Act.19 そして、コロッセオは沈黙に包まれる
Act.19 そして、コロッセオは沈黙に包まれる
そして、戦闘は開始された。
エルヴズユンデが、トゥルーパーB2目掛けて突進する。一方、トゥルーパーB2は、後退しながらライフルを構える。
「大口を叩きやがって…跪かせてやる!!」
ライフルが火を噴く。
「その程度の銃弾…!」
エルヴズユンデの左腕に内蔵されたレーザーが、その銃弾を叩き落した。
「何ッ!?落とされただと!?ならば、もう一発…!!」
「二度目は、ありません…ッ!!」
エルヴズユンデが、明らかに届かない距離から剣を突き出す。
「?何だ!?」
トゥルーパーB2がライフルの引き金を引こうとするが、反応が無い。次の瞬間、金属が地面に落ちる音がした。
「な、何ィ!?」
ライフルを構えていた筈の右腕が、地面に落ちている。
「…まずは、右腕…!」
エルヴズユンデが、剣を投擲し、トゥルーパーB2の肩の付け根を打ち抜いたのだ。
「ば、馬鹿な!?」
コクピットの中で、ランディ=ハリヤーは慌てる。自分の中の筋書きでは、こちらがライフルで相手の四肢を撃ち抜き、圧倒的勝利を収めるはずだったのだ。これでは、立場が逆では無いか。
「こんな事が…!」
トゥルーパーB2が転進し、右腕に格納されていたコンバットナイフを取り出し、エルヴズユンデ目掛けて突進する。
「…ライフルを落とされてもう自暴自棄ですか?ならばこの勝負、貰います…!」
エルヴズユンデが剣を構える。
「こんな事があってたまるかぁぁぁぁぁ!!」
トゥルーパーB2の脚部のバルカン砲が火を噴く。
「一気に、決めさせて頂きましょう…!」
エルヴズユンデが、ブースターで空中へ舞い上がる。
「右腕!」
「な!?」
エルヴズユンデの左腕の爪が、トゥルーパーB2の右腕をすれ違いざまに抉り取る。更に、トゥルーパーB2の後方に突き刺さっていた剣を構え、そのままトゥルーパーB2の右足を背後から一閃する。
「やあああああああああああっ!!」
片足が切断されたトゥルーパーB2は立てなくなり、倒れる。
「…左足…これで、私の勝ちです」
エルヴズユンデが、止めとばかりにトゥルーパーB2の左足に剣を突き刺す。
「ば、馬鹿な!馬鹿なああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ……」
ランディが絶叫し、そのまま沈黙する。気を失ってしまったようだ。
「願わくば、汝の罪が祓われん事を…しかし、初戦にしては少し物足りませんね…もう少し歯ごたえがあると良かったのですが…」
そして、エルヴズユンデがトゥルーパーB2を踏みつけ、剣を掲げる。それが、勝利の合図だった。
開始三十秒、ギルティアの宣言通りの、まさに圧勝としか言いようが無い勝利だった。静寂が、フルメタルコロッセオを包む。
実況の男も、観衆も、そのあまりに一方的な戦いに、言葉を失っていた…。
「……あ、圧倒的だぁぁぁー!!!!」
暫くして、我に返った実況の男が叫ぶ。それに答えるように、大歓声がフルメタルコロッセオを満たす。
「まさに瞬殺!宣言通りの完全勝利を成し遂げたぁぁぁ!!あの優美な機動兵器にもパイロットにも、まだまだ潜在力がありそうだ!!今後の強豪たちとの戦いが楽しみな結果になったぁぁぁぁ!!」
エルヴズユンデのコクピットを開け、ギルティアが外に出る。ランが、目をキラキラさせながらこちらを見ている。ギルティアは、それに満面の笑顔で応えた…。
「…ええと?私はこの後どうすればいいのでしょう…」
ギルティアが、周囲を見回す。そういえば、勝ってからどうすれば良いのか、ラン達からも聞いていない。
「あの…実況さん…?」
ギルティアが、こっそりと実況の男に話しかける。
「…私はこの後どうすれば良いのでしょうか…?」
「あ、ああ、戦いは終わったし外に出て良いよ」
実況の男がギルティアに返す。
「…分かりました、ありがとうございます」
エルヴズユンデが、闘技場の外に出た。
一方、その頃、アルフレッドの自宅では、ルークが留守番と言う名の警備をしていた。
「…まぁ、圧勝だろうな」
工場の周囲を空中から巡回しながら、ルークが呟く。
「…?」
ルークが、怪しげな人影を見つける。何やら、爆発物と思しきものを持っている。
「やれやれ…初戦からこれか…これでは先が思いやられるな」
ルークが、怪しげな人影の所へ降りる。
「何をやっている?」
その言葉に、男はビクッと振り向く。
「…おい、それが何か以前に、ゴミの不法投棄自体に問題があるぞ」
「と、トカゲが喋っただと!?いや、こいつは恐らく見張りだ!!逃げろ!!」
男は、何かを置いたまま一目散に逃げ出していった。
「我がトカゲか…成る程、確かにそうも見えるかも知れんな…」
ルークがため息をつきつつ、置かれた物を見る。案の定、爆弾だった。
「…ふむ」
ルークは、爆弾を手に取った。
一方、ギルティアはアルフレッド達と共にアルフレッド宅に帰還した。
「しかし、確かに機体の基本性能が高いとはいえ、まさかあそこまで圧倒的に戦いを運べるとは…」
アルフレッドが驚いている。
「いえ、明らかに相手が弱かったと思います…あれで中堅、とは…」
ギルティアが、苦笑する。
「言ったろ?最近はラーゼル重工同士の出来試合が多くなってるって。出来試合ばかりのせいで、戦いの質自体が落ちてるのさ・・・特に、今日戦ったのはラーゼル重工本社員で、要するに出来試合の勝ち担当って感じの位置だし…。
まぁ、ここまでラーゼルがでかくなかった頃の昔はもう少し強くて、中堅って言うのも分かる位だったんだけどな…」
「成る程、すっかり出来試合に慣れて弱くなってしまったわけですか…」
ギルティアが頷く。
「まぁ、楽に勝てるならそれに越した事はありませんが…」
「…成る程な」
ルークが、唐突に入り口の扉から入ってくる。
「どうやら、今回の敵は決闘よりも陰謀が好きらしい」
「ルーク、何かあったのですか?」
ギルティアが尋ねる。
「…爆弾を仕掛けに来た奴らがいる。我が声を掛けたら逃げていったがな」
「爆弾!?それで、爆弾はどうしました!?」
「喰った」
ルークの一言に、その場にいた全員に数秒間の沈黙が発生する。
「…ル、ルークが大丈夫ならば良いのですが…」
冷や汗をかきながらギルティアが言う。爆弾を食べるなど、ルークにしか思いつかない発想だ。
そもそも、彼が自ら放つ時空震ブレス等に耐えられる程の頑強さを持つ体組織が、ただの爆弾程度で破壊される訳が無かった。
その胃袋に消化されて終わりだ。
「…中々スパイシーで美味しかったぞ。あれならば幾らでも食べられる」
「そうですか…ま、まぁ、これで爆弾の心配は無いですね。くれぐれも、警備、よろしくお願いしますね」
「ああ、任せておけ」
ルークが頷き、再び外に出る。
「ルークには、もう暫く迷惑をかける事になりそうですね…」
ギルティアが呟く。
「さーって、それじゃ、これから祝勝会と行こう!!」
ランが満面の笑みで言う。
「ふふ…ああも歯ごたえの無い勝利で祝勝会なんて…」
ギルティアが苦笑する。
「大丈夫、ギル姉はこれからも勝ち続けるだろ?」
「…確かに、それもそうですね…」
ギルティアが頷く。
こうして、アルフレッド宅でささやかな祝勝パーティーが開かれる事になった…。
ギルティア日記
圧倒的初勝利です。
思った以上にあっさり勝てましたが…成る程、
出来試合が横行しているのですか…。
この先、どんな戦いが待っているのでしょう…。
…不謹慎ながら、楽しみです。
続く




