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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.34 黒き狙撃手


   Act.34 黒き狙撃手


 それから三日が経過し、ギルティアは、傷が回復したルークと共に、ファラオ店長の見送りを受けていた。

「…では、お世話になりました」

「何、良いって事よ…いつでもまた来な!」

 ファラオ店長は、そう言って笑った。

「ところで、次は何処に行くんだ?」

 ファラオ店長が尋ねる。

「まずはルークが封印されていた世界に立ち寄り、その後を確認、それから、取り敢えず、何か情報を探してあちこちをまわろうと思います」

「成る程な…だが、気を付けろ…今、この宇宙群には何かが起き始めてるぜ」

 ファラオ店長の言葉に、ギルティアが頷く。

「…それを何とかするために、私がここにいるのです」

「本当はそれはこの宇宙群の鍵がやる事なんだがな…全く、この宇宙群の鍵は何をやってるんだ…!

 あそこまで危険な奴を野放しにしとくなんて…」

 ファラオ店長が、不機嫌そうにため息をつく。

「嬢ちゃんがもし、この宇宙群の鍵だったら、きっとこの宇宙群も今より平和だったろうな…。

 まったく、こんな優秀な鍵を封印した奴等の気が知れないぜ…」

「事実、あの宇宙群は私を必要とはしていませんでしたから…」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「…頑張れよ」

「ええ、もちろんです…それでは、ファラオ店長もお元気で」

 ギルティアはそう言って会釈すると、ルークを肩に乗せて町外れへと歩き出した…。


 エルヴズユンデを呼び、いつも通り境界空間へと出る。

「…さて、では、行きましょうか!!」

 ギルティアは、笑顔でそう言う。

「承知!」

 ルークが、ギルティアの肩に乗ったままで頷いた。

 エルヴズユンデが、目的の世界へと向けて加速する。


 …と、その直後だった。

 突如、何者かがエルヴズユンデの進路を遮る。

 それは、五体の機動兵器だった。

 しかし、様子がおかしい。

「…これは…!?」

 形状から見て境界空間航行用機動兵器であることは間違いない。

 だが、ギルティアは、それが何であるかを一目で悟った。

 そして、その次の瞬間、エルヴズユンデの胸部に光が集まる。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァストッ!!!」

 周囲の機動兵器が武器を構えた瞬間、ブラスターの雨がそれらを襲った。

 直撃だった。

 しかし、周囲の機動兵器はその損傷を自己修復している。

「…やはり、異形ですか…!!」

 先日のラーゼルと同様の異形、しかも、今回は境界空間航行用機動兵器を素体にしている。

 …それが五体だ。

「…強敵、ですね…」

 ギルティアが呟く。普段のエルヴズユンデの力ならばどうという事は無い相手だ。

 しかし、その力を完全に発揮できていない今のエルヴズユンデでは、少々分が悪い。

「…援護が必要か?ギルティアよ」

 ルークが尋ねる。

「…不要です。私は本来、一人で戦わねばならぬ者…!

 私一人で、何とかできなければ…何とかしてみせなければ…私の存在意義は…!!」

 そう言ったギルティアの表情には、若干の焦りが感じられた。

「…ギルティア…」

 ギルティア自身は、仲間と共に戦う事が嫌いな訳ではなかった。

 しかし、仲間に頼ると言う事は、世界の守護をするという、鍵の存在目的に反する。

 …仲間もまた、守るべき大切な世界の一部なのだから。

 だから、自分一人で戦えるなら、そちらの方が良い。

 仲間達の暖かさで、忘れかけていた事だ。

 それはギルティアにとって、決して忘れてはならない、そして、決して捨て去る事など出来ないことだった…。

 そして、周囲の機動兵器がそれぞれの武器を構えるのと、エルヴズユンデが、剣を構えるのとは、同時だった。

「…行きます!」

 直後、夥しいビームの雨が、エルヴズユンデを襲う。

 正面の二機が、手に持っていた高出力のプラズマライフルを連射しているのだ。

 エルヴズユンデが、左腕のレーザーでそれを迎撃し、反対側の二体の攻撃に備える。

 反対側の二体が、持っていたバズーカを放つ。

 エルヴズユンデがそれを剣で両断し、プラズマライフルを連射する二体に向けて突進する。

「…まずは、二体!」

 しかし、その直後、エルヴズユンデの背後に衝撃が走る。

 敵機は五体。しかし、迎撃したのは四体だ。

「…空間潜行ステルス機…!?」

 背後に姿を現した、大斧を構えた機動兵器の姿を見て、ギルティアはそれを理解する。

 まるで、空間の海に潜るかのように、空間が揺らいでいる。

 ギルティアは、境界空間と世界、宇宙の間に、強引に亜空間を作り出してそこに潜る機動兵器の事を聞いた事があった。

 間違いなく、敵は、そのタイプの機動兵器を素体にしている。

 ギルティアにとっても、それは全く想定外の事態だった。

「私とした事が…普段の異形相手と同じに考えていました…不覚です…!」

 エルヴズユンデの胸部に光が集まる。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァァストッ!!!」

 再びブラスターの雨が周囲に降り注ぐ。

 四体には直撃するが、最後の一体は再び空間に潜行して回避する。

「く…っ…!」

 エルヴズユンデには、潜行した機体に対して直接決定打を与えられる武装があった。

 アトネメントプライだ。

 空間ごと敵を破壊するあの攻撃ならば、亜空間に逃げ込もうと、その亜空間ごと敵を消滅させる事が出来る。

 しかし、今のエルヴズユンデの出力ではアトネメントプライを使う事が出来ない。

「ギルティアよ、やはり我が行こう。

 我が時空震ブレスならば、潜行した敵を引きずり出す事が出来る…それに…」

 ルークが、周囲の四体に目をやる。既に再生が完了している。

 ブラスターの威力とて決して低くは無い。

 しかし、それをこうも素早く再生している。

「この異形、恐らく先日我らが交戦した、あの異形と同じ種類の異形だ。

 …潜行している機体が、本体だろう」

「そ、それは…!」

 ギルティア自身も薄々気付いていた事だ。

 しかし、それでも、異形と戦うのは自分の役割、傷つくのも、自分の役割だ。

 先日の戦いでルークが重傷を負った。

 本来なら、それは自分の負うべき傷だった。

 これ以上、大切な誰かに傷ついて欲しくは無い。


 戦いながら一瞬考えたギルティアを尻目に、ルークはエルヴズユンデの胸部から飛び立つ。

 すぐにルークは光に包まれ、巨大化する。

「心配するな、我は勝手に、好きなように戦っているだけだ!

 …貴公が、その事で気に病む事は無い…!」

 ルークはそう言って笑った。

「…ルーク…」

 ルークの言葉に、ギルティアは一瞬驚くと、静かに頷いた。

「…ごめんなさい…」

 エルヴズユンデが剣を構えなおす。

「…本体があの潜行した機体ならば、周囲の四体を幾ら攻撃しても意味はありません!

 時空震ブレス後に一気に決めます…!」

「うむ!」

 ルークが時空震ブレスを放つ。

 潜行していた空間が、強く波打つ。

 そして、まるで水の膜がはがれるかのように、潜行していた一体がその姿を現す。

「今だ!ギルティアよ!!」

 その一体を守るように、四体が集結して一斉に武器を放つ。

「ええ…行きます!!」

 エルヴズユンデが、剣を構えて五体に突進する。

 左腕のレーザーで攻撃を迎撃しながら、大量の砲撃の雨を強引に突っ切る。

「はああああああああああああっ!!!!」

 左腕のレーザーを剣状に展開し、立ち塞がる四体を強引に斬り進む。

 それと同時に、エルヴズユンデの胸部に光が集まる。

「プリズナーブラスター…バーストッ!!」

 そして、四体を突破すると同時に、その光は解き放たれた。

 光はエルヴズユンデの剣に集まり、剣が黄金の輝きを放つ。

「たあああああああああああああああっ!!!!」

 その一振りは、攻撃を防ぐために構えた斧ごと、異形を両断した。

「…願わくば、汝の罪が祓われん事を…」

 ギルティアは、静かに呟いた。

 それと同時に、収束した熱量が解き放たれ、異形は焼き尽くされて爆散する。

 しかし、その直後、予想外の事が起こる。

 残りの四体の異形もすぐに崩れると考えていたが、

 四体の異形が、崩れながらも武器を構えたのだ。

 エルヴズユンデ自体も被弾している。

 今の状態で一斉放火の直撃を喰らえば、耐えられるとしてもただでは済まない。

「ギルティア!」

 ルークが四体の異形に向けて突っ込む。

「くっ…まだです!!」

 エルヴズユンデも反転し、四体に向けて突っ込む。

「間に合わない…!?」

 そして、敵が引き金を引く瞬間だった。

 エルヴズユンデの横を、四発の銃弾が抜けていった。

 それは、その持っていた武器ごと、四体の異形を的確に撃ち抜いた。

「…!?」

 異形は、そのまま崩れ去った。

「今のは…実弾…!?」

 すぐにギルティアが周囲を確認するが、機影は見当たらない。

「…無事であったか、ギルティアよ」

 ルークが、ギルティアの元へ戻って来る。

「ええ…おかげ様で」

「しかし、先程の狙撃は…一体、何者なのだ?」

 残留エネルギーも確認できないという事は、狙撃後に高速で離脱したのではなく、確認できる範囲外から狙撃を行ったという事だ。

 異常な狙撃能力を持った機体と、それを扱える技量を持った使い手…。

「…私にも、見当がつきません。

 もし出会う事が出来たら、礼を言わねばなりませんね…」

 ギルティアは、そう言って苦笑した。

「ああ、そうだな」

「…本当に、何者なのでしょうか…」

 ギルティアは、銃弾が飛んできた境界空間の遥か彼方を静かに見やった…。

「…しかし、先日咄嗟に編み出した攻撃…思った以上に使えますね。

 アトネメントプライが使えない現状、敵に決定打を与える攻撃となり得ます…」

 ギルティアが、暫し考える。

「…しかし、技名がありません…」

「技名…?」

 ルークが尋ねる。

「ええ…便宜上、ブラスター収束斬り等の名前は使い辛いですしね…」

「成る程、良く使う技ならば、固有名詞を用意しておくのは悪く無いな」

「…次に使う時までに、考えておく事にしましょう…」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「それと、ルーク…おかげで、助かりました」

「勝手にやった、と言ったぞ。礼を言われるようないわれは無い」

 ルークは、そう言って笑った。

「…エルヴズユンデが完全に復活したら、この埋め合わせは必ずします」

「だから、我は貴公に命を救われていただろうに…貴公がしてきた事は、貴公が思うほど当たり前の事ではないのだ」

「鍵にとっては、出来て当たり前の事です」

 ギルティアは、そう言って寂しげに笑った。

「まったく…鍵として優秀すぎるな、貴公は。

 だが、無茶は完全に復活してからにして欲しい。

 …今の状態であまり無茶をされると、貴公自身の完全な復活がまた遅れる」

「…確かにそうですね…気をつけます」

「それまでは、我も『勝手に』戦わせて貰う。

 …心配するな、あくまで勝手に、だ。ハッハッハ!!」

 ルークは、そう言って笑った。

「ルーク…本当に、苦労をかけます…さて!ならば、私ももっと頑張らなくてはなりませんね…行きましょう!」

 ギルティアが笑顔で言葉を紡ぐと、エルヴズユンデは再び目的地へ向けて移動を開始した…。


 一方、その遥か彼方、過剰なほどに装備された外部装甲が特徴的な黒い機動兵器が、大型のライフルを構えていた。

「ターゲット四体の崩壊を確認」

 機動兵器のコクピットで、黒髪の青年がため息をつく。

「対象の消耗率は許容範囲…世話が焼ける…」

「何だ?いきなり出撃したと思ったらその距離から狙撃しやがって…」

 黒い機動兵器に通信が入る。三十代後半ほどの男の声だ。

「…私用であると返答する」

「お前が私用とは、珍しいな…」

「もし事情の説明を要求すると言うのならば、そちらに戻ってから説明する。

 …この宇宙群の鍵に代わって、『奴』に対しての切り札になる可能性ありと判断」

 黒髪の男の言葉に、通信していた男の声色が変わる。

「おい、マジで何者だ…!?」

「今は、俺の古い知り合いである、とだけ返答しておく…今から戻る」

 黒い機動兵器が、転進する。

「そうか…なら、その説明を楽しみにさせてもらうさ」

「…了解」

 黒い機動兵器が向かったその先には、紅の巨大戦艦が待機していた…。


続く


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