Act.36 寝耳に水
Act.36 寝耳に水
ギルティアは、ルークの眠っていた世界に辿り着いていた。
まず、集落にエルヴズユンデを降ろす。
「オオ、ユウシャカ。ブジデナニヨリダ!」
相変わらず、長老がフレンドリーに出迎える。
「ええ、長老もお元気そうで何よりです!」
ギルティアもそれに笑顔で答える。
「チョウドヨカッタ!イマ、テイコクヲカンリシテイルヤツカラ、ユウシャガツギニコチラニキタラ、ゼヒカオヲダシテホシイ、ト、コトヅテヲタノマレテイタ」
「…成る程、了解しました」
ギルティアが頷く。
「…さて、では行ってきますか…」
ギルティアが、エルヴズユンデに乗り込む。
「随分と早いな…どこかに移動するのか?」
エルヴズユンデのコクピットで待機していたルークが尋ねる。
「ええ、ロートベルグ帝国の首都に呼ばれましてね」
「ほう…」
エルヴズユンデが、帝国の首都へと飛ぶ。
首都の入り口に降りると、ギルティアは手厚い歓迎を受けた。
「おお、お待ちしておりました、ギルティア様!!」
男が、ギルティアに敬礼する。その声には聞き覚えがあった。
先日、ギルティア達が首都に来た時に、止めに入った機動兵器のパイロットの声だ。
「…あなたが、今この首都を守っているのですか?」
「はい、自分はエーリッヒ=ランザーダックと申します。
あの事件の際、首都を警護していた部隊の指揮官を務めさせて頂いておりました。先日は、とんだご無礼を…!」
エーリッヒと名乗った男が頭を下げる。
「…ルーク様も、お元気そうで何よりです!」
「その節は、迷惑をかけたな」
ルークが頭を下げる。
「いえ、あれは、我らが遠い先祖の罪を清算する事になった、それだけです…ルーク様が気に病む事ではありません」
「…そうか」
「首都の復旧も、おかげさまで順調に進んでいます」
首都を見回すと、あちこちに傷跡は残っているが、大分復旧が進んでいる。
「…見事な手腕です」
「いえ、全ては協力してくれた民の働きの賜物です」
エーリッヒは、そう言って笑った。
「素晴らしい心がけです。この国も、あなたのような方が守るのならば、きっと安泰でしょう」
「一度、改めてお礼がしたく、ここまでご足労願った次第であります」
「礼なんて…私は、私の使命を果たしただけですよ」
ギルティアが苦笑する。
「…貴公がしてきた事は、幾ら使命とはいえ、決して小さな事ではないのだ」
ルークが、ギルティアに耳打ちする。
「…ルーク…」
ギルティアが静かに頷く。
「分かりました…そのお礼、謹んでお受けします」
「ありがとうございます!では、どうぞこちらへ!」
エーリッヒが、修理と言うよりも再建が進んでいる、首都最奥の宮殿へとギルティアを案内する。
「ギルティア様がいらっしゃったぞ!」
「まさか、本当にいらっしゃるとは!」
再建中の宮殿に入ると、周囲から感嘆の声が聞こえてくる。
「総員!一旦作業を中断し、ギルティア様に敬礼!!」
エーリッヒの言葉で、修理作業をしていた男達が一斉にギルティアに敬礼する。
思わずギルティアは苦笑してしまう。そこまでの事をした覚えはないのだ。
「…そこまでの事をした覚えはないのですが…」
「貴公が、エルヴズユンデを修理しなければならなかったのは、ここにいた皆を砲撃から守って、であろう。
…貴公はここにいる者達の命の恩人なのだ…貴公がいなければ、ここにいる者達、そして我は、ここにはいない」
「それが、私の使命です。それが、私の当然すべき事なのです。
…私の命続く限り、私はこう在り続ける…在り続けねばなりません」
ギルティアはルークに静かに答え、寂しげに笑った。
「…総員、再建作業ご苦労!作業に戻れ!」
エーリッヒの言葉に、男たちは一斉に再び作業に戻る。
「この宮殿は、本来ならば皇族、そして皇帝の為に建てられた物です。
しかし、皇族は全てデストヴァールに駆逐され、そのデストヴァールもご覧の通り滅びました。
この宮殿は、この度、ギルティア様に献上すべく、再建しております」
「…ええ!?」
その言葉に、ギルティアが驚愕する。
礼とは、この宮殿の事だったのか。
「本来ならば、この帝国の皇帝の立場をギルティア様に差し上げたいのですが、恐らくギルティア様はこの帝国に囚われたくは無い筈…。
しかし、我が帝国ではギルティア様の戦いを、権力の暴走への戒めも込めて永遠に忘れてはなりません」
「……」
これには流石のギルティアも少し考える。
まさかここまでの礼をされるとは考えていなかった。
しかし、逆にここまでの礼を受け取らないのも失礼だ。
「…分かりました」
ギルティアは頷く。
「その申し出を承諾します」
「唐突な事を快く承諾して頂き、感謝致します!
…恐らく、我が帝国の帝政は終わりを迎えるでしょう。
今後の政治形式についても、未だ決まらぬ状態です。
しかし、我々はギルティア様に救っていただいたこの国を、より平和な、より民が幸せになれる国にする義務があります…今後の発展を見守っていてください」
「ええ、楽しみにしていますよ」
ギルティアは、笑顔で頷いた…。
その晩、ギルティアが案内されたのは宮殿内の一室だった。
恐らく、本来は皇帝が使っていた部屋だろう。
ギルティア用の部屋に改装されているようだが、その豪勢さは全く変わっていない。
「これは…」
思わず、ギルティアが苦笑する。
非常に豪勢な、黄金の装飾が為された天蓋つきベッド、そして、部屋全体にも金銀宝石が散りばめられている。
「…これは豪華だな」
ルークが笑う。
お伽話の姫君が寝泊りするような部屋だ。
そして、このような部屋に寝泊りする姫君は大抵攫われる。
…もっとも、ギルティアを攫おうとした場合、攫おうとした者がただでは済まないだろうが。
「今までで一番貴公に似合う部屋だと、我は思うぞ」
「え…?」
「貴公の出で立ちとの整合性を考えると、貴公はむしろこういう場所の方が似合うと、我は思うのだが。
『ふぁっしょん』という物が未だに理解できない我ですらもそう思えるのだ、きっと間違いは無いぞ」
ルークは、そう言って笑った。
「…そう、ですね…」
ギルティアが頷く。
「…しかし、私は今まで、こういう場所に寝泊りした事が無いのです」
今まで、長い間旅を続けてきた。
野宿や、エルヴズユンデのコクピットで一泊する事が普通で、良くてラーメン屋や民家の一室だった。
それが当たり前だと思って旅を続けてきたギルティアにとっては、目の前に広がる光景を、自分が享受出来るとは、信じられなかったのだ。
「…しかし、たまには、こういう豪奢な場所での一夜も、悪くないのかもしれませんね…」
ギルティアは、窓から、月が見える外を眺めて、そう呟いた…。
一方、その頃…。
薄暗い部屋、周囲にエネルギーが流れる筋が光っている。
その中央には、たくさんの魔法陣が展開されている。
「彼奴の残したシステムの解析は終わった…」
魔法陣の後ろに、黒い影が佇んでいる。
部屋自体が薄暗く、影自身にもどす黒い空気がまとわりついている為、その姿は確認できない。
「究極生命すら支配下に置く…彼奴め、面白い物を遺したものよ…。
制圧に必要な戦力を確保する事には使えそうだな…。
もっとも、これは本来の余の実験の趣旨からは外れたもの…これ以上発展させる必要は無いがな」
魔法陣の光が強くなる。
「…誰にも、余の邪魔はさせぬ…」
部屋にあるものが、よりはっきりと見えてくる。
部屋には、たくさんの培養槽が存在していた。
その中には、ありとあらゆる種の異形が眠っている。
「全ては、完全な世界を…かつての『過ち』を繰り返さぬ世界を生み出す為に…」
影は、静かにそう呟いた…。
ギルティア日記
まさか、私がこのような部屋に泊まる事になろうとは…。
ルークは、私のした事は、小さな事ではない、と言っていましたが…。
私にとって、鍵にとってそれは、当たり前の事の筈なのです…。
当たり前の事に、見返りなんて必要は無い。
…しかし、ここまでの物を用意していただけるのを拒むのも失礼です。
今日は、たまにはお伽話のお姫様の気分で、
ゆっくり休ませ…て…(ここから先は字が途切れている)
続く




