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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.02 『原罪』の名を持つ機神

   Act.02 『原罪』の名を持つ機神


 異形が、ある一点に集結しはじめている。

 ギルティアには、その場所にこの宇宙において異形を指揮している所謂『ボス』が存在する事が分かった。

「…指揮個体の発現は…今夜、ですか…」


 以前と同様、ギルティアは白のワンピース姿だ。

 先回もそうだったのだが、微妙に胸の辺りのサイズが窮屈そうである。

「…それを倒せば、この宇宙には当分来られなくなるかも知れませんし…」

 ギルティアは、あのラーメン屋へと歩き出した…。


 そして、ラーメン屋に近づいた時だった…。

「食い逃げだー!!」

 店の中からの叫び声と共に、凄まじいスピードで走って逃げる男が見えた。

「ッ!」

 咄嗟にギルティアが走り出そうとするが、この服で走るのは、色々と見えてしまう可能性が高く、危険だ。

 かと言ってここで戦闘モードになるのもまずい。

 どうする?とギルティアが一瞬考えた、次の瞬間だった。

「…え、えぇ!?」

 ギルティアは、我が目を疑った。

 ラーメン屋の店長が、おたま片手に店の入り口から飛び出したのだ。

 しかも、その動きは百戦錬磨の戦士のそれだ。

 店長が、凄まじいスピードで食い逃げ犯を追う。

「…ええい、こんな状況下でなりふり構ってられません!店長さん、支援します!!」

 色々と吹っ切ったギルティアが店長に続く。


 あっという間に店長が食い逃げ犯に追いつく。

「くっ…もう追いついてきやがったのか…流石に食い逃げ狩りの尾崎の名は伊達ではないらしいな…!!」

 食い逃げ犯が振り向き様にコショウの瓶を投げる。

「……!」

 店長がそれをおたまの一閃で『両断』する。

「な、何だよそのおたま!」

「…ただの、おたまだ」

 店長がニヤリと笑う。

「く、くそっ!」

 食い逃げ犯が更に逃げようとする。

 店長が、箸を食い逃げ犯の足元に投げる。

「ひっ!?」

 足元に刺さった箸は確かにただの箸だが、刺さり方から考えて間違いなく足にも刺さるだろう。

 食い逃げ犯が怯んだその一瞬の隙を、店長は見逃さなかった。

 店長が、食い逃げ犯におたまを叩き込む。

「がっ…!」

 食い逃げ犯は気を失った。

「…確保」

 店長が、気絶した食い逃げ犯を運ぼうとする。

「私の出番がありませんでした…」

 ようやく追いついたギルティアが、ため息をつく。

「…わざわざ追っかけてきてくれてありがとよ…戻ったらラーメンを奢らせてもらうぜ」

 ギルティアの横を通り過ぎる時、店長はそう呟いた…。


「…相変わらず美味いですね」

 ギルティアが、先回同様、ツタンカー麺を食べている。

 先回と違い、今回は客足は落ち着いていた。

「…カーメン=T=尾崎だ。ファラオ店長という呼び名の方が定着しているがな」

「え?」

 店長の突然の一言に、ギルティアがきょとんとなる。

「…お前の心意気、気に入った」

 その言葉で、ギルティアも得心する。

「私は、ギルティア=ループリングと申します」

「ギルティアか…その名前、覚えておこう…いつでも来い」

 ファラオ店長がそう言ってニヤリと笑う。

「ええ、また立ち寄らせて頂きます」

 ギルティアも、笑顔で頷く。


「…さて、では、まずこの世界での私の役目を終わらせましょうか…」

 店を出たギルティアが、呟いた。

 その夜、樹海の中央に、ギルティアはいた。

 既に前座の異形は片付けていた。幾ら集まろうが、ギルティアの敵ではない。

 空間の閉鎖も解けている。現れるとすれば、そろそろのはずだ。

「…来ましたね…」

 ギルティアがそう呟いた、次の瞬間だった。


 地響き。

 巨大な何かの足音とも取れる地響き。


 空間の閉鎖が始まるが、閉鎖の規模が大きい。


 巨大な魔法陣が閉鎖された空間を埋め尽くす。

 そして、その中央から、巨大な異形が姿を現す。五十メートル程度だろうか。

 黒い身体に紅の角、悪魔のような形状、禍々しさはまさしく、異形の指揮者に相応しい姿だ。

 巨大な腕がギルティア相手に振り下ろされる。

「…無駄です」

 ギルティアがそれを回避する。

「さぁ…舞踏会もクライマックスと行きましょう…!!」

 ギルティアが叫ぶ。

 それと同時に、ギルティアの背後に異形が姿を現したときとは違う魔法陣が展開される。

 魔法陣からの光が、ギルティアを飲み込み、光が形状を形成していく。

 その姿は、ギルティアと同じ四枚の翼と、巨大な爪の左腕を持つ鋼の巨人。

「…エルヴズユンデ!!」

 エルヴズユンデと呼ばれた鋼の巨人の胸部の奥、『コア』ともいえる所でギルティアが叫ぶと、その眼に黄金の光が灯る。

 エルヴズユンデの腕に光が集まり、巨大な長剣が姿を現す。

「…行きます!!」

 エルヴズユンデが巨大な異形へと突進する。

 そして、異形へと剣を叩き込む。

 異形が、巨大な爪でそれを抑え、目から光線を放つ。

「その程度…!」

 エルヴズユンデに光線が直撃するが、主だった損傷は見受けられない。

 エルヴズユンデが一歩退く。

「プリズナーブラスター、収束モード」

 エルヴズユンデの胸部に光が集まる。

「…バァァァストッ!!」

 集まった光が解き放たれる。

 光条が、的確に巨大な異形を貫く。

 異形が、反撃とばかりに力任せに爪を振り下ろす。

 振り下ろされた爪を、今度はエルヴズユンデが剣で止める。

「…成る程、確かに力は強いようですね」

 流石に指揮個体、力は強い。

 エルヴズユンデが再び一歩退く。

 異形が一歩踏み込み、再び爪を振り下ろす。今度は爪に紅のオーラを纏っている。

 エルヴズユンデが跳んで回避する。

 振り下ろされた爪は、地面を抉り、凄まじい傷跡をのこす。

 背後に着地したエルヴズユンデが、振り向きざまに左腕の爪を叩き込む。

 続けて、剣を振り下ろす。

 異形が振り向き、振り下ろされた剣を抑える。

「…なっ…?」

 ギルティアが気付く。

 異形の胸部に紅の光が集まっている。

「…まさか!」

 異形が背筋が凍るような笑みを浮かべる。

 異形の胸部の紅の光が、回避できない至近距離からエルヴズユンデに直撃する。

「ぐっ…私と…した事が…!!」

 エルヴズユンデが吹っ飛ばされる。

 あちこちの装甲にヒビが入っている。かなりの損傷だ。

「自己修復可能なレベル…しかし、これ以上傷を負うと面倒ですか…では、一気に、決めます!!」

 ギルティアが左腕の爪を前に突き出す。

「…ワールドコアアクセス…コンプリート…」

 ギルティアの爪の前に、紅の魔法陣が展開される。

「祝福を受けし世界よ!汝と鍵たる我が名を以て、我らに仇成す者に遍く滅びを…!」

 エルヴズユンデの眼の色が紅に変わる。

「今こそ全てを解き放つ時…さぁ、共に未来を謳いましょう!…鮮血の、煌翼…アクセス発動!!」

 そして、ギルティアのその叫びと共に、ギルティアの四枚の翼が、まるで食われるかのように血のような紅の光に飲み込まれていく。

 姿を現したのは、四枚の紅の翼。

「…終わりにしましょう…!!」

 エルヴズユンデの姿に、巨大な異形が怯む。

 その姿は、異形たちにとって、本能的に危険が分かるものらしい。

 それこそが、宇宙群の『核』にアクセスし、そこからエネルギー供給を受ける、ギルティア達『鍵』の力だった。

「…安心なさい…これ以上痛みは加えません…一瞬で、終わらせて差し上げましょう…!!」

 エルヴズユンデが、空中へと飛ぶ。

「エルヴズユンデ、オーバードライブ!!」

 エルヴズユンデの胸部に、先程とは違う光が収束する。四枚の翼の光も、一段と強くなる。

 異形が、エルヴズユンデに向けて、もう一度紅の光を解き放つ。

「…アトネメントプライ…」

 エルヴズユンデの胸部から光が溢れる。

「…フィニィィィィィィッシュ!!!!」

 解き放たれたそれは、光と形容するにはあまりに禍々しく、そして同時に神々しいものだった。

 敢えて言葉で表現するとすれば、黒い光。

 その光は、異形の放った紅の光を飲みつくし、そのまま異形を消し飛ばした。

「願わくば、この一撃で汝の罪が祓われん事を…」

 エルヴズユンデが地上に降りる。紅の翼が消え、四枚の翼が元に戻る。

「…終わりましたね…」

 ギルティアが、機体のコアから地面に降り、空間の閉鎖を解く。

 エルヴズユンデは空間の閉鎖が解けると同時に、どこかへと転移していった…。

「…これで、この宇宙の異形掃討は、完了ですか…暫くはこれで大丈夫ですね。

 …次は、何処に行きましょうか…」

 そう呟くと、ギルティアはそのまま月夜へ飛び去っていった…。


ギルティア日記


ツタンカー麺の店長が、驚くべき動きで食い逃げを確保していました。

あの動きは、訓練されているとしても出来るものではありません…一体、何者?

ますます謎が深まりましたね…さて…どうしたものか。

まぁ、彼自身は良い人ですし…深くは突っ込まなくても良いのかもしれませんね。

さて…今日は指揮個体を排除しましたので、これでこの宇宙での『仕事』は終わりました。


しかし、この宇宙には、また来たいと思います。

ファラオ店長のラーメンは、正直脱帽ですから。


続く


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