Act.38 疑惑の再戦
Act.38 疑惑の再戦
ギルティアは、冷や汗をかいていた。
「そんな…こんな事が…!」
今ここに存在する筈の無いものが、確かに存在する。
目の前で、高笑いを浮かべている。
「クククッ…愚か者共よ…借りを返しに来てやったぞ!!
さあ、ひれ伏すが良い!この、デストヴァール=ガイオラインの前にな!!」
「…あの時空震ブレスを受けて、生きているなんて…!!」
「余自身も、貴様らに消し飛ばされた瞬間までしか、記憶には存在せぬ!
気がつくと、このような姿で境界空間にいたのだからな…だが、そんな事はどうでも良い!
今、ここで、貴様らを叩き潰す事が出来るのだからな!!」
黒騎が、剣を構えてエルヴズユンデに突進する。
残りの四体も、一斉に襲い掛かる。
「…良いでしょう…再び現れ、そして再び悪を成すのならば…何度でも叩き潰すだけです!!」
エルヴズユンデの胸部に光が集まる。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァァストッ!!!」
光が解き放たれ、五体の異形を襲う。
凄まじい爆発が発生する。
「エーリッヒさん!敵襲です!皆さんは住民の避難、保護を優先してください!
…ここは…私達が引き受けます!!」
ギルティアがエーリッヒに通信を入れる。
「了解です…ご武運を!!」
「…ええ!」
次の瞬間、剣閃がエルヴズユンデを襲う。
爆風の中から突進してきた、黒騎の一閃だ。
「お喋りをしている余裕などあるのかね?ギルティアよ!!」
黒騎の、異形と化したその顔が、ニヤリと笑う。
「…侮られては困りますね」
エルヴズユンデは、それをしっかりと受け止めていた。
「あなた程度に、私は負けません…!!」
そして、エルヴズユンデが、黒騎を、強引にはね退ける。
「二度と蘇らぬように、骨の一片も残さず消滅させます…勝負です!デストヴァール!!」
「クク…今の貴様に余を完全に消し飛ばせるほどの力は…あるまい!!」
「…!」
確かに、今のエルヴズユンデではアトネメントプライは使えない。
完全に消滅させる事は、不可能かもしれない。
「…くっ…!」
ギルティアが、冷や汗をかく。
しかし、次の瞬間、黒騎に紅の刃が襲いかかった。
「馬鹿め…我がいる事を忘れたか、デストヴァールよ!!」
爪を振りかざしていたのは、ルークだった。
「…今度こそ消し飛ぶがいい、我を目覚めさせた愚か者よ!!」
ルークが、時空震ブレスを放つ。
「フ…確かに、その通りだ…!」
四体の異形が、黒騎の前に立ち、時空震ブレスを防ぐ。
「成る程、あの時は我を盾にしていた…今回はその代わりにその四体を使役するという訳か…!」
爆風の中から、黒騎がルークの方に突っ込む
。
ルークが、黒騎の一閃を、爪で受け止める。
「だが、この距離ならば…邪魔は入るまい!!」
ルークが、再び時空震ブレスを放とうとする。
「その手は喰わぬわ!!」
黒騎の肩から、大量の棘が伸びる。
「!?」
「…そうだ、先程の問いに答えておこう…忘れてなどおらぬよ!
余が最も倒したかった相手、それは…貴様なのだからなッ!!ルークよ!!!」
「ルークッ!」
エルヴズユンデが、左腕のレーザーを放ちながら黒騎に向けて突っ込む。
しかし、四体の異形が、それに立ち塞がり、一斉に砲撃する。
「邪魔はさせぬ!!」
黒騎の肩から伸びた棘が、ルークを幾重にも貫く。
「ぐ…がっ…!!」
「さぁ…処刑の時間だ!!」
黒騎が、剣でルークを貫こうとする。
「させません!!」
四体の異形の一斉砲撃を、全てその身に受けながら、エルヴズユンデは強引に四体の異形を斬り伏せる。
しかし、五体目を排除しない限り、残りの四体は全て再生してしまうだろう。
エルヴズユンデは、各部に爆発が発生しながらも、黒騎に突進する。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァストッ!!!」
エルヴズユンデの胸部から解き放たれた光が、剣に集まり黄金の輝きを放つ。
「コンヴィクション・スラァァァァァッシュ!!!」
黒騎がこちらに反応する前に、既にエルヴズユンデは黒騎を一刀両断にしていた。
その瞬間を突いて、ルークが突き刺された状態から離脱する。
「成る程、『断罪の斬撃』か、分かりやすくて良い名前だ」
「…傷は大丈夫ですか?」
「これしき、先日の傷と比べれば大した事は無い」
各部から血を流しているが、ルークはギルティアに向けて、ウィンクしてみせた。
しかし、残りの四体が未だに再生している。
やはり、現状のエルヴズユンデの攻撃力では、黒騎を撃破するには至っていないようだ。
「や、やってくれるな…」
爆風の中から、黒騎が飛び出してくる。
剣の形状が、まるで刃で出来た鞭のような形状に変化している。
「流石に、黒騎をこの傷で相手にするのは骨が折れる」
「…その傷で戦う事自体、無茶だと思います」
「言った筈だ、我は我の勝手で戦っている、とな。
…我はまだやれる、我はそう判断したまでだ。まずは、四体と黒騎を分断する!」
ルークはそう言うと、四体の異形に向けて突進する。
「やれやれ…良いでしょう…信じますよ、ルーク」
エルヴズユンデが、剣を構えなおす。
「…行きます!」
エルヴズユンデが、黒騎に突っ込む。
「貴様も串刺しになりたいか…!!」
黒騎から、再び大量の棘が伸びる。
「…愚かな…!」
エルヴズユンデの胸部に、光が集まる。
襲い掛かる棘を、解き放たれた光が迎撃する。
「ほう…!」
「手が分かれば、対処のしようもあります…!」
「ならば、これならどうだ?」
黒騎が、手に持った刃鞭を振る。
まるで暴風のように、刃の嵐がエルヴズユンデに襲い掛かる。
「何のッ!!」
エルヴズユンデは、左腕から放たれるレーザーを刃の形状に固定し、右手に構えた剣の二本で刃の嵐を迎撃し、刃の嵐を強引に突っ切る。
「たああああああああああああッ!!!」
そして、黒騎の胸部に、左腕の爪を叩き込む。
「ぐおおおおおおおおおっ!!」
黒騎は、そのまま首都の外の荒野に叩き落される。
「…止めは任せます、ルーク!!」
「うむ!!」
四体の異形を相手にしていたルークが、黒騎に向けて突進する。
「や、奴を余に近づけるな!!」
デストヴァールの悲鳴と共に、四体の異形が、ルークに追撃をかける。
「追っ手は任せたぞ、ギルティアよ!」
「ええ、任せてください!」
エルヴズユンデとルークが交差する。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァァァストッ!!!」
エルヴズユンデの胸部から放たれたブラスターが、再び剣に集まる。
「コンヴィクション・スラァァァァァァァッシュ!!!!」
エルヴズユンデの横一閃で、四体の異形が一斉に爆砕する。
「貴様との腐れ縁も、これで終わりにさせて貰おうか…!!」
「き、貴様!貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルークの時空震ブレスが、異形と化した黒騎もろとも、デストヴァールを消し飛ばした。
「…やった、か?」
「完全な消滅を、確認…!」
ギルティアが静かに呟く。
「…しかし…」
ギルティアが、腑に落ちない表情をする。
「…あの時も、確かにデストヴァールは完全に消滅していた筈です」
「確かに、我にも確かな手ごたえがあった…だが、奴は生きていた…。
しかも、機械と融合した異形と化してな…謎は、ますます深まった、という訳か…」
「…ともあれ、戻りましょう。ルークも、手当てをせねば」
ギルティアの言葉に、ルークが、自分が傷を負っていた事を思い出す。
「…おっと、すっかり忘れていた」
ルークの言葉に、ギルティアは思わずこける。
「すっかり忘れていたのですね…」
ギルティアは、苦笑した。
そして、ギルティアとルークは、首都へと帰還していった…。
ギルティア日記
き、昨日は日記を書いている途中で眠ってしまいました…私とした事が…何て事…。
と、ともあれ…舞踏会は、私としても初めての体験で…非常に有意義かつ楽しい物でした。
しかし、デストヴァール…奴が、生きていたとは…。
…いずれにせよ、今回で確実に仕留めた筈です。
生じる疑問は多々ありますが、今は、ただ、旅を続けるだけです。
…ルーク、本当にごめんなさい。
ルークの負った傷を考えると、もう少しこの世界に足止めですね…。
私としては、使命を果たすために一刻も早く旅立ちたいものです…。
続く




