしい。

「…もう少しで矢作警部が来ますんで」

「成る程…私の護衛お疲れ様です…」

 外に車が止まる音がする。

「護衛の交代だ」

 やはり、矢作警部だった。

「やっと交代ッス…おやすみなさーい…」

 冬川はあくびをすると、自分の寝室に歩いて行った…。

「さて…それじゃ私も少し寝るわ。流石に睡眠時間五時間は、人間の女性のお肌には敵よ」

 綾子も、同じく寝室に歩いて行った…。

「…お肌に、敵…ですか。ごめんなさいね、私のせいで睡眠時間も削られているようです…」

 ギルティアは苦笑した。

 思えば、そんな事を考えた事もなかった。

 流石は鍵、その面では相当頑丈に出来ているのだろう。

 ギルティアは少しだけ、『勝った』という感情を覚えたが、それを表に出す事はなかった…。

「…やはり、早く討伐を完了せねば」

「とはいえ、日が昇っている間に出来る事はあるのか?」

「ええ、少しファラオ店長の所に行きます。まだ営業開始の時間では無い筈ですので」

 その言葉に、矢萩警部が頷く。

「分かった」

 矢萩警部が運転する車に乗り込み、移動する。

「少し、別な世界で同時に討伐を行っている、知り合いの討伐状況を確認してみます」

「…成る程」

 少し会話している間に、ツタンカー麺に到着する。

「ご迷惑をおかけします」

「いや、命の恩人なんだ、これくらいはするさ」

 ギルティアが、矢作警部を車に残し、店の奥に入る。

「おお、嬢ちゃんか、どうした?」

 ファラオ店長は、どうやら仕込みも一段落したようで、テレビを見ていた。

「アルフレッドへの通信機は使えますか?」

「ああ、屋台に載ってるから、好きに使いな」

「了解です」

 ギルティアが、屋台に搭載されていた通信機を操作すると、数分の間をおいてアルフレッドが応答する。

「こちらアルフレッド、どうしたカーメンよ…って、ギルティアさんでしたか…」

 一瞬だけ、アルフレッドの素の口調だったのに、ギルティアが苦笑する。

「…ええ、ファラオ店長から通信機を借りて連絡しています」

 その言葉に、アルフレッドが頷く。

「超空間通信機は各組織で全く構造が異なり、共通規格がありませんからな…」

「ええ…しかし、アルフレッドもお元気そうでなによりです」

「シリウス社長から事情は聞いております…討伐状況の確認ですな?」

 その言葉に、ギルティアが頷くと、アルフレッドは笑いながら頷いた。

「シリウス社長と藤木社長、それにレディオスさんの三人の大暴れで、この世界の異形は、二日経たずに全滅しました」

 その言葉を聞いて、ギルティアは、これ以上ない程に納得した。目に浮かぶ。

「現在は、二つ目か、三つ目の世界に三人で赴いている頃でしょうな。

 …あと数日で合流できると思いますぞ」

「了解です」

 どうやら、丁度良いタイミングで合流できそうだ。

「異形によるそちらの被害はどうなっていますか?」

「異形と思しき行方不明事件は確認されておりましたが、そもそも、ラーゼルの台頭時代は行方不明事件など日常茶飯事、目立った混乱や、非常事態は発生しておりません」

 その言葉に、ギルティアが頷く。

 成る程、そもそも人為的な行方不明事件が、しかも財力や権力に物を言わせた強引なそれが横行していたあの世界では、異形が原因であろうが人間が原因であろうが、対処できない行方不明という意味では同じ、混乱が起こらないのも理解できる。

「…理由はともあれ、混乱が発生していないようで安心しました」

「それに、彼ら三人が異形討伐に歩いた夜、行方不明事件は発生しませんでした」

 その言葉に、ギルティアは思わず笑ってしまった。

 確かに、あの三人がうろうろしている中、わざわざ事件を起こそうとする人間など、そうはいないだろう。

「それは本当に何よりです」

「時に、ギルティアさん、シリウス社長からおおよその事情は聞き及んでいるのですが、最高位異形に、究極生命…事態はかなり深刻なようですな」

 その言葉に、ギルティアが頷く。

「事件がこの宇宙群の深部とここまで関連しているとは、私も思いませんでした。

…こうなると、やはり、この宇宙群の鍵とも会わねばならないでしょう」

 ギルティアの言葉に、アルフレッドは少し考え、言葉を紡ぐ。

「…相当、そう、まだ小生が旅をしていた頃の昔ですが、

今ギルティアさんが行こうとしている方向の何処かの世界に、この宇宙群の鍵が隠れ住んでいると、聞いた事があります」

 その言葉に、ギルティアが驚く。

「それは本当ですか?」

「ですから、相当昔、しかも、聞いた話です。

 …信憑性はそこまで高くは無いと思われます」

 その言葉に、ギルティアが頷く。

「真相は、これから続く旅で分かるかも知れませんね…では、失礼します」

「はい、ギルティアさんの方も、くれぐれもお気をつけて」

 通信が切断される。

 ギルティアがファラオ店長の方へと歩く。

「私の旅の連れとの合流は、数日後になりそうです」

「お、丁度良いタイミングじゃないか」

「ええ、これで指揮個体異形との戦いがはかどります」

 そう言ってギルティアは笑った。

「…さて、では今日の夕方にラーメンを食べにまた来ます」

 ギルティアの言葉に、ファラオ店長が頷く。

「ああ、分かった」

「それでは、ごきげんよう!」

 ギルティアは、ファラオ店長に軽く会釈をし、矢萩警部の車へと走り出した…。


 ギルティアが、車に乗り込む。

「おかえり、ギルティアさん」

 矢作警部の言葉に、ギルティアは、ただいま帰りましたと答え、続ける。

「私の連れとの合流は、明後日になりそうです」

「分かった…その後は、異形討伐後、すぐに別な世界に旅立つのか?」

 その言葉に、ギルティアは頷く。

「ええ、ですから、明後日、連れと合流してからは、ファラオ店長の所に戻りたいのですが、よろしいでしょうか?」

 その言葉に、矢作警部が頷く。

「ああ、指揮個体を撃破すれば、こちらも、犯人を発見するも、犯人は抵抗後、致命傷を負ったまま逃走、生死不明の行方不明、という事に出来る。

 …当面、被害は出ないのだろう?ならば、その報告は信憑性を持つからな」

「成る程…あ、それと、今日の夕方、もう一度ここに寄らせて頂きます」

「ん?」

 ギルティアは、静かに笑いながら言った。

「戦闘前に夕食を、ね」

「…成る程」

 矢萩警部は、笑顔で頷いた…。


 そして、その日の夕方、ツタンカー麺にて、下校中に立ち寄った学生に混じって、警官二人を連れ立った、見慣れた制服を着た見慣れぬ美少女が、ラーメンを二杯完食、店長とまるで友人のように軽く言葉を交わすと、そのまま立ち去った。

 その後、それを目撃した男子生徒たちの間で、謎の美少女やら、学校に来るに来れない不登校のお嬢さまやら、そんな噂が立ったとか立たなかったとか…。


 一方、そんな事になっているとはつゆ知らず、ギルティアは冬川、矢作警部を連れて、夜の異形討伐を、相も変わらず凄まじい勢いで終わらせて行くのだった…。



ギルティア日記

順調に異形の撃破は進んでいます。

同行を申し出た刑事二人も私の足を引っ張っていませんし、問題は無いと言えるでしょう。

そして、シリウスと合流してから、ここの指揮個体を撃破すれば、

恐らく、エルヴズユンデ完全再生に必要な根源的エネルギーは揃う筈…。

そうすれば、誰かの手を借りずとも、異形と渡り合う事は出来る…。

…早くしなければ。私は本来一人で戦うべき者なのですから…。


続く


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