Act.12 やはり一気に稼ぐべき
Act.12 やはり一気に稼ぐべき
「たあああああああああっ!!!」
ギルティアが、チェーンソーで目の前に立ち塞がる異形を真っ二つにする。
ファラオ店長の下で異形討伐を始めてから、数日が経過していた…。
「よし、どうやらこの場所の異形は殲滅できたようだな」
「しかし…まだまだ集まりませんね…。
これでは、エルヴズユンデのコアの修復どころか、私自身を元に戻す量を確保するのにどれだけかかるか…」
ギルティアがため息をつく。
「…まぁ、異形の数が少ないという事は私自身の使命が果たされている証拠、別に焦る必要はありません、か。
さて、ではファラオ店長の所に戻りましょう」
ギルティアが、チェーンソーを肩にかけて歩き出す。
「重ね重ね、我のせいでとんだ迷惑をかけるな…」
その肩に乗るルークが呟く。
「使命に支障が出ていないのですから、別に良いのですよ…この姿、これはこれで気に入っていますし」
ギルティアは、そう言って笑った。
「しかし、この姿では大型の指揮個体を相手にする事は出来そうにありません。
その時はよろしく頼みますよ、ルーク。指揮個体を倒せば…大分稼げます」
「指揮個体…つまりは大物という事なのか?」
ルークが尋ねる。まだルークは指揮個体と遭遇した事が無かった。
「ええ。もっとも、指揮個体のような大物、私が逃すわけがありません…そう多くは…」
「そうか…まぁ、都合よく現れるようなものではない、というのは理解できるな。
…聞きたいのだが、異形を逆に誘き出すような事は出来ないのか?」
ルークが尋ねた事は、ギルティアにとっても中々興味深い事だった。
「誘き出す、ですか…出現地点を割り出してその場所に先回りして攻撃をかける事しか考えてきませんでしたが…。
成る程、誘き出す…確かに、それならば最も効率よく異形を討伐できますね」
ギルティアが言葉を続ける。
「…しかし、我々が敗北すれば間違いなく大惨事が発生しますし…リスクは非常に高い、といえますね…。
恐らく、それ故に今まで誰も思いつかなかったのでしょう…」
「ギルティアよ、貴公は自分が負けると思っているのか?」
ルークが尋ねる。
「いえ、負けるつもりもありませんし、負けてはなりません。
しかし、失敗した際のリスクは非常に大きく、宇宙規模の犠牲が出る危険があります。
…これに関しては、迂闊な判断は危険です」
「…むしろ、誘き出しに成功すれば、人から異形を引き離す事が出来るのではないか?」
「誘い出される異形の規模が問題です。今の私にはこの世界に存在する異形の総数を知る術がない…」
ギルティアが、そう言ってから数秒考え、フッと笑う。
「…私らしくも無い、ですか…。
百が来ようが千が来ようが万が来ようが、皆殺しにすれば何も問題は無い…」
「そういう事だ。我々にはその力があるだろう?」
ルークがニヤリと笑う。
「ええ…しかし、万全を期さねばならないのは間違いありません。
ただ倒すだけなら出来ても、被害が人間に広がってしまっては元も子もないのですから」
「その通りだ。それゆえに、この手をより確実なものとするためにはしっかりと作戦を練る必要があるな」
「…ですね。では、急いでファラオ店長の所へ帰りましょう。
誘き出す方法についても、成功するかは未知数ですが私に考えがあります。
…もっとも、そのためにはルークとファラオ店長の最大限の協力が必要ですが、ね…」
ギルティアは、そう言って不適に笑った。
ファラオ店長の屋台に戻ったギルティアは、まず誘き出しの事をファラオ店長に告げた。
「…無茶な事を思いついてくれるぜ…だが、確かに良い手だ。
嬢ちゃん達のような連中にしか出来ねえし、思いつかないだろうな…だが、どうやって誘き出す気だ?」
「私に…鍵にしか出来ない方法を使います。
ただし、普段の私ならばともかく、今の私がそれをするのには危険が伴います」
ギルティアが、真剣な表情で言葉を続ける。
「私の能力は宇宙群にアクセスして根源的エネルギーを吸収する事…
しかし、それと同様に、私の持つ根源的エネルギーを、空間に放出する事も可能です。
…いわば、撒き餌、というわけです」
「成る程…危険の理由は理解できた。
エネルギー源が無い状態で今もっているエネルギーを放出せねばならないのならば、確かに危険だ」
ルークが頷く。つまり、コンセントとの接続が無い状態で、残り少ない内蔵電源をフルに使う必要がある、という事だ。確かに、危険な賭けである。
「いくら貴公とはいえ、今の状態でそのような事をしたら、下手をすれば命を落とす事になろう?」
「…もちろん、私とて命が危険になる程には放出しませんが…」
ギルティアが、苦笑しながら続ける。
「…しかし、放出したエネルギーを再吸収するまでの間、
私は恐らく普通の少女と同レベルの体力しか行使できないでしょう。
それ故に、誘き出しが成功してから私が放出した根源的エネルギーを再び体内に戻すまでの間、私の護衛をお願いしたいのです」
「…成る程な、つまり、それで俺の助けがいるって事か」
ファラオ店長が頷く。
「…前の戦いで嬢ちゃんの無茶さは分かってる、それに、その無茶を成功させちまうのが嬢ちゃんだって事もな。
俺の力が役に立つってんなら、付き合ってやるさ…」
「我は借りを返さねばならぬ。ギルティアよ、我が一命を賭して貴公を守り抜こう」
「…これでまず作戦の第一段階は成立しました…ありがとうございます」
ギルティアが、頭を下げる。
「ああ…だが、第一段階とは?」
ルークが再び尋ねる。
「…恐らく非常に大規模な閉鎖空間が発生します。
よって、人間が巻き込まれないように、作戦を実行する場所を慎重に吟味する必要があります。ですから、ここからが問題なのです」
「成る程…つまり安全な戦場を探さねえと、この作戦は実行できねえって訳か…」
ファラオ店長が頷く。
「そうです。この戦いの本来の目的は、人間達の生活を脅かす異形の排除…。
私が元に戻るために一般の人間が巻き込まれてしまっては、それこそ本末転倒ですから」
ギルティアは、そう言って笑った。
「ところで、ファラオ店長、何をしているのです?」
ギルティアが見ると、ファラオ店長が、いつのまにやら屋台に搭載されているコンピュータを起動していた。
「良い場所が無いか調べてみたが…おい、ここなんてどうだ?」
ファラオ店長が指差しているのは、山中の廃棄された村だった。どうやら、確かに人間は残っていないようだ。
「成る程、確かにここなら周囲への被害を気にする必要は無いようですね。
では、まず場所はこことして、次はいつそれを決行するか、です」
「…なるたけ早い方が良いだろ?」
「ええ、まぁ…」
ギルティアが頷く。
「なら、明日の夜でどうだ?明後日は定休日だし、嬢ちゃんも早く力を取り戻したいだろ」
「つ、明日の夜ですか!?」
ギルティアが驚く。
「いくら早いほうが良いとはいえ…しっかりと準備した方が良いのではないですか?」
「フフ、我の方は明日の夜といわず、今すぐでも構わんのだぞ?準備は万端だ…いつでも行ける」
ルークが、ファラオ店長の言葉に、不適に笑って同意する。
「俺の方も、実は屋台の中に、武装含めて必要なもんはいつでも切らさないように揃えてるんでな。戦え、といわれりゃ今すぐでも全力で行けるぜ」
そう言って、ファラオ店長が笑った。
「フ、フフ…成る程、二人とも、どうやら私の想定の斜め上を行っていたようですね…ありがとうございます。
…私も、皆さんがよろしいのならば明日の夜で構いません」
二人の笑い顔に、ギルティアも笑みで応える。
「では、戦闘開始まで、しっかりと体調を整えておきましょう」
ギルティアが、ファラオ店長が自室として貸してくれた部屋へと歩き出す。
ルークはギルティアの肩に乗る。
「…おやすみなさい、店長」
ギルティアは、扉の前でくるりと振り返り、スカートの裾を上げてお辞儀して部屋に入っていった。
「…おう、ゆっくり休みな」
ファラオ店長は、そう言って静かに笑った。
「さーって、久しぶりの大暴れになりそうだ、俺もしっかり休んどくかな…」
そして、ギルティアが部屋に入っていくのを確認すると、大きな欠伸をし、そのまま居間で眠り始めた…。
続く




