Act.15 次の目的地は
Act.15 次の目的地は
巨大な異形との戦いの次の日、ファラオ店長の店は定休日だった。ギルティアは、ラーメン屋のテーブルに座って紅茶を飲んでいた。
「今回の誘き出し作戦は、有効である事がはっきりと証明されましたが…」
ギルティアが、昨日の戦いを思い出しながら、ため息をつく。
「…はぁ…まさかあそこまで危険な異形と遭遇するとは…この手は確かに有効ですが、危険、ですか…」
再び、深くため息をつく。
「…嬢ちゃん」
「はい?」
背後からの言葉に、ギルティアが振り向く。ファラオ店長だった。
「聞きたいんだが、嬢ちゃんの機体の機械部分を先に修理しちまう事は出来ないのか?」
「可能、といえば確かに可能ですが…」
「なら、俺の知り合いに、かなり腕が良いメカニックがいるんだが、そいつならあの機体の機械部分は完璧に修理できると思うぜ。
一旦、機体の核パーツも機械に置き換えて取り敢えず使えるようにすれば、大型の異形とも戦えるんじゃないか、と思ってな…」
「成る程…確かに」
ギルティアが頷く。
「お前のような実力者なら、恐らくあいつも大歓迎だろうさ」
「…助かります」
ギルティアが頭を下げる。
「いや、久しぶりに楽しませてもらってるからな、そのお礼だ、気にするな…そういえば、ルークはどうした?」
「まだ寝ています。一番深手を負ったのは彼ですし、もう少し休ませておいた方が良いと思います」
「ああ、そうだな…しかし、本当に、アレは何だったんだろうな」
ファラオ店長が、昨日戦った異形を思い出しながら呟く。
「私にも皆目見当がつきません…しかし、複数の異形が、何らかの異常な要因で結びついていた、というのは推測できます」
「そうだな…ま、普通の要因であんなのがポコポコ生まれてたら、世界が終わるがな」
「…それはごもっとも、ですね」
ギルティアが苦笑する。
「まぁ、取り返しがつかない事にならなくて良かった、って事だな…嬢ちゃんは骨折り損のくたびれもうけって感じかも知れんが」
そう言って、ファラオ店長が笑う。
「はは…はぁ…」
ギルティアが、ため息をつく。
「まぁ、ルークが動けるようになったら行ってくると良い。場所は、俺が嬢ちゃんと出会った宇宙の隣の世界の…」
ファラオ店長が、位置を紙にメモして渡す。
「…ファラオの紹介だと言えば通じるはずだ」
「ありがとうございます」
ギルティアが頭を下げた、次の瞬間、ルークが眠っていた部屋のふすまが開く。
「話は聞いた…次の目的地はそのメカニックのいる世界か」
ルークが、ギルティアの方へ歩いてくる。
「おかげさまで、我の方も完治した…心配は無い、我もいつでも行けるぞ」
「分かりました、ルークにはエルヴズユンデを運んでもらわなければなりませんね」
「了解した…任せておけ」
ルークが頷く。
「ファラオ店長、お世話になりました」
「俺はもう暫くここでラーメン屋を続ける…ま、居場所に困ったらいつでもここに来ると良いさ…」
ファラオ店長は、そう言って笑った。
「はい…何から何まで、ありがとうございます」
「…短い期間だったが、世話になったな。貴公のラーメン、美味だったぞ」
ルークが、少し大きくなり、ギルティアを背中に乗せる。
「…それでは、ごきげんよう」
ギルティアが手を振る。
「おう、またな、嬢ちゃん!!」
ファラオ店長も手を振って返す。
ルークが飛び立つ。そして、そのまま境界空間へと突入する。
「さーって、有能な従業員を失っちまったなぁ…」
ファラオ店長が、飛び立っていったギルティア達を見上げながら、ため息をついた。
「ま、元々俺だって一人でやってきたんだ、今更一人に戻った所で大して変わらないか」
ファラオ店長は、そう呟くと、店の中に戻っていった…。
「ルーク、では、まずエルヴズユンデを保管して頂いている方々の元へ!」
「了解!!」
ギルティアは、まず、エルヴズユンデの保管を引き受けてくれた集落のある世界へと降り立った。
「そう言えば、皇帝を殺してしまいましたが、あの後ロートベルグ帝国はどうなっているのでしょうか…?」
ギルティアが、集落の中へ入る。
「オオ!ユウシャ、ヒサシブリダナ!」
集落の長がギルティアを出迎える。
「ええ、長老も、お元気そうで何よりです。その後はどうですか?」
「オカゲサマデ、ヘイオンソノモノダ。
ろーとべるぐテイコク、ユウシャキタトキニ、シュトマモッテタヤツラノりーだーガ、イマ、クニヲマモッテル…イタッテ、ヘイワダ」
「そうですか…良かった」
そもそも帝政が崩壊した時の混乱を考えて少し心配だったが、
どうやら、デストヴァールが民も兵も全く顧みずに行動していた事が、かえって幸いしたらしい。
「エルヴズユンデを修理屋に持って行きます。今まで保管して頂いてありがとうございました」
「ユウシャノヤクニタテルコト、ウレシイ。レイナンテ、イラナイ。マタイツデモキテホシイ」
長老は、笑顔でそう言った。
「ええ、分かりました」
ギルティアが、笑顔で頭を下げる。巨大化したルークが、胸部だけになっているエルヴズユンデを掴む。
「では、行こうか、ギルティアよ」
「ええ」
ギルティアが、ルークの肩に乗ると、ルークは再び飛び立つ。
「では、次の目的地は、ファラオ店長が教えてくれた場所ですね…行きましょう、ルーク!」
「了解した」
ルークが、境界空間を飛翔していった…。
ギルティア日記
昨日の戦いは大変でしたが、ルークが無事で本当に良かった…。
まぁ、殆ど骨折り損のくたびれもうけだったのは、少しだけ悲しかったですが…背に腹は代えられませんしね。
あの異形の謎も、今はまだ謎のままですが、世界を守るためにも、必ず解明せねばなりません。
ともあれ、エルヴズユンデの機械部分を修理できるほど優秀なメカニックをファラオ店長が紹介してくれました。
…どんな方なのかはまだ分かりませんが、楽しみです。
あのような異形が現れるとは思いませんでしたので、こうなれば、機械部分でも良いので何とか修理せねば。
続く




