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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.17 倒すべき障害


   Act.17 倒すべき障害


 アルフレッドがランに連絡してから、三十分が経過した。

「…遅いですね」

「はい、ああ言った以上、ランの性格的に寄り道するとは考え難いのですが…」

「迎えに行って来ましょうか?」

 ギルティアが尋ねる。

「…頼めますかな?」

「ええ、ではそのランという方の特徴を教えて下さい」

「金髪で、背は低いです。工業地帯の南方に買出しに行っていた筈なので、たぶん両手に食料を持っていると思います」

「分かりました」

 ギルティアが外に出る。


 工業地帯の南方は、どうやら食料品を売る露店が多いらしい。

 しかし、何か様子がおかしいのが遠くからでも分かる。どうやら騒ぎが起きているようだ。

「何でしょう…?」

 ギルティアが首を傾げ、取り敢えずその場所に向かう。

 人だかりの中央で、金髪の、見た目十、十一歳ほどの子供が、四人の男達に袋叩きにされている。

「…やれやれ、気の毒な事だ…よりによってラーゼル重工の社員に楯突くなんて…」

「ありゃ、終わったな」

 周囲の野次馬達の言葉からも、かなり厄介な事になっているのは分かる。

「いずれにせよ傍観している訳には行きません…助けなくては!!」

 ギルティアが、子供と男達の間に割って入る。

「止めなさい!子供一人に、大人気ない!!」

「嬢ちゃん、邪魔すんな。ぶつかってきたのに謝りもしないガキを懲らしめてただけだぜ?」

 男が満面の笑みで言う。その素振りからも明らかに分かる。間違いなくそれは嘘だ。

「ぶつかってきたのはそっちだろ!

 おかげでせっかく安く手に入った食料が、バラバラになっちゃったじゃないか…!!」

 見ると、金髪の子供の近くには食料品が散らばっている。

「天下のラーゼル重工の社員がぶつかってきたのはそっちだって言ってんだろうが!文句無いよなァ!?」

 男が凄む。

「…もしかして、あなたは、ラン=フレイヘリヤルさんですか?」

 しかし、ギルティアは男の言い分を無視して子供に尋ねる。

「そ、そうだけど…」

「まだ大丈夫な食料品を集めて先に帰っていて下さい。ここは私が引き受けます…大丈夫、私はあなたを信じます」

「無視してんじゃねえよ!!」

 男の一人が掴みかかってくる。

「ふっ!!」

 それをかわし、腕を掴んで投げる。

「さぁ、早く!」

「あ、ああ…分かった!」

 子供が駆け出す。

「あ、このガキ、待ちやがれ!!」

 男の一人が子供を追おうとするが、ギルティアが足を引っ掛ける。

「この喧嘩、私が代行させて頂きます」

 ギルティアが、挑発的な笑みを浮かべながらそう言う。

「嬢ちゃん…どうなっても知らねェぞ!!」

「おお、良く見ると相当な上物じゃねえかぁ…そうだなぁ、動けないほど痛めつけたら…ふふ、じっくり楽しませて貰うとするか」

 二人の男が殴りかかってくる。

「下衆が…本気を出すまでもありません…!」

 男の一人が振るった大振りのパンチを横に軽く避けると、がら空きの腹部に拳を捻じ込む。

「が…っ!?」

「さぁ、これで終わりですか…!?」

「小娘がァ!!」

 リーダー格と思われる目の前の一人が殴りかかってくる。

「甘い…いえ、背後ですか!!」

 背後からの気配を感じ、咄嗟に左に避ける。背後から、倒れていた男が殴りかかってきていた。

 避けざまに肘で男の鳩尾を打つ。鳩尾を強打された男は、その場にうずくまってしまった。

 更に続けて、前から殴りかかってきていた男に蹴りを叩き込む。男は蹴りを受け止めるも、その力で吹っ飛ばされた。しかし、咄嗟に取った受け身で、大した傷は無いようだ。

「…やれやれ、予定が大幅に狂っちまったな」

 男が立ち上がる。

「…これ以上の荒事は仕事外だ」

 倒れた男の一人を担ぎ、残りの二人を蹴って起こす。

「帰るぞ、野郎共」

「あーい」

 男が歩き出すと、残りの男たちもそれに続く。男が一瞬足を止め、口を開く。

「…俺達、ラーゼル重工を敵に回した事、いつか後悔するんだな」

 そういうと、男は再び歩き出した。

「ふぅ、一応、一件落着、ですか…」

 ギルティアが、軽くため息をつくと、野次馬が道を開けたその中央を出て行った…。


 ギルティアが、アルフレッド宅に帰還する。

「おお、ランから事情は聞きましたよ。ご無事で何よりです!」

 アルフレッドが駆け寄ってくる。

「ええ、あの程度、私の敵ではありません」

 ギルティアが言葉を続ける。

「ランさんは大丈夫なのですか?」

「今家の中で手当てをしている所です。ギルティアさんが介入してくれたお陰で何とか大事は免れたようですな」

 アルフレッドが心底ホッとしている表情で言う。家の中に入ると、先程の子供が、自分の足に包帯を巻いていた。

「お、帰ってきたな!さっきは助かったよ、ありがとう」

 子供が、ギルティアの顔を見るなり、笑顔で頭を下げる。

「いえ、当然の事をしたまでです」

 ギルティアも笑顔で応える。

「おっと、俺自身からの自己紹介がまだだったな…俺はラン=フレイヘリヤル!最強のメカニックになる男さ!ランと呼んでくれ!!」

「私はギルティア=ループリング…搬入された機動兵器の使い手です、よろしく」

「ああ、よろしくな、ギル姉!」

「ギ、ギル姉って…」

 ギルティアが苦笑する。

「…まぁ、良いでしょう。よろしくお願いしますね、ラン」

 改めて見てみるが、ランから受ける印象は、その口調と逆に『可愛い』という印象を受ける。

 少年と言うより少女に近い見た目をしているが、その口調、立ち振る舞いは間違いなく少年のものだ。

「ラン、では早速修理と参戦の事について話すとしようか?」

 ギルティアの後ろからアルフレッドが歩いてくる。

「ああ、それもそうなんだけどな、ラーゼルの連中の妨害に気をつけたほうが良いと思う。

 あいつら、恐らく俺がじっちゃんの孫だって事を知ってて喧嘩売ってきたんだ…」

「先程から気になっていたのですが、ラーゼル重工とは?何やら、先程の暴漢もその名前を口にしていましたが…」

 ギルティアが尋ねる。

「ラーゼル重工は、この工業地帯、いや、今のこの世界で最大の工業会社です。

 質より量の大量生産と、他社へのかなり苛烈な妨害で、ここ十数年程でその規模を急激に拡大してきました。

 恐らく、他企業による妨害の大半はあの企業のもの、でしょうな…」

「それは、まさか…!?」

 ギルティアが、驚く。

「…推測しても始まらない事です…少なくとも、今は」

「奴等の仕業に決まってるだろうが!!そう、奴等は親父とお袋の仇さ…!!」

 ランが声を荒げる。

「…言った筈だぞ、あくまで今はだ、とな。もし小生達がフルメタルコロッセオで勝ち進めば、彼奴等も間違いなく動く」

 アルフレッドが、静かに言葉を紡ぐ。その言葉は静かだったが、彼の言葉には、確信と、そして怒りがこもっていた。

「本来、フルメタルコロッセオは、各企業が技術を結集した機動兵器同士を戦わせ、それによって各々の工業力を高め、それをアピールする…その為に、多くの企業が合同で立ち上げたものです。

 しかし、今はその企業の大半もラーゼル重工に併合され、大企業も、妨害で殆どの機動兵器を失っている…。

 その結果、ラーゼル重工はフルメタルコロッセオの上位を独占しています」

「つまり、私がどうしても戦わなくてはならない相手、と言う訳ですね…」

 ギルティアが頷く。

「…恐らく、妨害はギルティアさんの方にも及ぶと思われます、気をつけて下さい」

「私の方は問題ありません…返り討ちにします」

 ギルティアが、静かに笑う。

「工場の方もまた爆破されないように気をつけなくてはなりませんな…」

「それは…」

 ギルティアが、工場の屋根の上で空を眺めていたルークの方を向く。

「工場の警備を頼めますね?ルーク」

「ああ、先程までのやり取りは聞いていた。我に出来る事なら、任せておくが良い」

 ルークがニヤリと笑う。

「さて、これで心置きなく修理のプランを練れるのでは?」

 ギルティアが、そう言って笑う。

「流石、ですな…」

 アルフレッドが感心する。

「では、先程見せていただいたエルヴズユンデの構造から、修理、改修のプランを練ることにしましょう。

 まず、動力源ですが、コアを限定的にでも起動する事は出来ないのですかな?」

 エルヴズユンデのコア…世界にアクセスするその根元となる部分だ。

「コア自体が損傷している今の状況では、コアからエネルギーを発生させる事は出来ません。

 しかし、別な場所に動力を搭載し、そこからコアにエネルギーを送れば、恐らくエネルギーの制御装置…コクピットとしての機能は使用できると思います」

「成る程…」

 アルフレッドが頷く。

「左腕の部分は元々生体部品で、コアと直接繋がっていた部分です。もし動力源を搭載するのなら、そこが最も適切だと考えます」

「成る程、しかし、左腕に動力を搭載するとは、かなり変則的になりますが、扱えますかな?」

「コアの同化型操縦システムならば、問題なく扱う事が出来ると思われます。

 それと、左腕は元々、格闘戦闘用のクローで、レーザーを内蔵していたのですが、再現はできませんか?」

 アルフレッドはそれを聞いて、暫く考える。

「…左腕に色々な機能を集約する必要がありそうですな。分かりました、お任せください」

「それと、胸部のブラスターの必要出力は確保できますか?」

「左腕に搭載する動力はプラズマ炉の予定ですので、単純な出力なら、十分に使用できます。

 しかし、あの装備、もしかして、重力レンズによるオールレンジ兵器ではありませんかな?」

 ギルティアが説明する前に、アルフレッドはプリズナーブラスターの原理を言い当てた。ギルティアが驚く。まさか、一目でそこまで見破るとは。

 そう、確かにプリズナーブラスターは、周囲の空間に重力の揺らぎを作り出し、それによって拡散、周囲の敵を様々な角度から貫き、殲滅するオールレンジ兵装だ。

「流石ですね…ただ見ただけでそこまで理解するとは…その通りです。

 しかし、プラズマ炉では重力レンズを発生させる出力は流石に確保できませんよね」

「はい、ですから、単純な熱量砲としての使用になります」

「…撃てればそれで十分です」

 ギルティアが、静かに笑う。

「では、早速設計に取り掛からせて頂きます。少しエルヴズユンデを解体する事になりますが、よろしいですかな?」

「問題ありません、よろしくお願いします」

 ギルティアが頭を下げ、言葉を続ける。

「それで、修理代の事なのですが…」

「工場の修理が完了できれば、また幾らでも稼げます…フルメタルコロッセオに参加して頂けるというだけで十分過ぎる程ですよ」

「そう、ですか…分かりました。ならば、尚更全力で戦わねばなりませんね」

 ギルティアが静かに頷くと、アルフレッドが満足そうに頭を下げる。

「よし、ラン!早速設計図を書き上げるぞ!!」

 そして、アルフレッドが立ち上がって歩き始める。歩く先には『製図室』と書かれている。確かに、流石にこの場で設計図を書き上げるのは無理だろう。

「了解!話を聞くに、今までに無い高度な機体のようだしな、腕が鳴るよ!!」

 今まで二人の会話を黙って聞いていたランが、腕をまくる。

「あ、それと、ギル姉!」

 ランが、唐突にギルティアに話しかける。

「はい?」

「俺、外の宇宙とか世界とか、まだ行った事がないんだ…だから、今度時間が空いてる時で良いから、話を聞かせてくれよな!」

「ええ、喜んで」

 ギルティアが笑顔で頷く。

「ありがとな!よーっし、俺も頑張るぞー!!」

 そう言って、ランが腕を振り回しながらアルフレッドに続く。

「さて…ルーク、私たちは見張りでもしましょう。工場をエルヴズユンデごと破壊されたりしたら、流石に私自身の命も危険です」

「そうだな」

 ルークが、ギルティアの肩に乗る。

「私は工場周辺の見回りをしてきます!」

 ギルティアが、製図室に向けて叫ぶ。

「助かります!」

 アルフレッドが製図室の扉の向こうから言葉を返す。

「…では、行きましょう」

 ギルティアが、アルフレッド宅を出て外に歩き出した…。


 そして、それから数日が経過し、エルヴズユンデの応急修理、改修は終了した。

「これで、ようやく戦えますね、エルヴズユンデ…」

 ギルティアが、エルヴズユンデを満足そうに見上げる。

 今のエルヴズユンデには、世界のコアへアクセスする事が出来ないため、それに依存している、特徴的な四枚の翼は無い。

 また、ギルティアの左腕と同様の姿だったエルヴズユンデの左腕の爪は、

大型の機械爪になっている。

 他は殆ど以前のエルヴズユンデと外見上の相違は無い。

「会心の出来だよ!これならフルメタルコロッセオでも圧勝のはずさ!」

 ギルティアの横で、ランがそう言って笑う。

「ギルティアさん、小生達に今出来る事は、全てやりました…後は、お任せします」

 アルフレッドが深々と頭を下げる。

「頭を下げる必要はありません。修理代を払うのは当然の事ですよ。

 いくらファラオ店長の紹介で来たといっても、私としてもしっかりと修理費は支払う予定でしたので。もしそれであなた方のお役に立てるというのなら、喜んで戦わせて頂きますよ」

 ギルティアが、エルヴズユンデの胸部のコアに搭乗する。

「では、試運転と行きましょうか?」

「分かりました。今、天井を開きますので、暫くお待ちを」

 搬入時は胸部しかなかったが故に何の差支えもなく搬入できたが、今の、応急修理、改修が終わったエルヴズユンデが立ち上がれば、天井を突き破ってしまうのだ。

 アルフレッドが、工場の天井を開く。

「お待たせしました。プラズマ動力炉は安定しています、存分にどうぞ…!」

 アルフレッドが、自信満々に頷いてみせる。

「…では…エルヴズユンデ、起動!」

 エルヴズユンデの眼に光が灯り、エルヴズユンデが立ち上がる。

「機体の反応速度は申し分ありませんね…あ、聞き忘れていました。飛べますか?」

「ええ、ブースターは生きていましたし、動力炉の出力も問題ありません」

「分かりました。少し飛んできます…離れてください」

 アルフレッドとランが離れる。

「では、行って参ります」

 エルヴズユンデが空中へ飛び上がと、その装甲が、月光を浴びて輝く。

「流石に、本来の機動性とは比べるべくもありませんか…しかし、この世界の技術レベルを考えれば、十分過ぎますね」

 ギルティアは、そう言って微笑む。

「…ようやくここまで修復できたな」

「!?」

 エルヴズユンデの真横からの突然の声に、ギルティアが驚く。見ると、飛翔するエルヴズユンデの肩の上に、ルークが乗っている。

「ああ、ルークでしたか…」

「三日後、だったか?流石の我とて闘技場に乱入するわけには行かんのでな…応援しているぞ」

「ありがとうございます、ルーク」

 その答えを聞いてルークは満足そうに頷く。

「もっとも、たかが闘技場で、貴公が負ける訳が無いと思うがな」

「…当然です」

 ギルティアはそう言うと、不敵な笑みを浮かべて頷いた。


 そして、エルヴズユンデは、そのまま夜の空を飛び続けた…。


ギルティア日記

応急修理が完了、これでフルメタルコロッセオに参加できます。

たとえどんな相手でも、私は負けるわけにはいかない…。

一刻も早く、エルヴズユンデを修理し、異形の討伐に戻らねば!


続く

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