Act.47 表裏の接点
Act.47 表裏の接点
ファラオ店長が店を開いている宇宙、かつてギルティア達が異形を討伐していた場所の近く…。
「しかし、本当に何か手がかりが得られるんですかねぇ?矢萩警部」
「被害者が出ている以上、何かしら真相はある筈だ」
二人の刑事が、異形の良く現れる路地裏へと向かっていた。
矢萩警部と呼ばれた方の男は、初老、それに同行するのは、二十代後半の男、部下だろう。
「不定期に発生する、謎の失踪事件…。
場所には一定の共通点があるが、失踪した人々に共通点はなく、唯一共通しているのは、失踪の痕跡すら発見されていない事だけだった…」
「そうだ、そして、捜査に回った警官もまた、同じく失踪するか、あるいは何も見つけられないかのいずれか…」
矢萩警部はため息をつき、言葉を続ける。
「事件が起きる度に迷宮入りし、今回は俺達に御鉢が回ってきたって訳だ…頑張ろうじゃないか、冬川!」
「頑張るって言っても、一体、どうするんスか?取り敢えず、現場の近くまでは来ましたが…」
二人は、異形の良く出現する路地裏の近くまで来ていた。
「…まずは現場を調べる事から始めるのは、基本だろう?」
「厄介事に巻き込まれるのは嫌ですよ?なんせ自分…」
冬川がそこまで言った所で、矢萩警部はため息をつきながら、その先を言った。
「新婚ホヤホヤだから、だろ?」
「そうですよ!幸せ絶好調ですよ~!」
冬川が満面の笑顔で言う。
「そんな事を言ってると、本当に二人揃って失踪する羽目になるぞ…仲人をやった俺の身にもなれ」
矢萩警部が、そう言って苦笑する。
「だったら何で自分を連れてきたんスか!」
「どうにも、やはり信頼できる奴でないとな…特にこういう裏がありそうな仕事は」
「信頼されてるってのも楽じゃないですね~…」
冬川がため息をつき、笑う。
「まぁ、世の中、そんなもんだ」
「そうなんですが、ね」
目的の路地裏に到着する。
「共通の特徴としては…人通りが少ない、薄暗い場所で、夜発生する、って事だ。そして、今回はここに…」
「…何か分からないですが、背筋が寒くなってきましたね…」
「ああ…確かに」
寒い訳ではない。
「…藤川、何かがおかしいぞ、これは」
矢萩警部が、無意識のうちに拳銃を取り出す。
その直後だった。
空間が閉鎖され、二人の目の前に、大量の化け物が姿を現す。
…異形だった。
「…こいつぁ…何だ!?」
「ば、化け物だーッ!!」
冬川の声が裏返っている。
爪が異常発達した異形が、前に立っていた矢萩警部に襲いかかる。
「ぬっ…!?」
咄嗟に回避し、そのまま異形を投げ飛ばす。
「ふんっ!」
そして、冬川は無線で救援を呼ぼうとするが、通じない。
「…冬川、時間は稼ぐ、先に逃げろ」
「矢萩警部!?」
「こんな化け物相手に、威嚇射撃の必要もない、撃って撃って撃ちまくって生き延びる!!
…恐らく、こいつらが失踪事件の犯人だ。
こいつら、明らかに俺達を喰う気満々だぞ…恐らく、他の失踪者達も…」
そう言って、矢萩警部は拳銃を、投げ飛ばした異形の脳天に向けて発砲する。
異形の脳天に銃弾が突き刺さり、その異形は絶命する。
「…こ、怖い事言わないで下さいよ!」
「フ…B級ホラー映画の世界だよなぁ、全く」
矢萩警部は、そう言って笑った。
「…先に行けと言ったぞ!俺も後から追い付く!」
「そ、その発言、その手の映画の死亡フラグっスよ!し、死なないで下さいね、警部!!」
そう言って、冬川が駆け出す。
「やれやれ…さて、弾が尽きるまでは撃ちまくるさ…こんな化け物、今ここで野放しにしておくには危険すぎるからな!」
そう言って、矢萩警部が異形相手に一歩を踏み出す。
直後、冬川の声が聞こえる。
「警部~!何か見えない壁があって出られません!」
「何だと…!?」
その一瞬の隙を突いて、異形が矢萩警部に襲いかかる。
「くっ!」
振り下ろされた爪が、咄嗟に避けた警部の腕に傷を作る。
「…お返しだ、受け取れ!!」
矢萩警部が、再び銃弾を異形の脳天にぶち込む。
再び、異形の一匹が絶命する。
「まぁ、銃弾が通じるだけマシか…ぐっ…!」
傷が痛むのだろう。
「警部!」
「この程度、どうという事はない…何としても、生き延びるぞ…!」
矢萩警部は、そう言って再び襲いかかってくる異形に向けて拳銃を構える。
「了解です…綾子、必ず、必ず生きて帰るからな…こんな所で死んでたまるか!!」
冬川も、拳銃を構える。
「よし、行くぞ!!」
冬川と矢萩警部が、一斉に撃ちまくる。
隠れるなど、異形相手に意味はない。
あとは、正面から押すしか、方法はなかった。
一方、その頃、ギルティアはツタンカー麺の、跡地にたどり着いていた。
ギルティアが、店の前にある張り紙を見る。
『ツタンカー麺は移転しました、移転先はこちら』
「隣町に移転、ですか…ならば、今日は多少でも異形を討伐して、明日にでも訪れる事にしましょう。
…異形による被害が拡大する前に、可能な限りの異形を排除しなければ…!!」
そう言って、ギルティアは駆け出した。
そう、その選択は正しかった事を、ギルティアはその直後に知る事になる…。
二人の警官は、少しずつ押されていた。
いかんせん、数が多すぎる。
「くっ…このままでは…!」
矢萩警部の額に、汗が浮かぶ。
「諦めてたまるものか…俺は生きて帰るんだ!!
…綾子ぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
冬川が叫ぶ。
「へっ…普段はやる気無いのに、
こういう時に限って、俺以上に熱くなりやがる…。
…そうだ、仲人としても、俺の判断ミスで冬川を死なせる訳には行かんだろう、
ここで後れを取ったら男の恥だぞ、矢萩秀一!うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
気迫は十分だ。しかし、やはり数が違い過ぎる。
二人に、異形が一斉に襲いかかろうとした、次の瞬間だった。
「させません!!」
その叫びと共に、二人の横を四枚の翼らしきものを持つ何かが通り過ぎ、直後、刃の閃きが、異形達を一斉に真っ二つにした。
「…な、何だ…!?」
二人の警官の前に、剣を携えた一人の少女が降り立っている。
…ギルティアだった。
「そこのお二人、ご無事ですか!?」
ギルティアの言葉に、二人が唖然としながら無言で頷く。
「…ならば、下がっていて下さい…すぐに終わらせます!!」
ギルティアが、剣と爪を構え、異形に向けて突進する。
一匹の異形を真っ二つにし、他の異形が反応する前に更に一匹をレーザーで撃ち抜く。
背後に回り込もうとした異形を振り向きざまに蹴り飛ばし、そのままレーザーで脳天を撃ち抜く。
まさに怒涛の大暴れだった。
「…おい、何だありゃ…」
矢萩警部が、冬川に尋ねる。
「お、俺が知る訳ないじゃないですか…!」
冬川が、答える。
「ごもっともだ。ただ…どうやら、俺達は助かったらしいな…やれやれ、だ」
「まるで変身ヒロインッスね…あの格好にしろ」
「まるで、というよりも、あの翼、戦いぶり、あの化け物…アレは、本物なんじゃないか?」
矢萩警部の言葉に、冬川は笑う。
「そんな非現実的な…」
「あの化け物と、あの少女の戦いを見ても、お前は本当にそう言えるのか?」
「それは…」
答えを聞かずに、矢萩警部は立ち上がる。
「…さて、と…」
そして、拳銃を構える。
「俺達も、一矢報いに行こうじゃないか」
その言葉に、冬川も力強く頷き、拳銃を構えた。
ギルティアは、既に集まっていた異形の半数以上を殲滅していた。
数は、先日異常に集まっていた異形よりも更に多かったが、ギルティアはそれでもそれらを圧倒していた。
「次!」
ギルティアが、振り向きざまに異形を両断する。
更に、目の前の異形が飛びかかってくる。
直後、二発の銃声が響き、目の前の異形の脳天が撃ち抜かれる。
「…援護に、感謝します」
ギルティアは微かに微笑み、振り向かずにもう一歩踏み込む。
前方の異形が、一気に両断される。
更にその後方にいる異形が、レーザーに撃ち抜かれる。
そして、その横にいる異形が、銃弾に撃ち抜かれる。
ギルティアが足を止めずに更に進む。
「これで、最後です!!」
爪のレーザーを刀身として固定する。
そして、跳躍する。
「でええええええええええええええええええええええいっ!!!」
空中から急降下しての、斬撃の嵐。
残っていた異形達は、細切れに吹き飛んだ。
「…願わくば、汝らの罪が、祓われん事を…」
ギルティアが、剣を降ろす。
直後、空間の閉鎖が解ける。
「…銃刀法違反で現行犯逮捕、なんて悠長な問題じゃねえな、これは」
矢作警部が、ギルティアに声をかける。
「おかげで助かった。まずは、お礼を言わせて貰う…俺は矢作秀一、警部だ」
矢作警部が、警察手帳を出す。
「警部…成る程、その服装に手帳…警察関連の方でしたか」
ギルティアの言葉に、矢作警部が頷く。
「先日起こった、正体不明の失踪事件の調査に来たらこの訳の分からん化け物に襲われた…」
「失踪事件、ですか…」
ギルティアが呟く。
「…くっ…やはり、間に合いませんでしたか…!」
ギルティアが、軽く足を踏み鳴らす。
この事態、どうやっても犠牲者が出る事は分かっている。
しかし、それでも、ギルティアにとっては辛い事だった。
ギルティアの目から、一筋の涙がこぼれる。
「…ともあれ、お二人が無事でよかったです。私はギルティア…ギルティア=ループリングと申します」
そう言って、ギルティアがドレスの裾を軽く上げて挨拶する。
「おっと、自分だけ名乗りが遅れましたね…自分、冬川哲平と言います。矢作警部の部下です。
おかげで、本当に助かりました…協力に感謝します!」
冬川が、ギルティアに敬礼する。
「だが、これは俺たち警察の扱う事件って領域じゃなさそうだな…」
矢作警部が呟き、言葉を続ける。
「…警察内部にも他言はしない。事情を説明してくれないか?
流石に、ここまでの目にあったからには、それ相応の情報は欲しい」
「…分かりました。では、私はあと数箇所巡らなければなりませんが、
その後であれば、ご説明致します…どこか内密に話が出来る場所はありませんか?」
「音が外に漏れない場所…冬川、あそこに行くか?」
矢作警部が、そう言って笑う。
「…この娘と?何か、女房やその他に要らない誤解を与えそうで怖いです」
冬川が、そう言って苦笑する。
「私の方でのあては、恐らく今、私と同じ事をやっていて留守でしょうし…」
ギルティアが、ツタンカー麺が移転したと言う隣町の方を見やる。
一方、ファラオ店長は、ギルティアの言葉どおり、店開きを中断して異形討伐を行っていた。
「…ぶえっくしょい!!」
その最中、大きなくしゃみをする。
「誰か俺の噂をしてるのか…?まぁ良い。
残りはまだまだいる、とっとと終わらせて屋台営業を続行させて貰うぜ…!!」
そう言って、ファラオ店長は、包丁を構えて大量の異形に突っ込んでいった…。
電話をかけていた冬川が、通話を終えて戻ってくる。
「…あの、女房に連絡したところ、自分も同行したいそうな…」
「他言しないのであれば、構いませんよ。
し、しかし…あの、さっきから気になっていたのですが…『あそこ』とは?」
先ほどから浮かんでいたギルティアの頭の疑問符を、ギルティアはそのまま言葉にする。
「行けば分かるさ…あと数箇所、こういう場所があるんだろう?なら、行ってくると良い。
俺達も少し準備してくるから、その後この場所に集合でいいな?」
矢作警部の言葉に、ギルティアは頷いた…。
続く




