表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

2.C級主義(後)

注意!

この作品には残虐なシーンが含まれております。

次の日、あの男のことがニュースになるかと思ってテレビをつけた。

どうやら、まだ見つかっていないらしく一言も触れられることはない。

……男一人分、どうやって隠したんだ?

バラバラにしたからといって、隠すのは難しいはずだ。

もう一度、あの廃ビルに行ってみるか。


その部屋に入ったとき、俺は間違えたと思った。

確か1階奥でよかったはず……だよな。

なんだか自分の記憶に自信がなくなった俺は、1階の部屋全てを確認して回った。

だが、結局何も見つからなかった。

それは、おかしい。あれだけの量の血だ。何の痕跡も残さずきれいに消し去るなんて出来ることなのだろうか?

これで実は違うビルでした、だったら笑うがな。

この辺りに廃ビルは他にないからそれはあり得ないだろう。

それにしても凄い掃除の腕だな。感心する。死体はどこに隠したんだ?

このビルの中、か?

そう思って探してみたが、見つからなかった。


それから、俺はなるべく亜紀に会わないよう注意しながら生活した。今会ったらさすがにごまかしきる自信はない。

その努力と、小学校がまだ休みにならないおかげで会うことはなかった。

だけど、これは解決じゃない。

分かっているが、どうしても、怖かった。

なんで、男はあのとき動かなかったのか?

それが分からなければ、きっと俺もあんな風に殺される。


夢を見た。誰かが俺の上で猫を切り刻む夢。

そいつは奇妙な歌詞の替え歌を歌っていた。

背中を向けている。顔が分からない。

真っ赤な、何もない部屋。電気が壊れてるのか、薄暗い。

「お前、誰だ」

そいつが振り向く。

その顔は――

というところで俺は目が覚めた。

「なんつー夢だ。よりによって………」

夢に出てきた顔を思い出す。

亜紀だった。

亜紀が俺の上にまたがって猫を切り刻んでた。俺のは大丈夫か。大丈夫だったな、確か。

にしても、イヤな夢だ。思わず、猫の死体がないか探してしまう。当然ない。

ほっとして、トイレに行った。

「ぅわっ!」

真っ赤な、何もない部屋。ゾクリとした寒気が走る。

「クスクスクスクス…………」

肉片がまき散らされる!

「…………ちっくしょ!」

ダンッ!

俺は思いっきりドアを叩きつけた。

そして、もう一度開ける。そこは、見慣れたユニットバスだ。真っ赤な部屋じゃない。

安心して、腰が抜けた。

あ、バイト、行かなきゃ。ああもう、最悪の気分だ。

しかも最悪なことに、バイト先は肉屋だった。

肉を見ただけで吐きそうになり、具合が悪いと言って早めに抜けさせてさせてもらった。


3月の第二日曜日。俺はいつものように街に出た。あれ以来部屋の風呂は使わず、もっぱら銭湯通いが続いていた。

あー、くそっ。

気温は暖かくなり始め、いろいろ浮かれてる奴らが至る所に見えて、ちょっとむかついた。

駅前の狭い歩道を通り、雑貨店に行った。黄色い看板のォフトだ。特に欲しい物があるわけではないが、まぁ、ウインドウショッピングというやつだ。

ふらーっとCDを見て回ったり、本屋に立ち寄ったりして、ふと思い出す。

そういえば亜紀にもらってたの忘れてた。あいつの分を買ってない。

いくら最近避けているとはいえ、お返し無しではさすがにまずい……。

ただ、亜紀のことを考えると、どうしてもあの時の事が思い浮かんでしまう。

真っ赤な部屋。飛び散る肉片。うめき声一つあげない被害者。

楽しげに歌う亜紀。

思い出すだけで寒気が走る。

どうして、彼は動けなくなったんだろう。

考えるが、分からない。

ふと、催眠術の本が目に付く。

ぱらぱらめくってみた。

……わからん。

全くちんぷんかんぷんなんで、棚に戻した。

あー、アメで良いや。他の奴らもどうせアメだし。

無理矢理思考を切り替えた。

ォフトには無いので近場の菓子屋でアメの詰め合わせを買って帰った。


ホワイトデー当日、学校でもアメばっかりだったらしい亜紀から罵声を浴びせられた。

ゴミ箱ひっくり返したみたいなバリエーション。

そのまま、ォフトで奢ることになった。理不尽だ。チョコレートばっかでも俺たちは文句言わないのに。

でも。

「シャーペンとか、欲しいのあるんだよね」

そう言って楽しそうに買い物している亜紀。なんだか妹みたいに思えてくる。

この間のは見たのは見間違いだったんだ。きっとそうに違いない。こいつが、あんな事するはずがない。

「ね、お兄ちゃん」

ノートを選びながら、亜紀が言った。

「なんだ? もう決まったか」

「真っ赤な部屋、見たことある?」

ゾクッとした寒気。思わず叫びそうになった。

「え、いや、なんだそれ。」

「見たこと、あるよ、ね?」

振り向いた亜紀が俺の目をのぞき込む。怖いくらい澄んだ目だ。

もしかして、気づかれていた!? まさか。はったりだ。

俺は動揺を出さないように、答えた。

「見たこと、無い」

「うそっ! 格付けとか見たこと無いの!?」

え? しまった。そうか。あれにも赤い部屋が出てきてる。雰囲気に飲まれて、不自然な答えを返したんじゃないか?

いや、大丈夫。

「ああ、見たこと無い。あんま興味ないし」

「えー? 見てみなよ。結構面白いよ?」

「んじゃ、次の機会にでも見させてもらうわ」

大丈夫。無難に流せたはずだ。

そもそもアレが亜紀とは限らないだろ?

この後払わされた額に俺は青くなった。


真夜中に、俺はゾクッとした寒気がして目が覚めた。気づけば、窓が開けっ放しだった。道理で。

……あれ? でも、確かに閉めたよな。うん、そうだ。鍵もかけたはずだ。なのに、何で開いているんだ? ま、いいか。記憶違いもあるさ。

閉めようと思って、窓に近づいた。風が吹き込む。不自然なほど、冷たい。真冬並みだぞ。今3月も下旬、暖冬で例年より暖かいはずだ。

隣のベランダが見えた。部屋から、赤い光が漏れて、ベランダの手すりや、鉢植えなんかを照らし出していた。

おい、やべぇよ。逃げ出してぇ。

なのに、なんで。

何で俺、覗こうとしてんだ? おい、まじかよ?

薄暗い、真っ赤な部屋。むせかえるような血の臭い。部屋の真ん中で少女が何かに馬乗りになっていた。

「ざっくざっくざくざく♪

 ざっくざっくざくざく♪」

亜紀が奇妙な節の歌を歌っている。彼女は愉しげに何かを切り刻んでいた。

「ひっとつ、引っ付く腹の肉♪

 ふったつ、ふかふか腸さんが♪

 みーっつ、みちゃぐちゃ切り裂かれ♪」

亜紀が手を振り下ろす度、ぱっ、と何かが飛び散っていく。

俺はそれが何のか、しっかりわかっていた。

「よーっつ、よじけた血管を♪

 いつーつ、一気に引き裂こーう♪」

亜紀が、その手を振り下ろした。そこで彼女の動きが止まる。

「とっても簡単♪ ハッピーヤッピー♪」

そして、少女は振り返る。

「ね、お兄ちゃんもそう思うっしょ☆」

亜紀と、目があった。

これは、殺される――――!

逃げ場は――向こう側か。大丈夫、逃げられる。

俺は逃げ出した。


逃げ出した先はマンションの通路だった。亜紀の家はだいたい真ん中当たり。なので、どっちに逃げてもあまり変わらない。

「あはは。何で逃げるのかなー?」

当たり前だバカ野郎。誰が好き好んで殺されてやらなきゃならないんだ。

そんな反論を言う余裕もなく俺は走った。何しろ捕まれば訳の分からない力で動けなくされてしまうのだ。

そうなっては相手が子供でも逃げられない。

「あー、くそ。ヒーローはまだですか!」

今来てくれればちょっと感動。でも現実はそう甘くないわけで。

俺の目が確かなら、さっき亜紀が切り刻んでたのはあいつの父さんだった。

そこまでイカレちまったのか、亜紀。それとも、元からああだったのか?

正面に誰かが立っていた。子供だ。

すんごいイヤな予感。

だんだん近づく。

やっぱり、立っていたのは亜紀だった。

「残念☆ ゲームオーバー、だよ♪」

おい、マジかよ。いったい、いつ抜かされた?

俺はすぐにきびすを返した。

「あ、まだやるんだ♪」

歯を食いしばって走った。そう大して走っていないはずなのに、異様に疲れてる。もうすでに肩で息をしていた。

「はい、鬼さんこちら手の鳴る方へ♪」

そう言って正面で手を叩いている女の子は亜紀だった。

またかよ! ループでもしてんのかそれとも回転床か!? ここ、マンションだぞ!

「もう一回くらいなら付き合ってあげるよー。どうする?」

逃げるに決まってんだろ。今度は右に走ってみた。

「そっちは壁だよ?」

確かに、目の前には壁が立ちふさがっていた。さっきまで無かったはずの壁だ。

どうなってんだ?

俺は慌てて向きを変え、また走り始めた。

やっぱり異様に疲れる。それに、何でいっこうに景色が変わらないんだ!?

それに気がついた時にはもう遅かった。

そしてまた亜紀が正面――今度は手の届くような場所に現れた。

「つーかまーえた☆」

そう言って亜紀は飛びついてきた。情けないことに、そのまま押し倒される俺。疲れて足がガクガクだったせいだ。俺が弱い訳じゃない。

「何で逃げるのかなー?」

「いや逃げるだろ、ふつー」

亜紀はむくれる。こんな時でなければ可愛いしぐさなんだが、正直逃げたい。

しかし、体は言うことを聞いてくれない。

「そんなこというお兄ちゃんはお仕置きね★」

そう言ってドキッとするような顔で笑った。

そして、振り上げられるナイフ。

突き刺さる。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ