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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第39話 理性、死にかけ。伏見男子、烏丸まで護送(※デートちゃう)

――GW・錦市場 伏見酒造店/秀吉部屋→阪急 烏丸駅――

 夕方。

 窓の外の錦市場は、昼の地獄みたいな人混みが少し引いて、代わりに「観光客の満腹感」みたいな空気が漂ってた。

 呼び込みの声も、ちょっと枯れてる。

 ――で、秀吉の理性も、ちょっと枯れてる。

(耐えた……)

(俺、今日、耐えた……)

(偉い……)

 秀吉は机に突っ伏しそうになりながら、シャーペンを置いた。

 数学の問題集は開いたまま。

 ノートには計算跡。

 そして、机の端に、寧々のペンケース。

 横を見ると、寧々が伸びをしてる。

 黒髪ロングがふわっと揺れる。

 それだけで、心臓が鳴る。

「……終わった?」

 寧々が、目を細める。

「終わった。俺が」

「何が?」

「理性」

「まだ言う」

「今日の理性、九死に一生や」

「大げさ」

「お前が大げさや!」

 寧々は、くすっと笑って、机に頬杖をついた。

「秀吉、よう頑張ったな」

「お前が言うな」

「褒めたる」

「褒めんでええ!」

「褒めたら伸びるやろ」

「俺、伸びたらあかんとこまで伸びる」

「何が?」

「……心臓」

「それ病気やん」

 寧々がノートを閉じて、鞄を肩にかける。

「ほな、帰ろ」

「うん」

「送って」

「……え」

 秀吉の脳内で、警報が鳴った。

 “二人きり危険区域、継続”のやつ。

「え、いや、送らんでも……」

「送って」

「……なんで」

「京都の夜、舐めたらあかん」

「今、夕方や」

「夕方から夜は一瞬や」

「論理が雑」

「うちは押し強いねん」

 秀吉は、ため息をついて立ち上がった。

「……烏丸までな」

「よろしい」

「よろしい、ちゃう」

 寧々が、当然みたいに手を伸ばしてきた。

 秀吉の手の近くに、ふわっと。

(あかん)

(手繋ぎコース入った)

 秀吉は、さっと手をポケットに突っ込んだ。

 高速回避。

「……秀吉」

「な、何」

「逃げたな?」

「逃げてへん。寒いねん」

「今日あったかいわ」

「心が寒い」

「何それ」

「俺の理性が凍えてる」

「意味わからん」

 寧々が、ぷいっと前を向いて歩き出す。

 でも、歩幅がちょっと小さい。

 横並びを狙ってる。

 わざとや。

(可愛いな、くそ)

(あかん、褒めたら負けや)

■ 錦市場→四条あたり:京都の小ネタと地雷

 二人で階段を下りて、店の前へ。

 錦市場の通りは、串やら漬物やら、湯気と匂いのパレード。

「なぁ寧々」

「ん?」

「今日、まつも竜子もおらんかったし……」

「せやな」

「……助かった」

「は?」

 寧々、ピタッと止まる。

「助かった?」

「いや、違う。言い方が悪かった」

「どこが違うねん。今の、“寧々だけやったから助かった”って聞こえたわ」

「ちゃうちゃうちゃう!」

 秀吉は、慌てて手を振る。

 錦市場の観光客がちらっと見る。

 恥ずい。

「誤解やって!」

「誤解やったら、正解言うて」

「正解って何」

「うち、何?」

 寧々の目が、まっすぐ刺さる。

 可愛いのに、刺さる。

 秀吉は、喉を鳴らしてから、小声で言う。

「……楽しかった」

「……」

「勉強も、話も」

 寧々の表情が、ふっと柔らかくなる。

 けど、次の瞬間、悪い顔が戻る。

「“うちと二人きり楽しかった”って言い直して」

「言わん!」

「言え!」

「脅迫や!」

「愛情表現や!」

 秀吉、もう何が何やら。

■ 四条→烏丸:伏見男子、耐久戦

 四条通りの人混み。

 京都は観光客と地元民が交差して、いつでも小さな戦場みたいになる。

 寧々は、当然みたいに秀吉の袖をつまむ。

 ――袖。

 手じゃない。

 でも、距離は近い。

「……それ、やめ」

「迷子防止」

「誰が迷子や」

「秀吉」

「俺、烏丸まで何百回行ってる思てんねん」

「心が迷子」

「うるさい」

 寧々は、楽しそうに歩きながら、ふっと言う。

「秀吉、今日な」

「ん?」

「うち、ギア上げたやろ」

「上げすぎ」

「せやろ?」

「反省せぇ」

「反省せえへん」

「なんで」

「だって、二人きりやったし」

「それまた言う!」

 秀吉の理性が、またギシッと鳴った。

 さっきまで持ち直してたのに。

 京都の恋は、しつこい。

(俺、ほんまに耐えたんか?)

(今も耐えてるやん)

■ 烏丸駅:護送完了(※デートちゃう)

 阪急烏丸駅の入口。

 人の流れが吸い込まれていく。

「ほな、ここまで」

 秀吉が言うと、寧々は立ち止まった。

「……うん」

 寧々は、少しだけ目を伏せる。

 いつもの勢いが、ほんの一瞬だけ静かになる。

 その静けさが、逆にズルい。

 胸がきゅっとなる。

「秀吉」

「……何」

「今日、よう頑張ったな」

「……お前が言うな」

「でも言う」

「……俺も思う」

「え?」

「今日の俺、褒めたい。耐えた」

 寧々が、くすっと笑う。

「耐えたって、何に」

「……寧々に」

「は?」

「ちゃう!言い方!」

「最悪やな」

「最悪ちゃう!」

 寧々が一歩近づく。

 秀吉、反射で半歩下がる。

「逃げんな」

「逃げてへん」

「逃げとる」

「……じゃあ、約束する」

「何を」

「……次も、ちゃんと向き合う」

 寧々の目が、少し潤む。

 でも泣かへん。

 泣かんで笑う。

 それが寧々や。

「……うん」

「……うん」

 沈黙が落ちる。

 人の流れの中で、二人だけ静か。

 寧々が最後に、にっと笑って言う。

「ほな、また明日」

「……明日も来る気か」

「当たり前や。GWやで?」

「地獄長いな」

「地獄ちゃう。恋や」

 寧々は改札へ消えていく。

 黒髪が人波に飲まれる前、ちょっと振り返って、小さく手を振った。

 秀吉は、見送ってから、ふーっと息を吐いた。

(今日の俺、ほんまに耐えた)

(……耐えたよな?)

 胸の奥が、妙にあったかい。

 理性は死にかけ。

 でも、心は少しだけ前に進んでしまってる。

 伏見の男、今日も通常運転――

 いや、通常運転のフリをした、恋の耐久走。

――つづく。

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