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C級主義→D旧式

注意! 残酷シーンがあります。

私はナイフを振り下ろした。

それは矢部っちの頭のすぐ上に突き刺さる。

情けないことに、そのショックで矢部っちは気絶した。

刺されるとでも思ったのかな? この先苦労するのに。矢部っちは。

「さあ、やりあお☆」

一言。

「やろう、やろうやろうやろうやろうやろうやろう……」

一言つぶやく度、私の中の冷静な部分が押し出されていく。そして頭の中を大音響でメロディーが駆け抜けて、もう一人の私が出てくるのだ。

「やろうよ!」

矢部っちの頭から、女が出てくる。そして、彼の頭の上に仁王立ち。

その女はたぶん30過ぎのいき遅れ。背格好は標準的。学校の事務員のような服装をしていた。

「よくぞ、見破ったね。小娘のくせに」

尊大な態度で女は言う。壊れた様子は、無い。

おそらく矢部っちに力が効きづらかったのは、こいつが原因だろう。

矢部っちに付きまとっていたのは分かっていたが、憑依とは意外だった。

あの組織は一体どれほどの技術を持っているのだろう。こいつには副作用も無いようだし。

まあ、いいか。

「きゃは☆ 抹殺抹殺♪」

さあ、切り刻もう。早くしないと私が消える。

「て、ねぇ。無視すんな!」

私に文句。うるさい。

「あるぅーひ♪ 矢部っちかーら 女がー 出てきたー♪」

「聞こえてんの? ねぇ!」

女は変わらず何事かをわめく。うるさい。

「皮はぎ にーくーをーきぃりー♪」

しびれを切らしたのか、何も言わなくなる女。

「おんなをきーりーきざむぅー♪」

加速。自分に暗示をかけ、強制的にリミッター解除。

「ちっ」

女は舌打ちすると、一気に後ろに跳ぶ。距離を取ったんだろう。

「きゃは☆」

追いつけないが、私はどうでもいいらしい。楽しそうに笑って追いかける。

女は部屋を四つんばいになってはい回る。手足から特殊な粘液でも出しているのか、壁、天上お構いなしだ。その様はまるでクモのようで、はっきり言って気持ち悪い。

しかもその割に糸を吐いたりなんかしないし。有り難いけど。

「きゃはは」

それを見てなお幸せそうなこいつが正直うらやましい。

「どう、ついてこれないでしょ!」

ああ、向こうもテンション上げなんだろうな。副作用は今なお健在らしい。少し安心した。

だけど、どうしてこう組織の力はネジを外さないと力の発動が出来ないんだろ。技術的に問題あるね。

「おばかーさん♪」

立ち止まってこいつは歌う。それを聞いた奴はこっちをにらみつける。

「なんだとぅ!」

いやバカでしょ。逃げてるだけだし。

「逃げるなよ♪」

にぃ、と私の顔が吊り上がる。完全にスイッチが入ったのだ。私の居場所が一気に削れる。

女、ぶち切れて震える。

テンションも一気にマックス。私も引きずられて冷静に観察なんてしてらんない。

「これから♪」

私。とりだす。二本目のナイフ。左手に。

「黄やガレボケがぁ!」

女。口から伸びる牙。背中から飛び出す二本のクモの足。黒と黄の安全色。ぶるぶると震えて、何事かをつぶやいている。

「きりきざむ♪」

私。腰を落とし、獣のような姿勢。

「あいつだってあのはげだってくdそなぼあおいあぎゃはははは!」

女。絶叫し、哄笑しつつ、背後を取ろうと動き回る。

「はらわたひーきーずーりーだーし♪」

私。女に体を向けたまま、足に力を込める。

「ひひひっひひひひっひひひひおおおおおおあはははは!」

女。動く速さを上げる。狂って笑う。

「ひょうほんにしてやろぉー♪」

飛び出す。飛びかかる。

「オッケーオッケー☆ れっつごぅ!」

女。大いに笑って迎え撃ってくる。クモの足をぶんぶん振り回し、四つんばいで飛びかかる。

私。迎え撃つ。足をかいくぐって、肉薄する。

「きぃぃぃはあいおやひゃあ;いえうえいら!」

がばっと口が開いてかみつこうとする。ギリギリで避けた所に、背中のクモ足が突き出される。

距離を置かざるをえず。

「きゃは☆」

今度はこっちから。真っ正面から突っ込む。

「きぃぃぇひへいへいひへいへいひえへいひひえへいひえいひ!」

クモ足。上から一本。横から、二本。いつの間にか増えている。

「抹殺抹殺♪ ぜーん殺しー☆」

増えた一本。脇腹から。ロケットのような勢い。

『かわせ・よけきれない』

私と私が会話する。

かすめる。舞い散る私の髪の毛。

「きゃははは」

笑う女。突き出されるクモ足は4本目。下からすくい上げるように。

かわす。

「きゃははははははははははははははははははははははははは!」

さあ、もっと楽しませてよ。笑み・深くなる。

「はけなおいrじゃいあgはいおはははあは!」

女。実に楽しそうに、らせんを描くように壁を蹴って。クモ足は6本。順調に増加中。

私。笑う。音楽/流れ出す/頭の中で/歌に変わる。

身を低く/飛び出す/斬りかかる。

交差/直前で上へ/跳ぶ/クモ足に切りつける/堅い/切り落とせずに右のナイフを叩き落とされる。

「切ーり裂こ切り裂ーこー♪」

私/歌う/意味なし。

さらに加速/筋肉/軋む。

「おおおんんあだかいらろいじゃふぃああはははははは!」

女/笑う/狂って語る/クモ足/自分の背中に向けて/勢いで。

貫く。

「あぼぐげふあいぎへあ……」

自分の体を。

『間・抜・け☆』

私と私。大嗤い。

「肉をー切り裂こー♪」

隙は逃さず。クモ足は無視。腕/足/胴体/はらわた/切り刻む/飛び散る血潮。

「血ーしぶき巻き上ーげー♪ 真ーっ赤に染めろー♪」

指/宙を舞う/足/前腕部/心臓/クモの足は結局切り刻めず。

お構いなしに楽しそうに女を死体に変え、肉片に変える私。後に残るクモ足。吐瀉物のようになる。

「難題解決♪ ヤッピーハッピー☆」

一通りばらまいて満足したのか、私はそう叫んだ。

にしてもあの組織何考えてんだろ。芸人養成?


顔に明るい日が当たって、俺は目が覚めた。

たしか、俺は亜紀にナイフを突き立てられなかったか。

だが、痛む箇所はない。どこにも怪我はなさそうだ。

それとも昨日のは、夢か?

そう思って体を起こす。普段着のまま。見慣れないが、見覚えはある花柄の可愛らしい布団。

「誰の布団だったかな。こりゃ」

「あ、目が覚めた?」

聞き覚えのある声だった。頭がまだはっきりしないので確信はないが、亜紀の声だろう。

少し当たりを見渡すと、ベッドサイドに亜紀が居た。テディベア柄のパジャマでなかなか可愛い。

いや、そうじゃない。問題は何で亜紀がいるかだ。

昨日のこと。可愛らしい布団。ベッドサイドの亜紀。

もう少し詳しく辺りを見れば、ランドセルや見慣れた亜紀の携帯とかがあったり。

家具はベッドと机、それにタンスくらいくらい。その必要な物以外はほとんど無いどこか殺風景な部屋は亜紀の部屋だ。勉強を教えるために何度か来たことがある。

……つまりここは亜紀の家なわけで。

「どうかした?」

にこやかにオレの顔をのぞき込む亜紀。これまでの生意気な妹のような面影、笑顔も無し。代わりになんか可哀想な人を見る目。

「ああ、目が覚めたよ……」

体調は最悪なのだが。

「あ、そう。ならさっさと退け。そこ私のベッド」

なんだか亜紀の声が異様に冷たい。なんか逆らったらまずい気もするが、一応抵抗してみる。

「……拒否権」

「あると思ってる?」

素敵なまでの即答ですか。何言っても聞いてくれないだろう。

俺は何も言わずに、ベッドから出た。

「あんたのせいで昨日徹夜だったんだから。責任取るの忘れないでね」

布団に入った亜紀はそう言った。

「はい?」

イマナントオッシャリマシタカ。徹夜って、何したんでしょう、オレ。

「責任取れ」

「ドウイウコトデスカ」

思わず固まって片言になる。

「それと、矢部っち」

俺の言葉は完璧に無視された。

「無視ですか」

「あんたこれからも変な事件に巻き込まれるから」

「それって、どういう事デスカ」

「巻き込まれ。それがあんたの異能」

「異能って何」

「超能力みたいな理不尽な力のこと。詳しいことはまた後でね」

そう言って亜紀は布団に潜り込んでしまう。耳もしっかり塞いで完璧睡眠モードだ。

つっても異能って。マンガでもなかろうに。

「なあ、冗談だろ」

亜紀の部屋に、俺の呆然とした声が響いた。

その後、亜紀の部屋に入ってきた親父さんが何も言わず、俺を追い出した。


1話『C級主義−始まり』終了

2話『D旧式−つなぎ』に続く

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