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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第31話 GW2日目 勉強会(※名目) ――錦市場 伏見酒造店/秀吉部屋――

GW二日目。

 京都の朝は、観光客のスーツケースのゴロゴロ音から始まる。

 四条の空気はすでに甘い。クレープと抹茶と、謎の外国人テンションの匂い。

 ――そして今日、恋もテンションも、朝から全開や。

■ 四条大橋集合、恋の作戦会議(※昨晩済み)

「まつ! 早いな!」

「うち、いつも早い。寧々が遅いだけや」

「遅ないわ! 今日はな、勝負の日やし、時間かけて髪巻いてたんや」

「巻くとこあるんやな」

「あるわ!! なめんな!」

 高台寺寧々は、カバンを両肩に背負って、四条大橋の上で胸を張った。

 そのカバンのチャーム――紫のぬいぐるみ、パーサくんとコトノちゃんが、ぶらぶら揺れる。

 まつがそれをチラ見して、鼻で笑う。

「また連れてきたん」

「当たり前やん。宝物やし」

「宝物、毎日外気浴させてるな」

「外気浴ちゃう! 見せびらかしや!」

「正直すぎるわ」

 寧々は昨日の夜、鴨川で散々泣いて、散々喋って、散々腹立てて、

 結論を出した。

(今日、先手取る)

(胃袋から攻める)

 昨日は言葉でぶん殴ってしまった。

 今日は、料理で落とす。

 ――京女の戦い方は、いろいろあるんや。

 まつが、さらっと言う。

「今日の昼ご飯、寧々がメインで作り。うちは黒子する」

「え、ほんまに?」

「ほんま。寧々、家政科やろ。和裁も洋裁も出来るし、料理も出来る。

 “家に入る”って言うたんやし、まず台所で存在感出し」

「……まつ、あんた天才?」

「違う。管理栄養士の卵や。戦略も栄養も計算する」

「かっこええ……」

「惚れんなよ。利家に殺される」

「殺されへんわ!」

 まつは、寧々の肩をポンと叩いて言った。

「狙いはな、秀吉の胃袋と“安心感”や」

「安心感……」

「竜子は“女らしさ”で来る。多分」

「女らしさ……」

「寧々は“生活力”で殴れ」

「殴るなや!」

 四条大橋の欄干にもたれ、鴨川をちらっと見る。

 昨日泣いたベンチが、遠くに見える気がした。

(泣いてる場合ちゃう)

(今日は炊くで、味噌汁でも恋でも)

■ そのころ竜子、下京の自室で静かに燃える

 一方その頃、京極竜子は鏡の前にいた。

 白い指で、髪をひと房整える。

 いつもの制服やない。

 今日は私服。

 薄いベージュのカーディガンに、落ち着いたスカート。

(……やりすぎたらあかん)

(でも、いつも通りすぎてもあかん)

 竜子は、頬にうっすらチークをのせる。

 リップは控えめ。

 香水はつけへん。

 御茶屋の娘は、匂いで主張しすぎへん。

 襖の向こうでは、朝から父と母がまた吠えてる。

「今日は阪神勝つ!」

「オリックスは粘る!」

(……うるさい)

(でも、うちも今日は粘る)

 竜子は小さく息を吐いた。

(寧々、昨日泣いてた)

(気持ちは、わかる)

 自分も、言うた。

 静かに。

 でも確かに。

 だから今日は――

 押さへん。

 けど、引かへん。

(恋人になりたい、やない)

(“そばにいる人”になりたい)

 竜子はバッグを持って、家を出た。

■ 錦市場へ向かう二人、観光客地獄でツッコミ祭り

「なぁ寧々、錦、人多いで」

「GWやし! 京都は観光客の胃袋で出来てる!」

「怖い例え」

「見て! あの外国人、たこせん食べながら抹茶ラテ飲んでる!」

「胃、強すぎる」

「秀吉も胃強い?」

「そこに繋げるな」

 四条から錦へ。

 観光客の波をかき分け、二人は伏見酒造の店に着いた。

 表の暖簾が揺れてる。

 酒瓶の光がキラキラして、朝から“老舗感”が圧でくる。

「……入るで」

 寧々が小声で言う。

「……入るんやな」

 まつが頷く。

「家に入る覚悟ってやつや」

「まだ入籍してへん」

「心は入籍済みや!」

「ややこしいわ!」

■ 秀吉部屋、朝から地雷処理班

 二階。

「おはよー……」

 扉を開けた秀吉は、寝癖を隠しきれてへん髪で、すでに負けてた。

「はよ」

 寧々が一歩踏み込む。

「お、おはよう……」

 秀吉が目を泳がす。

 昨日の告白がまだ床に落ちてる空気。

「……元気ないな」

 寧々が睨む。

「元気や」

「嘘つけ。顔が“罰ゲーム”」

「罰ゲームちゃう!」

 まつが横から、いつもの調子で入る。

「秀吉、まず歯磨きしてこい。恋の前に口臭は犯罪や」

「犯罪て」

「恋愛の近距離戦では、武器になる」

「武器ちゃうやろ!」

「武器や。口臭は“地雷”や」

「今日、地雷多いな!」

 秀吉が逃げるように洗面所へ行った瞬間――

 寧々は勝利の拳を握った。

(よし、台所や)

(胃袋作戦、開始!)

 まつが小声で言う。

「落ち着け。今日の目的は勉強会や」

「名目やろ」

「正直すぎる!」

■ 竜子、登場。静かな圧

 ピンポーン。

 階段の音。

 竜子が上がってきた。

「おはようございます」

 声が落ち着いてる。

 服も落ち着いてる。

 でも――落ち着きすぎて逆に強い。

 寧々が目を細める。

(……女らしさで来よった)

 竜子は寧々を見て、にこっと微笑む。

「寧々さん、早いですね」

「竜子も早いなぁ」

「……今日は、勉強会ですから」

「せやなぁ(圧)」

「せやね(圧)」

 空気が、ぴしっと固まる。

 その瞬間、洗面所から秀吉が戻ってきた。

「お、竜子おはよ」

「おはよう、秀吉」

「……おはよう、秀吉くん」

「おはよう、寧々」

 秀吉は気づいてへん。

 この部屋に今、戦国時代並みの火種があることに。

 まつが、机に参考書をバンと置いた。

「ほな、座れや三人。まず英語や。

 恋愛の前に中間テストや。落ちたら全員地獄や」

「まつ先生……」

「うちは管理栄養士志望やけど、今日は教師や」

「何の資格やそれ」

「ツッコミ資格一級や」

■ 勉強会、開始(※開始はした)

「……えっと、これが不定詞で」

 秀吉が説明する。

 地頭はええのに、恋の問題だけ解けへん男。

 寧々はノートに書きながら、チラチラ秀吉を見る。

(昨日の告白、忘れたふりしてへんよな?)

(今日、逃げたら許さへん)

 竜子は静かにペンを動かす。

 視線は落ち着いてるのに、耳だけは秀吉に向いてる。

(声、近い)

(昨日より、近い)

 まつは二人を交互に見て、心の中で叫ぶ。

(……勉強せぇや!)

(恋で集中できひんの、栄養足りてへんぞ!)

 そして、開始から三十分。

 寧々が言うた。

「……なぁ、ちょっと休憩しよ」

「早いわ!」

 まつのツッコミが即入る。

「脳みそ糖分欲しがってる!」

「糖分なら台所に――」

 秀吉が言いかけた瞬間、

 寧々が立ち上がった。

「台所? 任せて」

「え?」

「今日、昼はうちが作る」

「……寧々が?」

「うん。まつは黒子や」

「黒子て何」

「裏方ってことや。秀吉、黙って座っとき」

「はい……」

 竜子が、静かに微笑む。

「じゃあ、私もお手伝いします」

「え?」

 寧々が振り向く。

「お手伝い、させてください」

 竜子はにこやかに、しかし引かない。

 まつが、間に入る。

「はいはい、台所は狭い。

 全員入ったら“京都の路地”みたいに詰まる。

 役割分担な」

 まつが指を折って言う。

「寧々:主菜担当」

「うん!」

「竜子:盛り付け&お茶担当」

「はい」

「秀吉:邪魔せん担当」

「え、俺何もせぇへんの?」

「せんでええ。お前が動くと地雷踏む」

「地雷扱いひどい!」

 寧々と竜子の目が、ほんの一瞬、火花を散らした。

(負けへん)

(負けません)

 まつは、冷静にキッチンへ向かいながら、心の中でぼやく。

(……これ、勉強会やったよな)

(なんで昼飯が“天下分け目”になってんねん)

 秀吉は机に戻され、参考書を開いたまま固まっていた。

「……GW、こわい」

 伏見の男の弱音が、部屋に落ちた。

 そして台所からは、包丁の音と、恋の気配がする。

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