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3.D旧式(前)

注意! 残酷描写があります。

 「さて、どういう事か説明してもらおうか?」

 「良いけど。マグドで奢れ」

 「なんでだ」

 「あんたに拒否権はない」

 「いや、あるだろ」

 「じゃ、説明しない」

 「……つつしんで、奢らせていただきます」


 そんなわけで俺と亜紀は駅前のハンバーガーにいる。

 話が長くなりそうなので昼時は外してきた。

 亜紀だけ食って俺は無しってのもむなしいので、一番安いハンバーガーを食べている。

 「で、説明しろよ」

 「ひゃっててて(待って)」

 亜紀は一生懸命テリヤキバーガーを食べている。今はそっちが重要のようだ。

 亜紀の態度に少し腹が立った。それに周りの視線がなんだか痛い。出来れば早くこんな所は出たかった。

 この後の説明も電波な話が続くんだろう。だとしたら、なぁ。

 思い浮かべて少しうなだれる。付き合うのも大変だ……。

 ハンバーガー1個なんてすぐに食べ終わってしまう。何気なく外に目をやれば、いろいろな人が目に付く。

 その中で道行くカップルを恨めしく見送る。ああ、せめて亜紀が後6歳……。

 「外に楽しいものでもあんの」

 いつの間にか亜紀はバーガーを食べ終え、ジュース片手に冷たい目で俺を見ていた。

 「はい、説明するよ。何から聞く?」

 一息ついたのか、亜紀がそう言った。手にポテトとジュース。

 「じゃあ、まず昨日のことから説明してくれ」

 「矢部っちにバカな女がとりついてた。以上」

 亜紀はポテトを口に放り込む。

 「足りねぇよ」

 「そだね。でもそれは別の所で話すから。じゃあ、まずは矢部っちの異能から説明しようか」

 例によって俺に選択権はないようである。

 「まず矢部っちの異能だけど。あ、異能ってのは普通の人に無い力と思っといて」

 俺は少し居住まいを正す。真剣に聞いてますよ、という意思表示。こうしないとへそ曲げそうだし。

 「私は『事件を呼ぶ男』って一応名付けたから」

 亜紀はそこでポテトを一つ放り込み。ジュースで流し込む。

 「『事件を呼ぶ男』、ですか。なんか凄いやな予感のする響きなんですが」

 「そうだねー。これからは矢部っち歩けば事件に当たるから」

 また一本。そこでポテトの入れ物を俺に向けて差し出し、勧めてくれる。

 「待て」

 ありがたくポテトに手を伸ばしながら突っ込む。

 「有名なコ○ン君とか、金○一少年とかがこの異能持ちだって言われてるね」

 「つまりあれか。死に神といわれるのか。俺は」

 「歩く怪談の方が近いかな。そっちがらみの事件が多いから」

 俺がポテトを口に入れたまま話したのがお気に召さないらしく、ハエでも見たような顔で亜紀は答える。

 「オンオフ切り替えられれば良いんだろうけど」

 「出来ないのか」

 「ブログ作ったら? ネタに困んないよ」

 俺は深いため息。亜紀は可哀想なモノを見る目でポテトをぽつぽつ食べる。

 「なあ、お前も異能持ちなんだろ」

 そんなことを言ったら、横を通ったお姉さんがちょっと変な目で見られた。

 そんな目で見るな。

 「そうだよ。強制暗示と結界展開」

 亜紀は誇るでもなく、無表情に、いや、むしろ人生の汚点と言いたげだ。

 字面からしてなんかかっこよさげな能力。うらやましい。

 「あ、そうだ。この後警察行くから」

 「へ?」

 「異能使いは登録しないといけないんだ。法律で決まってるんだよ」

 「そうなの?」

 「そうなの。イヤなら良いけど。でも登録しないと面倒だから」

 そう言い終えて、亜紀はポテトに専念する。俺が何か言いかけると凄い目で睨みつける。邪魔をするな、ということらしい。

 俺は盛大に顔をしかめた。ふざけんな、と言いたいが、昨日のアレが頭をかすめ、何も言えなくなってしまう。

 俺は舌打ちして、それを誤魔化すように店内を見渡す。

 店内にはいろんな人がいる。すぐ横のテーブルには昼休みらしいサラリーマンらしき男。さらに向こうに男子高校生2人。制服って事は部活の後か。

 女の子3人組。男女混合4人。家族連れ。平和だ。

 販売カウンターを眺めるのも意外に楽しい。

 混み合う時間を外したとはいえ、場所が繁華街の真ん中ということもあって、まだ結構人が入れ替わる。店員さん達も忙しそうだ。

 大学生くらいの男。OL風の女性。5歳くらいの子を連れたの男。中学生くらいの男の子。部活帰りっぽい女子高生。ピエロ。

 と、そこで一瞬思考が止まる。無理もないと思わないか? それまで普通っぽい人ばっかだったのにいきなりピエロだぞ。驚いて固まる。

 「矢部っち、そろそろ行こうっか」

 亜紀が促してくるが、そんなことは耳に入らなかった。それほどピエロにインパクトがあった。

 なにせ、そのピエロはチェーンソーをいきなり取り出してきたんだから。それも、口から。しかもわりと大きいのを。

 どこに隠してたのか、ご丁寧に発電機まで用意していた。それはピエロの背中で煙を上げる。

 「さーあ、みんなよっといで! 楽しい楽しいショーの始まりだ!」

 ジュイイイイイイイイイイ…………

 うなりを上げるチェーンソー。楽しげに笑うピエロ。

 非現実な光景。冗談じみたその光景。全員あっけにとられて、声すら上がらない。

 「さーあ。まずはお嬢さん解体ショー!」

 げらげら笑いながらピエロがチェーンソーを振り下ろす。

 悲鳴は、上がらなかった。カウンターごとキレイに真っ二つだ。

 店内には細かい肉片が散らかる。そばにいてもろに浴びてしまった人もいる。可哀想に。

 誰もが、言葉を失った。

 「なんだよなんだよ。ノリ悪いなー?」

 スイッチを切ったチェーンソーを肩に担ぎ直して、ピエロが呆れたように言う。

 「もっと人生楽しもうぜー! あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 ピエロ、爆笑。一人でそれほどとは、お見事なことで。

 「本領発揮、てとこだね」

 亜紀が冷たく言い放つ。もしかして、俺の力があいつを呼び込んでしまったんだろうか。んなわけない。偶然だ。

 彼女に目をやると、いつの間にかナイフを右手に持っていた。

 「あんま人前でやりたくないけど、仕方ない、か」

 そう言って亜紀は席を立ち、ナイフを無造作に下げ一人でピエロに向かう。そして、邪魔な石を蹴とばすように言い放つ。

 「ゴミ。消えな」

 ピエロが亜紀に向き直る。何を言われたのか理解できない、というように無表情。

 「ゴミ? ゴミねぇ。ゴミ。ゴミ。ゴミ。ゴミ」

 ぶつぶつとつぶやくピエロ。動けない人々。それら全てを超然と見下す少女、亜紀。

ざっ、と唐突に世界が赤く染まる。周りの人もこの急な変化にとまどい、呪縛が解けたように動き出すが、すぐに停止してしまう。まるで何かに操られるように。

 「ゴミゴミゴミゴミ……」

 そんな周りの様子をピエロは全く気にせず口の中でもごもご何か言い続けている。

 その喜劇のような中で、亜紀は肩を振るわせていた。

 「……」

 初めは、怒っているのかとも思った。しかしすぐに思い直す。あんな態度の奴が、人殺しに怒ったりするか。

 「きゃはははあははははは☆」

 そんな声があふれ出し、全員に叩きつけられる。亜紀は笑っているのだ。

 「きゃははははははははははははははははははははははははっはは!!!!!!!」

 大声で亜紀は笑う。

 「ごみ、GOMI、GOMIiiiiiiiii!」

 何を言われたのか、ようやく認識したらしいピエロが絶叫。目がつり上がり、口も歪む。キレてるんだろうが、ピエロのメイクのせいで迫力がない。

 「さあ、やろう! やろうよクズ! キレイに切り刻んで挽肉にしてあげる♪」

 亜紀。歌うように、踊るようにハイテンション。対するピエロはチェーンソーを構え戦闘態勢。

 そこで繰り広げられる光景は、もはや少年マンガの世界のよう。

 「だれがごみだくがきゃぁっぁぁあああああああ!」

 人の言葉に聞こえないピエロの絶叫。

 一際高く響くチェーンソーの駆動音。

 「なにいってるの、ピーエロさん☆」

 亜紀は大好きな遊びをしているかのように楽しげだ。振り回されるチェンソーを問題にせず、わざわざかすめるようなギリギリの位置で華麗に避ける。

 ピエロがチェンソーを大振りしている為か。端から見れば、竜巻のような勢いなのだが。

 亜紀は一振り避ける度に、薄く浅く切り刻む。もてあそぶように、じゃない。この楽しみを少しでも長く続かせるように。

 周囲の人々は危ないと慌てて店外へ殺到。しかし、自動ドアが開かないことに皆混乱し、店内に悲鳴が満ちる。

 カウンター付近の人々は巻き込まれ、、怪我人が大勢でている。嵐の真っただ中にいるという様子で救出は出来そうにない。そんなことしたら逆に被害が広がりそうだった。

 「亜紀! ちょっとは周り気にしろ」

 亜紀は聞く耳持たず、辺りを血で塗り上げていく。その血はピエロのなのか、それとも周囲の人のなのか、わからなかった。

 「右腕切りましょピエロさんー♪」

 切断される、ピエロの右腕。歌の通りだ。ゴトリとチェーンソーが落ち、止まる。

 「おはなを割きましょ顔のはなぁー♪」

 激高するピエロ。そのピエロの体がぐらりと傾く。その拍子に口から出てくる。日本刀、ナイフ、包丁、のこぎりなんかの刃物の山。

 亜紀はその刃物の山に目を奪われ、手近にあった登山ナイフを拾い上げる。その為、ピエロから注意が逸れ、隙が出来てしまった。ピエロは目ざとくその隙を逃さなかった。

 「スィーユー唐揚げ!!」

 そう言い残し、窓を壊して逃亡した。誰も取り押さえようとはしない。亜紀は呆然としていたが、悲しげにも見えた。

 うるさいサイレン。突入しようとドアをたたき壊しにかかっている警官達。

 取り囲まれる亜紀。

 彼女は大人しくナイフを足下に投げ捨て、両手を上げた。

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