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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.30 焔光と斬光


   Act.30 焔光と斬光


 戦闘開始を告げる言葉と同時に、二機の剣が正面からぶつかる。

「嬉しいぞ、あれだけの戦いの後、俺に付き合ってくれるとはな…!!」

「フフ…私の長い戦いの旅路は伊達ではないのです…この程度で戦闘不能にはなりません!!」

 エルヴズユンデが再びフレアドイリーガルを押し飛ばそうとする。

「何度も同じ手は喰わん…!!」

 フレアドイリーガルが、一歩退く。

 勢い余ったエルヴズユンデの剣が、地面に叩き込まれる。

「隙あり、だ!!」

「なんの!」

 フレアドイリーガルが振り下ろした剣を、

 エルヴズユンデが左腕のクローで受け止める。

「私は、負けられないのです…!」

 エルヴズユンデのクローが、フレアドイリーガルの剣をへし折る。

「剣を折られただと…!?だが、まだまだ!!」

 フレアドイリーガルが、ダガーを構え、真っ直ぐに突進する。

 エルヴズユンデが、剣を振り下ろす。

「私は、目的を果たす…そのために、私は、今此処にいるのです…!!」

「ならば、お前の目的は何だ!!」

 振り下ろされた剣を回避し、フレアドイリーガルがダガーを叩き込む。

「愛機を、修理する事です…!!」

 叩き込まれたダガーを、剣の振りの反動を利用して紙一重で回避する。

 今まで、この世界の住人を相手に、自らの真実を語る事は無かった。

 しかし、王者となってからこの場所を去るというのなら、理由はいずれ告げねばならない。

「お前の機体を…修理する事だと…!?」

 フレアドイリーガルが、アサルトライフルを放つ。

「修理費を支払う代わりに、私はこの闘技場に参加しました…!」

 エルヴズユンデが、高速で後退する。

「それに、ラーゼルの妨害を何とかした上で修理を無事完了するには、どうしても、設備の修理と増強が必要だったのです…!」

 そして、左腕のレーザー、ビーム砲を放つ。

「それが、お前がここに参加した目的か…成る程、負けられない訳だ…!

だが、そのような事、俺には関係ない!!さぁ、俺に勝利するというのならば、勝利してみせろ!!」

 フレアドイリーガルが、折れた自らの剣の刃を、

 そのレーザー、ビーム砲の雨に向けて投擲する。

「何…!?」

 刃が、レーザー、ビームの雨をかき消し、エルヴズユンデの肩アーマーに突き刺さる。

「隙あり、だ!!」

 フレアドイリーガルが一気に距離を詰める。

「まだまだ、です!」

 エルヴズユンデが、ブラスターを放った。


 二人の戦いを、アルフレッドとシリウスが同じ場所で観戦していた。

「…アルフレッドよ、今彼女が言った事、本当なのか?」

 シリウスが尋ねる。

「ええ、本当です…あの機体は本来、彼女が我が社に持ち込んだもの…。

 戦いで大破し、胸部だけになっていた機体を『応急修理』したものです」

「応急修理だと…ならば、あの機体は、あれでまだ完全ではない、と…!?」

 シリウスが驚いて聞き返す。

「その通り…本来のエルヴィントは、我々では完全に修理することはできない程の機体なのです…」

「ならば、その本来の力は…!?」

「…詳細は、もし、それを聞く勇気があるのでしたら、この戦いの後、彼女に直接真相を尋ねてください。

 それが真実かを、そしてもし真実ならば、自分の耳を疑いたくなるような事実が聞ける筈です」

 アルフレッドは、そう言って苦笑する。

「…分かった」

 シリウスは、静かに頷くと、再び黙って二機の戦いを見守り始めた。


 フレアドイリーガルは、至近距離でブラスターを強引に回避する。

「今です…!」

 エルヴズユンデが、フレアドイリーガルの背中のブースターを狙って剣を叩き込む。

「何ッ!?」

 フレアドイリーガルのブースターが真っ二つになる。

 エルヴズユンデが、反転して蹴りを叩き込む。

 フレアドイリーガルが、叩き飛ばされて闘技場の壁に突っ込む。

「…まだまだ!!」

 フレアドイリーガルが、更に追撃をかけようとしたエルヴズユンデに、それを利用してダガーを叩き込む。

 エルヴズユンデの背のブースターが大破する。

 このまま戦闘を長引かせては、泥仕合になりかねない。

「次の一撃で、決めます…!」

「名残惜しいが…仕方あるまい…!」

 二機が、真正面から向き合う。


 二機が、同時に踏み込む。

「たあああああああああああああああああっ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 二機が、交差した。

「…ぐっ…」

 エルヴズユンデの左腕が落ちる。

 メイン動力が落ちるが、背に搭載された動力が、ウィングの大破にもかかわらず、何とか持ち応えていた。

「ふ…見事だ…楽しかったぞ…!!」

 直後、フレアドイリーガルが、真っ二つになり、倒れる。

「…私の…勝ちです」

 ギルティアが静かに呟き、エルヴズユンデが剣を掲げた…。


 数秒間の静寂の後、実況の男が口を開く。

「まさに壮絶!まさに、史上最高の王者決定戦だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 ルギルナ=燐紅=御果、レディオス=アイルレードを倒し、ついに、チャンピオンの座を手に入れたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 実況の男の叫びに、残された皆が拍手で応える。

 人数が少なかったので声援は少々寂しかったが、ギルティアがコクピットから出てくる。

「…こちらの方が、私らしいです」

 ギルティアは、そう言って微笑んだ。

 そして、エルヴズユンデから降り、既に機体から出てきていたレディオスの方へと歩く。

「…良い戦いが出来ました…ありがとう」

 ギルティアが、手を差し出す。

「ああ、今までの戦いの中で、一番楽しい戦いだったぞ…」

 レディオスが、それに応える。

 二人は、固く握手した。

 その二人の下へ、ランやアルフレッド、シリウスが走ってくる。

「さっきの戦いの被害は尋常ではなかったが、取り敢えず、今日だけは存分に勝利を祝おうではないか!!」

 シリウスが、笑顔でそう言う。

 …ギルティアが、周囲を見回す。酷い損害だ。

「…ラーゼル…」

 しかし、ギルティアは静かに頷いた。

「…分かりました。今は、まずは勝利を祝う事にします」

 そうして、最後の戦いを見届けた者達で、アルフレッド工業の工場を使って祝勝会が開かれる事になった。

「やったな、ギル姉!」

 ランが笑顔で言う。

「いえ、今回はランの方が、あの時の戦いではお手柄でしたよ…見事な機体、見せて頂きました」

「へへっ…腕の無さは機体の設計で補う、まぁ、今の俺にはそれしか出来ないからね」

 ランが、そう言って苦笑した。

「いえ、それが出来るのも、立派な腕ですよ」

 ギルティアは、そう言ってランの頭を撫でる。

「アンファースが、あの戦いを直に見届けられた事を誇りに思う、と言っておったぞ…そして、わしもな」

 シリウスが、そう言ってニヤリと笑う。

「ええ…まさか、ラーゼルがあのような手を使うとは思いませんでしたが…。

 …止めようとして下さっていたのですね…本当にありがとうございます」

「いや、儂としては、あの最高の戦いの邪魔をされたくなかっただけだ。

 儂が勝手に戦っただけだ、礼を言われる筋合いは無いぞ」

 シリウスは、そう言って笑った。

「ウチの社長が本当に迷惑をかけたな…そして、今までに無い最高の戦いを見せてくれて、ありがとうよ。

 いやぁ、あの時仕事中だったので会社で観戦していて、本当なら俺も直に見に行きたいと思ってたんだが、そういう意味では社長に感謝しないと、かもな!」

 藤木が、そう言って豪快に笑う。

「ははは…あなたの仕事への信念、見せて頂きましたよ。

 あなたの実力なら、今後のフルメタルコロッセオで王者も狙えるはずです…ラーゼルの横槍は、もう無いのですから」

「現王者にそう言ってもらえると嬉しいなァ…よし、俺も本気で上を狙ってみるか!!」

 藤木がまた笑う。

「…ええ、それが良いです!」

 ギルティアも、笑顔で頷いた。

「おめでとうございますー!

 やはり、私のインスピレーションにピキーンと来たのは間違いではありませんでした!!」

 リラが、ギルティアに飛びつく。

「わー!」

 ギルティアが、そのまま地面に押し倒される。

「リ、リラさん…ま、またですか…!?」

「もう…あの戦いを見てしまったら何度おめでとうと言っても足りませんよぉ!!

 ですから、リアクションでやってみました!!」

「…あー…」

 ギルティアが、押し倒された状態で苦笑する。

「…と、取り敢えず、どいて頂けますか?」

「あ、はい」

 リラが退いたので、ギルティアが起き上がる。

「言葉だけで十分ですよ。嬉しいのは、私も同じですから」

 ギルティアが、笑顔で言う。

「とうとう、優勝なさいましたな…」

 アルフレッドが頭を下げる。

「ええ、ようやく修理に入れますね、アルフレッドさん」

「お任せください、施設の修理が完了し次第、修理に取り掛からせて頂きます」

 その応えに、ギルティアが満足そうに頷く。

「しかし…ふふ、孫の嫁候補が見つかってしまいましたな…」

「は?」

 ギルティアが首をかしげると、アルフレッドが、目線でランの方を差す。

「あの機体、ソルジャーESの改造機?」

 ミノリが、ランに尋ねている。

「ああ、あれは、ジャンク山から拾ってきて、俺一人で修理して改造したものだよ」

 ランが、自信満々に頷く。

「あの時、いきなり空から降りてきた時は何事かと思ったけど…まさか、ランが助けに来るなんて…」

「俺の夢は、最強のメカニックになる事だからな!

 そりゃ、今はまだギル姉とかチャンピオンとかには及ばないけど、けど、せっかく使えるようにしたんだ、

あの時助けにいけなかったら、わざわざ拾って改造した意味が無いよ」

 ランが、笑顔で言う。

「ラン…君って子は…」

 ミノリが、ランの頭を撫でる。

「…私も応援してるわ、頑張ってね!」

「ああ、頑張るから、これからも見ていてくれよな!」

 そう言って、二人は笑っていた。

「フフ…成る程」

 それを見て、ギルティアが笑顔で頷く。

「…少し、外に出てきます」

 ギルティアが、そう一言言い残し、外に出る。

 すると、ルークが空中から降りてきた。

「…おめでとう、流石だな。

今日は、工場の方への妨害も凄まじくてな…こちらも最終決戦レベルだったぞ」

 ルークが、そう言って笑う。

「お疲れ様でした…」

 ギルティアが頭を下げる。

「…問題無い」

 ルークは、笑顔で頷いた。

 直後、ギルティアの背後から声がする。

「…ここにおったのか」

 シリウスだった。

「少し、アルフレッドから事情は聞かせて貰った…。

 …あの機体の修理の為にフルメタルコロッセオに参加した、と」

「…ええ」

 ギルティアが頷く。

「真相を直接尋ねれば、自分の耳を疑うような事実が聞けると聞いたが…。

 …教えてくれ、今のお主の機体でも、ラーゼル相手にあそこまでの戦いが出来た…。

 ならば、お主は今まで、その本来の機体で、一体、何と戦ってきたのだ…!?」

「…良いでしょう…シリウス、あなたならば信頼できます。

 …今から私が言う事は、恐らく俄かには信じられない事です」

「お嬢ちゃんが、他者をたばかる事などしないのは、わしも良く理解しておる。

 …大丈夫だ、信じよう」

 シリウスが頷くと、ギルティアは話を続ける。

「…私は、そして、私の機体エルヴィント…いえ、エルヴズユンデは、この世界のものではありません」

「何と…!?」

「私の本当の名は、ギルティア…ギルティア=ループリング…」

 ギルティアは、自らの素性と、今までの旅路を、そして、自分が何故、ここにいるのかを、シリウスに説明した。

「…という訳で、今、エルヴズユンデの修理の為に、私はここにいるのです」

「そうか…成る程な」

 シリウスが頷く。

 しかし、シリウスのリアクションに、ギルティアは思わず苦笑してしまった。

「…わしは…今年甲斐も無くどうしようもなくワクワクしておる!!」

 シリウスの眼がキラキラ輝いている。

「あのー…ワクワクするような話でしたでしょうか…?」

「ずっと使命の為に戦ってきたお嬢ちゃんが相手だとこのような反応が不謹慎なのは分かっておる。

 だが、わしにとっては、この世界の外にもたくさんの世界や、宇宙がある、ただそれだけでも、十分ワクワクするのだ」

 シリウスのその答えに、ギルティアは思わず笑顔になってしまった。

「…ふふ、成る程」

「どんな世界があるのだろうか…。

 そして、お主が戦ってきた異形とやら…是非、一度一戦交えてみたいぞ…!!」

 シリウスのこの順応の早さに、ギルティアは思わず言葉を紡いだ。

「ははは…何でしょうか…シリウスは凄く楽しい人ですね…」

「良い話を聞かせて貰ったわい…そっちの、ルークと言ったか?」

 シリウスが、ルークの方を見る。

「お主…お嬢ちゃんと一緒に旅が出来るなど、羨ましい事この上ないぞ!!」

 そう言って、シリウスは笑いながら、再び中の方へと歩いていった…。

「…ルーク、そろそろ私も中に戻ります」

「ああ、繰り返すが、おめでとう!」

 ルークは、そう言って飛び立っていった…。

「さて…私も戻りましょう」

 ギルティアも、中へと戻って行った…。


ギルティア日記

ラーゼルが最後にあのような暴挙に出るとは…。

しかし、レディオスにも満足して頂けたようで何よりです。

いよいよ、エルヴズユンデを修理する事が出来ます。

…急がねば。


続く

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