Act.14 そして歯車は動き出す
Act.14 そして歯車は動き出す
突進したルークは、異形に尾による打撃を加える。異形が横殴りに吹っ飛ばされるが、異形は意外にも器用に着地する。
再び異形が不気味な呻き声を上げようとする。
「その手は喰わぬ!!」
すかさず、ルークが時空震ブレスを放つ。呻き声は時空震に掻き消されて、その威力を行使する事は無かった。
ルークが、空中から爪で斬りかかる。異形が、それを回避し、ルークに飛び掛る。
ルークもまた、突進する異形の顔面を殴りつける。地響きが響く。
「…凄ェ…」
ファラオ店長が、思わず呟く。その言葉通り、戦いは熾烈を極めている。
ルークが、異形の左腕に噛み付き、そのまま投げ飛ばす。異形が、空中で姿勢を立て直し、異形の体中の顔から、一斉に光線が放たれる。
ルークが、光線の嵐から、ファラオ店長とギルティアを庇う。
「おおおおおおおおおっ!!」
そして、そのまま反撃といわんばかりに時空震ブレスを放つ。
時空震ブレスは、敵の光線を飲み込み、そのまま異形を押し戻す。
「でええああああああああああっ!!!」
そして、押し戻されたその隙を突いて、爪の一閃が異形を真っ二つにした。
「…やった、か!?」
「いえ、恐らく…!」
ギルティアがその続きを言う前に、真っ二つになった異形が、再びくっつき、再生する。更に、異形の背中に、翼が生えている。
「…ならば、もう一撃叩き込むまでだ!!」
ルークが、渾身の時空震ブレスを叩き込む。すると、異形は、左腕を肥大化させてそれを盾にして防いだ。
左腕は砕け散ったが、再び集まって元の形を形成する。異形が、翼で空中に飛び上がる。
そして、そのまま空中から加速度を付けてルークに体当たりする。
「ぐ、おっ!?」
凄まじい加速度に、ルークが引きずられる。
「何の、負けぬ!ぬうぅおおおおおおおおおっ!!!」
ルークが、足を踏ん張ってそれを止める。
異形の体中の顔が、不気味な笑みを浮かべる。
「なっ!?」
ルークも、その笑みから、敵が何をするつもりか気付いたが、時は既に遅かった。
異形の体中から、そして、ルークに密着した状態で再び光線が放たれる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
光線が、ルークの身体を幾重にも貫く。
「ルーク!!」
「何の、この程度!!」
ルークが、異形を掴み、何度も地面に叩きつける。ルークの身体のあちこちから、血が流れている。
ルークの爪をへし折り、異形が、飛び立つ。ルークもまた、傷を推してそれを追撃する。
「…核を破壊しなくては奴は何度でも再生してしまう…!」
ギルティアは考える。あまり時間をかけては、取り返しのつかない事になる可能性もある。今のギルティアには方法があった。
だが、それを行ってしまえば、エルヴズユンデの修復はまだ不可能になる。
しかし、これ以上仲間が傷つく事を、許す訳には行かなかった。
「背に腹は、代えられません、か…」
ギルティアが、ふぅ、とため息をつき、剣を構える。
「…存在の修復を開始」
ギルティアの身体が、光に包まれる。
「…ルーク…」
光が、剣の一閃によって真っ二つになる。背から生えた白と黒の一対の翼、そして腰から生えた一対の黒き翼。
そして、禍々しき左腕の爪。それは紛れも無く、小さくなる前のギルティアの姿だった。
「…今、助けます!」
ギルティアが、異形に向けて飛び立つ。
「ルーク、私が隙を作りますので、異形に時空震ブレスを叩き込んで下さい!!」
「何!?」
「大丈夫、私を信じて下さい!!」
「…分かった、貴公を信じよう!!」
ギルティアが、異形の体中の顔という顔の眼球に向け、左腕の爪から放つ光線を叩き込む。見事に目を潰された異形が、怯む。
「今です!!」
「了解した!!」
ルークが、渾身の時空震ブレスを叩き込む。至近距離からその直撃を受けた異形の身体が、バラバラに吹き飛ぶ。
「これで、終わらせます!!」
爆発が収まらない内に、ギルティアが異形の核目掛けて突っ込む。異形の破片が、その周囲に集まっていき、再生が始まる。
しかし、次の瞬間、蒼い光が、再生を始めた異形を、貫いた。異形の破片が、ボトボトと音を立てて崩れ落ちていく。
その中央には、左腕の爪が放つ閃光で、異形の核を貫くギルティアの姿があった。
「…私の仲間を、これ以上傷つける事は、許しません」
閃光が、更に強くなる。異形の核は、その閃光に飲み込まれて跡形も無く蒸発した。
「願わくば、汝の罪が祓われん事を…」
ギルティアが、静かに呟く。
「…ルーク、大丈夫ですか?」
「ああ、この程度、軽々と再生できるのは、貴公も知っていよう?」
ルークが笑う。
「貴公こそ、エルヴズユンデの修理を優先するはずだったのではなかったか?」
「…背に腹は代えられない、です。今回手に入った全エネルギーを使ってあの異形を消し飛ばしました。
元の姿には戻れましたが、エネルギーはまた集めなおしですね…」
「…そうか…すまん」
ルークが頭を下げる。
「いえ、何より、ルークが無事で本当に良かった」
そう言ってギルティアが笑う。ルークとギルティアが、地面に降りる。
「嬢ちゃん、相変わらず凄い事するな…」
ファラオ店長がギルティアに言う。
「ふふ、ありがとうございます…しかし、今回の異形は、明らかに様子がおかしかったですね…」
「ああ、長い間旅をしてきたが、俺もああいうのは初めてだ」
ファラオ店長が頷く。
「そうなのか?我は眠っていた時が長く、異形と出会ったのはギルティアと旅を始めてからなので、あまり良く分からんのだが・・・」
「ええ、確かに今までも再生能力が非常に高い異形は存在しましたが、異形同士の融合など、聞いた事もありません。
まして、あれだけの数の異形を完全に統率し、かつ、それらと融合して巨大な個体になるような異形など…。
少なくとも、通常ありえるようなものではない、というのは間違いありません」
ギルティアが、数秒考え、言葉を続ける。
「…まぁ、今考えても始まりません、か…取り敢えず、帰りましょう。
ここまで大変な戦いになるとは思いませんでした…ゆっくり休みたいと思います」
「ああ、そうだな…んじゃ、帰って寝るか!!」
「うむ、我もそのほうが早く再生できるだろう」
ルークが、再び小さくなり、ギルティアの肩に乗る。
「…ファラオ店長、包帯か何かありませんか?」
ルークについて何か気付いたギルティアが、ファラオ店長に尋ねる。
「ああ、ほらよ」
屋台の中から、ファラオ店長が包帯を取り出し、ギルティアに渡す。
「まだ傷が再生しきっていないのに私の肩に乗らないで下さい。肩が血だらけになります」
ギルティアが苦笑する。そう、ルークは傷だらけで、血がダラダラと流れていたのだ。
再生中とはいえ、まだ傷口が塞がっていない。
「む、すまん」
「…少し待ってくださいね」
ギルティアが、ルークの傷が酷い場所に包帯を巻く。
「これで、良いでしょう」
「…感謝する」
ギルティア達が歩き出す。
しかし、この異形との戦いによって、この宇宙群全体を巻き込む戦いの歯車が回りだした事を、
まだギルティアは知る由も無かった…。
続く




