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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.16 鋼鉄の闘技場


   Act.16 鋼鉄の闘技場


 ギルティアは、ルークに乗ってファラオ店長に指示された世界の遥か上空を飛んでいた。

「…成る程、外面の技術レベルは古めかしく見えますが、機械技術のみがかなり発展した世界のようですね…」

 地上には、たくさんの工場や製鉄所…いや、作られているのは鉄などではなく、

 非常に高い硬度を誇る合金や、それを使用した機械であろう―――それらが立ち並んでいる。

「では、私は先に地上に降り、エルヴズユンデ搬入の準備をしておきます」

 ギルティアが、ルークの肩から立ち上がり、翼を広げる。

「了解した。ならば我はここで待機する」

 ルークが頷く。

「では、一足お先に失礼します」

 ギルティアが笑顔で飛び降り、工業地帯の外の山地に着地した。

「さて、では行きましょう」

 歩いて工業地帯を目指す。流石に、いきなり直接降りるのは目立ちすぎる。

 工業地帯に入ってみると、そこは思った以上に賑やかな場所だった。

 上空からは見えなかったが、工業地帯であるその場所は、かなり発達した商業地帯でもあるらしい。

 工場や製鉄所の敷地の外輪には、露店が所狭しと並んでいる。

「…賑やかな場所ですね…悪くない喧騒です」

 ギルティアは、そう静かに呟き、そっと笑う。

「さて…目的地はこの辺の…はずです…が?」

 ギルティアが周囲を見回すが、それと思しき建物は見当たらない。

「…はて?」

 ギルティアが、ファラオ店長のメモをもう一度読み返す。

「こ、こ…です、か?」

 メモ通りの場所にあったのは、廃工場の前に建つ一軒の民家だった。

 ギルティアが扉を叩く。

「あーい、どなた様で?」

 扉を開けて出てきたのは、六十代後半の老人の男だった。

「あの、ギルティア=ループリングと申す者なのですが…ファラオ店長の紹介で…」

 来たのですが、と言いかけた所で、老人が言葉を遮る。

「おお、連絡は入っておりました。どうぞ、遠慮せずお入り下さい」

 老人は笑顔でギルティアを中に招き入れた。内部は意外にも広く、あちらこちらに配管が張り巡らされている。

「わざわざ、境界空間の彼方からよくお越し下さった…歓迎しますぞ」

「ありがとうございます」

「小生、アルフレッド=フレイヘリヤルと申します、以後、お見知りおきを」

 アルフレッドは深々と頭を下げると、言葉を続ける。

「確か、機動兵器の修理、改修でしたな?」

「はい」

「お役に立ちたいのは山々なのですが…」

 アルフレッドは、後ろの廃工場を指差す。

「小生の工場が爆破されてしまいまして…」

「ば、爆破!?」

 ギルティアが驚く。工場が、廃工場と思えるほどに壊れていたのは、爆破されたからだったらしい。

「はい…何とかある程度の設備は復旧したのですが、恐らく、ご期待に沿えるレベルの修理は…」

「一体、何があったのです?」

 ギルティアが尋ねる。

「単純な営業妨害、しかも、恐らくは相当の大規模な工場からの妨害です」

「は…!?妨害で爆破ですか!?」

 ギルティアは再び驚いてしまった。

「見ての通り、この世界は基本的に工業力が権力に直結しています。

ですから、大規模な工場はそれ相応の権力を持っており、小さな工場などを妨害や爆破によって無理やり倒産させ、それを併合して更に大規模化する…。

 それでも、妨害や爆破なども全て『勝てば官軍』の原理で握り潰すのです…」

「…何という世界ですか…」

 ギルティアが唖然とする。

「いつから、こうなったのか…少なくとも、先に逝っちまった女房が生きていた頃…小生がこの世界にいついた頃は、こんな世界ではなかったのですが…」

 アルフレッドがため息をつく。

「しかし、ファラオ店長の知り合いという事は、旅人だったのでしょう?なら、こんな世界に留まる必要は…」

「とは言ったものの、この世界にいついてから女房と一緒に必死に守ってきたこの工場を見捨てて、出て行きたくは無い、と言うのが正直な気持ちなのです」

 アルフレッドの言葉に、ギルティアは思わず深く頷く。

「…想い出と、工場への愛着、という訳ですか…そういうのは、嫌いではありません…私に、何か出来る事がありますか?

 機動兵器が無くても一応、かなりの白兵戦力にはなると自負していますが…。

 その代わり、工場の修理が終わってからで良いので、私の機体の修理をお願いしますね」

「分かりました。ありがとうございます…!」

 アルフレッドは再び深々と頭を下げた。

「ところで、今、私の機体を持ったまま、仲間を空中で待機させているのですが、取り敢えず搬入だけでもさせて頂けませんでしょうか?」

「おっと、それは失礼しました。ええ、勿論構いませんとも」

 ルークが、地上に降りてきて工場の内部にエルヴズユンデを搬入する。

「…これは…!!」

 アルフレッドが、エルヴズユンデを見るなり驚きの声を上げる。どうやら、一目見ただけでそれが一体どのような機体なのかを理解したらしい。

「ギルティアさん…あなたは一体、何者ですか…!?」

「それが…」

 ギルティアが、自分の素性と今までの経緯を話した。

「まさか、あなたがあの宇宙群の鍵だったとは…昔、そちらの方を旅していた頃もありました。

 色々と複雑な成り立ちがある宇宙群のようでしたが、まさかその鍵がこのような旅をしていたなんて思いもしませんでした…。

 成る程、この機体の機械部分を修理したい、という事ですね?」

「はい」

 ギルティアが頷く。

「これならば、手が無い事はありません。ただし、少し危険が伴いますが、よろしいでしょうか?」

「ええ…命の危険ならば、いつもの事です」

「…では、『フルメタルコロッセオ』に参加して貰います」

 アルフレッドの表情が急に真剣になる。

「フルメタルコロッセオ、とは?」

 ギルティアが尋ねる。

「機動兵器の闘技場、と言えば分かりやすいかもしれません。

 工業力の高さが権力に直結するこの世界において、その工業力の高さをアピールする場…もちろん、勝者には莫大な賞金と栄誉が与えられます。

 その資金があれば工場も一気に修理できますし、セキュリティの強化も同時に行えるでしょう」

「機動兵器の闘技場、ですか…成る程、悪くありません」

 ギルティアが、不適に笑う。

「しかし、機動兵器はどうするのですか?」

「ギルティアさんの機体を使わせて頂きます。

一線級の修理は出来なくても、何より機体の元の性能が高いですし、今ここにある設備で応急修理しただけでも、十分に対応出来る筈です」

 アルフレッドはそう言って自信有り気にスパナを回してみせる。

「成る程、エルヴズユンデならば応急修理で十分戦える性能、という事ですか…戦闘訓練にも丁度良いかもしれませんね…それはいつ開かれるのですか?」

「エントリーできる機体が完成すればいつでもエントリーする事が出来ます。

 生憎、今まではパイロットがおらず、参加できませんでしたが、もしギルティアさんが力を貸して頂けると言うのであれば、何も問題はありません」

「フフ…成る程。そうであれば、こちらとしても全く問題はありませんよ」

 ギルティアは、笑顔で頷いた。それを聞いたアルフレッドが満足げに頭を下げる。

「ありがとうございます!」

「ギルティア、どうやら面白い事になったようだな」

 いつの間にか、小さくなっていたルークがギルティアの肩に乗っている。今まで、黙って聞いていたらしい。

「ええ、まさか選ばれた勇者の次は、闘技場の剣闘士をやる事になるとは…しかし、悪くありません」

 ギルティアが、そう言って笑う。

「と、なれば…」

 アルフレッドが、何やら携帯電話を取り出す。

「ラン!お前の待ちに待った仕事が来たぞ!いよいよ小生達もフルメタルコロッセオに参入だ!!」

 誰かに電話をかけるアルフレッドの声は、本当に嬉しそうだった。

「ま、マジか!?分かった!なら買出しが終わったら寄り道無しで全速力で帰る!!」

 アルフレッドの携帯電話から、声が返ってくる。少年か少女か、声からは判別しづらく、どちらなのかギルティアには分からなかったが、口調から恐らく少年であろう事が推測できた。

 電話が切れる。

「今のは?」

 ギルティアが尋ねる。

「小生の孫のラン=フレイヘリヤルです。小生の息子とその嫁は、工場の爆破の際に…」

「そう、でしたか…」

「それ以来、仕事が無い時は別の場所でジャンクパーツなどを回収して売って稼いだり、家事をこなしたりと、色々頑張ってくれています。

 工場の設備をここまで修理できたのは、そのお陰なのです」

「成る程…」

 ギルティアは頷く。

「私はいつでも戦えますので、エルヴズユンデの準備が出来ればいつでも参加できます」

「はい、ではランが帰宅してから、機体の修理、改修についての計画を練りましょう」

 こうして、ギルティアは、エルヴズユンデで機動兵器の闘技場、フルメタルコロッセオへと参加する事になったのである…。



ギルティア日記

まさか勇者の次は剣闘士とは…飽きませんね、人生というものは。

暴れれば修理が完了するというのなら、このギルティア、

全力を以って大暴れして、彼らに勝利の二文字以って答えましょう。

闘技場とは、あまり私らしいとは言えませんが、正直、けっこう楽しみ、かもしれません。



続く

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