Act.42 暴欲、強襲 ―『影』よりの使者―
Act.42 暴欲、強襲 ―『影』よりの使者―
エルヴズユンデとアークトゥルースは、次に訪ねる宇宙が見える所まで来ていた。
「次の目的地はどんな場所なのだ?」
「次の目的地は、惑星や恒星がかなり大規模に存在している宇宙です。
技術の発展はシリウスのいた世界より若干下、しかし人間や文明が存在する主星の文明の発展レベルが高いので、
シリウスにとっては新鮮なものをいろいろと見る事が出来ると思います」
「ほう、そいつは、楽しみだ!」
シリウスが、そう言って笑う。
「これからの旅、シリウスは多分今まで見たことも無いようなものを、たくさん目にする事になると思いますよ」
「うむ、期待しておこう!」
シリウスが頷いた、次の瞬間だった。
「…!」
二機のセンサーに、凄まじいエネルギー反応が感知される。
宇宙を背に、一つの影が二機の進路上に立っている。
近づけば近づくほど、その姿がはっきり分かる。
頭部の角と獅子のたてがみのようなものが特徴の、銀色の甲殻上の鎧のような人型の姿、
そして、両腕は剣になっている。恐らくは、異形だ。
しかし、ただの異形とは違う。
欲望のままに変貌を遂げた異形は、ここまで整った姿にはならない。
幾つか心当たりは存在する。
しかし、その中で今の所一番的確な種別を、ギルティアは呟く。
「高位、異形…!?」
高位異形…ただ人を喰らい続けて巨大になった統括異形とは違い、より高度な存在へと自らを昇華した異形…ギルティアもかつて幾度か戦っていた。
「違うな…」
二機と対峙した異形が、言葉を紡ぐ。
「俺の名はエルグリオ!暴欲のエルグリオ!俺は、最高位異形だ!!」
エルグリオと名乗った異形の言葉に、ギルティアが驚く。
「ま、まさか…!」
高位異形が更に進化した最高位の異形…知能も非常に高く、既に肥大した欲望に縛られていない。
その力は、宇宙全体に影響を及ぼせるレベルとも言われる。
「どうやら、最高位異形とは遭遇した事が無かったらしいな!ハハハッ!!」
しかしその存在は非常に希少で、このような場所にいるような存在では無い。
それに、本来欲望に縛られていない最高位異形は不必要に人間を襲ったりもしないはずだ。
実際、ギルティア自身も遭遇した事は無かった。
しかし、確かに、相手の持つエネルギーは今まで交戦した高位異形とも比べ物にならない。
「…その最高位異形が、私に何の用です?」
と、尋ねながらも、エルヴズユンデは剣を構える。
「ククッ…お前自身も剣を構えたって事は、聞くまでも無い事だってのは分かってんだろ?」
ギルティア自身、このような状況で対峙しているという事は、戦いが目的だという事は分かる。
しかし、人間を捕食する必要も無い最高位異形が、わざわざギルティアに攻撃をかける、その理由が分からなかったのだ。
だから、ギルティアは尋ねる。
「…何故、私を?」
「戦士が戦うのに、理由が要るのか?…敢えて言うなら、お前が、強いから、かな」
その言葉に、ギルティアは無言で頷いた。
これは、異形か否か、それ以前の問題だ。
相手は、こちらを捕食するのが目的ではない。
強い力を持つギルティアと戦う、それ自体が、目的なのだ。
「…分かりました、その挑戦、受けましょう。ルーク、シリウスの機体に移って下さい…奴の狙いは、私です」
ギルティアが肩に乗るルークにそう言う。
「何…?」
ギルティアは、言葉を続ける。
「…一騎打ちです…連れに手出しは無用ですよ」
「無論だ…安心しな、約束は守るぜ」
「それなら、良いのです…さぁ、ルーク…」
ギルティアの続けようとした言葉を、シリウスが遮る。
「待て…ルークよ、移動する必要は無いぞ」
「…シリウス?」
アークトゥルースが、エルヴズユンデの前に出る。
「彼女は本調子ではない…強い奴と戦いたいのであろう?
ならば、わしが前座を務めよう…それで対等だ。
だが、このわしと戦って尚、彼女に挑めるだけの力が残るかな…もちろん、わしとて負けるつもりはないぞ?」
シリウスは、そう言ってニヤリと笑った。
「シ、シリウス!待って…!」
ギルティアの言葉を再び遮り、シリウスが言葉を続ける。
「…さぁ、返答はいかに!」
最高位異形が、頷く。
「ほォ…成る程、腕に覚えありってか…」
最高位異形が、ニヤリと笑う。
「…面白ェ!その勝負、乗ったぜ!」
「シリウス!その敵は、幾らシリウスでも敵う相手では…!」
「…お嬢ちゃん、まぁ、聞け。
今のエルヴズユンデよりもは、わしのアークトゥルースの方が、強い。
もし、わしが敵わぬ相手ならば、尚更、お主を戦わせるわけには行かぬよ」
確かに、アークトゥルースはフル装備だ。
本来の力を取り戻したエルヴズユンデならばともかく、今のエルヴズユンデよりもは、アークトゥルースの方が強いのは確かだ。
「それに、強い奴と戦いたいと奴は言った…わしは、自分を強いと思っているのでな」
シリウスは、そう言って笑った。
「だから…そう、戦ってみたいから戦うのだ…勝敗は、いや、勝算も問題ではない。
そして、このわしと、そして我が社の社員の誇りの結晶が、こんな所で負ける訳が無い!!」
ギルティアが頷き、言葉を紡ぐ。
「分かりました…しかし、一つだけ約束してください」
「何だ?」
「…どうか、無事で」
「言った筈ぞ。こんな所で負ける訳が無い、とな」
笑顔で言い放ったシリウスの言葉に、ギルティアが苦笑する。
「…大した自信ですね…ごめんなさい、迷惑をかけます」
「戦いたくて堪らん奴にわざわざ謝るでないわ!ハッハッハ!!」
シリウスはそう言って笑うと、アークトゥルースはレールガンと剣を構える。
「…さぁ、始めようではないか!!
アンファース・インダストリアルが社長、永代の騎士王シリウス=アンファース…参る!!」
「ほう…良い名乗りだ!まさか企業の社長とは流石に驚いたがな…。
…さぁ、始めようぜ…血沸き肉躍る戦いの宴って奴を!!」
エルグリオと名乗った最高位異形が腕の剣を構える。
直後、エルグリオが踏み込む。
「さーて、何秒持つかな!」
剣の一振りをアークトゥルースが回避する。
「お主がな!」
そして、エルグリオの胸部にデモンズ・スローターの砲身を叩き付け、零距離から放つ。
「がはぁっ!?」
凄まじい衝撃が発生し、エルグリオが吹っ飛ばされる。
アークトゥルースが更に追撃といわんばかりに、両肩の光子爆雷と、脚部のビーム砲を放つ。
凄まじい光がエルグリオを飲み込む。
その光の中心めがけて、更にレールガンを何度も叩き込む。
それを見ていたギルティアが、驚愕する。
「これは…凄い…」
この力ならば、通常モードの完全体エルヴズユンデとも真正面から戦う事が出来るかもしれない。
まだ設計図や装備は確認していなかったが、恐らく、改造前の機体の基礎設計からして、相当な精度だ。
そして、シリウスもそれを完璧に使いこなしている。
その力は、ギルティアの想像を超えていた。
「デモンズ・スローター、粒子加速砲モード…受けるがいい!!」
そして、凄まじい閃光が爆発の中に飲み込まれ、全ては光に包まれた。
「何だ、口ほどにも…」
シリウスの言葉は、爆風の彼方からの声に遮られた。
「…すまん、正直、お前をなめてたぜ」
「!!」
次の瞬間、爆風は一閃の光によって真っ二つになった。
「…確かに、お前は秒で終わる強さじゃねえ」
爆風の中には、エルグリオが立っていた。
無傷では無いが、少なくとも大打撃、という訳ではない。
異形であるが故に、容易に再生できる程度のダメージだ。
「嬉しいぜ…まさか、本命以外にここまでの奴と戦えるとはな…前座としては十分すぎるくらいだぜ!!」
エルグリオの目が、微かに笑っている。
「まさかあれだけの攻撃を受けて立っていられるというのは、わしとしても想定外だが…面白い…!」
シリウスもまた、笑みを浮かべていた。
やはり、闘技場の剣闘士の血が疼いているのだろうか。
「こいつぁ、失礼した…今からは十二分に楽しませてやるから、それで勘弁してくれよな!!」
「うむ…来い!!」
エルグリオが突進する。先程の数倍の速度だ。
人間の反応速度は軽く超えている。
アークトゥルースが剣で、それを受け止める。
凄まじい金属音が響く。
「知覚速度加速システム…成る程、こういう事か…アルフレッド、流石の仕事をしおる…」
シリウスが呟く。
どうやら、アークトゥルースには、機体のコンピュータとシリウス自身の脳をリンクする事で知覚速度を増大させるシステムが搭載されているらしい。
確かに、人間が境界空間航行用兵器を使用するのならば、必須の装備だ。
「ならば、試してみる価値はあろう!!」
アークトゥルースの全身のブースターが一斉に展開する。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
それらに一斉に火が灯り、その勢いは、エルグリオを押し飛ばした。
「あんまり調子に乗るんじゃねえぞ…!!」
エルグリオが瞬間的に体勢を立て直す。
更に、エルグリオの背中に、金属で出来た刃のような翼が生える。
アークトゥルースが、追撃で叩き込んだ剣を、それを上回る速度で、エルグリオが迎撃する。
再び金属音が響く。
アークトゥルースとエルグリオはすぐに離れる。
「持って行けッ!!」
アークトゥルースがレールガンを放つ。
「手が分かりゃ、防げるんだよ!!」
エルグリオが、放たれた弾丸を叩き落す。
「反撃させてもらうぜっ!」
エルグリオの腕の剣に光が集まると、刃がまるで水晶のように透き通る。
「おらァ!!」
そして、そのままエルグリオが離れた場所から一閃する。
光の刃が、アークトゥルースを遠距離から襲う。
「ぬぅっ!!」
咄嗟に右腕を盾にして防御体制を取るが、防ぎきれずに吹き飛ばされる。
右腕に損傷、更に、胸部に深い傷がついている。
「…流石だな…だが、まさかこのままで済むとは思ってはおるまい!!」
吹き飛ばされ様に、アークトゥルースが両肩の光子爆雷を一斉に放つ。
「ぐあっ!!」
虚を突かれたエルグリオが直撃を貰う。
ギルティアは、シリウスの戦いぶりを、言葉を紡ぐ事すら忘れて見守る。
間違いない、ここまで熾烈で、命を賭けた戦いでありながら、シリウスは、この戦いを楽しんでいる。
状況を考えろ、とか、不謹慎だ、と蔑むのは簡単だ。
しかし、この状況で戦いを楽しめる程に肝が据わった戦士が果たしてそういるだろうか。
「…大した戦士だな、シリウスは…」
「はい…見事、としか言いようがありません…」
ギルティアはそう呟いた…。
「…しかし…」
ギルティアは、既に気づいていた。
「…このままでは…」
エルグリオの攻撃は、直撃すれば一撃でアークトゥルースに致命傷を与える事が出来る。
しかし、戦闘開始直後に、アークトゥルースの全ての兵装を直撃させたにもかかわらず、エルグリオに致命傷は与えられなかった。
シリウスもその圧倒的技量と、アークトゥルースの圧倒的性能で直撃を的確に防いでいるため互角に戦っているように見えるが、
実際は、攻撃能力の面で、エルグリオはアークトゥルースを圧倒している。
いや、他の能力においても、アークトゥルースの性能は、人間の生み出した境界空間航行用機動兵器の中では圧倒的に強力な部類ではあるが、
最高位異形であるエルグリオは、それを大幅に上回っている。
それを覆す圧倒的威力の攻撃が無ければ、この戦い、シリウスは確実に負ける。
「…まさかこれで終わりではあるまい!」
アークトゥルースが体勢を立て直す。
「お前こそ、これで打ち止めなんかじゃないだろ!?」
エルグリオもまた、体勢を立て直す。
「「…愚問だな!!」」
二人の言葉がきれいに重なる。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
アークトゥルースが、突進しながら光子爆雷、レールガン、脚部ビーム砲を撃ちまくる。
「はあああああああああああああっ!!!」
エルグリオがそれらを全て両腕の剣で捌きながら、一気に距離を詰める。
エルグリオの横の一閃を回避し、続いてくる振り下ろしを剣で受け止める。
「ふんっ!!」
アークトゥルースがエルグリオを蹴り飛ばす。
しかし、それと同時に、シリウスが気付く。
剣の、先程振り下ろしを受け止めた部分が、欠けている。
いや、更に言えば、今までエルグリオと剣を交えた部分全てに、深い傷が付いている。
「まさか、我が社が生み出した剣の最高傑作が、欠けるとは…」
更に言えば、数撃同じ場所に直撃を貰えば、折れるという事でもある。
「…面白い…!」
シリウスが、再び笑う。
アークトゥルースが、レールガンを構え直す。
「それでこそ、勝負のし甲斐があるというものぞ!!」
そして、再びアークトゥルースの全身のブースターが一斉に咆える。
「まったく…本当に楽しませてくれるぜ!!」
エルグリオが、両腕の剣を構える。
アークトゥルースが再びレールガンを連射する。
「だが、またその手か!そろそろ飽きたぜぇッ!!」
エルグリオが直撃弾を剣で叩き落とそうとする。
「フッ…そこだ!!」
直撃弾を叩き落とそうとしたエルグリオの剣に、非常に強い衝撃が走る。
「ぐおっ!!な、何だと!?」
エルグリオの剣の刀身の一点に、弾丸が集中していた。
それ以外の弾丸は相手の反応を誘発するための囮だったのだ。
「隙あり、だ!!」
一瞬の隙を突いて、今回の戦い幾度目かの一斉射撃が叩き込まれる。
「ぐおおおおおおおおおおっ!!」
エルグリオが吹き飛ばされる。しかし、やはり致命的なダメージには至っていない。
「さて…ここから、どうしたものか…」
秘策といえるものは既に使い切っている。
だからこそ、ここまで互角の戦いを続けてこれた。
戦闘能力は相手の方が明らかに上だ。
もしも自分が倒される事があれば、ギルティアが戦わねばならない。
本調子で無い彼女を、これほど危険な相手と戦わせる訳には行かない。
決定力不足は今のギルティアの方が酷い。ただでは済まないのは明白だ。
…そして何より、こんな所で負けては残してきた部下達に示しがつかない。
一撃、起死回生の一撃を放つ事が出来れば。
シリウスは、爆風の中からエルグリオが姿を現す寸前、一瞬考えを巡らせる。
先程の一斉射撃は、その隙を作る為のものだったのだ。
一つだけ、思い当たる手があった。
それは、アークトゥルースを改造中に、アルフレッドから聞いた話だった。
「シリウス社長、超電導粒子加速器は応用する事でブラックホールを発生させられるのは、知っておりますかな?
…今回換装された動力を最大限活用し、かつ、デモンズ・スローターがそれに耐えられれば…。
オーバーチャージで二百パーセントまで持って行く事が出来れば、
加速された粒子の代わりにブラックホールを弾として打ち出す事が可能な筈です」
「何と!?そんな事が…!!」
「…まぁ、あくまで理論上ですがね」
アルフレッドは、そう言って笑った…。
…理論上は可能な手だ。
だが、デモンズ・スローターが、チャージされたエネルギーに耐えられるかどうかは分からない。
そして、耐えられなければ、恐らくアークトゥルースは発生した重力で自滅する。
その威力も未知数で、最高位異形にどこまで通じるかも分からない。
全てが、不確定だった。
しかし、だからこそシリウスは、躊躇わなかった。
「フ…デモンズ・スローター…粒子加速砲モード…チャージ!!」
デモンズ・スローターの砲身に光が集まり始める。
「また一斉射撃か?なら、そろそろ終わりにしてやるぜ!!
あまりにも手応えがありすぎてすっかり忘れてたが、本命はお前じゃないんだ!
そろそろ前座にはご退場願うぜ!!」
エルグリオが、体勢を立て直してアークトゥルースに突撃する。
「…何の!!」
アークトゥルースが剣を脚部にしまう。
「何だと!?」
「ぬうおおおおっ!!!」
振り下ろされたエルグリオの剣を回避し、顔面に渾身の拳を叩き込む。
「ぐはあっ!!」
エルグリオが殴り飛ばされる。
「エネルギーチャージ、百二十パーセント…リミッター解除、オーバーチャージ開始…!!」
既に、デモンズ・スローターの砲身からは光が溢れている。
しかし、更に光は集まり続けている。
「さぁ、ここから先は理論上の領域ぞ…だが、だからこそ、だ…!!」
シリウスが、ニヤリと笑う。
「百二十五パーセント…百三十パーセント…持ちこたえよ、デモンズ・スローター!」
デモンズ・スローターの砲身の奥に、黒い塊が宿り始める。砲身が、重力に軋む。
「シリウス!何をする気です!?」
先程からチャージを続けているデモンズ・スローターの様子がおかしい事に気づいたギルティアが、尋ねる。
「…何、簡単な話だ。存在するかも分からぬ、理論上だけの切り札を…切ってみるのだ!」
不確定だった。しかし、だからこそ、そこに勝機はある。
思えば、かつてラーゼルに対してこのデモンズ・スローターを初めて使用した時も、
それがどれだけの効力を持つかは未知数で、まして、異形相手に本当に役に立つかも未知数だった。
しかし、あの時、確かにデモンズ・スローターは対異形兵装という役目を果たした。
そして、自らが、誇りを賭けて生み出した、夢を追って行く為の対異形兵装であるデモンズ・スローターがここで耐えられぬわけがない。
この状況を切り開く力を、デモンズ・スローターは持っている。
シリウスは、そう確信していた。
「一斉射撃じゃねえ!?何をする気だ!」
エルグリオも、ようやくそれに気づく。エルグリオの両腕の剣に光が集まり、再び刀身が透明に、いや、今度は、まるで宝石のようなきらめきが放たれている。
「…エネルギー充填百八十パーセント!!」
デモンズ・スローターは、発生した重力をしっかりと受け止めていた。
アークトゥルースが、動きを止め、デモンズ・スローターをしっかりと構える。
「この一撃で勝負だ!エルグリオよ!!」
「上等だ!!なら、俺も、見せてやるぜ…俺の切り札って奴を!!」
エルグリオが、凄まじい光が宿った両腕の剣を、渾身の力で振るう。
「…タイラント…グリィィィィィィィドッ!!!!!」
まるで、刃の嵐のように、凄まじい衝撃波がアークトゥルースめがけて迫る。
「エネルギー充填二百パーセント!!
わしの、そして我が社の誇り…この一撃に託す!!
デモンズ・スローター、オーバーレイ!!発射ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
アークトゥルースが、デモンズ・スローターの引き金を引く。
嵐を貫いて解き放たれたのは、凄まじい光を纏った黒い塊だった。
アトネメントプライとも違う。
そして、その黒い塊が、刃の嵐を喰らい尽くし、そのままエルグリオへと直撃する。
「な、馬鹿な!」
次の瞬間、黒は、白へと反転する。
「ぐおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!」
そして、視界の全てが白に染まった…。
「凄い…」
ギルティアも、ただ、そう呟くしかなかった。
アトネメントプライほどの安定性は無いとはいえ、その威力は確かだ。
そして、この攻撃力ならば、あるいは最高位異形に決定打を与えられるかもしれない。
「…やったか…!!」
静寂、沈黙。
爆風が晴れると、ボロボロのエルグリオが境界空間に漂っていた。
…シリウスの、勝利だった。
「…お嬢ちゃん、約束は守ったぞ」
シリウスが、そう言って笑う。
「…見事、です。しかし、あのような無茶は今後はやめて下さいね…」
ギルティアが苦笑しながら言う。
「お主の言えた事か、と言いたい所だが、気をつけるとしよう。
しかし…世界は広いな…宇宙をまたにかける辻斬りとは…」
シリウスの言葉に、ギルティアが頷く。
「今までも何度かありましたが、今回ほどの強敵とは遭遇した事はありませんでした…。
しかし、奴は私が何者であるか知っていた…。
今まで遭遇した相手では、私の正体を知って挑んできた相手はいませんでした…そこが、気に掛かります」
ギルティアが、漂うエルグリオを睨むように見る。
「……」
ギルティアは既に気づいていた。
エルグリオは、死んではいない。
確かに、かなりの深手を負っているが、その命の灯火は消えていない。
「…止めは、刺さんでも良かろう」
シリウスの言葉に、ギルティアが驚く。
成る程、流石シリウス、気づいていたか。
「もっとも…あの一撃を持ちこたえられたのは、正直少し悔しいがな」
「いえ、奴であれば、本来のエルヴズユンデの放ち得る最強の一撃にも耐えていたでしょう」
「そうか…」
シリウスが頷く。
それだけの強敵を相手に戦って勝利した、今は、それで十分だ。
「さて、邪魔もいなくなった所で、参ろうか?」
「ええ…そうですね」
ギルティアが頷き、目的の世界への移動を再開しようとした、次の瞬間だった。
再び、尋常ではないエネルギー反応が確認される。
「…なっ!?」
世界をはさんだ反対側から、こちらに向けてもの凄い速度で接近している。
エネルギー反応は、エルグリオと非常によく似ている。
「…まさか…!?」
ギルティアも、それが何を意味しているか、薄々理解していた。
「仲間がいた、という事か…」
シリウスが呟く。
「…どうやら、そのようです」
ギルティアは、それが接近してくる方向の境界空間の闇を睨みながら、静かに呟いた…。
続く




