Act.27 Un False
Act.27 Un False
ギルティアは、月光降り注ぐ、アルフレッド宅の屋上でいつも通りルークと会話していた。
「残り一戦でチャンピオンへの挑戦権が獲得できる…期間は短かったですが…とても長く感じられました…」
「ああ…それに、貴公にとっても結構有意義だったのではないか?」
「ええ、そうですね…」
ギルティアが笑う。
「…正直、楽しかったです」
「我としても、こうも長い間身体を動かしたのは久しぶりだ…」
ルークが、腕を回してみせる。
「…うむ、長き眠りによる鈍りが、今回の一件のおかげで大分取れた」
「それは何よりです」
ギルティアが笑う。
「おーい、ギル姉!工場の方でアル爺が呼んでるよ!!」
ランが、下の方から呼んでいる。
「…ルーク、もう少しです、お願いしますね」
「ああ、任せておけ」
ルークが、再び夜の空に飛び立つ。
「今行きます!」
ギルティアが、下の階に降り、工場の方へと歩き出す。
ランが、その後ろに続く。
「…何か、先回の戦闘データから、次のラーゼルの出方に予想がついたんだって」
「成る程…それは興味深いです」
工場では、アルフレッドが待っていた。
「ギルティアさん、少しエルヴズユンデに武装を追加させて頂いて構わないでしょうか?」
アルフレッドは、唐突に言った。
「…構いませんが、説明は欲しい所です」
「はい。先回の敵の二体の戦闘データを分析した所、二体の合体システムはまだ試作段階である事が分かりました」
アルフレッドは続ける。
「恐らく、あの機体は本来、もう一体、近接戦闘用の分離合体型機動兵器との、三体での運用を前提に開発されています」
「成る程…それで?」
「恐らく残りの一戦は、その完成型を投入してくる筈です。
…機体の基本性能ではこちらに未だ余裕があるものの、今回は、動力の出力では相手の方が上になるでしょう」
アルフレッドが言った事で、ギルティアは、その意図を理解した。
「つまり、今回は力でも数でも不利、と…」
「そうなります…現状の左腕の動力一つの出力では、少々力不足です」
「…では、どのような強化を?」
ギルティアが尋ねる。
「…背中に動力を二つ追加します。
エルヴズユンデの本体ならば、その程度の出力、容易に耐える事が出来ますし、それにより、胸部のブラスターの出力も向上します。
…流石に、重力レンズを起動して、拡散ブラスターを使用可能にするには至りませんがね。
また、左腕にシールド、及び内蔵型ビーム砲を追加します。
…アンファースの資金援助のおかげで、この強化が可能になったのですよ」
アルフレッドがニヤリと笑う。
「…シリウスに感謝しなくてはなりませんね…」
「背中の動力に、直結した高出力のブースターウィングを搭載し、機動性も増強します。
…これは、決戦仕様、とも言えますかな」
「決戦仕様、ですか…良い響きです」
ギルティアが、そう言って笑った。
「…お任せします」
「あ、それと、ファラオ店長への連絡はどうなっています?」
「ええ、まだ異形に目立った動きは見られていないそうです。
しかし、また、遭遇する頻度は上がってきたらしいので、油断は出来ない、との事です」
「成る程…ならば、やはりチャンピオンになって修理が終わり次第、ファラオ店長の増援に行かねばならないでしょうね」
ギルティアが、少し寂しそうに呟いた。
そして、その寂しさを自ら振り払うように、続けた。
「少しだけ名残惜しいですが、これも私の使命です。
…その時までは、どうぞよろしくお願いしますね」
「ええ、お任せ下さい。さぁて…聞いてたな?ラン!」
アルフレッドが、いつのまにかエルヴズユンデの隣のソルジャーESの胸部に座っていたランに叫ぶ。
「ああ、エルヴズユンデを決戦仕様に改造するんだな?腕が鳴る!
ソルジャーESの各部を研究して、色々勉強にもなったし、今回の作業の手際では、アル爺を驚かせて見せるよ!」
ランが、そう言って笑った。そして、ソルジャーESから降りてくる。
「そいつは頼もしい!なら、お手並みを拝見させてもらおう、ラン!」
アルフレッドが笑った。
「…ふふ…」
ギルティアも、その二人のやり取りを見て温かい気持ちを抱く。
成る程、これが『家族』というものなのだろう。
そして、誰にも気付かれないように、呟いた。
「私は、羨望など…抱いては、いません」
そして、その呟きに続いて言葉を続ける。
「アルフレッドさん!私に何か出来る事はありますか?」
「いえ、最近戦い通しでしたので、ギルティアさんはお休み下さい!
次の戦いのときに、自分を最高のコンディションに仕上げる、それがギルティアさんに出来る事です!」
「…了解です。では、一足先に休ませて頂きます」
ギルティアは、そのまま自分にあてがわれた部屋へと歩いていった…。
そして、次の日、案の定、次の戦いの知らせが来た。
アルフレッドの予想の通りの、三対一、試合の相手すらも予想通りだった…。
戦闘は二日後らしい。丁度、エルヴズユンデの改装の終了と同時となる。
「アルフレッドさん、流石ですね…」
「まぁ、俺の爺ちゃんだしな!」
ランが、自慢げに言う。
「ふふ…その通りですね。
その孫であるランなら、きっとなれると思いますよ。
…『最強のメカニック』に、ね」
ギルティアが笑う。
「ああ、なってみせるさ…!」
「こらー!ラン!試合の知らせの処理が終わったら、さっさと戻って来い!!」
「っと、呼んでる!ギル姉、それじゃ、次の試合までは、ゆっくり休んでくれよな!!」
ランが、工場の方へ駆け出す。
「…ふふ」
ギルティアは、その背中を笑顔で見送った…。
「…私も、少し出かけますか…」
ギルティアは、外に出た。
人で賑わう市街。この世界に来て間もないとはいえ、ギルティアにとっては見慣れた光景にも思えた。
「…資金援助のお礼を言いに行かねば…」
ギルティアは、アンファース・インダストリアルへと向かったが、今日シリウスは試合で、フルメタルコロッセオへと出向いていると伝えられた。
ギルティアは一人でフルメタルコロッセオへと向かった。
到着してみると、既に試合は始まっていた。
一機は、アンファースだ。
若干の損傷を負ってはいるが、アンファースは、その程度の損傷で戦えなくなるような機体ではない。
「…二体合体…成る程、中々面白いアイディアではあるな…だが、それをここでやるというのは、少々卑怯ではあるまいか…!!」
対する相手は二体だ。
一体はジェネラル・オブ・アーミーズだった。
もう一体は、見慣れない機体だ。
「恨むなら、権力の不足を恨むんだな!力というのは、こうやって使うものだ!
骨董品が闘技場で猛威を振るう時代は、終わったんだよ!!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズのパイロットは相変わらずヴルレオだ。
「成る程…本当に、アルフレッドさんの言った通りらしいですね…」
これが、アルフレッドの言っていた『近接型のもう一体』なのだ。
アンファースが、右手に剣、左手にショットガンを構える。
以前エルヴズユンデとの戦いでも見せていた構えだ。
「…言いたい事はそれだけか?ならば、その骨董品の意地というものを、見せてやるとしようぞ!!」
シリウスの叫びが、フルメタルコロッセオに木霊する。
アンファースの身体各部のブースターが一斉に展開し、ジェネラル・オブ・アーミーズに突撃する。
相変わらず、凄まじい突進力だ。ギルティアは、感心していた。
「…決まりました、か?」
ギルティアが、勝利を確信した。
「言ったはずだぜ!骨董品は骨董品屋に帰れってな!!」
しかし、次の瞬間、ギルティアの表情は、驚愕に変わった。
「な、何、ですって…!?」
「…止められた、だと!?」
自分と…エルヴズユンデと対等に渡り合ったあの突進が、受け止められている。
そう、ジェネラル・オブ・アーミーズの右腕に合体した、その『もう一体』が分離、変形した剣によって、である。
そして、分離したもう一方が、背中にウィングとなって装備されている。
「だが、その程度…押し切るのみだ!!」
アンファースが、ブースターを全開にする。
「旧式とは、力が違う!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズの背中のウィングの中央から、凄まじい咆哮が上がる。
その咆哮は、明らかにアンファースのブースターの咆哮より大きかった。
「何と!?」
アンファースが、押し飛ばされ、フルメタルコロッセオの壁に叩きつけられる。
「ぐふっ…何の、この程度で!!」
次の瞬間、アンファースに剣が叩き込まれる。
「ぐおおっ…!」
見切れなかったわけではない。
ただ、機体の動きが、シリウスの知覚に対応できなかったのだ。
しかし、アンファースもさるもの、剣の一撃程度で戦闘不能になる事は無かった。
アンファースが、再び立ち上がる。
「成る程…大した機体性能だ…卑怯者にしては上出来だな…」
アンファースが、剣とショットガンを構えなおす。
「…だが、まさか、お嬢ちゃんとの戦いに投入する機体の実戦テストを、このわしでやるとはな…」
シリウスが、ニヤリと笑う。
「上等だ…『UnFalse』の…『茶番に非ず』の意を持つ我が家系の姓を冠した我が社名の意地に賭け、
このような戦いにわしを利用した事を、後悔させてくれる…!!」
そういった次の瞬間、シリウスの眼に、観客席にギルティアが来ているのが見えた。
しかし、直ぐに前を見る。
今は、この眼前の敵を、全力を以って討ち破る。
それ以外の事は考えない。
そして、ギルティアに願う。
自分の戦いを良く見ておく事を。
彼女が何か、自分の戦いで、勝利の為の何かを掴んでくれれば、それで良い。
「往くぞ!!」
アンファースが、再びブースターを展開し、突進する。
「無駄だと言ってるだろう、この老いぼれがああああああっ!!!」
剣と剣が正面からぶつかる。
そして、次の瞬間、ジェネラル・オブ・アーミーズのブースターが咆える。
「そう来る事が分かっておれば、対応のしようは幾らでもあるのだよ!!」
アンファースが、剣の角度を変えて相手の剣の振りを受け流す。
ジェネラル・オブ・アーミーズが、勢い余ってアンファースの左横を過ぎようとする。
「これならば、どうだ!!」
アンファースが、ジェネラル・オブ・アーミーズの腹部に、ショットガンを連続して叩き込む。
「ぐうおっ!?」
そのまま、ブースターの勢いで、ジェネラル・オブ・アーミーズは闘技場の壁に突っ込む。
アンファースが、ブースターを全開にして、追撃をかける。
「骨董品風情が、調子に乗るんじゃねえ!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズの右腕に装備された剣が、光を放つ。
「真っ二つだ!!」
ジェネラル・オブ・アーミーズが、光を放つ剣を横に振るう。
光は、アンファースを容易に腰部から真っ二つにした。
「…なんと…だが、まだだ!!」
肩のブースターはまだ生きている。
この距離、上半身が動けば、一太刀入れる事は出来る。
「ぬおおおおおおおおあああああああああああああっ!!!!」
「な、何だと!?」
勝利を確信したヴルレオは、その一撃に全く対応できなかった。
アンファースの渾身の斬撃が、先程ショットガンが叩き込まれた場所に決まり、ジェネラル・オブ・アーミーズを腰部から真っ二つにする。
「なっ…こ、骨董品程度の剣撃で…!!
…こ、この、ジェネラル・オブ・アーミーズが、真っ二つになる…だと!?」
ジェネラル・オブ・アーミーズが地面に倒れる。
「確かに最新型、防御力も大したものよ!!だが、一点に攻撃を集中すれば、そこを突き崩す事は出来る!!」
アンファースもその先の壁に激突し、地面に落ちる。
「ショットガンの直撃を受けた箇所に剣を叩き込んだのか…。
…骨董品風情が…味な真似を…!
だが、この勝負…『我々』の勝ちだ…!」
そして、ジェネラル・オブ・アーミーズの背の翼と、腕の剣が分離し、人型の形態に戻る。
これが、勝負の決着だった…。
暫く、闘技場は、静寂に包まれた。
ジェネラル・オブ・アーミーズの性能に驚愕していた訳ではない。
ただ、アンファースが、そしてシリウスが見せ付けた意地が、全ての観客を、圧倒していたのだ。
そして、ギルティアは、その姿を見て静かに呟いた。
「…見事、です」
そして、ギルティアが拍手の最初となり、拍手が広がる。
「アンファースと、ジェネラル・オブ・アーミーズの壮絶な相討ち!!
そして、それから生き残ったソードサイド!!
勝利者は確かにソードサイドだが、今回の戦いは、永代の騎士王の意地が、全ての見せ場を持っていった形となったぁぁぁぁぁぁぁ!!!
圧倒的性能差をその意地で互角まで持っていく、その底力が、僕たちの心を熱くした!!
ありがとう、アンファース!ありがとう、シリウス=アンファースよ!!!
そして、それすらも超えて勝利した、ソードサイドPL、ハルヴェール=ラルベイン!
最新型を次々と送り出すラーゼルの技術力に、僕達は敬意を表そう!!
ありがとう、ソードサイドPL!ありがとう、ハルヴェール=ラルベイン!!
ありがとう、ジェネラル・オブ・アーミーズPL、そして、ヴルレオ=グライアードよ!!」
歓声が、フルメタルコロッセオを包む。
アンファースが闘技場の外に運び出され、修理の為にアンファース・インダストリアル本社に移送される。
「シリウス!」
「おお、お嬢ちゃんか…少々みっともない所を見られてしまったかな?」
輸送車を、ギルティアが呼び止めると、何とそれを運転していたのは、シリウス自身であった。
「シリウス自身が輸送車を?」
「うむ、アンファースの面倒を見るのは、わしの仕事だ。
我等ほどの大企業となれば、流石に、こいつの事だけにそこまで力を傾ける事は出来ない。
帰ってから、我が直属の部下のメカニック達と共に修理ぞ。何…この程度、数日で直るわい!」
シリウスは、そう言って笑った。
「そういえば、お嬢ちゃんは何か用があったのか?」
「いえ、資金援助のお礼を言いに来ました。
おかげで、エルヴ…エルヴィントを、決戦仕様に改装する事が出来ました」
ギルティアが、深々と頭を下げる。
「おお、それは良かった!アンファースの仇討ちは任せるぞ、お嬢ちゃん!!」
「ええ、任せて下さい」
ギルティアが、笑顔で頷く。
「まぁ、気が向いたらまた今度我が社に遊びに来るが良い!
秘蔵の美酒コレクションで歓迎してやろうぞ!」
シリウスは、そう言うと、笑いながら車に乗り込み、走っていった…。
ギルティアは、一人、取り残された。
「…ふふ、落ち込んでおられないようで、安心しました…さて、私も戻りますか」
ギルティアもまた、アルフレッド宅へと歩き出した…。
ギルティア日記
やはりシリウスは戦士として非常に優秀な方です。
あの状況下であそこまでの戦いを見せてくれるとは…。
…そして、やはりラーゼル重工は卑怯です。
負けるわけには行きません。
…何としても、勝たねば。
続く




