表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/41

第22話 寧々、恋のやかましさを ――ラーメンより心臓がうるさい日――

桂川高校に戻って、午前中で解散。

 臨海学校が終わった直後って、体は疲れ切ってるのに、気持ちだけが妙に冴えてる。

 ――いや、冴えてるなんて生易しいもんちゃう。

(心臓が、騒音公害や)

 校門を出た瞬間、いつもの三人が自然に集まった。

「なぁ寧々、昼どないすんの?」

 まつが、分かってて聞くみたいな顔で言う。

「洛西駅のつけ麺やろ」

 利家が即答。胃で生きてる男。

 その横で、無自覚な憎い人が言う。

「腹減ったし、行こか」

(あかん)

 声が、近い。

 当たり前みたいに、優しい。

 昨日の星空。

 肝試し。

 鼻歌。

 今朝の、何でもない善意。

(今、この距離で麺すすったら、絶対顔に出る)

 寧々は、無理やり口角を上げた。

 たぶん、全然笑えてへん。

「……うち、今日はええわ」

「え?」

 秀吉が、ほんまに不思議そうな顔する。

「用事あるし」

「用事って何」

 その一言で、胸が跳ねた。

「用事は用事や!!」

 反射で声が出て、まつが即座に刺す。

「はい、恋の騒音処理案件」

「違うわ!!」

「違うって言う顔して、全部そうやで」

 利家が首を傾げる。

「寧々、ラーメン嫌いになったん?」

「嫌いになるかい! 好きや! でも今日は無理や!」

「どっちやねん」

 秀吉が、少し困った顔で見る。

「大丈夫?」

「大丈夫ちゃうわ……大丈夫や!」

「どっちやねん」

「うるさい!」

 寧々はスマホを取り出して、まつにだけ短く送る。

【寧々】

先帰る。ごめん。

 送信。

 口で言うたら、泣きそうになるから。

 そのまま、足早に歩き出す。

(ごめんやけど、今は無理やねん)

 背中から、まつの声が飛んできた。

「いってらっしゃい、恋の渋滞!」

「渋滞言うなーー!!」

 自分でツッコミ入れて、余計にしんどくなる。

静かな撤退

 ふと気づくと、竜子の姿ももうなかった。

(……竜子も、帰ったんや)

 落ち着いて見えるあの子も、燃えてる。

 昨日の女子部屋で、それははっきり分かった。

(静かに燃えるタイプは、怖い)

 胸の奥が、ちくっとする。

(負けへん)

(負けヒロインで終わるの、ゼロやから)

 心の中で宣言した瞬間、また心臓がうるさくなる。

(ほんま、やかましいわ)

阪急で河原町へ

――落ち着くために、落ち着かへん場所へ――

 寧々は阪急に乗った。

 洛西から、烏丸、河原町。

 慣れたルート。

 でも今日は、車内の光がやけに眩しい。

(目の前におらんのに、頭の中におる)

 さっきの「行こか」が、勝手に再生される。

(やめろ)

(やめろって言うても、脳内プレイヤー止まらん)

(再生ボタン押してるん、うちや)

 河原町駅で降りると、人の波。

 観光客、学生、外国語、買い物袋。

(情報量、多すぎや)

 でも今日は決めてる。

(甘味で、鎮火)

クレープ屋

――恋の火に、砂糖をかける――

 路地のクレープ屋。

 甘い匂いが、胸の騒音を一瞬だけ弱める。

「次のお客さん、どうぞー」

「……いつもの」

「いつもの、はメニュー名ちゃいます」

「はっ!!」

 自分に即ツッコミ。

「うち何言うてんの!

 恋で脳みそ茹で上がってるやん!!」

 後ろの客が、くすっと笑う。

「チョコバナナ生クリームで!」

 受け取った瞬間、胸がじわっと熱くなる。

(……甘い)

 優しい甘さ。

(優しい、って言葉、秀吉に繋がるのやめて)

 寧々はクレープを一口食べて、唇を噛んだ。

(クレープはクレープ)

(秀吉は秀吉)

(……でも、秀吉も優しい)

(やかましい!!)

ベンチ

――恋の騒音の正体――

 高瀬川の近く、少し静かなベンチ。

 喧騒が、少しだけ遠のく。

 寧々は座って、クレープを持つ手をぎゅっと握った。

 紙が、少し潰れる。

 力を抜けへん。

 思い出す。

 朝の善意。

 昨日の夜。

 腕を掴んでしもた感触。

(無自覚で、点取りすぎやろ)

 恋の得点力、反則級。

 カバンの横で揺れるマスコットに、指が触れる。

 パーサ君とコトノちゃん。

 三回目に助けてもろた時、泣いてる寧々に、あの人がくれた。

(覚えてへんのやろな)

(覚えてへんくせに、また今日も優しい)

 悔しい。

 でも、好き。

 寧々は小さく息を吸った。

「……好きやねん」

 声にしたら、胸がさらにうるさくなる。

 でも分かった。

(この騒音、消したらあかん)

(これは、本気や)

 照れでも、ノリでもない。

 本気の恋。

そして、動き出す

 寧々は立ち上がって、スマホをポケットに入れた。

(逃げへん)

(今日は距離取っただけや)

 次は、違う。

 河原町の街は今日も賑やか。

 その中で、寧々の足取りだけが、少し速かった。

 恋の騒音は、まだ止まらへん。

 でも――

 この音を、どう鳴らすかは、うちが決める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ