Act.01 近代の町並みの影で
まだ加減が分かりませんので、これがR15に入るのか分かりません。
一応戦闘描写は存在しますので、もしアウトと思われましたらご連絡ください。
夜の街。静寂の支配する裏通り。
たった一人、血濡れの剣を携えた、白髪混じりの黒髪が美しい十八歳程度の少女が、月を眺めていた。
「さて、これで終わり…ですね」
少女が、腰に剣を収める。
よく見ると、少女の周囲には骸が散乱している。
しかし、人間の原形を留めながら、それは『人間』では無かった。
鱗に覆われたもの、両腕が異常に肥大したもの等、明らかに、『人間』ではない。
「…悪く思おうが思うまいが、勝手です。
しかし、あなた方の存在を許すわけには行きません」
それは人の『欲望の結晶』。
肥大した欲望が、形を成したもの。
かつて、人間であったもの。
強い願いを、いや、強い欲望を叶える事を願った人間の、成れの果て。
その姿は、その願い、その居場所によって様々で、姿を限定する事は出来ない。
しかし、ただ一つ、言える事がある。
それは、奴等が、欲望に飲み込まれ、人を食らう者であるという事だ。
それらは『異形』と呼ばれていた。
「しかし…既に、再び飛来しているとは…」
少女がため息をつく。
「まぁ……力の使い甲斐がある、と思っておくとしましょう…」
果てなど知れぬ、世界の連なり
頼れるのはこの爪と、剣
そして、私の半身、鋼の拳を振るう巨神
宛ての無い旅、たった一人
出会いもあれば別れもある
私の名はギルティア…ギルティア=ループリング…
『過ち』の地の守り手にして、無限の地平を翔ぶ者…
地平の旅人
―過ちの鍵―
Act.01 近代の町並みの影で
その次の日の朝、ギルティアは表通りを歩いていた。
服は白のワンピースだったが、スタイルが良くて目立つ。
「日の光の元では奴等はあまり活動しない…。
それに、私も明るいのは少し苦手ですし…本当、何をしましょうか…」
数十メートルほど歩いたところで、ギルティアが思い立つ。
「そ、そういえば…ここから数百メートル先に、二日前に書店で買ってきた本にあった人気のラーメン屋が!
と、取り敢えず腹ごしらえを……!」
口調では冷静を装っているが、明らかにわくわくしているのが目に見えている。
店にたどり着くと、行列はできていなかったが、やはりそれなりに繁盛している。
ラーメン屋『ツタンカー麺』…何とも寒い名前である。
「…ええと…」
ギルティアが注文を考える。
「チャーシュー入りツタンカー麺を、細麺で一つお願いします」
ギルティアが注文して数分後、ラーメンが来る。
「…これは…」
古代エジプトの壁画のような絵の丼に、まるでツタンカーメンの黄金の面のような黄金の麺。
そしてそれらを引き立てる黒いスープ。見た目は完璧だった。
「……いただきます」
ギルティアがそれを一口食べる。
「…………」
ギルティアが、どことなくファラオっぽい店長に向けて、まるで戦闘中のような目でニヤリと笑う。
「…………」
店長もそれに気付くと、驚くほど鋭い視線をニヤリと返す。
そして、そのままギルティアは二口、三口と無言のまま箸を進め、あっという間に完食してしまった。
「こってりに見せかけてあっさり、煮干だしベースのスープを隠し味に入れた完璧なバランス、正直恐れ入りました。
……これはまさに一線級の味です」
ギルティアが、会計の際にそう言うと、店長が無言でウィンクしていた。
「……ふふ……それではごきげんよう」
店長に笑顔で軽く手を振って店を出る。
「さて…今日の日記の記録はこれで決定ですね。
ただ…問題はこの後午後何をするか、ですよね…」
既に時間は午後の二時を回っていた。学生達の下校姿も見られる。
ギルティアはそれを眺め、寂しげに笑った。
・・・その起源を同じとする宇宙、世界の集まりを『宇宙群』と呼ぶ。
ギルティアは、『過ちの鎖輪』の宇宙群の化身にして守護者、『鍵』として生まれた。
その本来の使命は、その宇宙群の平穏を守ること。
欲望の結晶、異形達が姿を現してからは、それらを殲滅し、戦い続ける事が主要な役目となっていた。
しかし、彼女が生まれたその宇宙群は、総力を上げて彼女を拒絶した。
間一髪で永久の封印から脱した彼女は、別な宇宙群へと旅に出たのだ。
宛ても果ても無い、孤独な旅。
自分の力が必要とされる場所が、きっとどこかにあるはずなのだから。
「……やれやれ、私らしくもない」
ギルティアは、それらを見て寂しさを感じている自分に苦笑し、そのまま再び歩き出した。
平穏な日常、それは、ギルティアにとって守るべきもの、
そして、彼女自身は幾ら手を伸ばしても、決して届かないものなのだから……。
その夜…既に、十二時を過ぎ、裏通りにも人影は無い。
いや、一人だけいた。
…ギルティアだった。
「時間ですね…さぁ、戦闘準備です」
ギルティアの背に、白い鳥系の翼と黒い蝙蝠系の翼が生える。
更に、腰の辺りから黒い鳥系の翼が生えている。
そして、左腕がまるで魔物の爪のように変化する。
「アーマー展開」
紅の光がギルティアを包み、次の瞬間、
ギルティアは白に金色の装飾が入ったドレスを下地にした鎧姿へとその姿を変える。
「…さて…」
狂気に満ちた視線が周囲に満ちている。
周囲の空間も閉鎖され、既に囲まれているらしい。
ギルティアが剣を構える。
「…用意周到…褒めて差し上げましょう。
しかし、その程度で、私を倒せると?」
ギルティアがまるで誘うように笑い、言葉を紡ぐ。
「さぁ…踊りましょう?」
その言葉と同時に、周囲にいた異形が一斉に飛び掛る。
「左ッ!」
一歩早かった左の異形、まるで植物で出来た人間、それを、ギルティアが左手の爪で貫く。
そして、そのまますぐに正面に剣を構える。
「正面ッ!」
正面から襲い掛かる人面の狼状の異形を剣で切り伏せ、その勢いで背後へと一回転する。
「後ろッ!」
その勢いを利用して爪で背後にいたゾンビ状の異形を切り裂く。
「左右ッ!」
二匹の異形が右と左から同時に飛び掛る。
ギルティアが一歩引くと飛び掛ろうとした二匹が衝突する。
そして、それをそのまま剣で横一閃にし、翔ぶ。
次の瞬間一斉に突っ込んできた異形は、意表をつかれ、一瞬の隙が出来た。
「読み通りです」
そして、彼女が身を翻す。
「その隙が、命取りです」
ギルティアが一陣の暴風のように集まった敵に突撃する。
「…ごきげんよう」
ギルティアが驚愕すべき速度で剣と爪を振るう。その動きはまるで舞いの如く…。
そして、その周囲に斬られた敵の血がまるで紅の花びらのように舞い散る。
戦闘には似つかわしくない美しい光景。
そして、それは敵にとっては迫り来る『死』そのもの…。
「……願わくば、汝の罪が祓われん事を」
数十秒足らずで、ギルティアを襲っていた異形は一体残らず屍と化した。
「強い力は奴等を誘い出すにも丁度良い…。
きっと、私は奴等にとってはまるであのラーメンのようなご馳走に見えているのでしょうね…。
しかし、あの程度でこの私に挑む事が無謀だと分からないとは…哀れな」
ギルティアが苦笑する。
「…しかし、この世界には異形の反応はもう殆どありませんね。
そろそろ、指揮個体が動き出しますか?ふふ…楽しみです」
そして、ギルティアはそのまま月夜へ飛び去っていった…。
ギルティア日記
今日は有名なラーメン店に赴く事が出来ました。
店名:ツタンカー麺
総評:ラーメンの質高し!店長もかなりの玄人。
特に店名を冠したツタンカー麺は最高クラス。
今回は当たりでしたね。
というよりも、あの店長…エジプトのファラオですか?
何だかそうにしか見えません。
しかし、直接確かめるのも少し気が引けます…。
…また来たいと思いました。
続く




