Act.40 ArchTrues
Act.40 ArchTrues
ギルティアは、ロートベルグ帝国首都の宮殿にシリウスを案内した。
「凄いな、これは…我が社長室が霞むわい…」
シリウスが、目を輝かせながら宮殿を見回す。
「私自身も、未だ驚いています…」
「まぁ、お主はこういう場所を受け取るに足る者だとは思うがな」
シリウスが笑う。
「ルークにも、そう言われました…」
ギルティアは、そう答えて苦笑した。
応接室で、ギルティアとシリウスが椅子に座る。
「…さて、何から話したものか…」
「何故此処に来たか、という事は先程聞きました。
単刀直入に聞きます…どうやって此処へ?」
ギルティアが尋ねる。
「アルフレッドに、我が愛機アンファースを境界空間航行用に改造してもらったのだ。
そう、境界空間航行用機動兵器、アークトゥルースに、な」
「…アーク…トゥルース?」
「うむ、我が相棒、アンファースの本当の名だ…機体設計図段階での名前、とでも言おうか。
会社としての名と、わし自身が相棒につけた名との違いと説明すれば、分かりやすいだろうかな。
今までの、社の命運をかけた戦いとは違うのだ、むしろこの名こそ相応しいと思ってな」
アンファースという機体名は、会社の名前を冠したもの、ならば、機体本来の固有名があっても、おかしくはない。
「成る程、まずは一つ疑問が解決しました」
ギルティアが頷き、続ける。
「しかし、会社は、そしてフルメタルコロッセオはどうしたのですか?」
「…アンファースは、フルメタルコロッセオを引退したのだよ。
…わしにとっても、あの時が潮時だったのだ」
そう言って、シリウスは笑った。
「…わしらはあそこに長く居座りすぎた…わしが、わし自身の企業の発展の邪魔をするわけにはいかぬよ。
そして、我が部下達は、後の事は任せろと、わしを笑顔で送り出しおった…」
「…何故、そこまで…?」
ギルティアは尋ねた。
「…まだ、戦い足りないのだよ、わしも、我が愛機も。
ならば、お主が見せてくれた『夢』、わしも追って行きたいと思った。
今まで、社の命運をかけて戦ってきたが、もし叶うのならば、世界の命運をかけた戦いに参じるのも悪くは無い。
…役目を終えた戦士にとっては、それ程光栄な事は無かろうて」
シリウスのあまりに真っ直ぐな言葉に、ギルティアは笑った。
「ふふ…シリウスらしいですね…」
『旅人』になる理由は人それぞれ、それを否定する理由はない。
ギルティアは、静かに頷いた。
「…分かりました。同行を許可します」
しかし、とギルティアは続けた。
「シリウス、あなたの強さは認めますが、人間というものは、存外脆いものです。
…くれぐれも、無理だけはしないで下さい」
「無理はお主の…おっと、お主は無理が利く体なのだったか…分かった、心に留めておこう」
シリウスは頷き、続ける。
「だが、わしとて、今まで幾度も無理をしてきたのは、知っておるだろう?
…ここぞ、と言う所では、わしとて躊躇いなく無理をさせて貰う」
その言葉に、ギルティアが頷く。
「その覚悟は称賛に値します…しかし、その無理は、私の仕事ですから」
そう言って、ギルティアは微笑んだ。
「…お嬢ちゃん…」
その微笑みが、シリウスには、何処か寂しげに見えた…。
「…ところで」
今度は、シリウスが話を切り出した。
「ラーゼルが、わしの前に再び姿を現したのだが…」
「!?」
シリウスの言葉に、ギルティアが驚く。
ラーゼルは、確かにギルティアが倒した筈の相手だ。
「…詳しく、話を聞かせて頂けますか?」
「…無論だ」
そして、シリウスは静かに話し始めた…。
話は、シリウスがギルティアの元へ向かっている途中まで遡る。
シリウスは、アークトゥルースに乗り、境界空間を航行していた。
「…お嬢ちゃん、驚くだろうな…もっとも、我ながら大人気ないかも知れんがな…」
シリウスは、そう言って苦笑する。
世界が見えてきた。どうやら、行き先としてインプットされた世界らしい。
「あそこか…」
シリウスが呟く。
しかし、その直後だった。
「!?」
突如、凄まじいエネルギー波が、真横から迫る。
咄嗟に回避し、シリウスは、その出所を確認し、固まった。
「…お主…は…!!」
そこには、今、此処にいる筈のない物が、存在している。
形状は違うが、シリウスは間違えなかった。
「…ラーゼル!!」
シリウスは、その名を叫ぶ。
それはかつて、シリウスの故郷を、フルメタルコロッセオを牛耳っていた男だったものの名だった。
「あの小娘と、貴様に復讐を…それが成し遂げられるまで、死んでも死にきれぬ…滅べ…滅べ…滅べ!!」
妄言と共に、ラーゼルの巨体が、アークトゥルースに向かって突進してくる。
「グオオオオオオオオオオオオオオーッ!!!」
「ぬっ!」
ラーゼルの突進をアークトゥルースが受け止める。
そして、そのまま、ラーゼルとアークトゥルースは、目的の世界へと落下していった。
凄まじい勢いで、地面が迫る。
「潰れてしまうが良い!シリウスよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「…わしを、侮るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アークトゥルースの体中に装備されたブースターが、咆える。
落下が、止まる。
「でえええええええええええああああああああああああああっ!!!!!」
そして、落下の勢いに任せて、ラーゼルを、地面めがけて投げ落とす。
ラーゼルが、まるで隕石のような落下速度で地面に叩き付けられる。
しかし、ラーゼルはすぐさま起き上がり、アークトゥルースに砲撃を仕掛ける。
「汝に…呪い在れ!!グ…ガガ…ガァァァァ!!!!!!」
「悪いが、お主に不幸にされるわけには行かぬ…彼女も、わしもな…!!
新たなるアンファースの…いや、アークトゥルースの力、存分にその身に受けて今一度あの世へ帰るが良い!ラーゼル!!!」
「ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ラーゼルが、夥しい砲弾をアークトゥルースに向けて放つ。
「全弾ロック…光子爆雷、脚部ビーム砲、フルバースト!!」
アークトゥルースの脚部に装備されたビーム砲と、肩のかつてミサイルが装備されていた所から放たれた光弾が、その夥しい砲弾を全て叩き落す。
「成る程、良く分かったよ、これが、彼女の立っている世界…それも…良かろう!!」
アークトゥルースがラーゼルに突進する。
「グガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ラーゼルが咆哮し、衝撃波を放つ。
「…今度こそ、これで終わりにさせて貰うぞ…!」
アンファースが、デモンズ・スローターを構える。
凄まじい光が、デモンズ・スローターに収束する。
「これで最後だ!!粒子加速砲モード、エネルギー充填100%!!
…デモンズ・スローター…発射ァァァァァァァァァァ!!!!!」
砲身から解き放たれた光が、衝撃波ごとラーゼルを吹き飛ばした。
「おのれ!おのれ!おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…!!!!!」
ラーゼルは、その凄まじい光に飲み込まれ、消滅していった…。
「…わしの、勝ちだ」
シリウスは、そう言ってニヤリと笑った…。
そして、シリウスは言葉を続ける。
「…そして、その直後にお主と合流し、現在に至るという訳だ」
その言葉に、ギルティアは頷く。
「つまり、ラーゼルは倒した、という事ですか…見事、です」
ギルティアがそう言うと、シリウスは笑った。
「元々、わしらの世界のいざこざだ…わしが自らの手で幕を引く事が出来て良かった」
しかし、ふと、ギルティアは気になった事があった。
「…シリウス、ラーゼルはどの方向から来ましたか?」
「それは、どういう意味だ?」
「私達がラーゼルを倒した世界の方から来た、というのであればまだ良し、しかし、それ以外の方向から来たというのであれば…不可解です。
…実は、私の方でも、既に間違いなく倒した相手ともう一度交戦しましてね…」
ギルティアが、先日あったデストヴァールとの戦いの事を話した。
「成る程…今回の事とよく似ておる…いや、似すぎておる…少し待て」
シリウスは、腰に差していた板を抜く。
シリウスがそれをいじると、何もない場所にコンピュータの画面が展開する。
板は、キーボード一体型のコンピュータ端末のようだ。
恐らく、アークトゥルースとデータリンクしているのだろう。
シリウスは、しばらく端末を操作し、口を開く。
「…間違い無い、わしの故郷とは別の場所から彼奴は飛来している」
「やはり…ですか…」
ギルティアが、言葉を続ける。
「…これで、旅の方向性が出来ました」
「ラーゼルの飛来した方向に向かうのかね?」
シリウスの問いに、ギルティアは頷く。
「作為的なものがあるというのなら、こちらからその作為の根源に伺うとしましょう」
ギルティアは、そういってニヤリと笑った。
「…さて、私はルークに次の旅の目的地を伝えてきます」
「うむ、分かった…では、わしはこの宮殿を見てまわるとしようか…」
そして、ギルティアとシリウスは、別方向に歩き出した…。
ギルティア日記
まさか、シリウスが私を追ってくるとは思いませんでした…。
…仲間がいる事は、悪い事ではありません。
しかし、仲間には、傷ついてほしくないものです…。
そして、次の旅の方向性が決まりました。
この旅で、最近の異常事態の真相が究明されることを強く期待します…。
続く




