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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第4話 放課後、桂川モール作戦、そして「知り合い程度」包囲網

放課後、桂川モール作戦、そして「知り合い程度」包囲網

昼休みの弁当事件から、秀吉の周囲の空気が、ほんのちょっとだけ変わった。

ほんのちょっと、や。

たぶん。

きっと。

……知らんけど。

(いや、変わってるわ)

教室の端っこで、羽柴秀吉は机に突っ伏した。

「なあ羽柴、今日も家政科の子から弁当もろたん?」 「もろてへん! 食べただけや!」 「食べたんやん」 「そこ強調すな!」

男子の視線がチクチク刺さる。

何やねんこの空気。入学一週間やぞ。

「秀吉」

冷静な声。前田まつや。

「……自業自得やで」 「どこが!?」 「“知り合い程度”言いながら、だし巻き褒めた」 「褒めたらあかんの!? おいしいもんはおいしいやろ!」 「そういうとこや」

まつは斜め上から裁くように頷いた。

裁判官か。

「利家も悪い」

まつは続けて言う。

「お前が『食べたれ』とか言うから」 「ええやん! 平和やん!」 「平和に見えて、火種や」 「火種て! 弁当が!?」 「弁当は火種になる」 「哲学やめろ!」

その時、前の席から振り返る大男。

「秀吉ぃ、放課後、桂川モール行こや!」 「お前は元気やな!」 「俺は常に放課後の準備できてる!」 「何の準備やねん!」

利家の提案に、まつが即座に食いついた。

「……桂川モール、ええな」 「まつ、行くん!?」 「新しい出汁パック見たい」 「目的が主婦やん!」 「うるさい。未来の管理栄養士や」

いや、高校一年生やぞ。

(……でも桂川モールは確かに便利や)

映画館もあるし、本屋もあるし、フードコートもある。

放課後の鉄板コース――の、はず。

けど今日の秀吉は、嫌な予感がしていた。

そして予感を現実にする声が、背後から飛んできた。

「桂川モール!? 行く行く!!」

高台寺寧々。

息するみたいに参加してくる女。

「寧々、お前は家政科やろ。今日は実習ちゃうん?」 「実習は終わった! 勝利や!」 「何に勝ったんや」

寧々は秀吉の机に両手をついて、顔を近づけた。

「秀吉くん、モール行こ。

今日こそ“仲良うなる”日や」 「“知り合い程度”でええ言うてるやろ!」 「知り合い程度は、伸びしろや!」 「ポジティブ変換うますぎる!」

利家がゲラゲラ笑う。

「秀吉、ええやん! 女子とモール! 青春や!」 「お前、青春を言葉で食うな!」 「食うで!」 「食うな!!」

まつが利家の頭をパシン。

「利家、黙れ。

秀吉、行くなら行く。行かんなら行かん。はっきりせえ」 「なんでまつが取り仕切ってんねん!?」

まつは真顔で答えた。

「利家が暴走したら、店が閉まる」 「ラーメン屋の危機管理!?」 「危機管理や」 「真顔で言うな!」

……この二人、恋人ちゃう。監督と選手や。

放課後。桂川駅。桂川モール。

駅からモールまでの連絡通路は、部活帰りの高校生だらけ。

制服の波に紛れて、秀吉たちは歩いていた。

利家が先頭。道を開く。

まつがその後ろ。利家の首根っこを見張る。

秀吉はその横。

そして寧々は――なぜか秀吉の横にピッタリ。

「近い近い! 歩幅合わせんな!」 「合わせるに決まってるやろ!

うち、京都の女やで? 間合いが大事や」 「武士みたいな言い方すな!」

寧々はニヤニヤしている。

そして急に、声のトーンを落とした。

「なあ、秀吉くん」 「……なんや」 「今日、音楽ショップ行くん?」

秀吉の心臓がピクッと跳ねた。

「……なんで知ってんねん」 「昼休み、利家が言うてた」

「利家ァァァァ!!」

秀吉が叫ぶと、利家が振り返って満面の笑み。

「え? ええやん! ギターやろ?

秀吉、ギターうまいもんな!」 「言うな! 広げるな! 燃える!」 「燃えるって何が!? 才能が!?」 「黙れ!!」

まつが冷たい目で利家を見る。

「利家、余計な情報は口から出すな。

胃袋だけ出しとけ」 「胃袋は常に出てる!」 「出すな!」

寧々は目を輝かせた。

「ギター!?

秀吉くん、弾けるん? なにそれ、カッコええやん!」 「カッコええとか言うな!

期待されたら手震えるやろ!」 「震えたら、うちが押さえたる」 「怖いわ!」

秀吉は寧々の圧に押されて、思わず早歩きになった。

(……いや、なんで俺、逃げてんねん)

ノリツッコミで自分に腹が立つ。

モールの中。

本屋の前で、まつが止まる。

「秀吉、進路の資料、見とけ」 「まだ入学一週間やぞ」 「一週間やから見とけ」

「お前、人生五十年の計画立てる勢いやな」 「ラーメン屋は計画が命や」

利家が横から割り込む。

「俺はプロになるから進路とか関係ない!」 「それが一番危険や」 「危険!?」 「夢はええ。

でも、現実も食え」 「現実はどこで売ってるん!?」 「売ってへん!」

寧々は甘味屋の前で止まった。

「秀吉くん、抹茶パフェ食べよ」 「急やな!?」 「急やない!

京都の女は抹茶で人生を決める!」 「決まらんわ!」

秀吉は逃げるように、音楽ショップへ向かった。

「俺、譜面買うし」 「行く!」 「来んな!」

当然みたいに寧々がついてくる。

「なあ、秀吉くん」 「……なんや」 「うち、弓道やってる言うたやろ」 「言うたな」 「弓ってな、構えたら最後まで引ききらなあかんねん」 「急に何の話!?」

寧々は真顔で言う。

「うちも、構えたら引ききるタイプや」 「恋の話に弓持ち込むな!」 「恋ちゃうし!

まだ知り合い程度やし!」 「その言葉、便利に使いすぎやろ!」

棚に並ぶギター譜面。

秀吉は真面目に探すフリをしながら、内心焦っていた。

(……このままやと、

“知り合い程度”が“いつメン”に格上げされる)

その時、背後から静かな声。

「……羽柴くん、ギター弾くん?」

振り返ると――京極竜子がいた。

普通科の同級生。静かで優しい子。

「え、竜子ちゃん!?」 「偶然。映画見に来てて」

竜子は落ち着いた笑顔で棚を見る。

「譜面、探してるん?」 「……うん、まあ」

寧々が、スッと間に入る。

「秀吉くん、ギター弾けるんやで。

ちょっとカッコええねん」 「余計な紹介すな!!」

竜子がふふっと笑う。

「そうなんや。すごいな」 「いや、すごくない。

ただの趣味」 「趣味でも、ええやん」

竜子の言葉は刺さらへんのに、ちゃんと届く。

不思議な子や。

その横で、寧々がじっと竜子を見ていた。

(……あ、これ)

秀吉の背中に冷たい汗が流れる。

(“知り合い程度”の関係が、

ここで変な方向に進むやつや)

遠くから利家の声。

「秀吉ー! プリクラ撮ろやー!」 「撮らん!」 「青春やー!」 「青春の強要やめろ!」

まつが利家の耳を引っ張る。

「利家、黙れ。

今、修羅場が芽生えかけてる」 「芽生えかけてるって何!?」 「空気読め」

桂川モールの音楽ショップ。

譜面一冊買いに来ただけやのに、秀吉はなぜか人生の分岐点に立たされていた。

(……俺、まだ入学一週間やぞ!!)

春は、容赦がない。

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