Act.26 ラーゼルの焦燥
Act.26 ラーゼルの焦燥
エルヴズユンデが、二機の機体の前に仁王立ちしている。
「…ここで立ち止まるわけには行きません」
ギルティアが、コクピットの中で呟いた。
「さぁ、今日の戦いも変則的なバトルだ!!
アルフレッド工業所属、今日はバトルスーツを新調して登場、ルギルナ=燐紅=御果!!
そして、その操る機体はエルヴィント!!今までもその圧倒的な力を見せ付けてきた!今日も圧倒的勝利を飾るのか!」
ギルティアが、コクピットから出てきて歓声に答え、手を振る。
ふと見ると、リラとラン、そしてミノリの間で騒ぎが起きているようだ。
更に見ると、ランが二人に引きずられていく。
「…やれやれ」
ギルティアが苦笑する。
そして、改めて自分に相対する二機を睨む。
「対するは、ラーゼル重工所属、ヴルレオ=グライアード!今の所唯一、チャンピオンへの挑戦権を持った男だ!!
そして、今回もまた機体を新調して参戦だ!!機体名、ジェネラル・オブ・アーミーズPL!!」
「…『元帥』…非常に分かりやすいネーミングですね」
ギルティアが見る。ジェネラル・オブ・アーミーズは、どうやら以前レディオスが戦ったグランドジェネラルSE直径の発展機らしい。
それと思しき装備、意匠が見受けられる。
「更にそれに相対するは、同じくラーゼル重工所属、アーヴェイル=ラルベイン!機体名、ガンサイドPL!!」
形状が、今までの機体とは全く違う。
可変機である事は想像に難くないが、一体どうする気なのか。
「…いずれにせよ、倒すだけです」
「悪いが、君はここまでだ。ラーゼルに敵対するものは、皆…不幸になって貰う!!」
ヴルレオが叫ぶ。
「来るなら来なさい、私は何度でもあなた方を撃破します…!!」
ギルティアが返す。
「さぁ、いよいよ戦闘開始だ!GO!AHED!!」
実況の男の叫びと同時に、エルヴズユンデが左腕のレーザーを放った。
ガンサイドがジェネラル・オブ・アーミーズの前に出て、防御する。
エルヴズユンデがそのまま剣を構えて突進する。
ジェネラル・オブ・アーミーズが刀を構え、エルヴズユンデと正面からぶつかる。
「ふふ、背後ががら空きだ!やれ!アーヴェイル!!」
ガンサイドが、エルヴズユンデの背後に回り、両腕の大口径機銃を放つ。
「…くっ…なかなか…しかし!!」
エルヴズユンデがそれに応じ、再び左腕のレーザーでガンサイドに反撃する。
片腕の機銃の銃口にレーザーが直撃し、機銃が暴発する。
そして、ジェネラル・オブ・アーミーズを強引に押し返し、蹴り飛ばす。
「くう…流石に一筋縄で行く相手では無いか…アーヴェイル!アレをやるぞ!!」
ガンサイドが変形、分離し、ジェネラル・オブ・アーミーズの肩に装備される巨大砲、そして、両腕に装備される二連装プラズマキャノンとなる。
「ジェネラル・オブ・アーミーズ…フレイムシフト!!」
「成る程、合体ですか…」
ギルティアが呟く。
「…上等です…!」
エルヴズユンデが、プリズナーブラスターを放つ。
ジェネラル・オブ・アーミーズの肩の巨大砲が火を噴き、プリズナーブラスターと正面からぶつかる。
プリズナーブラスターが押し返される。
「二体分のジェネレーターの出力だ!止められるものか!!」
「プリズナーブラスターの限界は…」
プリズナーブラスターの出力が一気に跳ね上がる。
「…こんな物ではありません!!」
プリズナーブラスターが相手の巨大砲を押し返す。
「ぬうっ!馬鹿な!!」
直撃する寸前、ジェネラル・オブ・アーミーズとガンサイドが分離して回避する。
ガンサイドがエルヴズユンデの背後にまわり、機動兵器の形態に変形する。
そして、ブラスター発射直後のエルヴズユンデを、背後から蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
そして、その正面からジェネラル・オブ・アーミーズがそこに向けて刀を叩き込む。
刀が、エルヴズユンデの肩アーマーに深々と食い込む。
「…その程度!!」
エルヴズユンデが、食い込んだ刀をへし折る。
そして、そのままジェネラル・オブ・アーミーズに体当たりを決める。
「何という馬鹿力だ、この機体は!!」
思わず、ヴルレオが叫ぶ。
「それが取り柄でしてね…!!」
エルヴズユンデが吹き飛ばされたジェネラル・オブ・アーミーズを尻目に反転し、ガンサイドに剣を叩き込む。
しかし、ガンサイドは再び変形、分離してそれを回避し、ジェネラル・オブ・アーミーズの方へと飛び、合体する。
「成る程、それが前提の機体、という事ですか…」
「そういう事だ…!」
ジェネラル・オブ・アーミーズの両腕の二連装プラズマキャノンが雨あられと放たれる。
「笑わせてくれます…!」
エルヴズユンデが、それに真正面から突進していく。
「はああああああああああああああ!!!」
剣の一振り、爪の一振りが、眼前のプラズマ弾を掻き消していく。
被弾はあるが、致命傷は与えられそうに無い。
「ば、馬鹿な…!?」
蜂の巣になって倒れると思った相手が、その雨の中を真正面から突進してくる。
それだけでも、ヴルレオにとっては驚愕だった。
「だが、ならば、これでどうだ!!」
その状態で、ジェネラル・オブ・アーミーズは肩の巨大砲を放った。
回避行動を取った所で、今度はプラズマ弾の雨の直撃を貰う事になる。
「プリズナー…ブラスタァァァァァァァァ!!!!」
一瞬、プラズマ弾の雨を真正面から浴びながら、エルヴズユンデはそれに持ちこたえた。
次の瞬間、エルヴズユンデの胸部から解き放たれたプリズナーブラスターが、巨大砲の光と衝突する。
そのまま、その反動に負けずにエルヴズユンデは前進し続けているのだ。一歩一歩、確実に。
「く、来るな!来るな!!」
そして、その数秒後、巨大砲の砲身が焼きつき、巨大砲が使用不能になる。
その一瞬の隙を、ギルティアは見逃さなかった。
「これで…終わりです!!」
エルヴズユンデが、ジェネラル・オブ・アーミーズを横に一閃し、上下に両断する。
「ま、まさか…に、二対一だぞ!?最新型だぞ!?」
そして、分離しようとしたガンサイドをレーザーが撃ち抜く。
「相手が誰であろうと、私は卑怯者には…悪には、負ける訳には行かないのです」
エルヴズユンデが、ジェネラル・オブ・アーミーズの上半身を踏みつけ、剣を掲げる。
「実質二機の最新型を一度に相手にして、見事な勝利!!
二機を撃破した事で、チャンピオンへの挑戦権が一気に近づいた!!
後一戦の勝利で王者への挑戦権が獲得できるぞォォォォォ!!!」
フルメタルコロッセオに、歓声が響き渡った…。
ギルティアは、ふとエルヴズユンデの胸部から、周囲を見回す。
ランとミノリ、そしてリラはどうしているのか。
先程のトラブルは一体なんだったのだろうか、それが気になったからだ。
「…!」
観客席の中に、三人が確認できた。
そして、ギルティアは思わず笑ってしまった。
「やれやれ…」
ランが、チアガール衣装を着せられている。
ミノリとリラがやったのは、先程の強制連行をみれば理解できる。
ランは顔が真っ赤だ。
「何をやっているのやら…災難ですね、ラン」
会場の外で、三人と合流する。
「…相変わらず、見事な勝利です!おめでとう、ギルティア!!」
リラが言う。
「ええ、流石に若干の手応えはありましたが、アンファース程の強敵ではありませんでした」
「ところで、これ、どう思います?」
ミノリが、ランを引っ張る。
「うー…何で俺がこんな格好を…」
ランがぶつぶつ言っている。
「思わず笑ってしまいました。確かに、似合ってはいますね」
「リラさんが、ランを見たらピキーンと来たようで…」
「成る程…それで、ですか…」
ギルティアが苦笑する。
「…災難でしたね、ラン」
「まったく…」
ランがため息をつく。
「…足元がスースーして困るよ」
「ご苦労様です…さて、それでは、帰りましょうか?ラン」
ギルティアが続ける。
「…リラさんとミノリさんもどうですか?この後お茶でも」
「私も今日の午後は仕事は入っていませんので、構いませんよ」
「ええ、もしよろしければ一緒させていただきます」
リラとミノリが頷く。
「…決まり、ですね」
ギルティアが、エルヴズユンデに乗り込む。
「では、私は先に工場に戻っています。また後で!」
エルヴズユンデが、アルフレッド宅の方へと飛んでいった…。
「さて、では私達も行きましょうか?」
「お、俺は着替えてから…」
「駄ー目!!」
「駄目です!せっかく似合ってるんですから!」
「……」
二人から同時に言われ、ランは、黙るしかなかった…。
一方、その頃、ラーゼル重工の社長室で、ラーゼル=グライアードは机を殴っていた。
「お、おのれェ…!!あれだけの力を傾けて、何故勝てぬ!!」
アンファースの機体は確かにチャンピオンに挑めるほどの力はあるが、大企業であるが故に逆に抑えが利く。
しかし、そう、アルフレッド工業がチャンピオンに挑める状態になった時点で、王者決定戦でどちらが勝ったとしても、ラーゼルの威光には傷がつく。
その二機は、ラーゼル自体の技術力ではどうにも出来ない、という事を証明してしまうのだから。
「ば、爆破、妨害班を増員しろ!何としても、何としても!あの忌々しき機動兵器を、闘技場に出る前に破壊するのだぁぁぁぁぁ!!!」
声が震えている。
自らがしてきた悪事は、自らが強者であるからこそ許されてきた事、転落した時、それは周囲からの報復に繋がる。
そうならないように、今までどれだけの企業を、人を、不幸に落としてきたか。
それらの全てが、自分に怒りの矛先を向ける。
自らの撒いた種が実を結ぶ恐怖。
「ク、クク…い、いざとなれば…」
ラーゼルが、静かに呟く。
ラーゼルの手には、設計図が握られていた。
「こ、これがある…そう、我が威光の結晶が…」
ラーゼルの、震えた声での高笑いが、ラーゼル重工に響き渡っていた…。
ギルティア日記
今日は、勝利よりもリラさんの暴走が。
私のバトルスーツを作って頂けたのは嬉しいのですが、
あの素早さ…色々な意味で凄いです。
ランも、災難でしたね…。
さて、応援してくれている皆さんの為にも、勝たねば!
続く




