Act.24 焔光の覇者
Act.24 焔光の覇者
アルフレッドが予想した通り、ラーゼルがアルフレッドの元に姿を現した次の日から、再び連続して試合が組まれはじめた。
「今日のフルメタルコロッセオは、今話題沸騰中、三対一のバトルロイヤルをひっくり返した驚愕の強さを持つ、
アルフレッド工業所属の機動兵器、エルヴィント!
そして、その胸部でそれを操るは、斬光の聖女ルギルナ=L=御果!!」
「…しかし、相変わらず仰々しいです…悪い気は、しませんがね…」
ギルティアは、そう呟くと、観客席の方を見る。
「…!」
ランがミノリと共に観戦しに来ている。
どうやら、ミノリの仕事が休みらしい。
「…ランもエルヴズユンデの修理には携わっている…フフ、ここはいい所を見せてあげるのがいいでしょう…」
ギルティアが、そう言って笑う。
「対する相手は、ラーゼル重工所属、ジェネラルZX!!パイロットは藤木敏雄!!
現在のフルメタルコロッセオでもトップランクの実力者だ!!
ジェネラルはエルヴィントと同じく近接バランス型の機体だ!!」
相手の機体は、左腕が大型の榴弾砲になっており、右腕には大剣が握られている。
「果たして、連勝に連勝を続けるルギルナ&エルヴィントのコンビを止める事が出来るのか!!」
見ると、相手の機体のコクピットから、体格のいい男がギルティアを睨んでいた。
「?どこかで、見たような気が…」
何か頭に引っかかるものを感じ、ギルティアが、必死に思い出そうとする。
「…!ああ、成る程…」
ギルティアが思い出す。先日、ランを袋叩きにしていた四人の男の一人、リーダー格の男だ。
「この程度の小物がトップランクとは…」
ギルティアがため息をつく。
「…呆れたものです」
「あの時は世話になったな…まさか、ここまで来るとは思っても見なかったぜ…。
だが、これも仕事だ、悪いが、勝たせてもらうぞ…!!」
藤木がギルティアに向けて叫ぶ。
「弱いもの虐めをする事しか出来ない輩に、私が負ける訳がありません」
コクピットで、ギルティアが剣を突き出し、続ける。
「そう…斬光の聖女、ルギルナの名の下に…私はここに絶対なる勝利を誓います…!!」
ギルティアがそう叫び、コクピットに乗り込む。
「自惚れんなよ…現実の非情さを教えてやろうじゃねえか!!」
藤木がそれに答え、コクピットに乗り込む。
「さぁ、注目の一戦!GO!AHED!!」
かけ声と共に、二機が同時に突進する。
「先手は貰うぜ!」
ジェネラルZXが、先手を取って斬りかかる。
それを左腕のクローで払い、エルヴズユンデが剣を突き出す。
ジェネラルZXが、左腕で防ぐ。左腕に、剣が深々と刺さる。
「成る程、良い動きだ…確かに強い。だがな!!」
ジェネラルZXの左腕が外れる。
「何ッ!?」
「これならどうだァ!!」
左腕の大型の榴弾砲が内部の大量の弾薬諸共に爆発する。
凄まじい爆発で、コロシアムが見えなくなる。
エルヴズユンデが、その爆風から凄まじいスピードで脱出する。
どうやら、ジェネラルZXが左腕を自切した瞬間に咄嗟に離脱したらしい。
「成る程…私も認めましょう、あなたは小物では無い…このような戦い方、小物に出来るものではありません。
しかし、ならば、一体何故あの時のような卑劣な真似を…!?」
丁度エルヴズユンデが脱出するのとほぼ同時に、ジェネラルZXがその反対側から脱出している。
「まさか、この手を見切られるとはな…簡単な話さ、俺はあくまで、ラーゼルの一社員に過ぎないからな…!」
空中で、二機が剣を交える。
「仕事ならば、何をしても良いと…!?」
「良いか悪いか…それは問題にはならないさ…。
俺だって、生活がかかってる…食いっぱぐれるのは御免だからな…!」
「…それがこの世界の営みそのもの、という訳ですか…」
エルヴズユンデが一歩離れる。
「…気に入りませんね…!!」
そして、左腕のレーザーを乱射する。
ジェネラルZXが、それを剣で叩き落そうとするが、落としきれずに直撃を貰う。
「ぐ、おっ…!」
ジェネラルZXが、地面に落下する。
「恐らく、それはあなたのせいではない…だからこそ、尚更…」
エルヴズユンデが更に追撃する。
「私は…それを…あなたをそこまで貶めた世界の営みを許す事が出来ません!!」
左腕、両足と、剣で斬りおとす。
「…ですから…」
エルヴズユンデが、ジェネラルZXを踏みつけ、剣を振り上げる。
「…願わくば、汝の罪が祓われん事を」
ギルティアがそう呟くと、コロシアムに歓声が沸き起こる。
「凄まじい爆発を咄嗟に回避、鮮やかな勝利だぁぁぁぁぁぁ!!
彼女は、このままチャンピオンにまで登りつめるのか!!これからの活躍からも目が離せないぞォ!!」
ギルティアが、コクピットから出てきて、ランの方に手を振る。
ランも、それに満面の笑みで返す。
「やれやれ…こりゃ減給間違いなし、だろうな…」
コクピットで、藤木がため息をつく。
「…だが」
藤木が、コクピットから出てくる。
「…久々に楽しませて貰ったぜ…最近バトルってのも仕事になっちまってたからなぁ…。
俺も、久しぶりに『俺』の戦いが出来た…ありがとうよ。
何かお前、もう、このままチャンピオンになっちまえよ。
そうすりゃ、何か、ラーゼル天下の今よりも給料は少ないかも知れんが、今より楽しめそうだ…」
藤木が、そう言って笑う。
「…言われずとも、私はそのつもりです…その時を、楽しみに待っていて下さい」
ギルティアも、笑顔でそれに答えた。
一方、観客席のランは、ミノリと手を取り合って喜んでいた。
「相変わらず強いなぁ、ギル姉は!」
「そうね…直に見たのは初めてだけど、本当に強いわ…そういえば、今日のこの後の試合、知ってる?」
「?」
ランが首を傾げる。
「久々に、チャンピオンの試合があるのよ。
彼女にチャンピオンの戦いぶり、見せてあげたら?」
「そうだった!俺とした事が、ソルジャーESの修理の事しか考えてなくてすっかり忘れてた…!」
闘技場からエルヴズユンデが退出する。
「ギル姉!!ギル姉!!」
ランが、エルヴズユンデの方に走っていって、叫ぶ。
「…ラン?どうしました?」
「今日、この後の試合、見ていかないか?」
「普段は別に出来試合だから見なくていい筈ですが…一体、どうしたのですか?」
ギルティアが、エルヴズユンデを降りて、ランの方に歩いてくる。
「…次の試合だけは見ておいたほうが良い。
次の試合は、チャンピオンと、ラーゼルの最新型の試合だよ」
ランが、真剣な面持ちで続ける。
「いつもラーゼルの最新型を使ってるヴルレオは、機体の性能にモノを言わせる雑魚だよ…多分、実力でいけば今日戦った藤木より大分弱い。
…俺も、まさか本気を出した藤木があんな戦い方をするなんて思わなかった。
アンファースもそうだけど…本当なら、もっと上にいけるはずの実力なのに…もったいないな…。
それもこれも、ラーゼルが勝手に決めた秩序が原因…。
けど、チャンピオン…レディオス=アイルレードだけはその秩序に縛られて無い…奴は、実力でチャンピオンの位置にいる」
「実力で?成る程、それは興味深いですね…」
ギルティアが頷く。
「元々は、ラーゼル重工に倒産させられた、フレアド工業のパイロットだった…。
…その時からチャンピオンを続けてきたんだ。
けど、ありとあらゆる妨害工作の末、フレアド工業はラーゼルに吸収されて、
吸収された会社の機体の例に漏れず、レディオスの機体も弱体化させられて、フルメタルコロッセオに送り出された。
けど、奴はその実力で全ての刺客を返り討ちにし、今もチャンピオンであり続けている…奴は、本当に強いよ」
「成る程…」
ギルティアが、静かに笑う。
「…確かに、見る価値のある戦いのようです」
「そう言うと思ったよ、ギル姉」
ランが、やれやれ、といった感じで笑う。
ギルティアが観客席に入ると、周囲にどよめきが走る。
観客がこぞって最前列の席を譲ってくれた。
「ありがとうございます、皆さん」
ギルティアが笑顔で頭を下げる。
「…食事を買ってきたよ、ギル姉!」
ランが、ギルティアにコロッケパンを渡し、その隣に座る。
「コロッケパン、ですか…この世界にもあったのですね」
ギルティアが呟く。
コロッケパンを食べ終えると、丁度次の試合が開始されるようだ。
「さぁ、いよいよ一ヶ月ぶりにチャンピオンが試合をするぞ!!
ラーゼル重工所属、フレアドイリーガル、操るは焔光の覇者レディオス=アイルレード!!
今日も、その圧倒的な実力を見せ付けるのか!!」
立っているのは、継ぎ接ぎだらけの機動兵器だった。
いや、継ぎ接ぎだらけに見せられている、といった感じだ。
本来は無駄が無く、かなり精悍な姿をしている事が、容易に想像できた。
「…あれが、改造という名の弱体化、という事ですか…」
ギルティアが、ため息をつく。
コクピットから、目つきが鋭い金髪の男が出てくる。
ギルティアと目が合うと、男の眼は微かに笑った気がした。
「対する相手は、絶えず最新の機体で何度もフレアドイリーガルに挑戦してきた、ラーゼル重工社長の息子、ヴルレオ=グライアード!!
機体は、今回も最新型!グランドジェネラルSEだ!!彼の執念が、今度は勝利をモノに出来るか!!
今の所は、この二人の間に割って入れる者は出ていない!!」
フレアドイリーガルと対峙しているグランドジェネラルSEは、まさに将軍といった雰囲気の豪勢な姿をしていた。
「…悪いが、君はチャンピオンでいてはいけないんだ。その座から、退いてもらうぞ!!」
ヴルレオが言う。
「…勝てたら、な。それ以上の御託は良い。かかって来い、俺を楽しませられたらその先を聞いてやる」
レディオスが静かに言い放つ。
「さぁ、戦闘開始だ!!GO!AHED!!」
戦闘開始直後に動いたのは、グランドジェネラルの方だった。
刀を構えて突進する。
「遅い、遅すぎるぞこの雑魚機体がァ!!」
グランドジェネラルが、凄まじい勢いで距離を詰め、刀を振り下ろす。
「……」
フレアドイリーガルは、たった一歩動く。
それだけで、振り下ろされた刀は空を切る。
「まだまだ!!」
グランドジェネラルが、何度も繰り返し刀を振る。
「咆えるな、雑魚が」
フレアドイリーガルが、一撃一撃を必要最低限の動きで回避する。
機動性が高いわけでもない。装甲が厚い訳でもない。
ただ、単純に相手の動きを見切って回避しているのだ。
そして、フレアドイリーガルが、腰に差したナイフを抜く。
「…何も変わらん」
「何ッ!?」
次の瞬間、グランドジェネラルの振り下ろした刀の横腹に、強い衝撃が走る。
刀は、あっけなく折れた。
「!!」
「…退屈極まりない」
「馬鹿が!この程度で手が尽きたと思うなよ!!」
グランドジェネラルが、背中に装備されたミサイルを一斉に放つ。
「…わざわざ自滅するか…」
ミサイルの雨が、フレアドイリーガルを襲う。
たくさんの装甲板が飛び散る。傍から見れば、間違いなく直撃だ。
「…ざまァ見ろ!弱小企業の機体如きがいつまでも王者を張ってんじゃねえ!!」
それを見たギルティアは、静かに笑った。
「…成る程」
ギルティアは既に、何が起こったのか理解をしていた。
だからこそ、言葉を続ける。
「…これは、確かに強いです」
爆風から、鋼色の機体が姿を現す。
継ぎ接ぎの姿ではない。それが、フレアドイリーガル本来の姿だった。
ミサイルを、継ぎ接ぎの装甲に故意に当てる事で、邪魔なパーツを吹き飛ばしたのだ。
そう、本体には殆ど被弾していない。
「そんな馬鹿な!!」
「さぁ、今回も俺の勝ちのようだ…な!!」
フレアドイリーガルが、腰に差した細身の剣を抜き、踏み込む。
グランドジェネラルは、その踏み込みに反応できなかった。
右腕が飛ぶ。
反転して、再び斬り込む。
左腕が宙を舞う。
そして、更に反転し、腰部を横一線に真っ二つにした。
「…フン、つまらん相手だ」
レディオスは、そう呟いた…。
次の瞬間、歓声がフルメタルコロッセオを埋め尽くす。
「…見事、です」
ギルティアが、静かに呟く。
フレアドイリーガルが、グランドジェネラルを踏みつけ、剣を掲げる。
「まさに圧倒!今回もフレアドイリーガル、圧勝だァァァァァァァ!!!」
フレアドイリーガルの胸部から、レディオスが出てくる。
「…マイクを貸せ」
「あ?ああ」
実況からマイクを受け取り、レディオスが言葉を続ける。
「…勝ち上がって来い、待っている」
レディオスの言葉が自分に対してのものである事を理解し、ギルティアは静かに頷く。
それを確認すると、レディオスはまた微かに笑った。
「…楽しみにしているぞ」
レディオスが、実況の男にマイクを返す。
「今の言葉は一体誰に宛てられたものなのか!!それは、今後の戦いで明らかになる筈だ!!
今後もフルメタルコロッセオ、特にチャンピオン周りの動向に、目が離せないぞォ!!」
こうして、午前も午後も凄まじい大盛況でその日のフルメタルコロッセオは幕を下ろした…。
ギルティア日記
王者の戦いぶり、見せていただきました。
確かに、アレは強いです。
そして、もう一人、藤木…あの方は、
あくまで一社員として汚れ役を引き受けている、といった感じでした…。
生活がかかっている、とはそういう事なのでしょうね…。
…彼らも、その為に必死なのでしょう。
問題なのは、その構造そのもの…。
もし私が勝ち続ける事で、それを少しでも変えられる可能性があるのなら、ますます負ける訳にはいきませんね。
…次の戦いも、勝たねば…!
続く




