Act.20 ファラオ店長とアルフレッド
Act.20 ファラオ店長とアルフレッド
フルメタルコロッセオは、異常なほどの熱気に包まれていた。
それだけ、今回の戦いには注目が集まっていたのだ。
「今日のカードは、初戦での圧勝が記憶に新しい、アルフレッド工業の機動兵器エルヴィント、パイロットはルギルナ=燐紅=御果!!
初戦のまるで舞いを舞うかのような鮮やかな瞬殺ぶりが、また見られるか!!」
実況の男が叫ぶ。
一方、闘技場に立つエルヴズユンデの胸部では、ギルティアが相手を睨み据えている。
「一方、対するは再びラーゼル重工、パンツァーG4!パイロットはジョン=アーキス!
火力重視の重量級、圧倒的な火力で全てを押し潰すその火力は本物だ!!」
確かに、まるで戦車のような大量の大砲を積んでいる。
「さぁ、勝つのはどちらだ!!」
まるで、エルヴズユンデとギルティア、そしてアルフレッド工業を潰しにかかるかのように、
一日を置いて、再びラーゼル重工の機動兵器との試合が組まれたのだ。
最初の圧勝で注目度も一気に上がり、その第二戦という事で、
初戦以上に多くの人間がギルティアの戦いを観戦しに来ていた。
「…流石に今回は何も言ってきませんね…」
ギルティアが呟く。相手も無言でこちらを見ている。
「いずれにせよ、この勝負…勝たせて頂きます」
ギルティアが、エルヴズユンデに乗り込む。
それと同時に、相手もパンツァーG4に乗り込んだ。
「注目の試合…双方、GO!AHED!!」
その言葉が聞こえるか聞こえないかの間に、その言葉は爆発音にかき消された。
パンツァーG4が一斉に火器を放ったのだ。
「…フフ、成る程、先制攻撃、という訳ですか…。
この程度の火力で損傷を被るとは…流石に、防御力も本来のエルヴズユンデの足元にも及びませんね…。
しかし、このレベルの相手であれば、これで十分ですか…」
爆風を突き破って、エルヴズユンデが空中へ舞い上がる。
先程の攻撃の直撃弾を、剣とレーザーで叩き落したらしい。
多少の被弾はあるものの、ほぼ無傷といって良い程にその損傷は小さい。
「…行きます!!」
パンツァーG4が砲身をこちらに向ける前に、エルヴズユンデは突進する。
次の瞬間、パンツァーG4の肩、足、腕にあったボックスが開き、ミサイルの雨が、エルヴズユンデを襲う。
「!?そういう事ですか…!!」
ミサイルと接触する寸前にエルヴズユンデは方向を転換する。
更に、回避行動を取ったエルヴズユンデに、追撃とばかりに砲撃が叩き込まれる。
しかし、その砲撃はミサイルに当たり、ミサイルを撃墜する。
そして、エルヴズユンデの左腕のレーザーが、更にミサイルの数を減らす。
ミサイルから逃げながら、パンツァーG4との距離を詰める。
「…一撃で仕留めさせて貰います!!」
そして、すれ違い様にパンツァーG4に一閃を叩き込む。
次の瞬間、エルヴズユンデを追ってきたミサイルがパンツァーG4の、丁度一閃を叩き込んだ所に直撃した。
パンツァーG4が倒れる。
エルヴズユンデがそれを踏みつけ、剣を掲げる。
「…願わくば、汝の罪が祓われん事を…。
…どうにも、この手の戦いにこの台詞はあまり似合いませんね」
ギルティアが苦笑する。
「ま、またも勝ったぁぁぁぁぁ!!
あの砲弾の雨の中をかいくぐっても、損傷は軽微!
距離を詰めての華麗な一撃で、今回も圧勝だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
エルヴズユンデのコクピットから出て、ギルティアが観衆に手を振る。
ランが、『やったな!』と言わんばかりのVサインをしている。ギルティアが、それに笑顔で頷く。
そして、エルヴズユンデは闘技場から出た。
アルフレッド宅で、ギルティアはランと話していた。
「こうまで試合の頻度は高いのですか?」
「いいや、普通はこんなに頻度は高くないはずさ。
チャンピオンなんてここ一ヶ月試合が組まれてないし…。
…考えられるのは、ラーゼル重工が俺達を潰すために横槍を入れているって事かな」
ランが静かに呟く。
「その可能性は高いでしょうな…。
ラーゼル重工以外で現在フルメタルコロッセオに参加できているのは、かなりの大企業クラスが殆どです。
強力な力を誇る機動兵器を擁していた中小企業は、殆どが爆破や妨害によってラーゼルに吸収され、
その企業が擁していた機動兵器は弱体化の後フルメタルコロッセオで破壊される…。
恐らく、彼らにとっても我々は邪魔な筈…
まして、爆破も妨害も上手く行っていない以上、フルメタルコロッセオで破壊する以外に方法は無い…」
アルフレッドが、しかし、と続ける。
「そも、エルヴズユンデは鍵の半身…。
現在は再生能力を使用できないとしても、今でも修理以外のメンテナンスは殆ど不要です。
もしギルティアさんが戦い続けられるなら、
このまま連戦で一気に勝ち数を稼ぐ事も出来るという事でもあります」
「その通りです。大丈夫…私は戦えます」
ギルティアが、自信満々に頷く。
すると、ギルティアが頷いたか頷かないかの間に通信機が着信を知らせた。
「…お?また試合が組まれたかな?」
ランが通信機に出る。
「はい、こちらアルフレッド工業です。
試合の連絡ですか?はい、はい…確かに承りました」
ランが丁寧に応対し、通信を切る。
「明日も試合だ、しかも午前と午後に一回ずつある」
「…了解です。で、対戦相手については?」
ギルティアが尋ねる。
「今回は午前がラーゼル重工製、午後はアンファース・インダストリアル製の奴だ」
「アンファース・インダストリアル?」
「ラーゼルがかなり大きな影響力を持つ中、潰されずに残っている、
フルメタルコロッセオ創設時代からの古参大企業の一つさ。
今の俺たちとは逆に、かなりの大企業だから順位を上げても妨害による潰しも利かない、
地味に勝利を重ねられても困るってんで、試合自体があまり組まれない企業だよ。
恐らく、俺たちは新参だから丁度良いと思われたんだろ。
…少なくとも、午前のバトルよりもは楽しめるはずさ」
ランが、そう言って、またも、週刊フルメタルコロッセオを持ち出す。
「午前の相手は…これ」
「ふむふむ、ソルジャーES…何ですか?この量産機的な容貌は」
ギルティアが、そう呟く。
先回と先々回戦った相手よりも、明らかに貧弱な見た目をしている。
量産機、あるいは作業用機械にすら見える。
「そりゃそうだよ、コロシアムの中でも最弱レベルだもん」
ランがため息をつく。
「恐らく、今までの二戦は最初で倒そうとしたラーゼルの横槍によって組まれた先制攻撃…。
…本当の初戦がこれになるはずだったんだと思う」
「ラーゼルの影響力は、そこまで強いのですか…」
「他の大企業の発言力が抑え込まれるほどに強いよ。
一応の二番手であるアンファースとの間でも倍近い規模の差があるからね…」
「…やれやれ、どうやら、とんでもない場所に来てしまったようですね…」
ギルティアがため息をつき、ニヤリと笑う。
「しかし、上等です…エルヴズユンデを修理するのに、それ位の事態、対処できなくては、ね…。
で、午後のアンファース・インダストリアル戦の相手は、どんな機体ですか?」
「これだよ」
ランが取り出したのは、かなり昔の号だ。
「どれどれ…?機体名アンファース…成る程、社名を冠した機体ですね」
「ああ、現在参戦している機体の中では最古の機体で、遠、近距離共に当時最強の性能、暫くはチャンピオンも張ってたみたいだよ。
そして、後発、かつ高性能の新鋭機が次々とロールアウトした今でも、修理のみで一線を張り続けてる…間違いなく、名機だよ。
パイロットの方も、ずっと現在の社長自らが乗り込んでて、『永代の騎士王』の二つ名で呼ばれてる」
「成る程…では、現在では大体どれくらいの強さなんですか?」
「少なくとも、先回、先々回程度の奴なら瞬殺出来る程は強いよ。
…ただ、まぁ、ギル姉とエルヴズユンデのコンビなら楽勝だと思うけどな」
「ええ」
ギルティアが、静かに笑う。
「…そういう機体が、忘れられる事が無い事を願います」
「うん、俺もこの機体は結構好きだよ…」
「そうやって覚えていてくれる人がいれば、安心ですね」
ギルティアはそう言って微笑む。
「…さて」
ギルティアが、エルヴズユンデが格納された工場の方へ歩き出す。
「ギル姉?」
「エルヴズユンデの傍にいます…用事があれば呼んでください」
「分かった、それじゃ!」
ランも、自分の部屋へと階段を上っていった…。
一方、その頃、アルフレッドはファラオ店長と通信していた。
「久方ぶりの連絡がアレで、正直びびったぜ?カーメン」
「へっ…ようやく成立した夫婦水入らずに水を差す訳にゃ行かなかったからな…。
…まぁ、まさかここまで大変な事になってるとは思わなかったがな」
ファラオ店長が苦笑する。
「…それはそうと…聞きたい事がある」
アルフレッドが話を切り出す。
「…何だ?」
「カーメン、お前彼女に何も事情を説明せずにこっちに寄越したな…?」
「ああ…あいつには悪いと思ったがな…お前くらいしかアレを修理できる伝手が無かった」
「だからって、何も説明しないってのは無いだろ」
アルフレッドが苦笑する。
「…まぁ、聞けよ」
ファラオ店長は言葉を続ける。
「あの嬢ちゃん…ギルティアは、自らが、そして自らの力が必要とされる場所を探している…。
…お前は工場が爆破されたままで終わる気だったか?」
「いや…このままで終わりたくは無かった。
正直、ギルティアさんが来てくれた事、助かっている」
「…事情を説明していたら、きっと彼女はお前らを無償で助けてたろう。
もちろん、しっかりと機体の修理費も払うだろう…彼女はそんな娘だ」
「最初からの人助けだと彼女に余計な負担をかけちまうって訳か…」
アルフレッドが頷く。
「あくまで修理の為に必要だから手伝うってんなら、彼女にもメリットはあるだろ?」
「成る程な…フッ…相変わらず、回りくどいやり方をしやがる…」
アルフレッドが笑う。
「へっ、ま、いつまでたっても、そしてどんな時でも俺は俺だって事だな…。
…本当に懐かしいな、こうやって言葉を交わすのは」
「ああ、お前が全く変わってなくて安心したぜ」
アルフレッドはそう言って笑った。
「…ま、嫁も息子夫婦もいないんなら寂しいだろうし、
これからは俺もちょくちょく連絡する事にするさ」
「野郎に気ィ使われても虚しいだけだがな」
「それは違ェねェ!ははは!!」
ファラオ店長が、大笑いする。
「はははははは!!」
アルフレッドもそれに答えて大笑いする。
「…それじゃ、嬢ちゃんによろしくな!」
「ああ、分かった、またな!」
通信が切れる。
「相変わらずお前はどこまでも良い奴だよ、カーメン…」
アルフレッドは一人、そう呟いた…。
ギルティア日記
明日の午前は、本当の私の初戦になるはずだった相手…。
大して気にする必要は無い相手のようです。
しかし、それとは打って変わって、
明日の午後は、かつての王者との戦いのようです。
…ランは楽勝と言っていましたが…。
さて、どのような戦いを見せてくれるか…。
…私も、全力で戦うだけです。
続く




