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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.32 荒れ狂う欲望


   Act.32 荒れ狂う欲望


 次の日、エルヴズユンデの修理は急ピッチで進められていた。

「現在、左腕に縮退炉を搭載中です。

 出力で考えれば、重力レンズ式ブラスターも使用可能になるでしょう」

 その言葉に、ギルティアは満足気に頷く。

「ええ、プリズナーブラスターが使用できれば、それだけでもかなり戦えます」

「…しかし、背中に追加ブースターは、本当に必要無いのですかな?」

「ええ、エルヴズユンデが完全復活した際に、いずれにしても取り外さなければなりません」

 アルフレッドが頷く。確かに、完全な状態のエルヴズユンデには追加ブースターは邪魔になる。

 邪魔になるものは少ない方がいいだろう。

「確かにそうですな…それに、ギルティアさんの腕なら、きっとその程度は問題になりませんな、ふふ」

 アルフレッドは、そう言って笑うと、修理作業に戻っていった。


 ギルティアが、再び屋上に登り、町並みを眺める。

 以前より活気が増している、そんな気がした。

「…いい傾向です」

 ギルティアが、静かに微笑む。

「これで、この世界における、私の使命は完全に終わったようです…心置きなく、旅を続けられますね」

 ギルティアは、そう呟くと自分が借りている部屋に戻っていった…。


 …その日の夜だった。


 凄まじい爆発音で、ギルティアは目が覚めた。

「!?」

 ギルティアが、表に出る。既にアルフレッドとランが外に出ていた。

「…何事です!!」

「あれを…!」

 アルフレッドが指差す。

「…あれは…!!」

 工業地帯の遥か彼方は、燃え盛っていた。

 その場所に立っていたのは、巨大な機動兵器…いや、あれは機動兵器ではない。

 金属は埋め込まれているが、どちらかと言うと、生物だ。

 そして、あの禍々しさ、ギルティアは、それを知っていた。

 ギルティアは、思わず呟く。

「…異形…!!」

 しかし、あのサイズは異常だ。

 それに、閉鎖空間外に出てくるなど、前代未聞でもある。

「…エルヴズユンデの修理を急いでください!!」

「は、はい!」

 すると、それと同時のように、シリウスから連絡が入る。

「お嬢ちゃん、それと、アルフレッド社長!!

 こいつぁ、大変に厄介な事になりおったな…!!」

「シリウス!?」

「…エルヴズユンデは修理中だろう!?

 …今、ウチの社員をそちらに向かわせた!せいぜい、こき使ってやってくれ!」

 シリウスは、そう言って笑う。

「い、いいのですか!?」

 アルフレッドが聞き返す。

「…あの化けもの、お嬢ちゃんが言っていた『異形』なのであろう!?

 ならば、現状、わしらでもどれだけ持つかは分からぬ。

 お嬢ちゃん…頼む、この世界を護ってくれ…世界を護る鍵、そのお手並み拝見させて貰おうぞ…!」

 シリウスは、真剣な表情でそう言う。

「わしは、秘密兵器を持ち出して時間を稼ぐ…後は、頼むぞ…!」

 そういうと、シリウスは通信を切った。


 シリウスは、アンファースの足元にいた。

「まさか、夢がこんなに早く叶うとはなァ…」

 シリウスは、そのままアンファースに乗る。

「まぁ、夢は夢でも、悪夢だがな…フフ、だが…それもまた良し…行こうぞ、アンファース!!」

 会社のハッチを手でこじ開け、アンファースが外に出る。

 アンファースは、右腕に、非常に長い砲身を持った砲を構えていた。

「…さて、わしが作った『対異形用兵装』が、果たして通じるか…。

 そして、わしの予想が正しければ、奴は…」

 シリウスが、遥か遠くの巨体を睨む。

 巨大な異形は、遥か彼方から、真っ直ぐに歩いてきていた。

 そう…その先にあるのは、アルフレッド工業だった…。


 一方、アルフレッド工業では、合流したアンファースの技術者達と共に、エルヴズユンデの修理が急ピッチで進められていた。

「…俺も出るよ!人手が足りないだろ!?」

 ランが、オメガソルジャーに乗って叫ぶ。

「駄目だ!あれは、先日のグレートラーゼルとも桁が違うんだぞ!!」

「けど、時間が稼げなければ、エルヴズユンデの修理が間に合わなければ、あれには勝てない!!」

「し、しかし…お前はまだ若い…」

 アルフレッドが、ランの気迫に押されながらも言う。

「…そうか…心配してくれてるんだよね…分かってる、今死ぬつもりは無いよ」

 その言葉に、アルフレッドは静かに頷く。

「分かった。くれぐれも無理はするな」

「…気をつけて」

 ギルティアが手を振る。

「ああ、任せとけ!!」

 オメガソルジャーが空へと飛び立つ。

「小生が思った以上に、ランは強かったのですな…」

「…ええ、彼は…間違いなく強いです」

 ギルティアが、笑顔で頷いた…。


 一方、フレアドイリーガルと、ジェネラルZXが、異形相手に攻撃を仕掛けていた。

「一体何なんだ!この化けもんは…!!」

 ジェネラルZXが、榴弾砲を放つ。

 直撃するも、異形は揺るぎもしない。

「あの王者決定戦の時もそうだが…最近、ここの治安が悪くなってはいないか…?」

 フレアドイリーガルが剣を叩き込む。

 しかし、傷は出来るが直ぐ再生されてしまう。

「…あ、それは多分ウチらのせいだ、すまん」

「おっと、そうだったな…だが、これからはもっと俺も楽しめそうだ…!

 …もっとも、こいつに全て破壊されなければ、だがな…フフ」

 そう言って、レディオスは笑った。

「…しかし、何処に向かっているんだ?こいつ」

 藤木が尋ねる。

「知らんな…この先にあるのは…!!」

 レディオスが、気付く。

「…アルフレッド工業…ようやく施設が完全に復旧したと聞いていたが…」

「…まさか!!」

 二人の顔色が変わる。

「それが目的か、こいつは…!!」

「しかし、全く歯が立たない…この俺達が、だぜ…!?」

「面白いじゃないか…これくらい絶望的な方が、俺は好きだがな…!!」

 こんな状況でも、レディオスは不適に笑っている。

 しかし、異形は、確実に歩をアルフレッド工業に向けて進めていた…。


 一方、その遥か遠くに、アンファースは仁王立ちしていた。

「…こいつを撃つ時はブースターは使えん…彼奴の射程内に入ったら、回避は殆ど出来んだろうな。

 …だが、威力は折り紙つきぞ…!」

 シリウスが、二機に通信を入れる。

「秘密兵器を使用する!巻き込まれたく無くばそこから下がれィ!!」

「シリウス社長か!?その距離から狙撃する気か…!?」

「言ったはずぞ!秘密兵器だと!!」

 シリウスがニヤリと笑う。

 二機が下がったのを確認し、アンファースが、右腕に砲を構える。

「…対異形用兵装、デモンズ・スローター…発射!!」

 引き金が引かれたと同時に、まるで雷が落ちるような音が鳴り響き、砲弾が異形に直撃する。

 異形が、仰け反る。

「まだまだ!どんどん行くぞ!!」

 次々に砲弾が異形に襲い掛かる。

「凄い威力じゃねぇか!一体何だ、その武器は!」

 藤木が尋ねる。

「何、以前発注された超電導粒子加速器の設計図を元に、超電導レールガンというものを作ってみたのだよ。

 効くかは未知数だったが…効くならば、こちらのものだ!!」

 アンファースが更に砲弾を撃ち続ける。

「今度こそ決着をつけようでは無いか…ラーゼル!!」

「ム、ググ…ク、クク…フハハハハハハハハハ!!!」

 異形の笑い声が、炎に包まれた工業地帯に響く。

「良く気付いたな…シリウスよ…!!」

「しゃ、喋りやがった…!」

 藤木が呟く。

「我は力を手に入れた…そう、貴様らを絶望のどん底に叩き落すに足る力を!!」

「果たして、それはどうかな…?

 現に、我が一撃でお主は怯んだ…倒せない相手では無いぞ!!」

 シリウスが、ニヤリと笑う。

「試してみるか…?老いぼれの、虫けら風情が!!」

 異形となったラーゼルが、その歩をアンファースの方へ向ける。

「そうだ、それで良い!このわしと勝負せよ!!」

「お、おい、シリウス社長!何て無茶を…それに、あれが、社長だと!?」

 藤木が叫ぶ。

「うむ、間違いない。あの物言い、紛れも無く、奴だ…!!」

「…社長…いや、ラーゼル…!!

 …そこまで落ちやがったかァァァァァァァァァ!!!!」

 ジェネラルが剣を構え、突進する。

「力だァァァァァァァ!!!」

 ラーゼルが振り向き、両腕が、グレートラーゼルの巨大砲へと変わる。

「何ッ!?」

「…させん!!」

 アンファースが、再びラーゼルに砲弾を叩き込む。

 ラーゼルが仰け反り、照準が外れるが、砲弾の一発がジェネラルに直撃する。

「ぐおっ…出力が、桁違いに上がっている…!?」

 半身を吹き飛ばされ、ジェネラルが倒れる。

「…何て奴だ…!」

「藤木、大丈夫なのか!?」

「ああ、何とか生きてるぜ…戦えそうには、無いがな…」

「いつもいつも…俺の邪魔を!!」

 フレアドイリーガルが、剣で斬り込む。

「虫けら風情が…退け!!」

 ラーゼルの肩から、大量のミサイルが放たれる。

「何ッ!?」

 フレアドイリーガルがそれを回避するが、近づけない。

「ぬぅ…何という火力…グレートラーゼルをそのまま強化したような敵か…!!」

 アンファースが、砲弾をリロードする。

「…だが、負けぬぞ…!!」

 そして、再び砲弾を放つ。

「シリウス社長!俺も手伝うよ!!」

 アンファースの後方に、オメガソルジャーが降りる。

「アルフレッド社長の孫か!?」

「ああ!」

「なら、少々危険だが、あの化けものの後方に、一機やられておる!

 そのパイロットの救助を頼みたいが、出来るか…!?」

「分かった、行ってくる!その代わり、あの化け物の相手は任せるよ!!」

 再び、オメガソルジャーが飛び立つ。

「うむ!任せておけい!!」

 アンファースが、再び砲弾をラーゼルに叩き込む。

 ラーゼルが、大きく仰け反る。

「今だッ!!」

 オメガソルジャーが、ラーゼルの横を抜け、ジェネラルの残骸の所へ降りる。

「藤木、助けに来たよ!」

 オメガソルジャーが手を差し出す。

「ああ、すまねえ…しかし…ソルジャーが、随分と強力になったもんだ…。

 …お前、名前は?」

「ラン!ラン=フレイヘリヤル!」

「成る程、アルフレッド社長の孫か…優秀な、いい孫を持ったもんだ」

 藤木が、そう言って笑い、オメガソルジャーの手に乗り、コクピットに乗り込む。

「…頼みがある。

 …この戦いの間、この機体を貸してくれ」

「え、ええ!?」

 藤木の突然の申し出に、ランが驚く。

「心配するな、もし破壊されでもしたら、修理費は俺が持つ!!」

「そ、そういう問題じゃ…いや、少なくとも、俺よりも上手く扱えるか…。

 けど、こいつは俺の相棒だ…くれぐれも大切に扱ってくれ!!」

「分かってるさ…だが、俺だって、俺の相棒を破壊されてブチギレてるんでな!!

 …操縦は少々荒っぽくなるぞ?」

 藤木が、ニヤリと笑う。

 ランが、後ろを見る。そこには、半身を吹き飛ばされたジェネラルが倒れている。

 それを見て、ランは頷いた。

「そういう事なら…分かった!あんたの相棒の敵討ち、存分に暴れてくれ!!」

「おう!」

 オメガソルジャーが飛び立つ。

 ラーゼルが、そちらを狙って巨大砲を撃つ。

「手が分かっていれば、対処のしようも…ある!!」

 オメガソルジャーが、それを回避し、両腕の刃をラーゼルに叩き込む。

 更に、それに追い討ちをかけるように、巨大砲にアンファースが放った砲弾が直撃する。

「貴様ァ…!!」

 異形となったラーゼルの鋭い目が、アンファースを睨む。

「そうだ、それで良い…!!」


「俺を忘れてもらっては困るな…!!」

 ラーゼルの肩部分に、剣が叩き込まれる。

 フレアドイリーガルだった。

「貴様…あれだけのミサイルを受けて、無事だったのか…!!」

「お前達がどうやっても倒す事が出来なかったこの俺が、そう簡単にやられると思ったか…!?」

 レディオスがニヤリと笑う。

「ク、ククク…ならば、これでどうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 突如、ラーゼルの身体から凄まじい衝撃波が放たれる。

「何だと!?」

「うおっ!?」

 オメガソルジャーは咄嗟に距離を離して回避したが、衝撃波の嵐が、回避し損ねたフレアドイリーガルを飲み込む。

「ぐ、おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 フレアドイリーガルが吹き飛ばされ、建物に叩きつけられる。

 戦闘続行は可能か、いや、レディオスは、生きているのか。

「レディオス!!無事か!?」

「う、ぐ…成る程、化け物は、化け物、という訳か…機体は何とか動けるが…剣、アサルトライフル、共に破壊。

 …ダガーでは、奴の相手は出来ないか…」

「…藤木、ラン!そちらは無事か!?」

 シリウスが叫ぶ。

「ああ、オメガソルジャー…ソルジャーがここまで化けるとはなァ…」

「そこまで化けてる?」

 ランが尋ねる。

「おう…こいつぁ、ラーゼルの最新型以上の機動性だぜ…!!」

「…おい、藤木!」

 レディオスが、叫ぶ。

「何だ?」

「ジェネラルの榴弾砲は無事か!?」

「おう…まさか、使う気か!?」

「ああ、貸してくれ…!」

 レディオスが頷く。

「…おう、まだ、弾数はかなり残っている筈だ」

「分かった!」

 フレアドイリーガルが、ジェネラルの榴弾砲を構える。

「だが…このままでは奴に対して決定打を与えられない!どうするんだ、シリウス社長!!」

 藤木の声からも、焦燥が感じられる。

「残りリロードは一回…撃ち尽くせば、あとはこちらも奥の手しか残っておらんが…まだか!?お嬢ちゃん!!」

 アンファースが、今一度、砲弾をリロードする。


 一方、アルフレッド工業では、ギルティアも修理に加わっていた。

「間に合わせなければ…!!

 このままでは、私の護るべきものが失われる…!!

 それでは、私がここに存在する意味など無い…!!」

「修理はもう数分で完了します!すぐに出撃できるように、コクピット内で待機してください!」

 アルフレッドが叫ぶ。

「了解です!くれぐれも、急いで!!」

 ギルティアが、コクピットに乗り込んだ。


 既に、アンファースにも巨大砲が届く距離まで、ラーゼルは迫ってきていた。

「消え失せろ!虫けら共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ラーゼルが、アンファースに向けて巨大砲を放つ。

「何のッ…お主には負けぬ!!」

 アンファースが、それと真正面から撃ち合いを続ける。

 巨大砲の直撃を受け、アンファースの肩アーマーが吹き飛ぶ。

「何のこれしき!!」

 アンファースの左足が吹き飛ぶ。

「わしを、その程度で倒せると思うな!!」

 バランスを崩すが、左腕で砲撃姿勢を何とか保つ。アンファースが、更に撃ち続ける。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「い、幾らなんでも無茶だぜ!下がれ!シリウス社長!!」

 思わず、藤木が叫ぶ。

「しかし、見よ!!」

「何!?」

 シリウスに促され、見ると、ラーゼルの巨大砲に軋みが生じている。

 アンファースの狙撃で、巨大砲は両腕共に既にガタガタだった。

「…今こそが好機!かの場所へ攻撃を叩き込め!!」

「ああ、任せろ…!!」

「おう!行くぜ!!」

 フレアドイリーガルが、榴弾砲を軋む巨大砲に叩き込み、オメガソルジャーがもう一方の巨大砲に刃を叩き込む。

 次の瞬間、連射されていた巨大砲が、暴発した。

 それは、ラーゼルの両腕が吹き飛ぶ事と同義だ。

「よし!」

「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 ラーゼルの表情が苦痛に歪む。

「ぬっ!?」

 凄まじい衝撃波が再び放たれる。

 フレアドイリーガルとオメガソルジャーは退避したが、脚部をやられたアンファースはその場でそれを防御する。

「ぬぅぅぅぅぅ…!!」

 アンファースも、既に動けるのが不思議とも言えるほどの損傷を負っている。

 コクピットでも、シリウス自身も負傷していた。

「まだまだァ!!」

 しかし、アンファースは再びデモンズ・スローターを構える。

「シリウス社長!逃げろって!!」

「まだ…まだ、逃げる訳には行かぬ!!」

 そして、もう一度引き金を引く…が、砲弾が出ない。

「…弾切れか…こんな時に…!!」

「どうやら、ここまでのようだなァ…死ね!シリウス=アンファース!!」

 ラーゼルが、再び衝撃波を放とうとした次の瞬間だった。

「…待ちなさい!!」

 閃光が、アルフレッド工場から解き放たれる。

 そして、次の瞬間、その閃光がラーゼルに向けて突進する。

 ラーゼルの巨体が、大きく引きずられ、吹き飛ばされる。

「お、おお…!!」

 そこには、エルヴズユンデが剣を構えて立っていた…。

 四枚の翼と、左腕の爪は本来の姿には戻っていないが、その力は、少なくとも今までフルメタルコロッセオで戦ってきた時とは桁が違っていた。

「…シリウス、ありがとう…私を信じていてくれたのですね…」

「ふふ…何、お主は、わしに『夢』を見せてくれた…見せてくれ、わしにとっての『夢の世界』の力を」

 シリウスは、ニヤリと笑い、そう呟いた。

「…ええ」

 ギルティアは頷くと、剣を構えなおす。

「藤木さん!レディオス!下がってください!ここは私が引き受けます!!」

「な、何だァ…エネルギー反応が振り切れてるぜ…」

 藤木が驚く。

「…分かった、お手並み拝見と行こう…!!」

 オメガソルジャーとフレアドイリーガルが、後方に下がる。

 ラーゼルが起き上がる。

「ルギルナ…か…無駄だ、我を止める事など出来ぬぞ!!」

 ラーゼルの肩から、再び凄まじい量のミサイルが放たれる。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァァァストッ!!!」

 エルヴズユンデの胸部から放たれたブラスターがバラバラに拡散し、一発一発のミサイルを確実に叩き落した。そう、全弾、である。

「フフ…流石はアルフレッド…見事な修理です…!」

 凄まじい爆発がラーゼルとエルヴズユンデを隔てるが、エルヴズユンデはその中に突っ込む。

「さぁ…続けていきますよ!!」

 エルヴズユンデが、ラーゼルに再び剣を叩き込む。


 一方、シリウスは、アンファースのコクピットの中で、エルヴズユンデの戦いを見て感嘆の声を上げていた。

「これは…素晴らしい…これが、世界を救ってきた力か…!!」

 まさに、素晴らしいとしか言いようが無い、それは、シリウスの予想以上だった。

 世界は広いなと、シリウスは改めて頷き、そして、静かに言葉を続ける。

「…さて、と…ここで見ている事も出来るが…フフ」

 シリウスが、弾切れを起こしつつも未だ健在のデモンズ・スローターを見やり、ニヤリと笑った。


 ラーゼルが口を開くと、そこに凄まじいエネルギーが集まる。

「消え去れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 集束したエネルギーが、エルヴズユンデ目掛けて解き放たれる。

「その程度…!!」

 しかし、放たれたエネルギーは、エルヴズユンデの剣の一振りに叩き落された。

「何故だ!我がこの力は、全てを喰らい尽くす力だ!!誰にも阻めぬ力だ!!」

「当然です…それを阻むために、阻む為だけに私は存在しているのですから…!!」

 ギルティアは、ニヤリと笑った。

「ぬぅぅぅぅ…おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 ラーゼルの両腕の巨大砲が、再生する。

「消えろ!消えるのだこの虫けらがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「無駄で…」

 ギルティアの言葉を、遮る者があった。

「…往生際が悪いぞ、ラーゼル!!」

 見ると、アンファースが再びデモンズ・スローターを構えている。

「…もっとも、ここで切り札を切る、わしも人の事は言えぬか…。

 お嬢ちゃん、すまぬが、わしにもまだもう一枚、最後の切り札が残っておるのだ」

 アンファースが、左腕に剣を持ち、自らの腹部をその剣で地面に突き刺す。

 恐らくは、左足が使えない状況を補う為に、剣を、砲撃の反動を止めるアンカーにしたのだろう。

「…もう一度、手番を貰えまいか…?」

 砲身から、凄まじい光が漏れ出している。

「…分かりました」

 ギルティアが頷き、エルヴズユンデが射線を開ける。

「…射線クリア!デモンズ・スローター…粒子加速砲モード…エネルギー充填完了!!

 ラーゼルよ…吹き飛ぶが良い!!!!」

 そして、次の瞬間、砲身から放たれた凄まじい閃光が、ラーゼルを飲み込む。

「ぐ、おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 そして、その一撃はラーゼルを、工業地帯の外、遥か遠くへと吹き飛ばした。

「…見事、です」

 ギルティアが呟く。

「何、これをやるとジェネレータが完全に死ぬのでな…時間稼ぎという目的の関係上、今まで使えなかったのだよ」

 自分で言ったとおり、機能を停止したアンファースのコクピットで、シリウスが笑う。

「さぁ、止めは任せたぞ!!」

「…はい!」

 エルヴズユンデが、ラーゼルの方へと突っ込んでいく。

「こんな事があってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ラーゼルが、ミサイル、巨大砲、そして、衝撃波、口からのエネルギー波を同時に放つ。

「プリズナーブラスター…バァァァァァストッ!!!」

 エルヴズユンデの胸部から、連続して放たれたブラスターが、エルヴズユンデの周囲に弾幕を展開する。

 ミサイルと巨大砲が、掻き消される。

 口からのエネルギー波は、剣の一振りで真っ二つになった。

「私は、私の使命を果たします…立ち塞がる者は…誰であろうとも…」

 エルヴズユンデが、衝撃波に正面から突っ込む。

 バラバラに拡散していたブラスターが剣に集まり、剣が赤熱化を超えて光り輝く。

「…私の持ち得る全力を以って、撃破します!!!」

 そして、剣の一閃が、ラーゼルをぶち抜いた。

「グ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 直後、剣に集積した莫大な熱量が一気に開放される。

 ラーゼルは、開放された熱量が起こす爆発により、斬られた部分から消滅していった。

「…願わくば、汝の罪が祓われん事を…」

 ラーゼルの消滅を確認し、ギルティアは静かにそう呟いた…。


「…申し訳ありませんが、私はここで失礼致します」

 ギルティアが、アルフレッドに通信を入れる。

「…ファラオ店長と、ルークさんに合流するのですね」

「ええ…ラーゼルが異形化した事は、前例の無い事態です。

 急ぎ、ファラオ店長にも報告せねば。

 …それと、今回の戦いに立ち会ってくれた戦友達に、必要があれば事情を説明してあげてください」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「承知しました…それと、この世界を救ってくれて、本当にありがとうございました」

 アルフレッドが頭を下げる。

「いえ、私は私の使命を果たしただけです」

「ギル姉、行っちゃうんだね…」

 ランが、通信を入れる。

「寂しそうな顔をしないで…別に今生の別れという訳でもありません。

 …縁があれば、きっとまた会えますよ」

「…そうだね!ギル姉、また、いつでも会いに来てよ、待ってるからな!」

 ランに、笑顔が戻る。

「おい、お前の機体、一体どうなってんだ?さっきの戦い、凄すぎたんだが…」

 藤木が、笑顔で尋ねる。

「アルフレッドさんが詳しい事を説明してくれる筈です。

 …この戦いに立ち会ってくれた皆さんなら、信頼できます…」

「…分かった!おい、ラン、工場に戻るぞ!!」

「ああ!それじゃ、またね、ギル姉!!」

 オメガソルジャーが工場の方へと飛んでいった…。

「『その先にあるもの』か…フッ、成る程な…」

 レディオスが、静かに呟く。

「…さらばだ。

 お前が何処から来て、何処へ行くのかは知らんが…お前の旅に、幸多からん事を」

 レディオスはそう言うと、フレアド工業の工場へとフレアドイリーガルを帰還させていった…。

「ありがとう、レディオス…」

 ギルティアが、静かに呟いた。

「…お嬢ちゃん、行くんだな?」

 シリウスが通信を入れる。

「ええ」

「…どうだ?わしの対異形兵装、デモンズ・スローターは」

 シリウスは、そう言ってニヤリと笑った。

「素晴らしい威力でした…。

 ジェネレータの出力がもっと高ければ、あれは確かに実用性のある対異形兵装ですよ。

 しかし、まさか、あそこまでの代物をこっそりと作っていたなんて…」

「彼奴のグレートラーゼルだって、そうだったであろうが…」

「…でしたね」

 ギルティアは苦笑した。

「…何処ぞの宇宙か世界で、また会おう」

「え?」

「いや、何でもない…そうなれば良いなと、思っただけだ」

 シリウスは、そう言って笑った。

「…元気でな」

「ええ!シリウスも、いつまでもお元気で!」

「うむ!」

 アンファースの胸部から出てきたシリウスが、手を振っていた。

 ギルティアはそれに応え、エルヴズユンデで手を振る動作をしてから、境界空間へと飛び立っていった…。


 夜明けは、もうすぐだった…。


ギルティア日記

ようやく、私も異形討伐に戻ることが出来る…。

しかし、それよりも不可解な事態が起こりました。

シリウスが頑張って時間を稼いでくれたので何とかなりましたが…。

ラーゼルが、異形化するとは…。

この宇宙群には、異形誕生の要因となる空間自体が存在しない…誕生するはずは無いのですが…。

一気に疑惑が生じましたね…。

…いずれにせよ、私は明日も戦うだけです。


続く

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