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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.25 突然の来訪者

   Act.25 突然の来訪者


 ギルティアがレディオスの戦いを見てから、二日が経過した。

 エルヴズユンデは、再びフルメタルコロッセオの中央に立っていた。

「さぁ!今日もフルメタルコロッセオは盛り上がっていくぞォ!!

 今日はアルフレッド工業から、相変わらずの気品が美しい機動兵器、エルヴィント!

 そして、もうお馴染みだな?パイロットは、斬光の聖女、ルギルナ=燐紅=御果だ!!

 何と!今まで無敗でここまで勝ち進んできた!!

 このままいくと、もうすぐ、チャンピオンと戦う権利を得る事になる!

 快進撃は、どこまで続くのかぁぁぁぁぁ!!!」

「あと数勝…ですか…」

 ギルティアが、エルヴズユンデの胸部で呟く。

「対する相手は、ラーゼルがロールアウトさせたグランドジェネラルシリーズの最新型だ!

 今回が初陣となる、まさに新型!グランドジェネラルTE!!

 どんな戦いをするのか、全く分からないぞ!パイロットは、ラーゼル重工所属、ハイデル=リヒテンシュタイン!!」

 エルヴズユンデと対峙しているのは、先日レディオスのフレアドイリーガルに瞬殺された、グランドジェネラルのバリエーション機らしい。

 カラーリングが金一色で、ますます豪勢さに磨きがかかっている。

 ギルティアは、ため息をつく。

「やれやれ…金色自体は嫌いではないのですが、これはどうにも、『品』というものが感じられませんね…」

「さあ、注目の一戦!GO!AHED!!!」

 実況の男の叫びと同時に、エルヴズユンデが剣を構えて突進する。

 それと同時に、グランドジェネラルは、大量の浮遊機雷をばら撒き始めた。

「!?」

 グランドジェネラルの周囲全方位に、かなりの密度でばら撒かれている。

 エルヴズユンデが急停止する。これでは、近づくのには骨が折れそうだ。

 グランドジェネラルが、ライフルを取り出す。

 それと同時に、機雷が、ゆっくりと動き始めた。

 エルヴズユンデの周囲を取り囲み、ゆっくりと包囲網を形成していく。

「…成る程、こういうタイプの戦法ですか…」

 グランドジェネラルが、離れた場所からライフルを構える。

 早く突破しなければ、手遅れになる。

「本来のエルヴズユンデならば、この程度正面突破できるので気にも留めませんでしたが…。

 …近づく前に、破壊しなければ…!」

 エルヴズユンデが、左腕のレーザーと胸部のブラスターで機雷を破壊していく。

 相手はその機雷が爆発した場所を目掛けてライフルを放ち、確実にエルヴズユンデに銃弾を命中させる。

 そして、再び機雷を補充するのだ。

 しかし、ギルティアは機雷を破壊しながら、じりじりとグランドジェネラルとの距離を詰める。

「…随分と姑息な…しかし、良いでしょう…」

 ギルティアが、静かに呟く。

 エルヴズユンデが、レーザーでグランドジェネラルの方の機雷を撃ち抜く。

 グランドジェネラルが、爆発が起こったその場所にライフルを放つ。

 しかし、その銃弾は、エルヴズユンデを捉える事は無かった。

「パターンは把握しました、私の、勝ちです」

 爆風は、ライフルの銃弾ごとエルヴズユンデが放ったプリズナーブラスターの熱量にかき消された。

 そして、ブラスターの熱量はそのままグランドジェネラルをも飲み込む。

 その隙を突いて、エルヴズユンデが機雷の壁を抜ける。

 そして、エルヴズユンデの左腕の爪がグランドジェネラルの左腕、左腕と順に抉り取る。

「戦法としては確かに間違ってはいません、が…」

 そして、剣の一閃が、グランドジェネラルの両足を叩き斬った。

「…正直、闘技場でやる戦法では無いと思います」

 ギルティアは、そう言ってため息をついた。

 エルヴズユンデがグランドジェネラルを踏みつけ、剣を掲げる。

「今回も圧勝!未知の、そして、全く予想外の戦いを見せた、グランドジェネラルTE相手に、冷静に対処した勝利だァァァァァァ!!!」

 歓声が闘技場を包む。一体、何度目だろうか。

「…ここで、立ち止まる訳には行きません」

 ギルティアは、静かに呟いた…。


 それを、観客席から観戦する、一人の女性がいた。

「あれが斬光の聖女…何と素晴らしい戦いぶり…久しぶりにインスピレーションにピカッと来たわ!」

 歓声に混ざって、女性の高笑いが響いていた…。


 ギルティアは、アルフレッド宅に帰還していた。

「残り数勝で、チャンピオンに挑む事が出来ます」

「…王者になるまで止められなかったとなれば、ラーゼルの威信は一気に失墜します。

 まぁ、元よりチャンピオンは元々別企業の機体なわけで、王者決定戦まで止められなかった時点で、

 どちらが勝ってもラーゼルにとっては不名誉な状態になるのは間違いないでしょう」

 そう言って、アルフレッドがニヤリと笑う。

「奴の焦る顔が目に浮かぶようだな…はははは!」

 ランが、大笑いする。

「さあ、その状況でラーゼルがどう出るか…それが気がかりです。

 まぁ、いずれにせよ…私が何とかします」

 ギルティアが、そう言って微笑んだ。


 しばらく会話を続けていると、扉をノックする音が聞こえる。

「?」

「俺が出るよ」

 ランが、扉を開ける。

「あの、アルフレッド工業はこちらですか?」

 玄関に立っていたのは、二十代後半の女性だった。

「はい、アルフレッド工業はここですが…どちら様ですか?」

「…あ、申し遅れました。私、バトルスーツのデザイナーで、リラ=アルフィンと申します。

フルメタルコロッセオでルギルナ=燐紅=御果様の戦いぶりを拝見しまして、是非直接お会いしたく、お邪魔させていただきました」

「だ、そうだけど?どうする、ギル姉」

 奥の方にいるギルティアに尋ねる。

「…まぁ、別に構いませんよ。中に通してあげてください」

「あーい。良いそうですよ、どうぞ」

 ランが中に通す。

「はじめまして、私がルギルナ=燐紅=御果です」

 ギルティアが頭を下げる。

「はじめまして!リラ=アルフィンと申します。戦いぶり、拝見させて頂きました!素晴らしい!」

「ふふ…ありがとうございます」

 明らかに緊張しているリラを見ながら、ギルティアは笑顔で礼を言った。

「あの…今日は、一つお願いがあってお邪魔させていただいたのです」

「お願い、ですか?」

「唐突で申し訳ないのですが、私、バトルスーツのデザイナーをしておりまして、

是非、是非とも!貴女専用のオーダーメイドの、バトルスーツを製作させて頂きたいのです!!」

 その声には、熱と真剣さがこもっていた。

「…成る程、それで私に会いたかった、と…」

 ギルティアが頷く。

「…別に構いませんよ。しかし…」

 ギルティアが続ける。

「あまり露出度が高いのは、私の趣味ではありません、そこだけを考えて頂ければ。

 私も他のバトルスーツを拝見しましたが、露出度が高く、着る気がおきませんでした。

 いつも私が着ていたのは、まぁ、私が昔、別な所を旅をしていた時に着ていた服なのですよ」

「ええ、私としても、ルギルナ様に、通常タイプのバトルスーツは合わないと思っていました。

 …採寸して、早速寸にあわせたデザインを準備します…そうですね…明後日までには上げます。

 デザインはもう私の頭の中にありますので」

 リラは満面の笑みで続けた。

「…こんなにすんなりOKして頂けるとは思いませんでした!ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそ。わざわざその為にここまで…本当にご苦労様です」

「それでは、早速採寸を!」

 リラがギルティアに飛びつく。その姿は、まるで獲物を見つけた猫のようだった。

「え!?」

「慣れてますので一瞬で終わります!」

「ちょっと、待…!」

「その服の形状が採寸の邪魔になってますね…ほら、脱いでください!」

「こ、ここでですか!?」

 ギルティアが慌てる。

「善は急げです!」

 リラが、服の隙間から手を突っ込む。

「だ、だから、ここではまずいですって…だからッ!!だからぁ!!」

 ギルティアが、リラに引っ付かれて服を半脱ぎになりながら、浴室の方へ突っ込む。半泣きだ。

「な、何と言うか…どうやら、目的の為には周りが見えなくなる方のようですね…」

 アルフレッドが、そう呟いた。

「うん…」

 ランも、唖然としている。

「ぬ、脱がして頂かなくても自分で脱ぎますから!」

「ご遠慮なさらず!」

 浴室の戸の向こうから、ドタドタという音とガタガタという音が聞こえる。

 どうやら、ギルティアが、無理やり脱がそうとするリラから逃げ回っているらしい。

「ええい、いい加減に…って、サラッと脱がさないで下さい!!」

 服が落ちるバサッという音が聞こえた。

「…よし、ようやくしっかりと寸を取れます」

「ようやく…落ち着きましたか…」

 ギルティアのため息と、ホッとした表情が目に浮かぶようだった。

「…採寸終了、ご協力に感謝します!」

「ええ…いきなりすぎて少々戸惑いましたが」

 ギルティアが、服を着なおし、浴室から出てくる。

「…では、早速製作に入らせて頂きます!また後日!!」

 リラは、物凄い勢いで走り去っていった…。


「…あの…一体、何だったんでしょうか…?」

 ギルティアが尋ねる。

「まるで、嵐のような方でしたな…」

「ええ…しかし、わざわざその為にここまできて頂けるとは…悪くありません」

 ギルティアが呟く。

「うーん…」

 ランが、何やら考え込んでいる。

「どうしました?ラン」

「いや、リラって名前、どこかで聞いたような…」

 そして、おもむろに上の階の自分の部屋に歩いていく。


「…これで楽しみが一つ増え…」

「あーッ!!!」

 ギルティアの言葉の途中で、上の階からランの叫びが聞こえ、ランが物凄い勢いで降りてくる。

「な、何事ですか?」

 ギルティアが驚いて尋ねる。

「リラ=アルフィン!!そうだよ!伝説のバトルスーツデザイナー『白羽のリラ』!!」

「な、何と!?」

 その名前を聞いたアルフレッドも、思わず立ち上がる。

「ほら、これ!!」

 ランが、週刊フルメタルコロッセオの特集を開く。

「『白羽のリラ』…本名、リラ=アルフィン。

 本来はバトルスーツに限らず、服飾全般のデザインを手がける。

 自分の気に入った相手、インスピレーションが閃いた相手にしか絶対に服を作らない。

 相手の元に嵐のように現れては去っていく女性。

 そのバトルスーツは、男女問わず、デザイン、機能性、共に最高品質といわれているものを遥かに上回る、バトルスーツの域を超えた芸術品である…」

 ギルティアが、言葉を続ける。

「…確かに、彼女で間違いは無いようですね…」

「まさか、彼女にバトルスーツをデザインして頂けるとは…流石ですな、ギルティアさん」

「まさか、ここまで有名な方だったとは…」

 ギルティアが、苦笑する。


 すると、通信機が鳴った。

「?」

 ランが、通信機に出る。

「はい、こちらアルフレッド工業。

 おっ、ミノリか?って事は、また試合なんだな?」

 暫く聞いて、ランが頷く。

「うん、分かった、それじゃ、また」

 ランが、苦笑しながらギルティアに伝える。

「…今度は二対一だってさ」

「と、言うと?」

「試合は二日後、相手は、前にレディオスと戦ってたヴルレオって奴がまた新型で、

 もう一人もそれと対になる新型だってさ…。

 三つ巴…って事らしいけど、実質二対一だよね…。

 まぁ…二対一って事は、勝てればまた一戦分得するよ!」

 ランが笑顔で言う。

「…ええ、全力で行きます」


 そして、二日後、試合の当日の早朝、アルフレッド宅の戸を凄い速さでノックする音が聞こえる。

「…?」

 アルフレッドが戸を開ける。

「バトルスーツが完成しました~!!」

「おお、リラさんでしたか…ルギルナさんは今準備中ですよ」

 と言うか言わないかの間に、既にリラはギルティアがいる部屋に既に突撃していた。

「り、リラさん!?」

 ギルティアの驚きの声が聞こえてくる。

「バトルスーツが完成しました!早速着てみてください!」

「ちょ、だから待ってくださ…」

「善は急げ、ですよ!」

「だ、だからっ…ふ、服を脱がそうとしないで下さい!」

 ギルティアがまたも逃げ回っているらしい。

 ギルティアの悲鳴が、アルフレッド宅に木霊した…。

「…ええ、確かにこれは着心地も良いですし、申し分ありません。

 しかし…リラさん、少し落ち着いてください」

「閃きは消える前に行動してこそ、です。それでは、今日の試合、楽しみにしてます!応援してますよ!!」

 リラはそう言うと、また物凄い勢いでアルフレッド宅を出て行った…。

「…はぁ…」

 ギルティアがため息をつく。

「…行きますか」

 ギルティアが、下に降りてくる。

「おお、それが作ってもらったバトルスーツですか…」

「…ええ、彼女自身はかなり強引ですが、作ったものは確かに素晴らしいものです…私の趣味を良く理解していらっしゃいますね」

 ギルティアが今まで着ていた服の意匠を盛り込み、かつ、若干露出度が上がっている。

 しかしそれもあまり強調したわけでもなく、黒のレースで上手く過剰な肌の露出を避けている。

「おお、良いじゃん!流石白羽のリラさん!

 …で、リラさんは?」

 今起床して、上から降りてきたランは、何が起こっていたのかは分からないらしい。

「物凄い勢いで帰りましたよ…多分、フルメタルコロッセオの会場で探せば見つかると思います」

「分かった、探してみるよ」

「…さて、では行きますか!」

 ギルティアは、エルヴズユンデのある、工場の方へと歩き出した…。


続く


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