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1.C級主義(前)

注意!

この作品には残酷描写が含まれております。

苦手な方はお気をつけください。

 その日はなんか分からないが、早く目が覚めた。

 ねむー……。

 むっくり起きあがって時計を確認。まだ6時。ついでカレンダー確認。まだ2月の半ば。

バイトも休み。つーかそもそも遅番なんでこんな早く起きる理由がないし、大学の用事なんてもっと無い。

 眠いし、もう一回寝直そう。あーでもちょっとトイレ行ってからにすっか。そのついでに牛乳もとってこよ。

 そうして牛乳を取ろうと玄関を開けた。そしたらマンションの通路一面真っ赤だった。

 寝ぼけてるのかと思って、一度引っ込み、もう一回開けてみた。

 やっぱり真っ赤。

 「うわ、なにこれ…………」

 寝起きにこの光景はちょっと刺激的だった。

 壁はそれほどでもないが、前衛芸術的に赤がまき散らされている。

 その上、所々に猫か何かの死体らしきものが散らばっていたんだ。

 なぜ、確信が持てないのかって?

 当然だ。散らばっているのは原形なんかとどめていない肉片だったんだから。

 かろうじて原形を留める耳の一部と鼻の辺りが、元が何の動物であったかを伝えていた。

 朝から猟奇な光景見せられてテンション下がるよ、ホント。

 生臭い臭いが立ち上る。まだ肌寒い時期とはいえ、結構きつい。

 夏場だったらもっと悲惨なことになっていたはずだ。

 とりあえず管理人さんに連絡して片付けるか。

 そう思って自分の部屋に引っ込もうとして振り返った。

 くすくすくす……………

 ゾクッ。そんな寒気がして、思わず後ろを見た。誰も、居ない。

 気のせい? それとも、この時期だからか? 違う。今のはそんな生やさしいモノじゃない。

 確かにアレは、怖いときの感覚だ。それに、誰かに見られている気がした。

 どこに、いる? 今、ドアを閉めても大丈夫なのか?

 風呂場、流しの下の戸棚、押し入れ、タンス、冷蔵庫。その全てが今は怖かった。

 ぞくり。

 その、何かが笑った。それが確信できた。

 近い。

 背中? 違う、あたまの、うえ。何かの気配。

 さぁ、何が、居る!?

 頭上を見ようとした、まさにその時、外から叫び声が聞こえた。

 「きゃあああああああ!」

 「おいなんだよ、これは!」

 あー、他の人たちも起きてきたか。アレが普通なんだろうな。

 彼らのどよめく声にそんなことを思う。

 思い出して上を見るが、何も居ない。さっきの訳の分からない気配もない。

 居なくなったのか。逃げられたのか?

 彼らの叫びに気を取られてしまい、さっきの気配はなんだか分からずじまい。

 俺の顔に笑みが浮かんだ。こういう怪談じみた話は大好物なのだ。友人達から気味悪がられることも多いがな。

 ま、きっと居なくなったんだろうと結論づけて管理人さんに電話するため、部屋に戻った。

 そして管理人さんに連絡して、わりとすぐ警察が来た。

 そう言えばそうだ。こんなもん普通警察が先だよな。

 彼らは一通り捜査して去っていった。イタズラということで落ち着いた。


 その事件からは1週間ほどは変わったこともなく過ぎた。

 あの辺な気配はあれっきりで全く来ない。

 イタズラの犯人は未だに捕まっていないが、あんまり手間がかかかるってあきただろ、警察。

実害ないし。

 その日はゴミの日がだったので朝もはよから起き出した。にもかかわらずゴミを忘れてそのまま散歩。天気もわりかし良くて、朝の湿っぽいようなひんやりした空気があんまりにも気持ちよかったせいだ。エレベーターも使わず地道に階段で1階ずつ下りた。

 植え込みとか他のアパートやらで朝の低い太陽は見えなかったのはちょっと残念だった。

 あ、そもそも西側の階段じゃねぇか。見えるわけないよな。

 アパートの影から日が差すロータリー。そこをのんびり歩いていると、朝練かなんかの学生連中や、日課ジョキングな中年なんかと一緒になったり。

 散歩してるご老人も居て、のどかなモノだ。こういうのはたまになら良いかもしれない。

 早起きは三文の得っていうが、俺の場合は得でなく功徳へのご案内らしい。

 アパートの入り口近くにある植え込みの影で、誰かが除けておいたらしい猫の死体を見つけてしまった。

 とりあえず手を合わせ、散歩を続けた。埋めるにしても道具がなかったし。

 アパートから10分ほど北にいった所にある公園まで歩いていくと、そろそろ通勤時間なのか、スーツの人が増えた。バス停にも人が結構待っている。駅に行く人の中にはゴミ袋を持つ人もいた。

 ん、ゴミ? ………………あ。

 そこでようやく思い出して、家に帰ってゴミを持って大慌てでゴミ捨て場へ。

 出たときはギリギリ収集車の来る前に間に合うかどうかの時間だった。

 セーフ。

 俺が付いたときにゴミ捨て場はまだいっぱいで、収集車は来ていなかった。

 早起きは三文の得なのかな、やっぱり。そんなことを思いながらゴミを置く。カゴの中には入らないのでやむをえず外に置く。

 その時、偶然見つけてしまった。指の入った袋。それは一番下の法に埋もれていて、ちらっとだけ端のほうがのぞいていた。

 少し上のゴミを持ち上げ、確認してみた。

 それは何度見かえしても人間の指だった。よく見てみれば、他にも、血に染まった新聞でくるまれた物がたくさん。

 うわうっそ。警察に通報しなきゃじゃん。

 すぐに俺は携帯を取りだした。

 ギン!

 その時、魂を凍らせるような強い恐怖がした。はっきりと視線を感じる。何かが、睨みつけていた。

 後ろからだ。

 でも、振り向いても、誰も居ない。

 気のせい、か?

 そう思って、改めて110番しようとした。

 「ね、矢部っち」

 つん、とお尻をつつかれた。声からすると、隣の女の子だ。

 ちなみに俺の名前は某有名芸人と同じである。

 「何だよ、セクハラだぜ?」

 見てみると、やっぱり隣の子だった。いろいろあって、何度か面倒見てやっている。名前は、亜紀。確かまだ小4で、この時間は学校にいるはずだが?

 「別にイーじゃん。減るもんじゃないっしょー」

 そうゆう問題じゃないっての。俺は大きくため息をついた。

 「何の用だよ」

 「あ、誰に電話しようとしてたの? やっぱ彼女?」

 俺が携帯を持っているのを見てそんなことを言う。つうかシカトかよ。

 「そうじゃねえって。あー、お前あっち行ってろ。つうか学校行けよ」

 「今日は創立記念。そう言う矢部っちこそ学校は?」

 「春休み。大学生のは長いんだよ。それはともかくあっち行け」

 人の親切が分からないのか、邪険にされたと感じたようで亜紀はむくれた。そしてゴミ袋を蹴飛ばし当たり散らす。俺の出したゴミに。

 「おいおい、仏さんに当たるなよ」

 「うわうっそ何が入ってるのこれ」

 「生ゴミ」

 ちなみに今日は燃えるゴミの日である。この辺りは生ゴミは燃えるゴミなのだ。

 「うっわ」

 亜紀はすんごくイヤそうな顔をした。そして俺のジーンズに蹴飛ばしたつま先をなすりつけた。

 「てめぇ何しやがる!」

 思わず怒鳴った。女の子相手に大人げないとは思ったが、勢いで言ってしまったんだからしょうがない。

 「矢部っちが悪いんだから当然でしょ!」

 亜紀も負けじと言い返してきた。

 「勝手に蹴ったのはお前だろうが!」

 「止めなかった矢部っちが悪い!」

 「聞きもしなかったじゃねぇか!」

 「言われる前に言うのが普通でしょ! 私女の子だよ!」

 理由になってねぇ!

 その言葉は無理矢理飲み込んだ。だめだ。女と喧嘩するもんじゃない。

 最終兵器ロリペドが出る前になんとかしなければ。

 「あー、分かりました。俺が悪うござんした。だから人のジーンズをぞうきん代わりに使うな」

 「じゃ、布持ってきて。拭くから」

 ああもう。収集車がきたらどうすんだ。めんどくせぇな。

 「警察に通報してからな」

 「なにそれ、自首すんの?」

 「なんでだ。人の指があったんだよ。刺激が強すぎるだろうから親切心で行けっつったのに」

 「だったら最後まで気ぃ配ってよバカ!」

 「あー、はいはい」

 亜紀がわめいてるのを無視してプッシュ。だが、聞こえてきたのは圏外を知らせる音声だった。

 あれ、確かここは普通に繋がるはずなのに。壊れたか?

 画面を見れば、確かに圏外になっていた。

 「あれ、っかしいな? 亜紀、すまんがお前の携帯貸して。俺の繋がんねぇや」

 「ねぇ、人の指ってこれ?」

 「おいこら」

 亜紀は例のゴミをじっくり観察していた。俺が持ち上げた影響で、中身が少し見やすくなっていたのだ。それを、亜紀は恐がるどころかものすっごい冷静に眺めていた。

 「ああそうだよ。だから携帯……」

 俺は少し焦って言った。正直亜紀に見せたくなかった。

 「なぁ。おい。そう言うのはあんまじっくり見るもんじゃねぇだろ」

 亜紀は指を観察していた。小声でぶつぶつ何か言いながら。鼻歌のようにも聞こえる。何が面白いんだろ。にしても恐がれよ。悲鳴くらい上げてくれ。

 「…………これ、作り物だよ」

 じっくり観察した亜紀から告げられる衝撃の言葉。

 「うそぉっ!?」

 それが本当なら、すっかり騙されたことになる。

 「どこらへんがだよ!」

 「ほら、よく見なよ。どう見ても紙粘土じゃん」

 「うあ、本当だ」

 もう少しで警察にかけるとこだった。ちゃんと見てみればちゃちな作りだし、どうして本物と見間違えたんだろ。

 「この血のりはトマトケチャップかなんかか。人騒がせな」

 「そうだね」

 ちょうどそこに収集車がやってきた。俺と亜紀は横に除けた。

 収集の人もその袋の中を見たときに見間違えて大声挙げて、俺たちに指摘されてほっとしていた。

 ちょっと安心。俺だけじゃなかった。でも、何であんなちゃちなのを見間違えたんだろ。

 不思議に思ったが、一週間前のこともあったし、そんなこともあるんだろうな、でこの時は済ませてしまった。

 この後俺は、もう少し怪しむべきだったと後悔することになるのだが。


 それはバイト帰りのことだった。4時くらいだと思う。

 駅前の広場で、亜紀を見かけたんだ。

 最初は広場のリス像の前にどっかで見たことある女の子が居るな、くらいにしか思わなかった。

 何で目に付いたのか?

 なんせ、かなり物騒な雰囲気、まるでこれからケンカに行きますって風だった。それか、『今殺りにいきます』にのりそうな感じ。

 そんな感じで普段の雰囲気と全然違って、亜紀だとは全く気がつかなかった。

 だが、出がけに見たカッコそのままだったのと、ときおり爪を軽くかむ癖で見当が付いたのだ。

 あれは亜紀、だな。 なにしてんだ?

 亜紀は、ときおり落ち着かない様子で辺りを見回したりしていた。

 誰か待ってんのか。あの娘か? ちがう。じゃあ、あっちの? それも違う。まさか、あのヤマンバ、ってえええ!?

 亜紀に近付いて、声をかけたのはやせ形メガネのオタクっぽい男だった。

 ボタンをしてないチェックのシャツから、下の服をさらしているが、正直引いた。

 その服には思いっきりでっかくアニメ絵の女の顔がプリントされていた。

 男でしかもキモオタかよ!? あいつに兄貴いねぇしてか、お前それ犯罪!

 その男と、亜紀は何か話していた。亜紀の顔に笑顔が浮かぶ。マジか。

 そして二人はそのまま連れ立って繁華街の方へ歩いていった。

 ホテル行くか? 行かないよな。行ったらマジで犯罪だ。

 それでもちょっと気になって後を追いかけた。

 そしたら、二人はボロボロになった廃ビルに入っていった。

 俺も後からこっそり入って、どの部屋に入ったかを確認。1階の一番奥。

 後ろを振り返ることもせず、パタンと戸を閉めた。

 しばらく様子をうかがい、こっそりそのドアに近寄って、覗く。

 その部屋の中はすでに片付けられていて、全く何もない。

 電灯を誰かが改造したのか、真っ赤な灯りが照らし、なにやらヤバイ雰囲気を作っている。

 そんな部屋の中心に、二人は座っていた。

 あの男は亜紀によだれ垂らしそうな顔で迫ってる。

 亜紀がこっちに背を向けているので、どんな顔をしているのかは分からなかった。

 おいおい。何でこんなん見なきゃなんねぇんだよ。

 俺は踏み込もうとも思ったが、もうしばらく見ていることにした。何故なら亜紀は、男の行為を嫌がっている風でもなく、されるがままになっていたのだ。

 だけどそれは、唐突に終わった。

 一通り体をまさぐってガマンできなくなったんだろう。

 亜紀を裸にしようとした男が服に手をかけた瞬間。

 急にその動きが停止した。動画の一時停止を押したみたいに、だ。

 ぞくり。また、あの寒気。

 くすくすくすくす。

 あの時の笑い声。亜紀の方からだ。どうやら笑っているらしい。

 亜紀は男の手から逃れると、手を一閃。その手にはいつの間にかナイフが握られていた。

 バッ、と血が飛び散る。部屋が、真っ赤に染まる。

 亜紀は立ち上がり、つま先でリズムを取るように床を叩く。

 そして。

 「すっぱずっぱびっちゃざっぱ首を切るー♪」

 亜紀は、とある団体の替え歌を歌い出す。

 「切ってーけずるーネズミがた♪」

 歌いながら、亜紀は男を切り刻んでいく。有名なネズミ型に。

 耳、頭、鼻。

 元の形なんて見る影もなく。体なんて完全にバラバラだ。

 あのとき、廊下に散らばっていた猫みたいに。

 もしかしてあれは、亜紀がやったのか。なぜだか確信。今の光景で納得。

 吐き気がこみ上げるかと思ったが、赤い光のおかげでどこか現実離れしているため、映画化何か見ているようだった。

 「たーのしたのし♪ ハッピーハッピー♪」

 亜紀はどうやら満足したらしく、奴を切り刻むのを止め、体に付いた血をぬぐった。

 そして、死体を集めてどこからか取り出した半透明のゴミ袋の中へ。

 「かったづっけ、かったづっけ しないとだっめよ♪」

 この最中も亜紀は歌う。相変わらず訳の分からない替え歌だった。

 さすがにこれ以上ここにいるのはやばい。そう思って俺は静かに逃げようとした。

 しかし、うっかりドアを閉めるときに音を立ててしまう。

 ヤバイ。

 「とんとんとん、どちらさま?」

 そんな声を聞きながら脱兎のごとく逃げ出した。

 クスッ。そんな笑い声を聞いた気もした。

 その日、俺はどうやって帰ったのか覚えていない。気づけば、家にいた。



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