Act.22 斬光の聖女
Act.22 斬光の聖女
シリウス、アンファースとの戦いから、二日が経過した。
他企業からの妨害工作は、ルークが徹底的に防衛していた為、アルフレッド工業に損害は無かった。
「…これで、良し」
ギルティアは、修理が完了したエルヴズユンデを見上げ、満足そうに頷く。
「…次の戦いも問題ありませんね」
そして、エルヴズユンデの横で、ランがソルジャーESを修理していた。
ランが、嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「…ギル姉が殆ど壊さずに倒したお陰で、こっちもあっという間に修理が終わりそうだよ!」
「それは何よりです。しかし…あれだけ破壊を抑えて倒しても、彼らはこの機体を投棄するのですね…」
ギルティアが、やれやれ、とため息をつく。
「まぁ、奴等にとってはこのレベルの機体は完全な使い捨てだからな…。
幾らでも替えが利くからって、一回使うとそのまま投棄さ…」
「不経済な…」
「ある意味、それで奴等の圧倒的な財力を自慢してるのさ…」
ランが、不機嫌そうに呟く。
「おーい、ラン、ギルティアさん!朝食が出来ましたぞ!」
アルフレッドから、連絡が入る。
「はい、今行きます!」
「さーて、今日の朝飯は何だろうなー!」
ギルティアとランは、工場を出て家の方へ歩き出した…。
三人で朝食を取る。
「ラン、ソルジャーESの修理はどうなってる?」
アルフレッドが尋ねる。
「ああ、もう少しで終わる。いやあ、流石ギル姉…的確にパーツの急所だけを狙って破壊してる」
「ギルティアさん、ありがとうございます。
丁度ランにも、良い練習材料が必要だと思っていた所なのです。
いつも小生と共に実戦で鍛えてきましたが、そろそろ、自分で好きなようにいじれる機体を持たせてやっても良いと思っておりました」
「丁度良かったようですね…それは何よりです」
ギルティアが微笑む。
「どんな感じで改造しようかな…」
「あれを拾ってきたのはお前自身だ、好きに改造すれば良い」
「よし、これから色々考えてみようか…」
三人が話をしながら食事を続けていると、通信機が着信を知らせる。
「…また試合の連絡かな?」
ランが通信機に出る。
「はいこちらアルフレッド工業で…って、ミノリか?」
ランが、通信の相手を確認すると顔を綻ばせる。
「…また試合の連絡なんだろ?うん、うん…」
しかし、次の瞬間、ランの顔色が変わる。
「…って、おい!それは幾らなんでも無茶じゃないのか!?
…おっと、ごめん、ミノリに当たってもしょうがないよな…分かった。それじゃ、また会場で」
ランが、青い顔で戻ってくる。
「…どうしました?」
「試合は明日…ラーゼル重工の機動兵器三体との合計四体のバトルロイヤルだとさ」
「な!?そ、それは本当なのか、ラン!!」
アルフレッドが驚いて聞き返す。
「ああ、間違い無い…どうやら、どうあっても俺達に負けて欲しいらしいな」
「うーむ…実質三対一、という訳か…これは、まずいですな…」
「…三対一程度であれば…何とかして見せます」
ギルティアは、静かに言い放った。
「…そのような卑怯を働く輩に屈する訳には行きません。
…後悔させて差し上げましょう…私相手にそのような愚行をした事を、ね」
ギルティアが、不適に笑う。
「ははっ、本当、ギル姉のその笑みを見ていると、負ける気がしなくなるや!」
「確かに、ギルティアさんなら、その程度の戦い、何度も潜り抜けてきておられる筈…。
…お願い、出来ますかな?」
「ええ、喜んで!」
ギルティアは、自信満々に頷いた。
そして、次の日、フルメタルコロッセオには、エルヴズユンデが仁王立ちしていた。
「…この戦い、絶対に勝ちます」
ギルティアが、静かに呟き、観客席で見守るランとアルフレッドに微笑む。
「今日のカードは、アルフレッド工業よりエルヴィント、そしてルギルナ=燐紅=御果!!
何故ここまで繰り返し試合が組まれているのか、俺にも分からない!
しかーしっ!彼女の笑みは相変わらず、一片の陰りも見られない!
今回も彼女の微笑みは勝利の女神の微笑となるのかぁぁぁ!!」
そして、残りの三機の紹介が終わる。
ちなみに、参加している三機は、最初の戦いで圧勝したトゥルーパーB2、
そして、それの同型で、大型の日本刀を装備したトゥルーパーG5、
更に、トゥルーパーの発展機、大型のガトリング砲と大剣を装備した、トゥルーパーEX7だった。
明らかに、エルヴズユンデを集中攻撃で撃破した後に、出来試合でトゥルーパーEX7の宣伝をするつもりなのが分かる。
「…マイクを貸して頂けないでしょうか?」
思わず、ギルティアが実況の男に言う。
「え?あ、ああ…」
実況の男が、ギルティアにマイクを渡す。
「単刀直入に言いましょう…三人まとめてかかって来なさい!!
あなた方一体一体ではお話になりません!!
元より、あなた方の狙いは私なのでしょう!?
来るなら来なさい!私は何度でもあなた方を撃破します!!」
ギルティアが叫ぶ。
「…ご協力に感謝します」
実況の男に、ギルティアがマイクを返す。
「あ、ああ…け、けど、じ、事情は分かるが…そこまで煽っていいのかい?」
「ふふ、どうせ戦う相手です。それに、このような卑劣なやり方をする輩は、大嫌いなのです」
「そうか…俺、個人的にはお前を応援してるよ…頑張って、な」
実況の男が、こっそりとギルティアに言う。
「ええ、ご期待には背きません」
ギルティアが笑顔で応え、エルヴズユンデに乗り込む。
「さぁ、それでは…GO!AHED!!」
そのかけ声の次の瞬間、エルヴズユンデは既にトゥルーパーB2に飛び蹴りを叩き込んでいた。
「まずは一体!」
トゥルーパーB2は吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられる。あの衝撃では、一撃で戦闘不能だろう。
戦闘開始から三秒…初戦の瞬殺より更に早い瞬殺だった。
「次ッ!!」
体勢が崩れる所をブースターで補正し、背後から斬りかかって来たトゥルーパーG5の刀を剣で抑える。
次の瞬間、銃弾の雨が降り注ぎ、二機が離れる。
空中に滞空していたトゥルーパーEX7の、ガトリング砲だ。
エルヴズユンデが、離れた瞬間を狙ってトゥルーパーG5に左腕のレーザーを叩き込もうとしたが、
レーザーは刀に叩き落されてしまった。
更に、その隙を突いてトゥルーパーEX7が大剣を振り下ろす。
「何のッ!!」
エルヴズユンデが振り下ろされた大剣を剣で抑える。
その隙を突いて、トゥルーパーG5が背後から斬りかかる。
エルヴズユンデが、左腕の爪でそれを抑える。
トゥルーパーG5、そして同EX7の脚部バルカン砲が火を噴こうとする。
「でえええええええええええいっ!!!!」
しかし、その直前、エルヴズユンデはトゥルーパーEX7を力づくで押し返し、
更に、後ろ蹴りでトゥルーパーG5を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたトゥルーパーG5に、追撃でレーザーを叩き込む。
トゥルーパーG5は両腕を吹き飛ばされ、そのまま闘技場の壁に叩きつけられた。
間違いなく戦闘不能だろう。
「残り、一機!!」
トゥルーパーEX7のガトリング砲が火を噴く。
「避け切れませんか…ッ!」
右肩に銃創がつく。
「しかし!!」
エルヴズユンデの左腕のレーザーが、ガトリング砲の砲身を撃ち抜く。
ガトリング砲が暴発する。その寸前、トゥルーパーEX7はそれをエルヴズユンデに投げつける。
エルヴズユンデが爆風に巻き込まれる。
「まだまだッ!!」
爆風を突き破り、エルヴズユンデがトゥルーパーEX7に突進する。
エルヴズユンデが剣を振り下ろす。
トゥルーパーEX7がそれを剣で抑えるも、その一撃は受け止めた剣をもへし折り、トゥルーパーEX7の胸部に深い傷を創る。
トゥルーパーは一歩離れ、トゥルーパーG5の日本刀と、トゥルーパーB2のライフルを拾い、武装する。
エルヴズユンデが、再び一歩を踏み出す。
「…さぁ、決着をつけましょう」
刀と剣が切り結ぶ。
「えええええええええええいっ!!」
エルヴズユンデが、トゥルーパーEX7を押し飛ばす。
「力の差を、知りなさい…!!」
エルヴズユンデの胸部に光が集まる。
そう、エルヴズユンデの胸部には、ブラスターが装備されている。
そして、今まで、使っていなかった。
最初に戦った相手達はブラスターを使うまでも無く、アンファースとの戦いでは、使い所が無かったからだ。
図らずとも、この戦いがフルメタルコロッセオにおいてのブラスター初使用となった。
「…プリズナーブラスタァァァァァァァ!!」
至近距離からのプリズナーブラスター…凄まじい熱量をおびた光が、トゥルーパーEX7を飲み込む。
トゥルーパーEX7はその熱量に容赦なく焼かれ、吹き飛ばされる。
その一撃で、勝負は決まった。
エルヴズユンデが、トゥルーパーEX7を踏みつけ、剣を掲げる。
「…願わくば、汝らの罪が祓われん事を」
コクピットの中で静かに呟く。
「この決め台詞、今回の戦いではなかなか似合っているようですね…」
ギルティアは、そう言って笑った。
「さ、三機まとめて撃破ぁぁぁぁぁぁ!!
素晴らしい戦いぶりでバトルロイヤルを圧勝!!
まさに怒涛の快・進・撃・だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
実況の男が、心から嬉しそうに叫ぶ。
ギルティアがコクピットから出て、手を振る。
凄まじい大歓声が、闘技場を満たしている。
「普段の優美な立ち振る舞いと、時折見せる凛々しき口上!!
そして、その華麗にして苛烈な戦いぶりは、まさに光すらも斬り裂く聖なる剣閃!!
まさに斬光の聖女!!僕はこの称号を彼女に贈りたいと思う!!」
その言葉に応えるように、観客席が一団と大きな歓声を上げる。
「斬光の聖女…なかなかかっこいい呼び名ですね…しかし、流石にそれは褒めすぎです…」
闘技場に立つエルヴズユンデの胸部で、ギルティアが苦笑している。
戦闘開始前のギルティアの叫びが、観客の熱狂を更に過熱させているのだ。
まさに大番狂わせにして、ラーゼル重工の思惑と正反対の結果になった。
エルヴズユンデは、歓声を浴びながら闘技場を出た…。
一方、闘技場の観客席の片隅で、ギルティアの戦いを懐かしそうに見ている、黒髪の青年がいた。
「やはり、封印から解き放たれていたか…しかし、懐かしい服装で何をしているかと思えば…」
青年がため息をつくが、ギルティアの機体を良く観察して頷く。
「…成る程、現在、彼女の機動兵器は不完全であると理解。恐らく、修理の為の行動と判断。
攻撃を仕掛けるならば絶好の好機、と判断」
だが、と青年は続ける。
「もっとも、使命を終えた今の俺に彼女を攻撃する理由など無いが、な…。
縁あらば再び顔を合わせる事もあるだろう…。
地平の旅人…過ちの鍵ギルティア=ループリングよ…」
そう言って、青年は闘技場を後にした。
その暫く後、工業地帯の外の森林から、黒い機動兵器が、境界空間へと飛び立って行った…。
ギルティア日記
まさか、三対一の戦いをやる事になるとは思いませんでしたが
…私は、悪党には、卑怯者には、負けるわけには行きません。
何度挑んでこようが、私は負けるわけにはいきません。
…勝ちます。
何度だろうと、私は勝利して見せます。
続く




