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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.03 竜退治は勇者の役得

真実と地平を統べる竜、ここに眠れり


その力、地を統べるに足るものなり


されど、邪な心にてその竜を目覚めさせる者、己が国を滅ぼすと思え


―とある世界に伝わる伝承



   Act.03 竜退治は勇者の役得



「…さて、と」

 ギルティアは、エルヴズユンデのコクピットの中にいた。

 次にどの宇宙に赴くか、考えているのだ。

「…何処に行きましょうか…」

 エルヴズユンデの周囲には、限りなく薄く、限りなく長い空間が広がっている。

 それは、世界とや宇宙を繋ぐ回廊とも言える場所だ。

 宇宙、世界の間を移動する場合、それを介するのが最も一般的なのだ。

 そこを旅する者達は、その空間を、『境界空間』と呼んでいる…。

「各世界の異形を排除するのが目的とはいえ、この宇宙群は、もう選択の根拠なんて考えられないほど平定してしまいました…。

 再び異形が飛来して集まるまで、待つ?それでは、私の力が持ち腐れを起こします。

 …かと言って、別の宇宙群に移動するには、まだ早いように感じます。

 私はどうすれば誰かの役に立てるのでしょうか…」

 ふと、ギルティアが思い立つ。

「エルヴズユンデ…この周辺の世界、宇宙のデータを」

 ギルティアがそう言うと、ギルティアの目の前に、

 ギルティアの境界空間内における現在位置に近い宇宙、世界の情報が表示される。

「…もう、こうなれば異形以外でも何でも良い…私の力が役に立ちそうな場所を…」

 ギルティアが苦笑しながら、周囲の宇宙、世界の情報を閲覧する。

「…ん?」

 ギルティアが、一つの世界の情報を引き出す。

「この世界…かなり空間に乱れが発生していますね…これは人為的干渉、でしょうね…。

 まったく、人間というのは自ら滅びの道を選択するから、困りますね…」

 ギルティアが苦笑しながら頷く。空間に意味も無く干渉すると、もちろん世界が歪む。

 もちろん、そのままであれば、世界の滅びを早める事になる。

「…良いでしょう」

 エルヴズユンデが、データの世界に向けて転進する。

「…行きますよ、エルヴズユンデ!」

 そして、ギルティアの言葉と共に、エルヴズユンデが、加速していった…。


「技術レベルは中世…久しぶり、ですね」

 森林の中央で、エルヴズユンデから飛び降りる。

 翼を持つのはこういう時に便利だ。ギルティアは森林のど真ん中に着地する。

 いつの間にか時代レベルに合わせたドレスに着替えている。

 どうやら、世界の技術レベルに合わせて普段着をそろえてあり、降りる前に着替えたらしい。

「…エルヴズユンデ転送、出撃命令まで待機」

 ギルティアの言葉と共に、空中で滞空していたエルヴズユンデは空間を転移してその姿を消す。

「さて、と」

 ギルティアが、戦闘モードの時に魔物じみた爪となる左腕を目の前にかざす。

「…周囲数十キロの地形データ確認」

 すると、ギルティアの目の前に周囲の地形を示した地図が姿を現す。

 先回の世界の技術レベルは高かったので用いられる事は無かったが、

 ギルティアの身体はエルヴズユンデとリンクしており、左腕はその端末となっているのだ。

「ここから北北西数キロ先に、集落がありますか…それだけ分かれば十分です、行きましょう」

 ギルティアは、地図を閉じると、地図に示された集落のある方角へと歩き出した。


 そして、ギルティアの思惑通り、ギルティアは集落に到着した…が、しかし、だ。

「…さて、これは一体どうしたものかしら…?」

 良く分からないが、集落の民に歓迎されている。無茶苦茶歓迎されている。

 原始的な民族らしいが、どうやら、外部との接点も多々あるのは、集落の様子や、置かれた物を見れば分かる。

「…あの…一体、これはどういう事なのでしょうか?」

 ギルティアが苦笑しながら尋ねる。

「オマエ、リュウタオスユウシャダロウ?」

 その集落の長と思しき老人が、ギルティアに言う。

「…は?」

 ギルティアが、突然の発言に思わずきょとんとする。

「コレ、ミロ」

 長が差し出したのは、四角形の箱状のものだった。

 それに、線がびっしりと入っている。時折、赤い光のラインがその線を通る。

「これは…」

 ギルティアは、それを良く知っていた。

 簡単な話、エルヴズユンデの中枢部分と同様の構造を持つコンピュータだったのだ。

「コノ『ぶれいん様』ノキロク、イマ、オマエココニキタジョウキョウト、ソックリ」

「…少し待っていて下さい」

 ギルティアがその場を離れ、隠れてエルヴズユンデにアクセスする。

「迂闊でした…情報収集が少し甘かったようです…まさか、遺跡の技術が直接使われているとは…」

 世界、宇宙を旅する彼女にとって、それは確かに珍しいものではなかった。

 実際、ギルティア、エルヴズユンデ以外にも、宇宙や世界を旅している者達は数多くおり、

 その人々が用いる機動兵器や戦艦に、その回路、あるいはそれと同等の機器が中枢として用いられている事は決して珍しくは無い。

 それらの技術は、『文明外』とよばれ、旅人達が現在進行形で開発、使用している他は、

 宇宙や世界の各地に、遺跡として散在していた。

 ギルティアが驚いたのは、それらを発掘していた事ではない。それを使用している事なのだ。

 中世の技術レベルで、これの使用方法を理解する事など、並大抵の事ではない。

「…しかし、それならば納得はいきますね」

 ギルティアは、この世界に自分が降りた理由を考え、頷く。

「空間に対する度重なる人為的干渉、中世の技術レベルでは逆立ちした所で所詮神話レベルの絵空事でしかありません、か…」

 少し考えれば分かる事だっただろう。

 ギルティアは、空間干渉と技術レベルの情報を手に入れた時に気付かなかった自分の迂闊さに苦笑した。

「しかし、竜ですか…詳しい事情を聞いたほうが良さそうですね、これは…」

 ギルティアは、歓迎の宴へと戻っていった。


「…お待たせしました」

 ギルティアは、そう言って微笑む。

「私が竜を倒す勇者、との事ですが、よろしければ、事情を教えていただきたい…私に出来る事ならば、やってみせましょう」

「…カツテ、コノセカイ、ツヨイチカラ、ホコルブンメイ、アッタ」

 長が、コンピュータを操作すると、映像が投影される。

 どうやら、この使用方法しか知らないらしい。

 映像の中には、機動兵器や戦艦が写っていた。

「シカシ、ヤツラ、フレテハナラヌモノ、フレタ」

 絵がガラリと変わる。炎、機動兵器の残骸、そして、その彼方に見える、黒い影。

「…それが、竜、と」

 長が頷き、話を続ける。

「リュウハ、コノセカイノ、ヤマオクフカクデネムッテイタ…ソレヲ、カレラハメザメサセテシマッタ…。

 メザメタリュウ、スベテ、コワシタ。

 ソノゴ、リュウ、ドコカラカアラワレタ、ヒトリノ『タビビト』トタタカイ、マタネムリニツイタ。

 ダレノテモトドカナイ、フカイフカイバショデ…」

 一人の戦士、そして一機の機動兵器のシルエットと竜が対峙し、その直後、映像は終わった。

「おおまかには、了解しました」

 頷き、ギルティアが、再び推測する。

 『竜』は何者か。少なくとも、半端な機動兵器で太刀打ちできるものでは無い事は容易に想像出来る。

 その面はエルヴズユンデは問題は無い。半端ではない。

 しかし、時空にも干渉しうるほどの力を持つ、それは、本当に生物…?

「…あ、私もそうですか」

 ギルティアが、ボソッと呟く。考えてみれば、確かに自分もそうなのだ。

 人間型の生物以外にもそのような生命体がいてもおかしくは無いだろう。

「ナンダ?」

「いえいえ、何でもありません…ところで、何故眠りに就いたそれを、再び倒さねばならないのですか?」

「イマ、ココカラズットキタニイッタ、ろーとべるぐテイコク、リュウ、メザメサセヨウト、シテイル」

「…!」

 ギルティアの脳内で、繋がりつつあった状況がしっかりと繋がった。

 空間への干渉、と言うのは、その先にある何かへの干渉。無闇な干渉ではない。

 文明外遺跡の技術を利用し、故意に空間の歪みをつくり、その『竜』なるものを目覚めさせようとしているのだろう。

「…しかし、何故?」

「ヤツラ、チカラ、ホッシテイル。セカイヲ、テニイレル、チカラ」

 ギルティアは、あまりに直球なその返答に、思わず納得と同時に笑ってしまった。

「…くすっ、成る程…その力で世界征服、と…。

 ご、ごめんなさい、あまりにコテコテで笑いが…うふ、ふ、ははははは!」

 ひとしきり笑ったところで、ギルティアが真顔に戻って続ける。

「…しかし、もしその竜が暴れたら、罪の無い人まで巻き込まれてしまうのでしょう?

 了解です、竜を倒すか、あるいはその帝国を止めてきます…どうやら私がここに来た最終目的はそれのようですので」

「レイヲイウ…トリアエズ、キョウ、コノウタゲ、ゾンブンニ、タノシメ」

「はい!」

 ギルティアが、笑顔で頷く。

 えらい事になった。まさか、異形を相手にするはずが、今回は竜、そして、勇者、か。

 ギルティアは、そうして考えて、苦笑した。

「まぁ、本職に戻るだけ、ですかね」

 ギルティアにとっての本来の仕事は、彼女が生まれた世界を守る事…いわば、勇者だ。

 だから、本職に戻る、という表現は適切だった。

「そういえば、何故そっくり、と?あの記録と私は別に似ても似つかないと思うのですが…」

 ふと長に、ギルティアが尋ねる。

「…コノシュウラクニタチヨッタ、ソレ、コタエダ」

「は?」

「コノシュウラク、メッタニシラナイヒトコナイ。

 ユウシャ、イキナリコノシュウラク、タチヨッテ、『ぶれいん様』ノコシタ。

 オマエ、シラナイヒト。トツゼンアラワレタ、シラナイヒト」

「…成る程」

 ギルティアは気付いた。ここは、原始的民族として、その当時と技術レベルに変化が無いのだろう。

 周囲の文明が壊滅して再構築される中、ここだけはそのままだった、と考えられる。

 『旅人』も恐らく自分と同じく世界を旅する者、丁度良い場所に降りようとして、

 同じ場所に降りた、と考えればつじつまは合う。

 だから、ギルティアは続けた。

「…恐らく、見立ては正解です」

 ギルティアは、そう言って笑った。


 こうして、ギルティアの次なる旅は始まった…。



ギルティア日記

今回の目的は竜退治…何というか…とてもファンタジーですね。

…まぁ、私としてもそういう戦いは大歓迎ですし、今回は勇者として戦うのも、悪くありません。

しかし、かつてこの世界に存在した文明のレベルはかなりのもののようです…それを滅ぼした竜とは一体…?

いずれにせよ、手加減して戦えるような相手ではないのでしょうね…。

不謹慎ながら、私が存分に力を振るえる相手ならば、少しだけ、少しだけですが…楽しみ、かもしれません…。



続く

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