Act.41 目的地は『真実』
Act.41 目的地は『真実』
シリウスがギルティアに合流し、次の日の朝を迎える。
「…ん…」
ギルティアが目を覚ますと、まだ、外は明るくなっていなかった。
ギルティアがベッドから上半身を起こし、ひとしきり伸びをする。
「…んーっ…」
思えば、このベッドで眠るのも今日が最後か。
ギルティアが、ベッドから起き上がり、豪華な窓のカーテンを開ける。
地平線の彼方が微かに明るくなってきているだけで、まだ朝、というよりは夜、と言って良いだろう。
「…もう一眠り、しましょうか」
ギルティアは、再びベッドに入った。
たまには、こういうのも悪くはない。
…そう思ってしまう自分の心も、本来なら不謹慎この上ない。
しかし、もし自分がそれに相応しく生きられているというのなら、この程度ならば、許してあげても良いのかもしれない。
今日からは、またきっといつもの旅に戻る。
戦いになったら、今までよりも、更に更に頑張って戦おう。
本来なら得られる筈のないものすらも、得られてしまったのだから。
ギルティアは、静かにそう頷くと、再び眠りに就いた…。
そして、その日の朝、ギルティア達は首都の入り口にいた…。
エーリッヒと幾人かの部下が、見送りにきている。
「…それでは、皆さん、数日間ですが、夢のような日々をありがとうございました」
「またいつでもお立ち寄りください。国民一同、いつまでもお待ちしております!総員、敬礼!!」
エーリッヒの言葉で、部下が一斉に敬礼する。
「この世界の未来は皆さんの双肩にかかっています…願わくば、幸せな未来あらん事を」
ギルティアは笑顔でそう言うと、エルヴズユンデに乗り込んだ。
「…さて、行きましょうか」
「アークトゥルース、正常に起動を完了、いつでもいけるぞ」
「了解です…では、行きましょう!」
エルヴズユンデと、アークトゥルースが飛び立つ。
エーリッヒと部下達は、敬礼しながら、それを見送った…。
「ギルティア様…どうか、つつがない旅を…」
エーリッヒは、空の彼方へと消えていく二筋の光をしっかりと見据えながら、そう呟いた…。
エルヴズユンデとアークトゥルースが境界空間に出る。
「…で?方向性、というのは昨日聞いたが、お嬢ちゃんのことだ、もう具体的に考えているのだろう?」
シリウスの問いに、ギルティアは頷き、アークトゥルースに航路を転送する。
「昨日の、ラーゼルが飛来したルートを元に、調査を行う世界の範囲を決定しました」
「成る程、まずはラーゼルがどこから来たのかを確かめるのだな?」
「ええ、今回の目的地は、具体的にはまだ存在しません。その目的地を探すのが目的のようなものですしね」
ギルティアは、そう言って笑った。
「それに、エルヴズユンデもまだ完全ではありません…旅の途中で完全に復活させなくては」
「例の機械と融合した異形を倒していれば、あっという間なのではないか?」
ルークが尋ねる。
「いえ…あれは普通の異形を巨大な機械と融合させたもの…。
大きいだけで、あれから取れる実際の根源的エネルギーは、普通の異形一体分と殆ど変りません」
「…そうなのか」
「ええ…しかし、もう一種類の、核を破壊しないと何度も再生する異形の方は、かなり多くの根源的エネルギーを保持しています。
…それ相応の損害を被る可能性もありますが、ね」
「まぁ、な」
ギルティアの肩で、ルークが頷く。
「面倒な事を言わなければ、立ち塞がる敵を倒して、その先を調査する、という事なのだろう?
ついでに、お嬢ちゃんの機体を、倒した敵から奪ったエネルギーで完全復活させる、と」
シリウスが纏める。
「ええ、その通りです」
「なら、善は急げだ、行こうぞ!」
シリウスが、そう言って笑う。
「ふふ…シリウスは、相変わらずですね…なら、そろそろ行きましょうか…!」
二機の機動兵器は、目的の方向の手近な世界に向けて、加速を始めた…。
一方その頃…。
「どうやら、彼女はこちらに向かって旅の方向を定めたらしいな…」
黒い影が、呟く。
「で?相変わらず実験を続けてるようだが、いつになったらその実験は終わるんだ?もう、待ちくたびれちまったぜ…」
黒い影の横で、銀色の、異形と思しき者が影に向かって言う。
「エルグリオか…暇なのか?」
「おいおい、当たり前の事を言うなよ。
俺は力が欲しいんだ、こんな無駄な時間を待たされるのはごめんだぜ?」
エルグリオと呼ばれた銀色の異形がそう言って苦笑する。
「なら、彼女に挑んでみるか?
本調子ではないとはいえ、少なくとも、彼女ほど手応えのある相手はいないと思うが」
「…ほう、悪くねえ…」
エルグリオが、ニヤリと笑う。
「ただし、殺すなよ。彼女は今後、大事な実験材料になり得る。
…特に、他の鍵と違って彼女には替えが無い。事はくれぐれも慎重にな」
「分かってるって!」
エルグリオが頷く。
「分かっているようには、到底思えんのだがな…」
「そんなに信頼できないか?俺は」
エルグリオは、そう言って苦笑した。
「いや、念を押しただけだ。汝の強さには、その力を制御する、と言う事も含まれている。
…それは、余も分かっているのだがな…汝の軽い言葉を聞くと、ついな」
「…まぁ、確かに、あんまり信頼できないような行動ばっかしてるのは認めるがな!はっはっは!!」
エルグリオが、そう言って部屋の外に出て行った。
「…やれやれ、エルグリオの戦闘狂にも、困ったものです」
エルグリオが出て行った部屋の反対側から、白い異形が入ってくる。
「グランディオスか…聞いていたのだろう?」
影の言葉に、グランディオスと呼ばれた異形が頷く。
「…無礼ながら、立ち聞きさせて頂きました」
「そうだと思ったぞ。入ってくるタイミングが良すぎたからな。
だが、聞いていたならば話は早い…奴がやり過ぎないか、監視を頼む」
「…御意に」
「そして、彼女に、我が友、次元竜ルークが同行している事だろう…。
彼に、『我が実験に汝を巻き込んでしまって、本当に申し訳ない』と伝えておいてくれ」
「…承知しました」
「頼んだぞ…全ては、過ちを繰り返さぬ為に」
その言葉に、グランディオスは黙って頷き、エルグリオと同じ出口から出て行った…。
「…フ、相変わらず自分の信念に素直な奴よ…」
一人残った影は、そう呟いた…。
続く




