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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第28話 帰りの鴨川(寧々目線) ――恋は、袖を濡らして、鴨川に流すもんや――

伏見酒造の二階。

 秀吉の部屋を出た瞬間から、寧々の胸の中はずっとやかましかった。

(言うてもた……)

(言うてもたぁぁぁ……!)

 恋の告白をした後って、もっとこう、キラキラしてるもんやと思ってた。

 ちゃう。

 現実は、心臓が太鼓みたいに暴れて、喉がカラッカラで、足の裏が浮いてるみたいで、しかも――

(顔、赤いん止まらん!)

 地下鉄やったらまだ誤魔化せた。

 でもここ京都。

 夜風が優しいぶん、恥ずかしさが骨まで沁みる。

「寧々、歩くスピード早すぎ」

 横で、まつが言う。

 西京訛りのツッコミが、いつもより柔らかい。

「早ない!」

「早い。恋で歩幅伸びとる」

「伸びてへんわ!」

「伸びてる。地面に証拠残っとる」

「残るかい!」

 まつは肩に鞄をかけ直して、ため息をついた。

「……ほんま、今日の寧々は大暴れやったな」

「大暴れ言うな」

「暴れたやろ。あれ告白ちゃうで。恋の突撃や」

「突撃がうちの標準や!」

「自慢すな!」

 錦市場から四条方面へ抜ける道は、観光客でまだ混んでる。

 カップル、家族連れ、外国人、修学旅行生。

 みんな楽しそうで、すれ違うたびに寧々の胸が、ちくっとする。

(……うちも、楽しみたいのに)

(なんでこんな苦しいん)

 四条通りのネオンが眩しくて、目が痛い。

 目が痛いだけや。

 泣いてへん。

 泣いてへん、はず。

「ほな、鴨川寄って帰ろ」

 まつが言った。

「……うん」

 寧々は短く返事した。

 四条大橋を渡る。

 橋の上は風が強い。

 春の夜やのに、少し冷たい。

 でもそれが、今の寧々にはありがたかった。

 鴨川。

 京都の人間は、何かあったらここに来る。

 嬉しくても、しんどくても、腹立っても。

 結局ここや。

 鴨川は、いつでも受け止めてくれる顔しとる。

 川沿いのベンチに、ふたりで座った。

 等間隔に座るカップルらの間に、女子二人。

 まるで「恋の戦場から帰還した兵士」みたいや。

「……寧々」

 まつが、真面目な声になる。

 それだけで、寧々の喉が詰まった。

「……何」

「ほんまに、好きなん?」

「……当たり前やろ」

「当たり前でも聞く。確認や」

「まつ、今日だけやたら優しいやん」

「親友やし」

「……ずるい」

 ずるいのは、まつの優しさやない。

 秀吉や。

 寧々は川を見つめたまま、ぽつりと言う。

「……うちな、腹立つねん」

「何に」

「秀吉に」

「それは知ってる」

「腹立つのに、好きやねん」

「それも知ってる」

「知ってるなら助けろや」

「どう助けんねん。恋は本人が地獄見るやつや」

 まつ、正論で殴ってくる。

 でもそれが、ありがたい。

 寧々は笑おうとして、笑えんかった。

 喉がふるえる。

「……今日さ」

「うん」

「うち、言うたやろ」

「言うたな」

「“大事や”って」

「言うた」

「そんで“好きや”って」

「言うた」

 まつが、いちいち復唱する。

 まるで供養みたいや。

 寧々の心臓が、そのたびに跳ねる。

「……あんな言い方、あかんかったかな」

「何が」

「もっと、可愛く言うとか……」

「寧々が可愛く言うの、逆に怖いわ」

「なんでや!」

「“静かに好き”とか言い出したら、世界終わる」

「終わらんわ!」

 でも、寧々はわかってた。

 あれは可愛さやない。

 必死さや。

「竜子も……言うたやろ」

 寧々が言う。

「言うたな。静かに、ぐさっと」

「……あれ、ズルい」

「ズルいって言うな」

「ズルいもん! 竜子、余裕ぶって」

「余裕ちゃう。あれは火や。静かな火」

「火……」

「寧々は花火。竜子は炭火」

「うち、派手なん嫌や」

「派手が寧々の武器や」

 まつは、鴨川の水面を見ながら続けた。

「寧々はな、言葉で世界を動かすタイプや」

「……うん」

「竜子は、黙って相手の心を動かすタイプや」

「……それ、うち不利やん」

「不利ちゃう。相性や」

「相性……」

「秀吉が鈍感やから、寧々の花火が必要なんや」

「……ほんま?」

「ほんま。炭火だけやったら、あいつ気づかへんで。

 “あったかいな〜”で終わる」

「腹立つ!」

「腹立つやろ? でもそれが秀吉や」

 寧々は唇を噛んだ。

 悔しい。

 好きやから悔しい。

 川の音がする。

 水が流れる音。

 京都は、音まで上品で腹立つ。

 今の寧々の心は、もっとガチャガチャしてるのに。

「……なぁ、まつ」

「ん」

「うち、泣いてしもた」

「見てた」

「袖で拭いてしもた」

「見てた」

「みんなの前で」

「見てたって」

「恥ずかしい」

「恥ずかしない」

「恥ずかしい!」

「寧々、それが恋や」

 まつが真顔で言い切って、寧々は目を丸くした。

「まつ、たまに名言言うよな」

「うんちく担当やし」

「それ、うんちくちゃう」

「恋の栄養学や」

「意味わからん!」

 二人で笑った。

 笑ったのに、寧々の目から涙が出た。

 勝手に。

 何もしてへんのに。

「……あかん。涙、止まらん」

「ほれティッシュ」

 まつが鞄から出して渡す。

「袖は塩分で傷む」

「まだ言うそれ!」

「事実や」

「うんちくの使いどころ間違ってる!」

「間違ってへん。

 恋はな、肌と布と心に跡残るんや」

「だから名言やめろ!」

 寧々はティッシュで目を押さえて、息を整えた。

 まつの横顔を見る。

 ほんまに、頼れる。

 親友や。

「……まつ、うちさ」

「うん」

「怖い」

「何が」

「秀吉に嫌われたら」

「嫌われへん」

「なんで言い切れるん」

「秀吉、そういう奴ちゃう」

「……でも」

「寧々」

 まつが、いつもより低い声で呼んだ。

「今日の寧々、めっちゃカッコよかったで」

 寧々は、鼻がつんとした。

「カッコよさ要らん」

「要る。寧々は、カッコよくて可愛い」

「盛るな」

「盛ってへん。事実や」

「……それ、ちょっと嬉しい」

「ほら、素直やん」

「今日だけや」

 寧々は息を吐いて、鴨川を見た。

 川面に街の灯りが揺れてる。

 ゆらゆら、ゆらゆら。

 まるで、心みたいや。

「……うちな、ほんまに大恋になってしもた」

「知ってる」

「もう戻れへん」

「戻らんでええ」

「でも、しんどい」

「恋はしんどい」

「……まつ、利家のこと好きになって、しんどかった?」

 まつが一瞬だけ黙って、鼻で笑った。

「利家はな、しんどい以前に、アホや」

「ひどい」

「褒めてる」

「褒めてへん」

「でも、あいつは分かりやすい。

 好きやったら好きって顔に書いてある」

「秀吉は書いてない」

「ない。真っ白。新品の障子」

「破りたい」

「やめとけ。修繕費出せ」

 寧々は笑って、また涙が出た。

 涙って、しつこい。

 恋って、しつこい。

「……まつ」

「ん」

「うち、どうしたらええ?」

「次の手?」

「うん」

「簡単や」

 まつが指を一本立てる。

「明日も行け」

「え?」

「GWは七連休やろ。

 最初の一日で終わる恋なんか、薄味や」

「薄味言うな!」

「恋はな、煮込みや。

 出汁が出るまで炊け」

「料理に例えるな!」

「うちのうんちく担当や。例える」

 寧々は目をこすって、鼻をすすった。

「……明日も、秀吉ん家行ってええんかな」

「ええに決まってる。

 まつも行くし」

「まつ、実家の営業あるんちゃうん?」

「ある」

「ほな」

「親友の恋が優先や」

「……まつ」

「ただし」

 まつは真顔になった。

「明日はもうちょい勉強もする。

 中間テスト落としたら恋どころちゃう」

「それは確かに」

 寧々は立ち上がって、伸びをした。

 夜風が袖を揺らす。

 さっき濡れた袖が、少しだけ乾いてきてる。

(恋の花、まだ咲いてる)

(でも、枯らさへん)

 寧々は、鴨川に向かって小さく言った。

「……負けへん」

 まつが横で笑う。

「うん。負けヒロインで終わる寧々なんか、京都が許さん」

「京都を巻き込むな!」

「京都はな、しぶといねん」

「それ悪口やろ!」

「褒め言葉や。千年都やで?」

 二人は並んで歩き出した。

 四条大橋の向こう、京都の灯りはまだ明るい。

 GWは始まったばかり。

 寧々の大恋も――

 まだ、走り始めたばかりや。

――つづく。

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