なにが起きた?
後悔。それは前に進むための力か、その場にとどまらせる足枷か。
「はぁ………」
(これからどうしようか。いやどうにもならないか。すでに一度留年しているのに。またか。)
これ以上現実を見たくない。見たくもないメールが積もりに積もっている。聞きたくもない電話も鳴る。
「はい」
「あ、もしもし相川君?ちょっとだけ話あるんだけど時間大丈夫かな?」
「大丈夫です」
「あのね、ほんと言いにくいんだけど、率直に言うと相川君にはバイト辞めてほしくて。ほら、もう何週間も出勤してないじゃない?それにこんなこと言うのもなんだけど、あまりほかの人ともコミュニケーション取れてないじゃない?だからかほかの人からの声もあって、こっちとしても対応せざるを得ないというか…」
「あ、そうなんですね。わかりました。ありがとうございました。」
(なんだよ、おれが一番勤務年数長いのに。とってつけたような理由で。てかわざわざ人間関係がうまくいってないこと言わなくていいだろ。)
どこにぶつけたらいいかわからない苛立ちが悶々と部屋中に立ち込める。
(とりあえず金稼がなきゃな…)
手当たり次第に割のいいバイトを探してみる。
(これだ。)
何に対してか、形容しがたい確信をもって応募した。
ある日、おれは病院にいた。なぜか?”治験”だ。
(薬を使うだけで金がもらえるだって?おれにピッタリじゃないか)
「治験は初めてですか?これから説明しますのでよく聞いてくださいね。まず、今回投与させていただくのは…」
どうでもよかった。おれの頭の中は空っぽだった。2週間の入院を経ておれは退院した。契約手続きでは驚いた。そこそこ儲かるとは聞いていたがこれほどとは。これから入る金額を考えるとどこからともなく多幸感が押し寄せてくる。
(なんだ、簡単じゃないか。これからも治験で十分じゃないか。まったく、今までの苦労はなんだったのやら。)
数か月が過ぎた。おれはまた同じ病院にいた。なぜか?残念なことに”あれ”じゃない。いや、関係はしているが。
「相川さんのお体を検査したところ、神経系の伝達に問題がありそうですね。もう少し大きい病院で精査してみましょう。」
「い、いや、どういうことですか!?なんで足が動かしづらいんですか!?」
「相川さんどうか落ち着いて。大きな病院で検査してみないとなんとも言えないんですよ。」
「ちがっ…!」
「とりあえず紹介状渡しますから、そこで診てもらってください。」
(そうじゃなくて、なんでだって!専門的なことは知らないが原因が知りたいんだよ!生活もままならないし…、これからだってあるのに!ああもう頭がまとまらん…)
「これ、末梢神経が変な反応起こしてますね。前に治験したって言ってたけどそれじゃないかな。薬剤的にも神経系に作用するものが使われているのでそうだと思います。」
「じゃあ、治験の後遺症ってことですか?」
「その可能性が高いですね。治験をした病院と連絡をとって補償等のお手続きをすることをお勧めします。」
「え、あの、治らないんですか?」
「うーん、わからないですね。ただ神経の回復には時間がかかりますね。それも結構強めの薬で、かつ安全性の保障がされていない薬を使われてるので治らないことも視野に入れておいたほうがいいでしょう。」
「そんな…」
唖然とした。どうしてこうなった。リスクは低いと聞いたのに。家に帰るのも精いっぱい。虚しい。つらい。憎い。苦しい。つまらない。
死ぬか。
希望を見いだせたと思った。人生なんとかなると思った。甘かった。なんなんだよ。つまらない。死んだらどうなるのかな。もともと興味はあった。でも勇気はなかった。ちょうどいい機会じゃないか。こんな世界とはオサラバしてやるよ。
結局死んだらどうなるのかな?神なんてものがいるとは思えないし、演算的なシステムなのかもな。そうなるとこの後は記憶がなくなって新たな生を送るってのが定石か?まーどうでもいいわな。
ん?
いまおれはなにをしてる?しんだはずだよな?あれ?どうしっっ……!!??
いたいいたいいたいいたいいたいいたい
な、なんだ、なにが、いたい、どういうこと、いたい
「っ…!」
(どこだ?え、実家?どういうことだ?)
「なんで実家にいるんだおれは。二度と戻る気なんてなかったのに。今何時だ?9時か。てか今いつだ?2010年!?え、でもおれは大学生で、留年して、バイトクビになって、だから治験して、あっ」
足が動く。それも前よりも軽やかに。
(頭がぐちゃぐちゃだ。なにが起きてるんだ。)
ドアが開く。
「朝からうるさいんだけど。全部聞こえてっから。中二病?頭狂ってんじゃないの?」
「ご、ごめん」
「うわ、お前なに泣いてんの。きも。」
バタン!と古い木のドアが大きな音をたてて閉まる。
姉だ。おかしい。ずっと前に死んだはず…。
状況を整理しようにも多すぎるため、とりあえずノートに書きだしてみた。今は2010年3月の春休み期間。4月から中学生。確かにおれは大学生まで生きた記憶を持っている。碌な人生ではなかったが。
こんなことあり得るんだろうか。夢かとも思ったがあまりにもリアルすぎる。
(もしかして人生をやり直すチャンスなんじゃないか?あんなクソみたいな人生を送るのを避けるためにこうなったのか?)
渡りに船とはまさにこのことだろうか。とはいえ入学式まで暇だ。同じ轍を踏まないためにはどうするべきか。
「勉強でもするか…」




