Act.28 動き出す欲望
Act.28 動き出す欲望
二日が経過した。
王者であるフレアドイリーガル…レディオス=アイルレードへの挑戦権を賭けた戦いの日だ。
ギルティアは、改装が済んだエルヴズユンデを見上げていた。
左腕のクローが巨大化している。
成る程、シールドと一体化させてクローも巨大化させたのだろう。
ビーム砲は、シールド側に内蔵されている。
クロー部分のレーザーと併せて、火力は確実に増強されている。
また、普段、四枚の翼が生えている場所に、機械の翼が装備されている。
「成る程、流石はアルフレッドさんです…説明していなかった、翼の装備箇所まで把握しておられたとは…」
ギルティアが感心する。流石は、ファラオ店長が紹介するだけの事はある。
「今回は俺も結構改造には口を出したんだよ!」
いつの間にか、ギルティアの横にランが立っていた。
「素晴らしいです。これならば、この世界のどんな機体が相手でも、対等以上に戦えます」
「シールドをクローと一体化させるってのは、俺のアイディアなんだよ!」
「おお、そうでしたか…どうやら、どんどん腕を上げておられるようですね…この調子ですよ」
ギルティアが微笑む。
「…ああ!」
ランが、大きく頷く。
「今日は、アルフレッドさんも来るのでしょう?」
「ああ、けど、今は少し疲れて寝てるよ」
「でしょうね…無理はさせないで下さいね?」
ギルティアが、苦笑しながら言う。
「分かってるよ」
「それなら良いのです…では、会場で会いましょう!」
ギルティアが、その背に翼を生やして飛び、エルヴズユンデの胸部に乗り込む。
思えば、ランの前でこの姿を見せたのは、初めてかもしれない。
リラの作ったバトルスーツはどうやら、元々ギルティアが着用していた方の服の構造を参考にして造ったらしい。
それが、図らずとも翼への干渉を起こさないデザインへと繋がったようだ。
「…そうか、あれがギル姉の本当の姿…かっこいい…!」
ランが見惚れて、思わず呟いた…。
エルヴズユンデが、空へと舞い上がる。
「素晴らしい…今までの操作感覚とは違いますね。
…機動性、追従性、共に向上しています」
ギルティアが、エルヴズユンデに乗り込み、空中から、フルメタルコロッセオへと向かった…。
フルメタルコロッセオに、今、四機の機動兵器が立っている。
一機はエルヴズユンデ、残りの三体は、全て敵だった。
「いよいよ、現チャンピオン『焔光の覇者』レディオス=アイルレードへの、挑戦権が賭かった戦いが、幕を開ける!!」
凄まじい歓声が、フルメタルコロッセオを満たしている。
「何と、今まで無敗!
参戦してから、まさに天下無双の勢いで勝ち進んできた、アルフレッド工業!!
機動兵器エルヴィントが、大幅な強化を施されて、今、降臨する!!
それを操るは、その姿、立ち振る舞い、戦いぶり、その全てが、まさに僕が呼んだ二つ名の通りの女性!!
『斬光の聖女』ルギルナ=燐紅=御果!!
今回の戦いに勝利すれば、いよいよ、焔光と斬光の頂上決戦が実現する事になる!!」
対する相手は、ジェネラル・オブ・アーミーズ、ガンサイド、そして、先回アンファースとの戦いに投入されていたソードサイドだ。
「しかし、ラーゼルも負けじと、最新型を投入だ!!
ジェネラル・オブ・アーミーズPE!実験に実験を重ねた、完成型だ!!
パイロットは、ヴルレオ=グライアード!!」
「…今度は、勝たせて貰う…!」
コクピットで、ヴルレオが呟く。
「そして、ガンサイドPE、パイロットはアーヴェイル=ラルベイン!!
ソードサイドPE、パイロットはハルヴェール=ラルベイン!!
何と、この二機のパイロットは双子だ!!
本来ならば、四体の総当りの筈だが…何かが狂いだしているのは間違いない、しかし、この戦い、きっと素晴らしい戦いになる筈だ…!!」
実況の男が叫ぶ。
「…ここまでは予想通り…後は、全力で戦うだけです」
ギルティアは、コクピットで、静かに呟いた…。
「さぁ、いよいよ注目の一戦だ!!GO!AHED!!」
実況の男の言葉と同時に、エルヴズユンデはジェネラル・オブ・アーミーズに突進した。
「な!?」
「たああああああああっ!!!」
左腕の爪が、ジェネラル・オブ・アーミーズの右肩アーマーを薙ぎ払う。
全く、反応できていなかった。
「…な、何だ、今のは…!!
…くっ…ソードサイド!ガンサイド!!合体だ!!」
ソードサイドと、ガンサイドが、分離、変形する。
背中に、ウィングと合体した巨大砲が装備される。
また、二連装プラズマキャノンが両腕に装備され、更に、ソードサイドが変形した大きな剣が、ジェネラル・オブ・アーミーズの右腕に合体する。
「ジェネラル・オブ・アーミーズ…パーフェクトシフト!!」
「それが完全体ですか…」
ギルティアが、ニヤリと笑う。
「…力負けはしません…!」
エルヴズユンデが、剣を構える。
二機が、正面からぶつかる。
「ちっ…相変わらず、何て馬鹿力だ!!こちらはジェネレーターが三つだぞ!?」
「ジェネレーターならば、こちらも増設済みです…!!」
「な!」
エルヴズユンデが、強引に押し飛ばす。
更に、左腕のクローからレーザーが、そしてそれと一体化したシールドから、二筋のビームが追撃で叩き込まれる。
「ぐうっ!認めない!ラーゼルの最新型が…最新型が!
…あんなガラクタ小屋から生まれた機体に力負けするなど!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズが、両腕のプラズマキャノンと、肩の巨大砲を同時射撃する。
「生まれた、は適切ではありませんが…少なくとも、あの場所をガラクタ小屋呼ばわりは…許しませんよ!!」
エルヴズユンデも、腕のレーザー、ビーム砲と、胸部のプリズナーブラスターを一斉射撃して、それに応じる。
ブラスターと巨大砲が、お互いを相殺し、ノーガードの両者にプラズマキャノン、レーザー、ビーム砲の雨が襲い掛かる。
「威力なら、こちらのプラズマキャノンが上だ!この勝負、勝ったぞ!!」
「頑丈さには自信があります…持ち応えて見せましょう!!」
事実、エルヴズユンデは、撃ち合いをしながら前進を始める。
「力押しには…それ以上の力押しで、応えるまで!!」
ブースターが咆哮を上げ、相手の巨大砲をブラスターで押し戻しながら、エルヴズユンデが一気に突撃する。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
巨大砲を、エルヴズユンデが真っ二つにする。
「ぬ、なっ!?」
被弾したダメージは決して少なくは無いが、相手へのダメージは、それ以上だ。
「…ふふ、さぁ、続けて行きますよ!!」
エルヴズユンデが、再び剣を構えて突進する。
「さ、させるかァ!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズが、ソードサイドの剣でそれを受け止める。
「アーヴェイル!分離して背後から攻撃しろ!」
破壊された巨大砲と、両腕のプラズマキャノンが、再び変形、合体して機動兵器形態になり、
エルヴズユンデの背後から、大口径機銃と、普段はジェネラル・オブ・アーミーズが武器として使用する、二連装プラズマキャノンを放つ。
エルヴズユンデが、咄嗟に離れてそれを回避する。
弾の雨が、ジェネラル・オブ・アーミーズを襲った。
「くっ…何をしている!!敵はあっちだ!」
ジェネラル・オブ・アーミーズの装備してる大剣が、光を放つ。
「…アンファースの時と同じように、ぶった斬ってやる!!」
「それはこちらの台詞です!彼がしたように、真っ二つにして差し上げましょう!!」
ギルティアの叫びと共に、エルヴズユンデは再び突進する。
「今だ!撃て、アーヴェイル!!」
突進を開始したエルヴズユンデを狙い、ガンサイドが、装備している使用可能な火器を一斉に放つ。
「その程度の火力では…」
エルヴズユンデが、クローと一体化したシールドで、それを防ぐ。
「…私を止める事は出来ません…!!」
「チッ…なら!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズが、ブースターを全開にする。
どうやら、真正面から迎え撃つ気のようだ。
「それで良い…来なさい!!」
「くたばれ、この場違い女が!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズが、剣を振り下ろす。
「場違い女で…」
エルヴズユンデが、斜めに振り下ろされた剣を、姿勢を低くして回避する。
「…悪かったですね!!」
そして、左腕のクロー…いや、左腕の拳を、ジェネラル・オブ・アーミーズの腹部に捻じ込む。
「なっ…!?」
腹部に拳が入った瞬間に、レーザー、ビーム砲を何度も叩き込む。
そして、そのまま、ジェネラル・オブ・アーミーズは、見事に吹っ飛ばされた。
ジェネラル・オブ・アーミーズが壁に叩きつけられ、ウィングが破損する。
エルヴズユンデが、剣を構える。
「あ、アーヴェイル!合体だ、合体しろ!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズに、再びガンサイドが合体する。
巨大砲は使えないが、両腕のプラズマキャノンは撃てる。
エルヴズユンデが、再び、突進する。
「ヴルレオ…これで終わりです!!」
「く、来るな!来るなぁぁぁぁぁ!!」
プラズマキャノンの雨が、エルヴズユンデに襲い掛かる。
それを、剣で叩き落しながら、エルヴズユンデは更に突撃を続ける。
「こうなったら…!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズが、剣を構えなおす。
「今度こそ、ぶった斬って…」
「…遅い!!」
しかし、剣を構えなおした時、既にジェネラル・オブ・アーミーズは横に真っ二つになっていた。
「な、馬鹿な…!!」
「次!!」
分離したガンサイドとソードサイドを、それぞれ、ブラスターとレーザー、ビームで攻撃する。
ブラスターの直撃を貰ったガンサイドが倒れる。
そして、レーザー、ビームで足を止められたソードサイドに、エルヴズユンデのクローが叩き込まれた。
…勝負は、決まった。
「鮮やかな勝利だぁぁぁぁぁぁ!!!」
実況の男の叫びが、闘技場に響く。
「これで、チャンピオンへの挑戦権がルギルナ=燐紅=御果に与えられるぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」
実況の男の叫びをよそに、ギルティアの視線は、観客席に向けられていた。
「…マイクを貸してください」
「え?あ、ああ…」
実況の男から、マイクを受け取り、ギルティアは言葉を続ける。
「…お待たせしました」
ギルティアの視線の先には、レディオスの姿があった。
「…あなたとの対戦、楽しみにしていますよ」
その言葉を聞くと、またレディオスは微かに笑い、満足そうに頷いた…。
ギルティアが、実況の男にマイクを返す。
「今の言葉は、レディオスが先日の戦いで言った言葉への返答のようだ!!
あの時彼が言っていた相手は、彼女、ルギルナ=燐紅=御果だったらしい!!
これは、ますます対戦が楽しみだぁぁぁぁぁぁ!!!
王者決定戦は、今から三日後だ!
焔光の覇者と斬光の聖女!
勝つのは、果たしてどちらなのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
実況の男の叫びに応えるかのように、闘技場の歓声が一際強くなった…。
アルフレッド宅に帰還したギルティアを、アルフレッドとシリウスが出迎える。
「とうとう、ここまで来ましたな…ギルティアさん」
「見事な戦いだったぞ!修理中だったが、儂の相棒アンファースも、どこと無く満足そうだった!!」
更に、その奥ではリラとミノリ、そしてランが待っていた。
「リラさん!?それに、ミノリさん!?」
「リラさんが、祝いに行くと行ったので、せっかくですから同行しました」
ミノリが、苦笑しながら言う。
「ルギルナさん!いよいよ王者決定戦ですね!応援してます!!」
リラが、ギルティアに引っ付く。
「わ、わわっ…!」
「…おっと、つい興奮してしまいました、すみません」
リラが、慌てて離れる。
「ふぅ…今回はいじられずに済んだよ」
ランが、ため息をついている。
「良かったですね、ラン」
「ああ…それはそうと、いよいよ王者決定戦だな!
俺達が出来る改造は全部やった、あとは、任せるよ…!」
「任せてください!」
ギルティアが頷く。
こうして、アルフレッド宅で深夜まで、ギルティアの祝勝会、そして応援会が開かれる事になった…。
ラーゼル重工の地下で、ラーゼルは呟く。
「そうだ…初めから、こうしていればよかったのだ…。
圧倒的な力には、ルールなど意味を成さない…そうだ、気に入らぬものは、全て破壊してしまえ…。
この力があれば、フルメタルコロッセオなどというものに頼らずとも、この世界は我が物よ…!!
手始めに、王者決定戦で、我が邪魔をした二人を、公開処刑してやろう…そうだ、それが良い!
…クク、クククク…フハハハハハハハハハァ!!」
彼の前には、巨大な物体が、金属の輝きを放ちながら佇んでいた…。
ギルティア日記
いよいよ王者決定戦です。
…私を待つと言った王者、レディオス…。
期待には応えねばなりません。
…見せて差し上げましょう、私の戦いを…。
続く




