Act.46 前進か後退か、それともその両方か
Act.46 前進か後退か、それともその両方か
ギルティアが、拡散分布図を確認し終わる。
「進路上に、かなりの数が飛来している宇宙が一つ、進路とは別方向、および後方に三つですか…」
ギルティアが、シリウスにも拡散分布図を転送する。
「…!」
転送された拡散分布図に、シリウスが驚く。
「…わしの故郷に、異形が…!?」
見ると、別方向、後方の異形飛来世界の中の一つに、シリウスの故郷、フルメタルコロッセオが存在する世界があったのだ。
「ええ、どうやらそのようです。
本来なら位置的に、飛来する異形は極めて少ない筈ですが、この異常事態、何が起こってもおかしくはありませんね…」
そして、もう一つ、進路上の宇宙に目をやりながら、ギルティアが呟く。
「それに、進路上の宇宙は…ファラオ店長が店を構えている宇宙、ですか…まずい、ですね…」
以前もギルティアが何度か訪れているその宇宙は、異形が集まりやすい絶対座標に位置する宇宙だった。
異常事態で、本来集まらない場所にすら異形が集まったのであれば、集まりやすい場所には、尚更だ。
「…のう、お嬢ちゃん」
「はい?」
「…お主は、先に進みたいのだろう?」
その言葉に、ギルティアは無言で頷き、言葉を紡ぐ。
「四将なる者達ともまた出会い、そして、恐らくは間違いなく剣を交える事になる…。
それは、きっと己が使命を、いえ、己が全てを賭した死闘になるでしょう…。
…一刻も早く、私自身を万全の状態にしなければなりません。
それに、異形の数は、進路上の宇宙が一番多い…被害も、それに準じたものになる…。
…ならば、被害が拡大する前に駆逐し尽くす必要があります」
その言葉に、今度はシリウスが無言で頷き、答える。
「ならば、後方の三つはわしが引き受ける。
お主は先に進路上の宇宙に行き、可能な限りの異形を殲滅すると良い。
…わしも片付き次第合流する」
「四将…という事は四体いるという事です。
…単独行動をしている間に彼らの襲撃を受ける可能性もありますが、このまま二人で行動していても、襲撃を受けた時危険である事は変わりません」
その言葉に続けて、ギルティアが頭を下げる。
「…すみません、私のわがままに付き合わせてしまって…」
「わしがわがままでお主についてきておるのだ、それはこちらの台詞ぞ。
あのような輩が出た以上、お主が早く己を万全の状態にしたいと思っておるのと同じく、わしも今以上に準備をしておきたい。
故郷に異形が飛来しているのならば丁度良い、ついでにしっかりと準備を済ませてくるとしよう。
エルグリオが次に現れた時は、真正面から返り討ちにしてやろうぞ…ハッハッハ!!」
そう言って、シリウスは笑った。
「…ふふ、分かりました。そちらは任せます。くれぐれも、気をつけて下さいね」
「うむ、お主こそ、くれぐれも、無理のし過ぎには気をつけよ」
「…使命を果たす為ならば、多少の無理など、無理の内に入りませんよ」
ギルティアは、そう言って苦笑した。
「そうか…まぁ、お嬢ちゃんならば心配はあるまいな」
「…私の事は心配要りません」
「残りの二つも、わしが引き受けよう。実弾が使えない事を踏まえた上で、装備を変更してくる。
丁度良いので、武装のテストを奴らで行うとしよう」
その言葉に、ギルティアが笑う。
思えば、いつもこの男は新しい装備のテストを実戦で行っている。
「ははは…シリウスらしいです。
異形の規模は把握できていますが、異形処理の効率はたどり着いてみなければ分かりません。
…しかし、数から考えるに、恐らくは討伐完了はシリウスの方が先になると思います」
「ならば、討伐が完了し次第合流する…何か目印になる場所は無いか?」
シリウスがそう尋ねると、既に情報が送信されてきていた。
そこには、かつてギルティアが世話になった旅人の経営するラーメン屋の座標が記述されていた。
「ふむ…ツタンカー麺…お嬢ちゃんが以前話していたラーメン屋か…こいつは、合流が楽しみだ!」
シリウスはそう言って笑った。
「っと、すっかり忘れる所でした」
ギルティアが、紅の水晶の欠片のようなものを、アークトゥルースに転送する。
「む?これは…?」
「倒した異形から、根源的エネルギーを回収する為のものです」
「成る程、お嬢ちゃんの状態を万全にするために必要なのだったな」
シリウスの言葉に、ギルティアが頷く。
「…その通りです。持っているだけで効果がありますので、異形討伐の際に持っていてください」
「ああ、承知した。安心するが良い」
「ええ、頼みましたよ!では、また!くれぐれも、無事で!」
エルヴズユンデが、目的の宇宙に向けて加速を始める。
「お嬢ちゃん…くれぐれも、気をつけてな…さて、わしも行こうか!!」
アークトゥルースも、目的の場所へと加速を始めた…。
一方、その頃…。
影の前に、一匹の、翅状の翼をもつ、人型の虫のような異形が突っ込んでくる。
「インフィナイト様!鏡黒の騎士と過ちの鍵が接触した模様です!
今すぐ、禍の芽は摘むべきです!僕とオーガティスに攻撃命令を!!」
「…落ち着け、ヴェルゼン。独断専行して返り討ちにあった事をもう忘れたか?
…大体、まだその時の傷も癒えきっていないではないか」
見ると、確かに、ヴェルゼンと呼ばれた異形の甲殻には、あちこちに銃創がある。
「しかし…接触後、人間とギルティアが別行動を取っております!
今がチャンスなのです!二人がかりで行けば、確実に始末出来ます!!」
「言った筈ぞ、彼女は替えの利かぬ貴重な実験材料だ…迂闊な攻撃はするな、と」
「何を悠長な事を!万全の状態の彼女はこの宇宙群内でも屈指の力を有します!
このまま戦力が集まれば、一体どうなるか…!
それに何より、インフィナイト様にたてつく愚か者など、実験材料にする価値すらありません!!
今すぐ!今すぐに!彼女を始末しなければならないのです!!」
ヴェルゼンが、そう叫ぶ。
「落ち着けと言ったぞ!!」
影の言葉に、ヴェルゼンがビクッと身を震わせる。
「我々の目的を全力で妨害してまで、今奴を倒して何になると言うのだ!!」
「そ、それは…」
「我が計画の実現には、鍵の持つ、宇宙群の核へアクセスする能力が絶対必要不可欠だ。
そして、手に入れた力を、異形の力を以って余自身と適合させる必要がある。
その為には、更に大量のデータが必要だ。
特に、『彼女』からは絶対に他では取れぬデータが回収できる…まだまだ戦ってもらわねばならぬのだ」
その言葉に、ヴェルゼンは何か言おうとしたが、何も言葉が出てこなかった。
「それだけでは無いぞ…今捕獲したとしても、以前捕らえた鏡黒の騎士のように逃げ出されては、またも被害甚大、戦力の拡充がますます遅れるのだ」
「…わ、分かりました」
ヴェルゼンは、渋々頷いた…。
ギルティア日記
ミラーナイト・イージス…何者かは知りませんが、協力に感謝します…。
やはり、あのような颯爽とした戦いぶりには、憧れますね…。
そして、拡散した異形の位置も分かりました。
被害が拡大する前に、一刻も早く処理しなければ!!
シリウスと一旦別れ、各自で異形を撃破します。
…頑張らなくては!
そう、私は本来、一人で戦うべき者なのですから…。
続く




