Epilogue 光満ちる世界で
Epilogue 光満ちる世界で
あの戦いから、一ヶ月が経過した…。
イセリナが、ロートベルグの自室で、ため息をつく。
「…ふぅ…やっと、ひと段落、か…」
イセリナ達は、戦いの後処理に追われていた。
ギルティアと紅蓮の旅団の活躍で、各世界、宇宙への被害は最小限に食い止められたとはいえ、各地に傷跡が残っている。
異形に対してのリカバープログラムも、異形相手に使用しなければ意味は無い。
するべき事は、山のようにあった…。
ズィルヴァンシュピスを帝都の地下に封印したイセリナは、旅人達を集め、ロートベルグを拠点に異形の徹底的な討伐に乗り出したのだ。
「…お姉ちゃん…私、頑張ってるよ」
窓から見える空を見上げ、イセリナは呟く。
「イセリナ様!」
ドアをノックする音が聞こえる。
「ええと…エーリッヒ、どうしたの?入っていいよ」
「了解」
エーリッヒが中に入ってくる。
「異形の討伐を続行していたルーク様から、この宇宙群に残留した異形の討伐率が九十パーセントを超えたとの報告です!」
「オッケー!なら、ルークに、一休みしたら私も出るって伝えておいて!」
「承知しました!」
敬礼と共にエーリッヒが出ていく。
ルークは、イセリナに協力して宇宙群にいる異形を討伐していた。
「…この世界にいる異形は、これで全てか」
今、ルークの目の前には異形の群れがいる。
「我は、負けぬ!!」
ルークの咆哮と同時に、異形達が襲い掛かってくる。
「ぬんっ!」
両腕の機械爪で、襲い掛かってきた異形を掻き裂く。
「はああああああああああああああああああああーっ!!!!」
時空震ブレスが、異形の群れを纏めて薙ぎ払う。全ての異形は、一撃で崩れ去っていく。異形に対してのリカバープログラムの威力だ。
異形から人間に戻るという選択肢もあるとはいえ、それを選ぶ者は、殆どいなかった…。
「これで終わりだ!!」
ルークが、残った異形を纏めて爪でぶち抜く。
「…どうやら、殲滅できたようだな」
崩れ去った沢山の異形の骸の中心に、ルークは立っていた。
「…全てが終わったら、ゆっくりと眠るとしよう。
我が友が作り出し、彼女が命懸けで愛したこの宇宙群だ…今、この宇宙群に残っている唯一の究極生命たる我が守らずして、誰が守る」
ルークは静かに呟き、言葉を続ける。
「…さぁ、行こう。まだ、すべき事は残っている」
ルークは、次の目的地へと飛び立った…。
一方、藤木とレディオス、アルフレッドは、フルメタルコロッセオの世界に戻り、それぞれの仕事に復帰していた。
「ラン!暫くの留守番で随分腕を上げたようだが、まだまだだ!そんな事で、愛する女性を守れると思うなよ!!」
アルフレッドの言葉に、ランがニヤリと笑う。
「分かってるよ!だからこうして特訓してるんだろうが!俺は最強のメカニックになるんだ!!」
そう言って、ランはスパナを回した。
「頑張ってね!ラン!」
ランの傍には、ミノリの姿もあった。
「ああ、任せてくれ!ミノリ!」
ランは、そう言って作業を再開する。
一方、、藤木とレディオスは、フルメタルコロッセオの王者決定戦で対峙していた。
「さぁて…王座は頂くぜェ!!」
藤木が搭乗していたのは、境界空間航行仕様ではないが、ジェネラルの後継機だった。
「フ…悪くない気迫だ…これは少しは楽しめそうだな…来い!!」
フレアドイリーガルは境界空間航行仕様から元の仕様に戻っていたが、剣が新しくなっている。エルヴズユンデがかつて装備していた長剣を模したもののようだ。
「GO!AHED!!」
戦闘開始を告げる進軍を開始せよとの実況の男の叫びが、フルメタルコロッセオに、響き渡る。
「行くぜェェェェェェェェェ!!!!」
「さぁ…楽しませてくれよ…!!」
二機が、同時に突進した…。
シリウスは、フルメタルコロッセオの世界に一旦戻ると、機体の整備と武器の改造を済ませてから、すぐに旅立った。今、シリウスは、遠い宇宙群にいた。
「…エルグリオ…お主の大切な人の真相、わしが代わりに探そうぞ」
アークトゥルースの手には、より強力なエネルギーの負荷に耐えられるように強化されたデモンズ・スローターと、
透き通る刀身の、そう、エルグリオから託された刃を使って強化された、フェイト・スレイヤーが装備されている。
アークトゥルースは、エルグリオとの戦いの時より、確実に、そして大幅に強化されていた。
「お主とそう大差は無い力だが…わしはお主に勝った。どの道、旅を続けるつもりだったのだ、目的が一つ増えただけぞ」
シリウスは、静かに笑う。
「どこまで行けるかなど分からぬ、わしがいつまで生きられるかも分からぬ…だが、少なくとも、今、わしは生きている。
生きている限り、事を成し続けようぞ…わしの心の望むままにな。それが、わしに託された全てに対して、わしが成し得る最高の返礼だ…!!」
アークトゥルースが飛び立つ。
「さぁ…まだまだ旅は長い…次の地へ参ろうぞ、アークトゥルースよ」
そして、アークトゥルースは一気に加速し、境界空間の彼方へと消える。シリウスの旅は、まだ始まったばかりだった。
そして、ファラオ店長は、故郷に戻り、ラーメン屋に復帰していた。
「ツタンカー麺お待ち!!」
戻ったとき、店員達は何故か事の真相を知っていた。
あの最終決戦の時、この世界に降った異形を前に自衛隊すらも逃げ出す中、二人の勇敢な刑事が、紅蓮の旅団到着まで、拳銃と警棒だけで迎え撃ったのだという。
その時、その刑事達が真相を話してくれたのだそうだ。そして、その勇敢な刑事とは…。
「店長、相変わらず繁盛しているようだなぁ」
見知った刑事が、のれんをくぐる。
「お、来たな、英雄さんよ!」
ファラオ店長が、ニヤリと笑う。
「英雄ってのは柄じゃねェがな…ふふ」
それは、矢作警部だった…。
「今日は相棒は一緒じゃないのかい?」
「ははっ…綾子さんがおめでただとさ。今病院に行ってるよ…きっと今頃舞い上がってるんだろうなぁ」
矢作警部はそう言って笑う。
「フ…そうかい。そいつぁめでたいな」
ファラオ店長も笑った。
「これも、あの子のおかげなんだよな…」
「ああ…嬢ちゃんが命懸けで守り抜いた未来、決して、絶やしたくないもんだな…」
「…俺達も、守れて良かったよ」
その言葉に、ファラオ店長が苦笑する。
「流石に、あのサイズの異形に拳銃と警棒で挑むのは無茶だろ…」
「だが、やってみると意外と何とかなるもんだ」
矢作警部は、そう言って笑った。
「…と、注文を忘れてたな。ツタンカー麺一丁!」
「あいよ!」
ファラオ店長は、再び作業に戻る。
一方、病院の方では、診察を終えた綾子が、冬川と話をしていた。
「綾子…やったな!」
「うん!この調子で、もっと沢山つくろうね!」
綾子の言葉に、冬川が驚く。
「え、ええ!?」
「…あの子の分まで」
綾子の言葉に、冬川は、一瞬考え、頷いた。
「…ああ、そうだな」
「彼女の分まで、いえ、彼女が嫉妬するほどに幸せになってやりましょ!」
その言葉に、冬川は笑った。
「ああ…そりゃ良いな!さて…帰ろうか、綾子!」
「うん!」
冬川と綾子は、手を繋いで歩き出した…。
その頃、紅竜は境界空間を航行していた。
ギルティアの故郷に異形に対してのリカバープログラムを届け、今も、紅蓮の旅団は各地の旅人達へとリカバープログラムを運んでいた。
その艦橋には、ガザードとアイギスの姿がある。
「次の目的地はどこにするのだ?」
アイギスが尋ねる。
「行く先が目的地だ。異形が散った領域は広いからな」
ガザードの言葉に、アイギスが頷く。
「把握した」
「だが…お前がこの艦に残るとはな」
ガザードの言葉に、アイギスが頷く。
「そう思うのも無理の無い事であると返答。だが、どの道俺には行き場は無い。
ならば、貴様らと一緒にいたほうが何かと都合が良いと判断。…これからも利用させてもらうぞ」
その言葉に、ガザードが苦笑する。
「そうか…ま、お前が利用するレベルなど、たかが知れている。好きなだけ利用しな。その代わり、俺達もお前を利用させて貰うぜ?」
「…了解。ならば、この場合、よろしく頼む…とでも言っておこうか」
そういうアイギスの目は、少しだけ笑っていた。
「ああ、よろしくな、アイギス」
ガザードは、笑顔で頷いた…。
そして、憐歌と晴夜は、全くいつもと変わらぬ日々を送っていた。
それもそのはず、ギルティア、そしてエルヴズユンデが、憐歌達が住む宇宙に降下しようとした異形を、まだ降下する前、境界空間上で殲滅していたのだ。
「平和だな…」
晴夜の言葉に、憐歌が頷く。
「うん、平和すぎて怖いくらい…この日々が、ずっと続いて欲しいな」
憐歌が、そう言って空を見上げる。空は、どこまでも晴れ渡り、朝の暖かい日差しが降り注いでいる。
「…うん、良い天気!」
そして、憐歌は、ふと時計を見て、顔色を変える。
「…って、のんびりしてる場合じゃないわよせーや!」
「うおっ!そうだった!遅刻だ遅刻!急ぐぞ!!」
「うんっ!!」
二人は、学校に向けて走り出した…。
戦いは、本当の意味での終わりを迎えようとしていた。
そして、最終決戦の地は、収束されたエネルギーがあまりにも強すぎて、エネルギーの宇宙群への還元が続きながら、未だ、誰も近づけない状態だった。
今もその光は、宇宙群を、照らし続けていた。
朽ちる事の無いギルティアは、今もその中で静かに眠っているのだろうか、それとも、消えてしまったのだろうか。
誰も近づけない以上、それは分からない。
しかし、一つだけ確かな事は、あの世界にはライズの思い出と共に、ギルティアの旅の思い出も眠っているという事だけだった。
そして、これは、そのギルティアの思い出の、最後の一片…。
…最後に、日記を書けて良かった。
これは、私の最後の『思い出』…。
誰が読む訳でもありません。しかし、最後に、この想いだけは残しておきたかった…。
亡霊は、夜明けの光の中では生きていけません。
私の力は、戦うための力…夜が明けた世界に、平和な世界に、私の居場所はありません。
だから、私は、もし夜が明けるのなら、ただ、消えるだけです。
私は、皆の役に、立てましたよね…?
私は、皆を、守れましたよね…?
私がいなくなっても、皆、いつか必ず、笑ってくれますよね…?
幸せになっていくであろう皆の笑顔を見られないのが、唯一の心残りです。しかし、後悔はありません。
確かに、ずっと悲しかった、寂しかった…しかし、生まれて、今まで生きてきて本当に良かった。
心から、そう思えます。
願わくば、この果てなき宇宙の連なりに、幸多からん事を。
そして、私に大切な思い出をくれた、皆の未来に、幸多からん事を。
果て無き宇宙の連なりの中で、皆に出会えた事、それが、きっと私に許された唯一の、そして、最高の救い…。
…皆、大好きです。
…そして、本当に、本当にありがとう…。
地平の旅人
―過ちの鍵―
THE END




